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009:魔法少女は遠慮しない

009:魔法少女は遠慮しない


SIDE リーナ


「廃工場…!わかってるじゃないか、あの怪人!初戦闘の舞台はこうでなくては!」

肩の上で、フェニックスが興奮した声を上げる。


私は彼の指示に従い、化け物を追って廃工場の中へと侵入した。

工場の中は、埃とオイルの匂いが立ち込める、不気味な場所だった。

暗闇から、化け物が猛然と襲いかかってきた。


「きゃっ!」

思わず短い悲鳴を上げたけど、私の体は勝手に動いていた。


「うわっ、体が勝手に…!」

頭で考えるより早く、スーツが最適化された回避行動を取らせる。

化け物の爪が、さっきまで私のいた場所を空しく引き裂いた。


「安心してくれ、アルカナ・フレア! このバトルドレスは君の身の安全を何よりも最優先に設計してある!」

回避した私の肩の上で、フェニックスが得意げに胸を張った。

「致命的な一撃が確定する0.01秒前に、スーツの自立思考AIが君の運動野を瞬時に『強制侵食』し、君の意思に関係なく最適な回避行動を強制執行するんだ!」


「えっ……脳を侵食……!?」

さらりと恐ろしい単語が聞こえた気がして、私は血の気が引いた。

「それって、大丈夫なんですか!? 脳みそ溶けたりしません!?」


「ハハッ、副作用なんて微々たるものさ! むしろシンクロ率が進めば進むほど引き出せる性能も高まるよ!」

フェニックスは私の不安なんてどこ吹く風で、さらに熱弁を続ける。

「さらにすごいぞ! このドレスの『モーション・アシスト機能』は、君の脳内にある曖昧な戦闘イメージを、拒絶反応なく肉体に反映させてくれる優れモノなんだ! つまり!君が『あいつをぶっ飛ばしたい』と願えば、スーツがそれを汲み取って、脳内に最適な行動イメージを直接流し込んで、一流の動作を瞬時にインストールしてくれるんだ! 君が『パンチ』と思った瞬間には、もう脳がプロボクサーの拳の握り方と腰の回転を『思い出して』いるはずさ!」


「それって、私の意思を上書きしてるんですよね?私の意識って大丈夫なんですか?」

「大丈夫!細かいことは気にするな! 考えるな、感じるんだ! アルカナ・フレアの強さはイメージの強さだ! この最強のスーツと、パートナーである僕を信じて、君は思うがままに暴れればいい!」


フェニックスの言葉に背中を押され、私は何か釈然としないまま目の前の敵に意識を向ける。

「えいっ!」

私はめちゃくちゃに腕を振るう。

戦い方なんて知らない。

けれど、適当に振り回したつもりのスイングは、私の意思を置き去りにして妙に鋭く腰の入ったものへと研ぎ澄まされる。

空気を切り裂く鋭い音が鳴ったと思った瞬間、私の拳は化け物の脇腹に吸い込まれていた。


「ドゴォッ!!」

廃工場の静寂を打ち破る、信じられないような衝撃音が鼓膜を震わせた。


「すごい力…!でも、気持ち悪い…」

拳の先から怪人のブチブチと内臓がつぶれる生々しい感触が伝わってきて、ゾッとした。

スーツの性能が私の力を何十倍にも増幅しているんだ。


怪人は肉の管のような口から粘液みたいなドロドロとした唾液を噴き出し、うめき声と共に後ろに飛びのいた。

私が殴った腹部にその不気味な触腕を這わせて、ぐちゃぐちゃに潰された腹部をさすったかと思うと、居殺さんばかりの視線を投げかけてきた。


そうして怪人は口から垂れる唾液をぬぐった時に、その中に混じった血を見て今までの苦しみのうめきからもっとイラついた怒りの物へうめき声を変え始めた。


ボロボロのドレスから覗く人間だった部分と、ウネウネと動く化け物の部分に私は眉をしかめて眺めていると怪物は私のその視線に気が付いたみたいだった。

私を睨みつけるその目は、今までの苦しみの色から、明確な殺意と怒りの色へと変わり始めた。

「グゥゥ……ゥアアアッ!」

化け物は怒り狂い、デタラメに腕を振り回しながら突っ込んでくる。


「ひっ!」

私は反射的に身をすくめる。

すると、スーツが私の恐怖から逃れるイメージを拾い上げ、右へ、左へと攻撃を躱していく。

何だろう勝手に体が動いているのに無理やり動かされている感じがしない。


なんか凄い!

フェニックスいったい何者なんだ?


(でも……なんとなく、わかってきたぞ)

ずいぶん昔、近所の公園に、移動動物園が来た時の事を思い出す。

私がわがままを言ってラプトル(機動獣)にお父さんと一緒に乗った時と同じような物なのだ。


あの時、私が無茶苦茶に手綱を引いても、お父さんが後ろからガッチリと支えて、私の行きたい方向へラプトルを導いてくれた。

ラプトルも必死に木に登ったり、噴水に飛び込んだり、私のわがままを聞いてくれた。

流石に、ティラノサウルスに喧嘩を売ろうとしたら、お父さんもラプトルも首を振りながら動かなくなったけど、でも、そう言うことなのだ!



そうか、このバトルドレスも、あのお父さんやラプトルと同じなんだ。

遠慮なんかいらない。

細かい制御なんて考えなくていい。

私がやるべきことは、ただ一つ!私は思うがままに動き回る事!


「……右!」

私が強く念じると、スーツが瞬時に反応する。

さっきまでは「避けさせられていた」動きが、今は「私が避けた」動きに変わる。

足元の瓦礫を蹴り、怪人の攻撃を紙一重でかわす。

その動きに、迷いによるタイムラグが消えた。


「いける……!」

私は怪人の動きを凝視する。

あの大振りな右腕の攻撃。

次はあれが来る。

だったら、普通に避けるだけじゃ面白くない。


「フェイント……!」

私は頭の中で、右へ飛び出すイメージを強烈に描く。

スーツの魔力骨格が唸りを上げ、私の体を右方向へと傾ける 、と見せかけて、私は地面を蹴る直前でイメージを反転させた。


『やっぱ左!』

ギュンッ!

スーツの姿勢制御スラスターが一瞬だけ悲鳴を上げ、私の体は物理法則を無視した急制動で切り返された。


怪人の爪は、私が「いるはずだった」右側の空間を空しく切り裂く。

「なっ!?」

怪人の目が驚愕に見開かれたように見えた。

体勢を崩し、がら空きになった怪人の懐。

そこは、絶好の「的」だ。


「そこぉッ!」

私は迷わず踏み込んだ。


ただ殴るんじゃない。

パン屋の繁忙期、重たい小麦粉の袋を何十個も運び続けた足腰を軸にして、フェニックスの語っていた「回転の運動エネルギー」を攻撃にのせる事にした!

私は石畳を強く踏みしめ、独楽こまのように体を回転させる。

遠心力で加速した私の回し蹴りが、美しい円弧を描いて怪人の側頭部に吸い込まれた。


ドゴォォォォォン!!

「グギャァァッ!?」

怪人はボールのように吹き飛び、廃工場の鉄柱をへし折って転がった。


「……ふぅ」

私は蹴り抜いた体勢のまま、ゆっくりと息を吐いた。


「ブラボー! ブラボーだアルカナ・フレア!!」

肩の上で、フェニックスがパタパタと翼を叩いてスタンディングオベーションをしている。


「驚いたよ! モーション・アシストの補助があったとはいえ、まさか初変身で『キャンセル技』からの『カウンター』を決めるとはね! 今のフェイント 君のアドリブかい!?」

「えへへ……私のお婆ちゃん、実は別の大陸で武術の師範してるんだよね。お婆ちゃんを小さいころ見てたのが良かったのかも。」

「それにしても最初からこの動きは想定以上だよ!? 君、もしかしてとんでもない才能の持ち主なんじゃ……いや、今は戦闘に集中だ!」


フェニックスの視線の先、化け物は「く」の字に折れ曲がり、壁際の機械に叩きつけられていた。

「ぐ…おのれ…!」 近接戦闘では不利だと悟ったのだろう。

化け物は苦し紛れに、近くにあった巨大な鉄柱を根元から引きちぎり、私に向かって投げつけてきた。

すさまじい音と衝撃を伴って、鉄柱が地面に突き刺さる。


「近づけない!どうしよう?」

私が飛来する鉄柱を回避しながら攻めあぐねていると、肩のフェニックスが待ってましたとばかりに顔を輝かせた。


「フレア!!ブラスターモードだ!」

フェニックスが新たなカードを提示する。


私は、まだどこか現実味のない心地のまま、言われるがままにカードを左腕のガントレット型デバイスへと滑り込ませた。

すると、カードは私の指を離れ、まるで目に見えない磁力に導かれるようにスロットの奥底へと滑らかに吸い込まれていく。

直後、デバイスの側面を優雅に飾っていた金属製の『羽』が、まるで獲物を捕らえるかのようにバシュッ!と鋭い音を立てて閉じ、オレンジ色の火の粉を吐き出してカードを内部へと封印した。


『Skill Card, Set. Morpho Wing, reconfiguring to Blaster Mode.』

(スキルカード、セット。モルフォ・ウィング、ブラスターモードへ再構成を開始)


背中の翼状の可変ユニットが音を立てて変形を始める。

幾重にも重なった装甲がスライドし、折り畳まれ、私の両腕を包み込むようにして一対の流線形の光線銃へと姿を変えた。


「こ、こうかな?」

引き金を引いただけで、光弾が鉄柱を的確に撃ち抜き、粉砕した。

それだけでは終わらない、オマケと言わんばかりに茫然としている怪人にブラスターから光弾が連射する。


化け物はひび割れた体で必死に防ごうとするが、光の弾丸はその体を容赦なく穿つ。

悲鳴を上げる間もなく、その体は抵抗できず一方的にブラスターの雨にさらされる。

遠距離からの攻撃で化け物が弱ったのを見計らい、フェニックスが叫んだ。


「今だ、フレア! 必殺技でとどめをさすんだ!」


肩の上でフェニックスが叫ぶ。直後、彼の小さな体から、これまでとは比較にならないほどどす黒く、禍々しいオーラを放つ一枚のカードが出現した。


「これは僕らの切り札だ! 一日一回、30秒間だけ、僕が本来の力を発揮できる! こう見えて僕は魔王だからね、大抵の敵は蹴散らしてあげるよ!」


フェニックスは自慢げに胸を張って、その黒いカードを私の手元に飛ばしてきた。


「え、ちょっと……何これ、さっきのよりずっと不気味なんだけど……」


私は飛んできたカードを、おっかなびっくり受け取った。

明らかに今までと違う重量感、美しく金で縁どられた真っ黒いカード表面に更に黒い回路図のような模様が刻まれている。

禍々しいオーラが指先にまとわりつく感覚に、私の本能が全身の毛を逆立たせる。

正直、こんなヤバそうなものをデバイスに入れて大丈夫なのか。 けれど、ひよこのあまりに必死な顔と、逃げ遅れた化け物の気配に押されるまま、私は言われるがままにカードを左腕のガントレットへと持っていった。


「もう……知らないからね!」


私がスロットに近づけると、黒いカードはまるで獲物を待ち構えていたかのように、磁力に引かれてズルリと奥底へ吸い込まれていく。

直後、デバイスの『羽』がバシュッ!と鋭く閉じ、カードを内部へ封印すると同時に、激しい火の粉が装甲の隙間から噴き出した。


『Final Skill, Set. Protocol Alpha Omega, Activate!』

(ファイナルスキル、セット。プロトコル・アルファ・オメガ、起動)


それに応えるように、私のバトルドレスが内側から脈動するような淡い発光を始めた。

次の瞬間、背中のモルフォユニットへと幾重にも重なる赤い光のラインが、複雑な回路を巡るように激しく走り出す。

ユニットが熱を帯び、ドレス全体がこれまでにないほど眩い光を放ち始めた。


「さあ……刮目せよ! 魔王フェニックス、真の姿を現す時だ!」


フェニックスは、その小さな翼を目一杯に広げ、神聖な儀式を待つかのように静かに目を瞑る。

溢れ出す光に包まれながら、その表情は絶対的な自信に満ち溢れていた。


いよいよ、彼の真の力が――!


高まるエネルギー。

最高潮に達する期待感。

だが、その絶頂の瞬間、ガントレットから聞こえてきたのは、冷徹なまでに事務的なアナウンスだった。


『――Error. Daily usage limit exceeded. Unable to proceed. Please contact your system administrator.』

(エラー。一日あたりの使用制限を超過しています。プロセスを続行できません。詳細はシステム管理者にお問い合わせください)


「「……え?」」


私とフェニックスの抜けたような声と同時に、激しく溢れていた光も高まりまくった高揚感も、シュワシュワシュワ~……と間の抜けた音を立てるみたいに、急速に霧散していく。

廃工場に、元の薄暗さと冷ややかな静寂が戻ってきた。


そこにいたのは、さっきと同じ、小さな翼を広げて目を瞑ったままの……ただのひよこと、唖然として動けない私。


シーン…と、気まずい沈黙が流れる。

上空をしらけ鳥が通って行った。

遠くでカラスがアホォと鳴いた気がする。


「…あっ」

フェニックスが、何かを思い出したように声を上げた。

「さっき、変身バンク中に襲ってきたあいつにブチ切れて、ついノリで本当の姿に戻っちゃったんだった…」

「はぁ!?」

思わず、私は素っ頓狂な声でツッコミを入れた。


「な、なんだその顔は!あれは不可抗力だ!君の神聖な変身シーンを守るためだったんだぞ!」

「一番大事なところで使えないなんて、意味ないじゃないですか!」


私とフェニックスが言い争っている間に、化け物はいつの間にかどこかへ姿を消していた。

私たちは誰も居ない廃工場でお互いに責任を擦り付け合い続けるのであった。


Liner Notes

■Track 009-A

【分類 / Category】

 [[1]:アイテム紹介] > [[12]:支援装置]


【日本語名称 / English Name】

 拡張機能『スキルカード』 / Skill Cards Extension System


【概要 / Overview】

 フェニックスが提供するカードをガントレット型カードリーダーに装填することで、その機能が多彩に変化するシステム。

 このカードシステムは、当初の設計にはなかった。

 しかし、ある時フェニックスの頭に「もしこの物語が人気が出て玩具展開になった時、お菓子にカードを付ければ売り上げが爆増するのでは?」という天啓が走り、急遽追加実装された経緯がある。


【特記事項 / Secret Note】

・ラインナップ (Lineup)

 いくつかのスキルカードが存在し、状況に応じてフェニックスがアルカナ・フレアに提供する。

現在確認されているスキルカード

 Wing Mode のスキルカード

 Blaster Mode のスキルカード

 The Awakening Advent のスキルカード 


Liner Notes

■Track 009-B

【分類 / Category】

  [[1]:アイテム紹介] > [[12]:支援装置]


【日本語名称 / English Name】

スキルカード(Special Skill Card)

 『魔王召喚』 / The Awakening Advent

 

【概要 / Overview】

・詳細分類(Sub-Category)

必殺技カード / 黒色ブラック


・レアリティ (Rarity)

ウルトラレア(Ultra Rare)


・効果 (Effect)

魔王フェニックスを代償なしで30秒間だけ完全支配できるという契約が込められた、究極に頭おかしいカード。

この30秒の間に死ねと言われたら死なないといけないし、連帯保証人になれと言われたらサインをしないといけない。

もしフェニックスに両親がいたとしたら「育て方を間違えた」と涙を流すこと間違いなしの愚行中の愚行である。

フェニックスの魔法少女に対する執着と狂気の具現と言えよう 。



Tags: #スキルカード #魔王召喚 #ウルトラレア #ひよこの大失態 #連帯保証人不可避



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