安息日
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平凡、平均、平静、平和。感慨に耽れる言葉はそれくらい。
極々普通な暮らし。
そりゃあ、貧民からすれば、この普通さえ妬ましいかもしれない。
しかしながら、生まれた場所がきっと僕らの平均値。
故郷こそが、この世の荒波を生きる灯台だ。
他人の普通を自身の心の炉に焚べて、湧き出る靄を憧憬するなど、勿体無い。
それを信条にして、日々にし、夢現を往復する…
安息が心地良かった。
右行く小鳥の囀りに会釈を、左行く人々の喧騒さえも甘美に見えた。
きっと人間は安息さえあれば幸福だ。
安心して息の続く場所を求めている。
等身大の安泰さえ、あれば。
そう、
そう思っていたのに
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“毎日”が、壊される音がする。
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家族三人の集うリビング、中央の食卓にカウンターテーブルと直接ドッキングして、更に奥に包丁やら鍋やらが現在出されているキッチンがあった。
ピンポーンと、軽妙な音が弾んだ。
初めに聞いた「それ」は、日常の一部分に過ぎなかった。
インターホンが、生活感のある空間を、我が家を満たした。
僕は次を知っている。何故ならいつもの事だから。
母が調理を中断して、音の鳴る方へ。
僕は次を知っている。何故ならいつもの事だから。
父が新聞を開きながら、母の道順を見つめている。
僕も、見つめている。
母の姿が見えなくなるまで。それは建物の構造上の都合。
僕は次を知っている。何故ならいつもの事だから。
次は、ーーー。
ドスッと、鈍い音が聞こえた。
肉感の強いものを出来の悪い刃物で何度も掻き分ける音と共に。
先までの音の全てを忘れて、只、耳鳴りと気色の悪い重音が煩くなった。
母の姿が見えない。それは建物の都合上、だから、まだ、普通は、分かり切りは、しな。
次に、ドアの硝子部分に、赤黒いものが飛散した。
多量としか言い難い飛散物は、次第に重力に従って硝子を伝わって広がっていく。
光を反射せず、その度に黒く淀む血が。
やだ、知りたくない。
この先のことなんか。
血濡れた硝子板、その先のことなんか。
これから起きる全てなんか、知りたく、ない。
現状の否定が鳴り止まない。
心が猛烈に停滞を求めている。
…そんな愚かな考えは、また最悪の“次”に塗り潰される。
咀嚼音。
ぐしゃぐしゃと、液体やら固形物も混じった混沌とした音。
小気味良い音ではない、聞くだけで胃でも咽せ返るよう、な、最悪の…
想像したくない。
あの先で執り行われている、非人道としか言い難い『工程』。
豪快でないきめ細やかな『咀嚼音』は、上品さすら感じている。
やられている事の本質と懇切丁寧な咀嚼音の擦り合わせに、只何も考えずに、疎外感だけを感じている。
ガチと、ドアノブに魔の手が向けられる。
蝶番の金属質な摩擦音が、部屋を不気味に満たしていって…
段々と、
視界が消え失せるような錯覚に見舞われる。思考が白けていく。
悪夢が、露わになる。
「…やぁ、こんばんは。今夜も月が欠けている、本当に良い日だ」
喜色満面に、頰を紅潮とさせたエプロン姿の大男は、刃渡25cmの鈍を携帯して、黒目で何か此方を値踏みしていた。
血で粗末に彩られた歯々を覗かせた、笑顔を浮かべている。
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“毎日”が、壊されていく音がする。
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「はは、押し入ってすみません。こんな訪問、あなた方も予想だにしないでしょうに……献上品も、お生憎。清貧なもので」
不気味な様相、明らかな異常、未だ母親の安否はーー確定事項じゃないにせよ、傷物にはされている。
嬉々とした頰を取り零さず、雄弁に加害者は語る。
「身勝手極まりないのは承知の上で、出来れば、一つ、お願いが…」
本当に、その通りだ。
得手勝手だ。それを自覚している割には、下手に出過ぎている。
酷く、丁寧な気もする。
けど、会話はしていないな。
彼の脳内だけで、勝手に此方を定義している。
酷く、狂っている。
「施しを」
何の手振りかは理解したくもないが、手を受け皿にして、わきわきと動かして何かを示す。
何を、求めている?
緊迫した空気感の中、この家の本来の住居者…引いて、父が腰を酷くびくつかせている。
父は太々しく振る舞うが、本来の性質は臆病で不義理だ。
だから、これから起きることを僕は知っている。
それからは酷く緩やかな光景だった。
父が盲目的に加害者とは逆方向、キッチン方向の裏口へと不恰好に走り出す。
食卓を生涯一の運動量で乗り上げていく、その先段差のあるテーブルカウンターは右の掌を支点に横回転スライディングでスピードとコーナーを維持、そのままキッチンへ突入。
一直線に、その性で進行上にあった物品は横倒しに散乱している。
一直線に、ただ一直線上にあるただ一つの出口へと。
小太りした体形を全力に躍動させている様は、豚が踊っているとも取れた。
一直線、一直線、一直線に、一直線へ、向こう一切構わずに、一直線に手を伸ばして。
手だけを、伸ばしていた。
「………。」
加害者は、
(まぁ、そらそうだ)
暴力性の蔓延る空間とは裏腹に、自身の胸内は酷く静かだった。
冷徹に、この状況を傍観していた。
自身がこのイカれたデスゲームの盤上に居ない様に。
その死神に気付かない愚か者の様に。
或いは死を受け入れた覚者の様に。
ただ、俯瞰していた。
そらそうだ。
当たり前だ。
少し思慮を伸ばせば解る事。
こんな危険地帯でさ……
「……感情を曝け出すなんて、愚の骨頂だ…」
キッチンに突入した時点で、
声として象らずに、唇だけを紡いで告げた。
脇腹から母の包丁を“自ら”刺さってしまっていた、無様で愚かな父に向けて。
ーー加害者は何もせずに、一連を静謐に見守っていた。
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“毎日”が、ぐしゃぐしゃと、壊されていっている音がする。
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酷い、格好だ。
結論から言えば、父は脇腹から深々しく筋引包丁が刺さっている。
呻いて、喚いて、喘いで、全身の駄肉を躍動させて、苦痛に踠いている。
調理前の豚みたいに。実際、丁度キッチン台の上に蹲っているし。
「…ぐぅぅっ、アアあァ…ぬぅう……」
絶えず波打つ、もう死を迎え入れようとする父の体表。
それでも生への願望を捨て切れずに、何度も何度も、足掻いている。
「ぐウううウゥゥ……ンアァ‼︎」
気迫、生き急ぐ様に汚い濁声を上げる。
その叫びと同時に行われた……もう一度、自身の愚かさを証明するが如く。
その脇腹に突き刺さった刃物に、手を掛けた。
「アァ…アあアアあアア…!」
嗄れ潰れていく唸り声、刃物が抜き取られていく。
血を噴出させ、その裂け目をも露出させる。
こんな行為は、延命処置にさえ成り下がらない。
痛みに悶える手では、刃物も釣られて震える。
そんな状態で持ち手を持とうものなら、自身の体内で肉を掻き混ぜる様にしか、抜くことが出来ない。
そも刃物が突き刺さった場合は、刃物を抜き取らずにするのがセオリー。
その刃が血の堰となる為。
生きるのに、必死で、決死で、その愚行に気づいていない。
だから、
「ぐふぁァァァァァ…」
脇腹の血の濁流の勢いが増す。
黒く不健康に薄汚れた血は、今までの父の悪どい人生の証明書の様だった。
喚き声も、掠れていっている。
ーーだから、死ぬんだ。
父親の姿を見続けるのも、結末は何も変わらないのだから、無駄な観測だ。
……父親に向ける感情はここまで冷たかったか?……
「……ふむ」
鉄臭い鼻障りの惨状に、コメントを呈そうとする者が一人。
「…あなたと私は、似ていますね…」
「………」
この滓に、言葉を向ける必要はない。
ただこの状況は、宜しくない。
安全保障も何もないんだ。
今、この場で死にたくは……
いや…
どうでも良いのか、もうどうとでも…
そうして、瞬いて。
「欠けていますね、月も、私も、あなたも……だからこそ、」
大男は此方を見据えたままに、合掌をする。
鈍を指で咥えたまま、拝み続ける。
…アンタらが心から主従する神など居ないのに…
居ないのに、居ないのに、居ないのに、居ないのに、…自分が、主従したいと思っていた絶対的なモノはもう死んだのに…
もう、遅いのに…
「…………うっ」
自分の、情けない嗚咽だった。
今までの惨状を煮詰めたものが、其の儘ぶり返してくる。
喪われた。
父母諸共に、目の前の加害者が。
滓が、殺した。
殺しやがった。
「…?、はは、やっと人間らしくなりましたね。……『如何して、彼の獣の様な眼を向ける?其の果てに意味はあるのか?』……失礼、映画の受け売りでして」
……遅れてやって来た感情。
本来、その感情を伴ってこの行為は行われる筈だ。
その行為を『過程』と思ってはいけない。
その先があって、息をするような当たり前と感じてはいけない。
その行為は『結果』であるべきだ。
その時点で断絶され、圧倒的非日常を感じるべきだ。
何故、見世物の様に享楽できる?
もう何でもいい。
この感情の名に、値打ちが付くなんて考えられない。
ただ、自分も他人も不幸にする……一種の病気の様な。
この感情の名は、病名であるべきだ。
殺意。
どうしようもなく、そうだった。
「…………」
酷く、歯噛みをした。
「…………」
顎が、震える程に。
「…………」
相手を、捉えて離さない。
「なぁ」
初めて人へ、心よりこの言葉を送るよ。
「死ね」
瞳が、揺らめく。
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“毎日”の残火が、あれば良かった。
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「ええ…ええ!人間らしい!人間らしいです‼︎……本当に上物のドラマを観ている様ですよ…」
最高潮に騒ぎ立てる。
滓が陳述する。
「死の受容過程に於いて、一番初めに来る感情は否認……認めたない事実を心は全力で回避する…幾らでも幻覚を見れるんですよねぇ…まあ、貴方は随分と心根が優しい……自分以外の死で感情的になれるなんて!」
未だ、未だ、述べる。
「……彼の聖人の如き献ッ身!…噫、主よ…如何して、如何して彼の様な者が…」
その巨躯が、此方に迫り来、
「此処で死ぬ運びなのでしょう?」
鈍が自分の腹を目掛けて空を切る。
自分の脳は、何も考えられずに……反射で、その凶刃を避けて、食卓の上に自分の身が乗る。
「ふぅ…ふぅ…‼︎」
荒い息が、顔の前で立ち込める。
全身の筋肉を無理矢理に酷使した動きだった。
普段使ったことのない関節や筋肉を、その全身を使っての。
「…この台詞は腐りますね…」
言って、滓は木の床に刺さった鈍を抜く。
「復活は叶わなわず、世の万人の的な事を言おうとしたんですけど……やっぱ没でs」
言い終える前に、食卓の上に置いているカトラリーや食器、雑多に置いてある物品を足で薙ぎ払う。
兎に角、相手に間を取らせてはいけない、と。
「………人の話は」
鈍い声が聞こえた。
飛来物を、その鈍で悠々とはたき落としていく。
…というか、子供の脚力では飛来する以前の物も多かった。
大柄な両腕が、食卓の脚に伸ばされる。
そして、
「最後の最後まで、聞いておくものでしょう」
大人二人、子供一人で囲むことの出来た食卓は、宙を舞って…その擲たれた重量に、その上に置かれた矮小な児童…自分の脚を、満遍なく押し潰した。
…着地面の畳が、緋色に濡れ拡がっていく。
「……フゥ、フゥ、」
得た被害は甚大だった。
骨も露出し、辛うじて腱で繋ぎ止められた少量の筋肉が、無様に垂れている。
骨の破壊片、行き場を無くした血の溜まり、一面原型を無くした赤で部屋の景観は汚された。
窮地に、息は絶え絶えだ。
「獣性から抜け出した人間は、言葉という知性を得た。この高尚さを、気高さを、触れ難さを、貴方の自前の知性とやらで、理解をして下さい」
言葉と行動が合致しない。
聞き分けのない子供を優しく諭すような口振りに反して、今の今まで行われていたのは暴虐性の塊。
気色が悪い。
虫唾が走る。
反吐が出る。
理解もしたくない。コイツにだけは。
「……『如何して、彼の獣の様な眼を向ける?その果てに意味はあるのか?』……この世界以外を構築する創作者達は聡明ですね。…事実は小説より奇なり、正に今がそうです。…如何して、敵意を向ける?」
「……………」
理解もしたくない。
「…対話というものは、双方に理解と受容がなければ成立しない儚い代物です。…死に時は少なくとも今ではないので、対話を貴方と行いたい」
「…………」
脚を潰されては、出血多量だ。
命そのものが溢れていると言っていい。
残された時間は少ない。
この加害者の話に、残り少ない時間を充てたくない。
「………抵抗は弱者の美学と言いますか……ハァ…何か、喋ってみてはどうですか?」
心底退屈そうにのそりと加害者は口開いて、言葉を現出させる。
「………ッ」
血が噴き出続ける。それが重苦しかった。
尚それよりも、この眼中の存在から放たれる言霊達がこの空間で何よりも重力を帯びる。
輪郭は確かではなかった。ただただ、重苦しくのし掛かった。
同類の人間とさえ思いたくない、人間の形をした殃い。
理解をしたくない。
それなのに、存在が煩い。
その姿を、その耳障りな声を、その血腥い匂いを、己の感覚は捉えて離さない。
総じて禍々しく映るのは当然、不吉な存在には離れたいのが健常者の普通の反応だ。
脚が無いから、離れられない。それは紛れもない事実だろう。
でもそれは、自分の感覚を逸らせない理由にはならない。
「……黙れよ…」
「……それで?」
憎悪対象が居る者の行動は知る限り二種、拒絶か抹消。
要は、自分から離れるか、相手を切り離すか。
憎んでいるなら、繋がらなければいい。その考えは何方も変わらない。
自分は圧倒的後者だった。だが事実がそうはさせない。
どうせ、行き着く結果は変わらないのだ。
ならば、自分から離れればいいのに。
…どうだろうか?脳で理解して、それを幾度も実行している。
体を逃がすことが出来なくても、目や耳を逃がす事は出来るだろう。
目を逸らせばいい。耳を塞げばいい。
之が恥だとしても、何でも。
最期の最期、そこまでは今までと変わらぬ生路なのだから。
今までと変わらぬ自分であればいい。
「……だから、」
「……?」
…そう、脳で理解している。
であれば、何故…
「…だからッ‼︎…存在が五月蝿ェってつってんだろうがッ‼︎……この感情に続きもクソもあるかよ‼︎」
「……は?」
上体を力任せに起こして、キンキンと絶叫する喉。
既に形を失った脚の血の失われる勢いが、強まっている。
どう足掻いても、コイツが煩いのだ。
どう思考を変えても、脳で理解しても、心の…その又その奥、何かが叫んでいる。
コイツから目を離すな、と。
之が自分の本質なのかもしれない。
だが、
「……五月蝿え、五月蝿え五月蝿え五月蝿え‼︎‼︎……そんだけ、そんだけで良い。今は良い…‼︎」
自分がコイツを理解したい理由なんて、考えてたまるものか。
私は私の“人間”に従っていたい。
それだけなのだ。
コイツは、俺の母と父を殺して、俺の前から平和を奪い去った、人間以上で、人間以下であると。
故に、この殺戮者に送る言葉は一つだ。
「……黙れよ。気狂いが」
「……善がったか……はぁ…」
辟易と、『無理解』を語った眼前の子供に溜め息が出る。
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本当に、“毎日”が、只々、恋しかっただけなのだ。
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「アンタは、俺の母を殺して喰った」
「ええ、そうですね。あなたの母親を食した。その方が美しいから」
「アンタは、俺の父を結果的に殺した」
「いえ、アレは事故の類いでは?現に私はアレを醜いと思っている」
「……やっぱり、アンタは狂ってんだな。…人殺しを『過程』だと思ってんだろ」
「…先までは黙れなどと喚いたでしょう?…アレは妄言ですか?こんな、対話を促す真似なんてらしくないでしょうに」
「……はっ、憐れんでやろうって思ったんだ」
「はぁ?」
「狂人を理解しようなんて思いは無いが、逆に可哀想になったんだよ。別に“言葉”の用途は理解や伝達以外にもある。例えば、高説とか罵倒とか……そういう一方的な的で俗的な“言葉”だってあんだろ。…俺は対話なんてしねえよ」
「……別に何の感情も湧きませんが……一体何がしたい…いや、私から何が欲しいんですか?」
「求めれる体に見えんのか?…俺が回せるのは、舌だけだ」
「……それもそうですね。…何というか、粗末なエンドロールのような感じですか。……締まらない終わり方は気色が悪い。…そんな筈では、なかったのに」
「何処までも何処までもだな。……気色が悪いなんて、感情があったんだな。意外だ。それ以上の理由を考えたくも無いが」
「……まあ、此処は思惑に乗ってあげますよ。憐憫を垂れたいのでしょう?…正直理解ができないのですが……“警察が来る”までの十分間、貴方を看取るまで無理解に投じますとも」
「…気づいてたのか。此処は防犯意識が抜け目の家じゃねえって事」
「家と言うのは語弊でしょうに……貴方個人の力でしょう?……母親が殺されていた時に、直ぐに救難信号を出したのは貴方だ」
「ビビってるだけじゃ、問題解決にはならない。それ位、理解はしていた……今だってーー。」
「……まあ、今はどうでもいい。寸前でも逃げれはしますからね」
「………」
「……私はね、」
「………」
「……月が好きなんです。満月も新月も良いけれど、特に三日月が好きだった。…在りし日の童心で魂からそう理解した」
「………」
「……欠け落ちたモノが好きだった。壊れかけが好きだった。…いつの間にかその感情は、所謂狂気に変貌した」
「………」
「……でもね、私からしたらいつだって正気なんです。…皆々様が、普通以外を恐れすぎている。私から見たら、そっちの方が狂気に近しい」
「………」
「……理解できないでしょう?」
「………」
「……でもね、それが私の真実なんですよ。真実であって、美学であった。」
「………」
「……多分、貴方の想像通りの人物ですよ。“理解できない狂人”で大体合ってます。私は人から見られている視線を自覚していますし、それが私の原動の歯止めにならない事も……知っています」
「………」
「私は、私以外を、理解できない。理解できないものを理解するには見て触るしかない。見る事は観察で、触る事は実験。…そこに皆々様が宣う倫理や道徳、常識が存在しません」
「………」
「それが私の罪なのでしょうね。…それでも、罰を受ける気はないのですよ。私以外の施す罰に、正当性があるとは思えないので」
「………」
「…私は貴方の全てを壊した。でも、それは私の全てが壊れた訳ではない。というより、元々私は壊れています。…貴方もそうだった筈なんですがね…」
「………」
「…私は……この行為に意味を求め続けます。己の狂気を抱えながら、その解を見つけた時に、己で罰を施します。」
「………」
「理解できないでしょう?…それで良いのですよ。私は常に無理解だ。…理解を求める無理解です。……結局のところ、この一家の惨事について、意味も理由も生まれる訳がない」
「………」
「…このどうしようもない狂気が、側から見ればイカれてるの一言で終わる。……解の出ないモノに首を突っ込むのは非合理ですが、…なら私はどうなるんだ?」
「………」
「…どうも、イカれた野郎のコメントもとい、エピローグはこんなものですかね。ーーいやはや、」
「………」
「何で、私は死体に向かって長々と喋り続けていたんでしょうか?…ああ、いや、締まりが悪いからでしたね……終わりのない物語ほど気味の悪い物はないですし」
「………」
「ーーどうやら、警察も来たようだ」
命の溢れた全長141糎の抜け殻が、フローリングに転がっていた。
赤色灯の光が窓から漏れ出ている。
玄関口に武装をした人が集って、裏口からも気配がする。
「……『ーーその果てに、意味はあるのか?…それは、判らない』」
宛も知らぬまま、鈍く歩み出す音が一つ散漫した。
ーーーーー
“毎日”に、一つ火を点す。
足元と今日を見失わぬ様に。
意味も理由もないけれど、せめて“過程”はあるのだから。
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