第二話『あらぬ展開?』
人外……事故物件……私の推測が正しければ、目の前の少女はこのボロアパートをさらに格安にする要因。幽霊だ。
しかしよくホラー映画などで出てくる幽霊とは違って、私を物理的に突き落とした。呪いでも、霊的現象でもない。
相手ができるなら、私もできないと不義理だ。
「悪霊でしょ……その行動!」
お祓いなんてやり方知らないし、成仏のさせ方だってわからない。
でも私とこの少女は互いに物理干渉が可能なはず、ならば物理的に祓えばいい。
私は左の松葉杖に重心を置き、右腕を浮かせ、松葉杖で少女の頭を叩こうとした。
けれど、松葉杖は空を切った。少女の頭をすり抜けたのだ。
そのまま振り切りのままに重心が崩れ、私は二階の突っ伏してしまった。
「――うぐっ!?」
昨日の傷も癒えない中で、正面から倒れ、衝撃が全身を伝う。
身体が言うことを聞かず、立てない。
このまま呪いかなんかをかけられれば、絶体絶命だった。
足元に倒れた私を、その少女は見下ろす。完全に獲物にトドメを刺そうとする目だ。
うつ伏せになった私の背中に跨り、首を絞め始めた。
「しね……」
そう少女は静かに囁くと本気で首を絞めにきた。
皮膚に爪が食い込み、徐々に酸素が遮断されていく。
少女の力はあまり強くなかった。だが、確実に私の命を奪おうという意志を感じる。
景色が急速にセピア色に染まっていく。段々と視界の端から暗闇が侵食を始める。
周囲の音は遠のき、内側では激しい耳鳴りと濁流のような血流音が響く。
「がっ……あがぁっ!!」
手足の先から力が抜けていく感覚がした。
――このままじゃ本当に死ぬ。
その事実が、私の底に眠っていた生存本能を刺激した。
新たな高校生活を手前に人生を終える?そんなこと許せない。
私は必死に歯を食いしばり、痛みに震える身体中の筋肉を無理やり躍動させる。
首を絞めていた悪霊のか細い腕を掴むと、思いっきり握り潰そうとする。
「いっ!?」
痛みに首を絞める力が弱んだ瞬間に、力強く引き剥がす。
窒息寸前で、肺からは酸素など消え失せていた。その反動に身体が思考をする前に素早く、大量の空気を吸い込んだ。
身体中に酸素が巡った頃、麻痺していた痛みが復活し昨日の痛みに激しく痙攣した。
しかし、確信できた。
この悪霊には物理干渉が可能だ。
松葉杖で叩こうとしても空を切ったのは、悪霊に対して触れたのが私ではなく松葉杖単体だったから。
けれど今、私が抵抗した時には少女の腕をガッチリと掴むことができた。
「(やられたらやり返す……)」
腕を地面に突き、立ち上がり際に少女を背中から振り落とした。
そこから尻餅をついた少女に今度は私から覆い被さる。
左手で少女の両手首を頭の上で結ぶように拘束し、動きを封じる。
「はーっ……はーっ……死ぬかと思ったよ。ねぇ
、責任取ってよ――悪霊ちゃん?」
悪霊ちゃんの纏っていた黒煙が揺れ、薄まる。動揺が隠せていない。
私は空いた右手で悪霊ちゃんの口を開き、親指と手のひらで左の頬肉を挟み、その幽霊らしからぬふわふわすべすべで温かく、柔らかな感触を楽しむ。
「ご……ごめんらはい………」
先程まで殺気を宿していた朱色の瞳は怯えたように震え、威圧感は消失していた。
その表情が煽情的で、思わず私の口角が吊り上がった。
さて、この可愛らしい悪霊を一体どうしてしまおうか――




