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第26話 奢る権利をかけた戦い

 家に帰って来た。

 津宮さんルートがほぼ終わったのもあって、最近は攻略本を開いていなかった。


 今日は鵜川先輩と一緒にゲームをできたのは悪くなかった。

 けど、仲を深めるような展開にはなってないような気がしている。


 この世界を攻略すると再確認した以上、止まるわけにはいかない。

 ということで、変わらずネタバレを避けつつ全ルートをクリアするため、本格的に動こうと思う。


◆ ◆ ◆


 その日は、とにかくゲームのことだけを考えていた。

 

「勝つ勝つ勝つ勝つ」

「うわっ! どうしたの、物部くん? なんか凄い目してるけど……」


 心配そうにこちらを覗き込んでくるのは、隣の席の柿森さん。

 そのアングル、胸元見えそうで怖いんですが……やっぱり嬉しいかも。


「ここまでゲームに真面目になってるの、最近だと珍しいね」

「いや、俺はいつでもゲームに真摯だけど?」


 柿森さんは珍しいね、と言いつつ安心したように胸をなでおろしていた。

 どこか心を落ち着かせる要素ありました?


「そうなんだろうけど、ここまで熱中してゲームやってるのを見るのは久しぶりだから」

「それは……そうかも」


 確かにこのギャルゲー世界を攻略すると決めてから、色々と忙しい。

 それもあって最近はゲームをちゃんとしてなかった。


「でもちょっと怖い顔してたよ?」

「まあ、いつも以上にガチでやらないといけない事情があって」

「まさか……大会とかに出るの!?」


 柿森さんの息が荒くなっている。

 確かにesportとか、見てるとワクワクする感覚は分かる。非常に分かる。


「大会じゃないけど、かなりの大勝負かも」

「へえ! いいね! わたしも見に行っていい?」


 気持ちが前のめりなのか、体も前に倒れている。


「だ、だめ」

「そうだよね……分かってたよ。個人的な感じなのは何となく分かったし」

「ごめん」


 一気に体を引いてしゅんとした。

 ただ、また頬を強張らせて心配そうな顔に戻ってしまった。


「いや、いいの。見たいのは嘘じゃないんだけど、ちょっと不安だったから」

「不安……何が?」


 確かに今の俺には心配してることがあるけど……それを柿森さんに見抜かれた?


「何となく普段ゲームを楽しんでる物部くんっぽくないかなって思ってたから。いつもは楽しそうだったり、悔しそうだったり気持ちをオープンにしてゲームしてるけど、さっきまではそう見えなかった。私が見学しに行ったところで何も変わらないとは思うけど……ちょっとは楽し気に振る舞ってくれるかなって」


 えへへ、と笑いを浮かべながら恥ずかしそうに語ってくれた。

 俺はそんな柿森さんの言葉にハッとする。

 確かに、勝つことばかりを考えて過ぎていた。それは俺っぽくない。


「いや、ありがとう……柿森さん。ちょっと気が楽になった」

「そう……だったら嬉しいな」

「じゃあ、ちょっと勝負しに行ってきます!」


 俺はリュックに携帯用ゲーム機を入れて、教室を飛び出した。

 向かう先はもちろん、第三自習室。鵜川先輩がいる場所。

 先輩と勝負して、飲ませたい条件があるのだ。


◆ ◆ ◆


 ガラガラと第三自習室のドアを開ける。

 いつもの定位置に座っている鵜川先輩。

 彼女は俺が入って来たことに気づいたのか、スマホ画面をタスクキルしてこちらに向き合った。


「もう流石に、ドアの開け方で君だって分かる」

「そうですか? それは光栄かもしれません」


 実際に光栄だ。

 俺の存在を明確に意識してもらえている。


「ふふっ、そうか……」


 なんか変な間があった。

 先輩が何かを考えているかのような。

 何か言われる前に、こちらが会話の主導権を握ってしまおう。


「先輩、今日もゲームしましょう! 今日はゲーム機持ってきたので」

「おっ、いいね! でも、私の持ってるソフトを君が持ってるかな?」

「持ってますよ。ゴールデンウィーク前に先輩がやってたゲームをやりましょう!」


 俺はゲーム機の画面を見せる。

 所持しているのは事実だが、持ってきたのはワザとだ。

 何せ、これは攻略本で得た知識。


 先輩がそのゲームでランクマッチをしていることを俺は知っている。

 だからこそ、持ってきた。


「協力プレイ? それとも対戦?」

「対戦です。今回は賭けありでやりましょう」

「ふーん。何を賭けるの?」


 先輩はすぐにYESとは言わなかった。

 バイトアキネーターのときはノリノリだったのに。


「奢る権利です。負けた方が勝った方に何かを奢ります」

「……なるほど。それなら受けてもいいよ」


 先輩は少しだけ考える素振りを見せた後に、了承してくれた。

 ここまでは計画通り。


 あとは――先輩と勝負するだけ!

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