005:魔王は薔薇を求めない
005:魔王は薔薇を求めない
SIDE フェニックス
そして今、僕は一か月の成果を手に、公園の隅にある、奇妙なキノコ型の遊具の陰にうずくまっている。
片手には串に刺さった香ばしい肉…『焼き鳥』を、もう片方の手には、安酒の入った瓢箪。すっかりこの世界の安酒の味にも慣れてしまった。
僕の目の前には、この一か月で集めた候補者たちのデータが、ホログラムとなって宙に浮かんでいる。
【魔法少女ポテンシャル・アナライザー】
項目1:純粋さ(ピュアリティ)
項目2:悲劇性
項目3:脚線美
項目4:声量
項目5:伸びしろ(ポテンシャル)
安酒をぐいっと煽り、焼き鳥を一口かじる。
ダメだ、どいつもこいつも帯に短したすきに長し。
僕の理想は、こんなにも高いのか…。
「むぅ…あの娘はピュアリティは満点だが、家庭環境が裕福すぎてトラジェディが皆無だ。これでは絶望から立ち上がるカタルシスが弱い…」
「おおっ!あちらの娘はレッグ・ビューティーが素晴らしい!だが、すでに完成された美貌だ。これでは成長の感動が薄れてしまう…」
「こっちの娘はシャウト・ボリュームは完璧だが、いかんせんガサツすぎる!変身バンクの神聖さが損なわれる!」
理想の原石は見つからないまま、時間だけが過ぎていく。
僕は少し焦り始めていた。
そんな時だった。
パンの香ばしい匂いに誘われて顔を上げると、一人の少女がパンの入ったカゴを抱えて、鼻歌を奏でながら軽やかな足取りで歩いていた。
僕はすかさずアナライザーを起動する。
【対象:リーナ・サトウ / 年齢:14歳】
ピュアリティ: 75点(平均的)
トラジェディ: 50点(平凡な家庭)
レッグ・ビューティー: 80点(悪くない)
シャウト・ボリューム: 60点(未知数)
ポテンシャル: 測定不能(アベレージ?)
…なんだこの、パッとしない評価点は。
特筆すべき項目が何もない。
僕は軽い溜息をついて、このリーナという少女のステータスデータをとるに足りないものと判断し、操作カーソルを閉じるボタンに重ねて表示された情報を消し去ろうとした。
だが、その瞬間、僕のプロデューサーとしての魂に凄まじい電流が走った。
待て!待つんだ僕!
これだ!!これなんだ!!
見つけた!!見つけたぞ!!
この完璧なまでの平凡さこそ、僕のプロデュースでいかようにも磨ける最高の原石なんだ!
この数値の並びを見てくれ!
まさに「中庸」を形にしたようなステータスだ!
彼女の歩き方、あれは修行を積んだ武芸者のものでも、高貴な令嬢の優雅なものでもない。
毎日決まった時間にパンの配達をこなし、決まった場所で石畳の凹みを避けることに慣れきった、生活感の塊のような足取り!
解析を深めていくと、彼女の「平凡さ」の解像度が上がっていく 。
特筆すべきはその顔立ちだ。
土台は決して悪くない。
むしろ整っている方だ。
だが化粧っ気のかけらもなく、有象無象の日常に埋没し、ひとかけらの特別感すら放っていない。
その徹底した野暮ったさ、素材そのままの無垢さ… 例えるなら……そう、芋だ!
泥にまみれた、飾り気のない無骨なジャガイモ!!
だが! それが良い!! これこそが至高なんだ!!
最初から完成された「大輪の薔薇」など、僕のプロデュースには不要!
この野暮ったい「芋っぽさ」が、変身という儀式を経て神々しく覚醒する、その圧倒的なビフォーアフターのギャップこそが、魔法少女モノの醍醐味にして魂を揺さぶるカタルシスなのだ!
磨き甲斐しかない、まさに無限の伸びしろを秘めた最高の素材じゃないか!!
さらに解析を深めていくと、彼女の奇跡の「平凡さ」の解像度がますます上がっていく。
髪の色は、この王都で最もありふれた栗色。
瞳の色も、太陽の下で見れば少し明るく見える程度の、これまたありふれた焦茶色。
着ている服も、流行り廃りとは無縁の、丈夫さだけが取り柄の麻のワンピース。
どこをとっても「モブキャラA」として背景に溶け込むためにあつらえたような造形だ!
恐ろしい事に、この『トラジェディ(悲劇性)』の低さも完璧なんだ!
アナライザーが弾き出したライフデータによれば、彼女の両親は健在で、家業のパン屋も「大繁盛はしていないが潰れる気配もない」という、絶望の付け入る隙すら無い安定感!
おそらく彼女の人生最大の悩みは「明日の天気が雨で配達が面倒」とか、せいぜい「焼き立てのジャムパンを一個つまみ食いするかどうか」といったレベルだろう。
素晴らしい!
これこそが……これこそが最高なんだ!
魔法少女アニメにおける「最強のカード」とは何か?
それは「どこにでもいる普通の女の子」が、運命の濁流に呑み込まれ、葛藤し、覚醒する瞬間に他ならない!
悲劇も、決意も、友情も、この真っ白なキャンバスの上に描くからこそ、その色彩は鮮烈に輝くのだ!
そして、見落としてはいけない!
この『レッグ・ビューティー:80点』という数値!
これは毎日パンの籠を抱えて坂道を往復することで自然に鍛えられた、加工されていない天然の機能美!
華奢すぎず、かといって筋肉質すぎない、まさに「変身後のミニスカート」を最も美しく引き立てる黄金のラインがそこにある!
この「平均」という名の無限の伸びしろ!
僕が手を加えれば、この少女はどんな色にも輝く!
僕は運命を感じた。
僕の魔法少女は、この娘しかいない!!
僕は彼女の後を追い、パン屋の裏口で一人になった瞬間を見計らって、彼女の前に舞い降りた。
「やあ、そこの君!」
「…ひよこが喋った!?」
リーナは目を丸くして驚いている。
よし、第一印象は完璧だ!
「僕はフェニックス!君の願いを、なんでも一つだけ叶えてあげよう!その代わり、僕と契約して魔法少女になってほしい!」
僕はアニメで見た、マスコットキャラクターの勧誘シーンを完璧に再現した。
だが、リーナの反応は僕の脚本通りにはいかなかった。
「…間に合ってますので」
「えっ?」
取りつくしまもないの?
話くらいは聞いてくれると思っていたけど、一刀両断で断られるなんて思わなかった。
「そういう勧誘は、もう結構です。この前も、壺を買いませんかとか、羽の生えた布団はどうですかとか…」
違う!
そうじゃない! 僕は怪しいセールスマンじゃない!
「待ってくれ!話を聞いてくれ!君には才能がある!君は選ばれたんだ!」
「はぁ…」
僕が必死に説得すればするほど、リーナの目はどんどん冷たくなっていく。
なぜだ!
この完璧なプレゼンが、なぜ彼女の心に響かない!
「待て待て待て!今なら特典として、この世界の汚れが驚くほど落ちる最新の洗剤も付けよう!」
僕の言葉に、リーナは無言のまま、ゆっくりと裏口の扉を閉め始めた。
まずい、このままではシャットアウトされる!
「ああ、それと、今度王都でやる劇【ドラゴンエモーション ヴィータとドキドキ破壊魔神】の割引チケットもあるぞ!どうだ、悪い話じゃないだろう!?」
扉が閉まる速度が、ほんの少しだけ緩んだ。
ほう、条件がまだ不服か!
なんと強欲……いや、なんと強靭な精神力だ!
なるほど、やるじゃないか!
さすが僕が見込んだ魔法少女だ!
ならば、僕の身を削ってでも、この『究極の特典』を提示するしかない!
あと少しだ! ここで切り札を切る!
「しょうがない!今回だけの特別だよ!リーナだけの出血大サービスなんだからね!!実は僕、こう見えて不死鳥なんだ! そこでだ! 今から10分以内に契約してくれた君だけに、初回限定特典僕の生き血をあげる!【不死鳥の生き血】を飲めば不老不死になれるよ!首を切ったくらいじゃ死なない体!究極のアンチエイジング!未来永劫、共に魔法少女の道を上り詰めようじゃないか!」
「……は?」
「遠慮はいらない、もってけドロボー!! さぁ、今からこの短剣で僕が首を搔っ切るから、こぼさず飲むんだよ!ほら!口を開けて!!行くよ!3!2!1!」
そんな僕のあまりの必死さに、リーナはちょっとだけ気押されたのかもしれない。
「と、とにかく、間に合ってますので!」
バタン!ガチャン、ガチャガチャッ!
扉は無情にも僕の目の前で閉められた。
しかも二重ロックまで!
僕はしばらく、閉ざされた扉の前で茫然と立ち尽くす。
…断られた?
魔王たるこの僕が?
偉大なるプロデューサーである、この僕の完璧なスカウトが!?
だが、次の瞬間、僕の心には屈辱を遥かに凌ぐ、熱い闘志の炎が燃え上がっていた。
面白い!
実に面白いじゃないか、リーナ!
一筋縄ではいかない、それこそがヒロインの器だ!
ならば、君が頷くまで、僕は何度でもこの情熱を伝えよう!
僕は夜天に浮かぶ月に、決意とくちばしを突き付けて高らかに宣言したのであった!
Liner Notes
■Track 05
【分類】
[[1]:アイテム紹介] > [[12:支援装置]]
【日本語名称 / English Name】
万能解析器『ぴよぴよアナライザー』 / Piyopiyo Analyzer
(別称:ぴよぴよガジェット No.01)
【詳細分類 / Sub-Category】
魔導演算型・多目的スカウティング・ユニット(Multi-Purpose Scouting Unit)
【形状 / Appearance】
ひよこ状態のフェニックスに最適化されたヘッドマウントディスプレイ。
【機能 / Functions】
魔法少女の資質(純粋さ、脚線美など)のポテンシャル測定。
物質的、魔力的な残滓の追跡や解析。
怪人の弱点分析までを網羅する多目的センサー。
Tags: #第零元素 #ぴよぴよガジェット #ぴよぴよアナライザー #不死鳥の血 #永遠の命 #美味しい焼き鳥




