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003:魔王は魔王の前でも空気を読まない

003:魔王は魔王の前でも空気を読まない


SIDE フェニックス


僕は、ザガンの完璧な部下二人に促されるまま、城の中へと足を踏み入れた。

ザガンの居城「静謐のギャラリー」は、巨大な一枚岩をくり抜いて作られた、この城自体が継ぎ目のない一つの芸術品なんだ。

素材は、『深淵の玄武岩バサルト・オブ・アビス』。

その荘厳な姿は、濃い霧の中にあっても圧倒的な存在感を放っている。

しかも、外観からは想像もつかないほど複雑に入り組んでいて、大小無数の展示室が脈動する血管のように繋がる巨大な迷宮と化している。


ここには、ザガンが認めたあらゆる次元、あらゆる時代の「至高」が集められてる。

ある部屋は深海のように暗く、またある部屋は燃え盛る恒星のただ中のように眩い。

それは、ザガンが作品を「最も輝かせる」ために、城の空間そのものを切り貼りし、作品が生まれた世界の法則をそのまま持ち込んでいる為なんだ。


その展示には、所有者の傲慢さではなく、被造物への偏執的なまでの「敬意」が満ちていた。


例えば、英雄の血で描かれた戦記画。

その額縁は、かつて彼と共に戦場を駆け抜け、共に散った仲間たちの骨を一本ずつ繋ぎ合わせて作られている。

それは死への冒涜ではなく、彼らの「絆」という物語を、その絵画の中に永遠に封じ込めるためのザガンなりの礼儀なんだ。


また、ある一室には、かつて世界の頂点に君臨したという神獣の巨大な骨が鎮座している。

ザガンは、その神獣がかつて生きていた異世界の空気、光の屈折、さらにはその時代の草花までもが揺れる「庭園」を、展示室そのものに再現していると言っていた。


一方で、血なまぐさい品ばかりではない。

また、別の部屋の深い影の奥に、ただ一枚、どこか慈愛に満ちた微笑みを浮かべる聖母の肖像が飾られている。

その絵に当たる光は、彼女が地上で最も美しく見ていたであろう「朝の零れ日」を完璧な周波数で再現している。


これらの努力は全て、作品を「最も輝かせる」ための、ザガンによる血の滲むようなキュレーションの結果なんだ。


僕とは美学が全く違うが、その徹底したこだわりは認めざるを得ない。

だからこそ、僕らはたまにこうして会う。

互いの理解できない美学を、面白がっているのだ。


最上階の謁見室で、ザガンは一枚の巨大なキャンバスを見上げていた。

それは、太古の昔に発狂した亜神が、自らの血と神経を使って描いたとされる『神殺しの図』だ。


渦巻く混沌と殺意。

常人なら一瞥しただけで脳が焼き切れ、下級悪魔ですら魂が蒸発すると言われる、禁忌中の禁忌。


僕ですら直視すると肌がヒリつくようなその「呪いの塊」を、ザガンはまるで午後のティータイムのような優雅さで眺めている。

彼はその猛毒のような瘴気を、極上の香水か何かのように深く吸い込んでいた。


「やあザガン、相変わらず息が詰まる城だね。君のコレクションは素晴らしいが、どうも血が通っていない」


僕の言葉に、彼はゆっくりと振り返る。

「君の騒々しさに比べれば、静寂は美徳だよ、フェニックス。 ……君も少しは『沈黙』という芸術を学んだらどうだね? 口を閉じている時の方が、君はずっと知的に見えるぞ」

ザガンは鷲のように鋭い目で僕を射抜く。


「相変わらず口が減らないね!君の芸術論は高尚だけど、少し『物語ストーリー』が不足しているんだよ。そういう人物にこそアニメという総合芸術がおすすめだ。そうだな 君のようなアニメ初心者には、まずこの不朽の名作……『となりでトロロ 』から入るのがマナーというものだ。一見、自然薯の精霊と都会から来た女の子の田舎でのほのぼの生活アニメに見えるんだけど、これは『究極の献身』と『食と命の尊さ』をテーマにした壮大な物語なんだ。君も作中の名セリフ『いただきます』の重みを知れば、その冷え切った心臓にも少しは血が通うはずだ。よし!燃えてきた!早速、上映会を始めよう!その絵画どけてくれない?そこにスクリーンを張るから!」


鼻息荒くまくし立てる僕を、ザガンは無言で見つめていた。

怒りではない。

侮蔑でもない。

それは、道端で干からびているミミズを見るような、底知れぬ『憐れみ』の眼差しだった。


彼は優雅な動作でこめかみを押さえ、この世の憂鬱を全て煮詰めたような深いため息を吐く。

「フェニックス……君は私とその珍妙な芋のアニメを見るために、わざわざ次元を超えて私の魔界に来たわけではないだろう?まぁ、君がどうしてもというなら、それでも私は構わないがね。」


ザガンの冷静な言葉が、僕の心にブレーキをかけてくれた。

そうだった、今日はザガンにアニメを布教しに来たんじゃなかった。


僕はアニメ布教という欲望を飲み込んで、ザガンの話に乗ることにした。

「そうだった! 君が『余興』なんて言葉を使う時は、よっぽど面白い『素材』がある時だからな。あれだろ? 魔法少女としての素材が見つかったって事だよね? どこ? 華奢な感じがするけどじつは芯が強い美少女は?」


「少女……? ああ、君が熱を上げているという、あの珍妙な娯楽か。まだそんなものをやっていたのか」

ザガンは心底呆れたという顔でため息をついた。


「珍妙とはなんだ! 魔法少女は、魂の芸術だぞ!」

僕が熱弁しようとした、その時だった。


ザガンは僕の言葉を遮り、指を鳴らす。

すると、部屋の中央の空間が音もなく歪み、影が集うようにして一枚の古びた石板の幻影が形を結んだ。

石板には七つの窪みがあり、そこにはまるで眠るように、七つの宝石がその輝きを内に秘めていた。


ザガンの魔力に応えるかのように、一つ、また一つと宝石たちが静かに浮上し、石板から解き放たれる。

それらは互いに引かれ、反発しあうように、完璧な天体模型のごとき七重の軌道を描き始めた。


それぞれの宝石が放つ光は、残光となって空間に美しい幾何学模様を刻みつけていく。

一つ一つが、神が気まぐれに作った星のかけらのようであり、それでいて、見る者の心の奥底を覗き込むような、冷たくも妖しい輝きを放っていた。


「……まあいい。君の趣味は理解できんが、ちょうど一つ、厄介事が起きてね。私の完璧なコレクション棚に、許しがたい『空席』ができてしまった。見るに耐えない光景だ」

「空席? ……って事は、この幻影のオリジナルはここにはないの?」

「そうだ、これはかつての姿を映した幻影にすぎん。いわゆる『魂の肖像画』というやつだ。実物は私の宝物庫から盗み出され、今はもう手元にないのだよ」


僕は思わず息を呑んだ。 ザガンが言う『魂の肖像画』か。

確かに、その半透明の輝きは、時が止まったような静かな美しさを湛えている。


だが、僕にはそれだけじゃないものが見えた。

この宝石たちは、静的な美術品なんかじゃない。


これは……物語だ。

少女の手に握られ、穢れ無き魂と共に輝きを増す奇跡の石。

そして、倒すべき敵がその胸に宿す、絶望の源泉。

僕の脳裏には、この宝石を巡る壮大な魔法少女の物語が、すでに再生され始めていた。


「かつて存在したある愚かな堕天使の魂を三柱の魔王が砕き、三つに分かれた欠片の一つを私が『芸術品』として加工したものだ。名を『楽園の七つの棘』という」


ザガンの説明に、僕のプロデューサーとしての魂が震えた。

なんて厨二心をくすぐるネーミングセンス! 最高じゃないか!


「その『棘』は、人間の心に宿る強い欲望を苗床にして、持ち主を異形の怪物へと変貌させる。実に歪で、実に美しいアートだ。そして、その私の最高傑作を、ある愚か者が盗み出した。どうやら異世界……人間たちが住む世界に持ち出したらしい」


異形の怪物!

人間の欲望!

そして、七つの秘宝!

それはまさに、僕が求めていたものじゃないか!


魔法少女が戦うべき敵!

守るべき人々!

そして、集めるべきアイテム!

物語の舞台は、すべて整った!


「どうだね、フェニックス。私が自ら赴いても構わないのだがね。君が夢中になっている珍奇な趣味の舞台装置としては、ちょうどいいかもしれんぞ?」


こういうところがあるから、こいつとの付き合いは最高なんだよね。

ザガンの言葉に、僕は満面の笑みで答えた。


「乗った! その話、詳しく聞かせてもらおうか!」

こうして、僕の、僕による、僕のための最高の魔法少女プロデュース計画が、ついに幕を開けたのだ。


Liner Notes

■Track 03

【分類】

[[1]:アイテム紹介] > [[13]:寄生・禁忌遺物]


【日本語名称 / English Name】

楽園の七つの棘 / Thorns of Paradise


【概要 / Overview】

 管理等級:ワールドクラス・アーティファクト(SSS級禁忌遺物)。

 かつて三柱の魔王と強大な堕天使が戦った。

 戦いは魔王側が勝利したが、堕天使の魂を消滅させることは出来なかった。

 仕方なく三柱の魔王は堕天使の魂を三分割し、それぞれの魂の欠片をそれぞれの魔王が管理する事にした。

 この楽園の七つの棘は、その分割された魂の一つを魔王ザガンが芸術品として加工・封印した7つの宝石の総称である。


【特性・スペック / Properties & Data】

・永久の輝き(Eternal Radiance)

 本物の宝石を凌駕する美しさを持ち、いかなる物理・魔法的手段によっても破壊不可能な永久不変の輝きを保つ。


・欲望の受肉(Incarnation of Desire)

 人間の心に潜む「強い欲望」を苗床にして発芽する性質を持つ。

 持ち主の精神を浸食し、その欲望を糧として宿主を異形の怪物(魔人)へと変貌させる。


・構成要素(The Seven Gems)

 以下の7石で一組の「作品」として成立している。  

1. 渇望の紅玉ルビー・オブ・サースト  

2. 叡智の天藍石サファイア・オブ・アビス  

3. 虚構の翠玉エメラルド・オブ・フィクション  

4. 不壊の金剛石ダイヤモンド・オブ・アダマント  

5. 静寂の紫水晶アメジスト・オブ・サイレンス  

6. 刹那の黒真珠パール・オブ・エフェメラル  

7. 富貴の黄金玉トパーズ・オブ・ミダス


【特記事項 / Secret Note】

 元来、この「作品」は魔王ザガンの居城にある『幻影回廊』にて、幾重もの美学的封印(鑑賞は可能だが接触は不可能な防壁)によって厳重に管理されていた。

 しかし半年前、ザガンの側近であった「美の審美官」の一人が、何者かと共謀し、封印の解除コードを漏洩させ、七つの宝石は散逸することとなった。

 ザガンはこの「盗難」そのものよりも、自らのコレクションを「汚れた金銭」に変えようとした側近の低俗な精神性に激怒。

 協力者であった側近を捕らえ、死よりも過酷な罰を与えることにした。

現在、その裏切り者は『永劫の台座』へと作り替えられ、奪還された宝石を支えるためだけの「生きた調度品」と化している。

 すべての宝石が戻り次第、彼は狂うことも許されず後悔にまみれた意識のまま、自らが裏切った美しさに永劫の時間をかけて触れ続けなければならない。

その指先が、裏切った輝きに焼き焦がされる苦痛と悦楽こそが、ザガンの用意した究極のアートなのである。



Tags: #楽園の七つの棘 #欲望の苗床 #七つの秘宝 #SSS級禁忌遺物 #盗難品につき捜索中



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