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魔法少女物語 魔王フェニックスとパン屋の娘  作者: カニスキー
第一章 刹那の黒真珠 編
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019:警備隊長は子供たちを守りたい

019:警備隊長は子供たちを守りたい

SIDE ユリウス


機動獣の鉤爪が石畳を削る甲高い音を響かせ、俺は部下と共に王都立中央学校へ突入した。

鼻をつくのは硝煙と埃の匂い。

そして、不気味なほど甘い、死の香り。


校門は内側から爆散したかのように砕け散り、静かであるべき学び舎は地獄の様相を呈していた。

校門を抜けた先には、すでに戦闘の痕跡が刻まれている。

俺より先に到着していたであろう先発隊の隊員たちが、校庭のあちこちに倒れ伏しているのが見えた。

俺は息を呑み、目の前に広がる惨状に言葉を失う。


「隊長!あれを!」

部下が指さす先、校庭の中心で、俺は信じがたい光景を目の当たりにした。


10人前後の子供たちが、見えない壁に囲まれるように一箇所に集められ、身を寄せ合いながら恐怖に泣き叫んでいる。

その中心に、“それ”はいた。


夕闇色のドレスを優雅に翻し、陶器のように白い肌を持つ女。

その胸元で妖しく輝く黒真珠が、この惨状の元凶であることを示していた。

そんな女が空中に優雅に座りながら、楽し気に美しい笑顔で子供たちを上から眺めていた。

もはやアレは人間でない、人知を超えた力を操る存在、魔人と呼ぶにふさわしい存在だ。


魔人の女は、まるで羊の群れから一頭を選ぶように、子供たちの中の一人の少女に、その白く長い指を向けた。

見えない力が働いたのか、その少女は恐怖と涙でぐちゃぐちゃになった顔を魔人の元へ強制的に向けさせられたようだ。


「まあ、なんて瑞々しいのかしら。けれど、まだ熟成が足りないようね」

女はうっとりと囁くと、指先で空気を撫でた。

それだけで、少女の体がふわりと宙に浮く。


「嫌だ!離して!お母さん!!」

少女は半狂乱で手足をばたつかせ、見えない拘束から逃れようと必死にもがく。


「ふふ、暴れないで。すぐに楽にしてあげるから」

魔人は慈愛に満ちた聖母のような微笑みを浮かべながら、クイクイと指先を曲げる。

そのたびに、少女の体はビクンと跳ね、蜘蛛の糸に絡められた獲物が手繰られるように、なすすべもなく魔人の顔の目の前へと引き寄せられていく。


「あ……あ……」

逃れられないと悟った少女の瞳が、極限の恐怖で見開かれる。


「そう、いい子ね。もっと、もっと怖がりなさいな。絶望に染まった魂ほど、わたくしを美しくする極上の『糧』になるのですから。」

そういった魔人が少女の首筋に顔を寄せ、その唇をその首筋に触れた瞬間。


「ジュルリ……」

静まり返った校庭に、不釣り合いなほど生々しい、何かを啜る水音が響いた。


次の瞬間、少女の体がビクンと大きく跳ねた。

「いやぁ!痛い!痛いよぉ…助けてぇ!たすけてぇーー!!」

少女の涙混じりの絶叫が校舎に響く。


「んん……良い、良いですわよ……濃厚だわ」

魔人が陶酔した声を上げるたび、少女の体から“時間”が剥ぎ取られていくようだ。


艶やかだった髪は毒が回るように白く染まり、ふっくらとしていた頬は果肉を吸い出されたように萎んでいく。

人が老い、朽ちていく数十年という残酷な過程が、わずか数秒に圧縮されて目の前で再生されていた。

痛いと叫ぶ絶叫すらも徐々に小さくなっていき、痙攣は次第に弱まり、伸ばされた小さな手は、節くれだった枯れ木のような老婆の手へと変貌していった。


やがて、最後の命の一滴まで啜り尽くされると、少女だったものは不可視の力から解放されたのか、ボロ雑巾のように崩れ落ち、乾いた音を立てて地面に転がった。

無造作に放り投げられたその“残骸”は、まだ生きていた。


乾ききった皮膚が擦れる音と共に、「あ゛……ぅ……」と苦悶の呻き声が漏れている。

ピクピクと痙攣しながらも、何かを訴えるように虚空を掴むその指先を見て、子供たちは悲鳴を上げることすら忘れ、ガタガタと歯を鳴らしてその場に凍り付いた。


魔人はそんな子供たちを楽し気に見下しながら、恍惚の表情で口元の残滓を舌で拭う。

そして美しく醜い笑みを浮かべ、次はどの菓子にしようか選ぶように、他の子供たちへ舐めまわすような視線を向けた。


「…この外道が!」

俺の喉から、人間とは思えない咆哮がほとばしった。

理屈よりも先に、体が動いていた。

おびえる機動獣から転げるように飛び降りて、全力で走りながら腰の長剣を抜き放つ。



「俺が奴の気を引き付ける、お前たちは隙をついて子供たちの救出に全力で当たってくれ!」

返事は聞かずに、俺は大地を蹴った。


鍛え上げた剣技の粋を込めた一閃を、魔人へと叩き込む。

だが、その刃が女の肌に届くことはなかった。


ガギィィン!!

まるで分厚い鉄骨をハンマーで殴ったような、重く硬質な反発音が響き渡った。

俺の手首に、骨がきしむほどの強烈な痺れが走る。


「な…!?」

女の柔らかな肌の数センチ手前。

何もないはずの空間で、俺の剣はピタリと止められていた。

魔人は防御の構えすら取っていない。

ただそこに立っているだけで、俺の渾身の一撃は「見えない壁」に阻まれ、傷一つどころか、触れることさえ許されなかったのだ。


「目障りですの。……消えていただけます?」

女は目の前で剣が止められていることなど気にも留めず、ため息交じりに指先を振った。

まるで、汚れた空気を払うかのような、無造作な動作。

たったそれだけで、大砲の直撃を受けたような衝撃波が俺を襲う。


「ぐはっ!?」

不可視の何かに飛ばされた俺の体は、校舎の壁に叩きつけられる。

銀の甲冑が嫌な音を立ててへこんだ。


「ぐっ…化け物が…!」

瓦礫にまみれながらも、俺は即座に立ち上がる。

口の端から流れる血を乱暴に拭い、魔人を睨みつけた。


――硬い。

鉄をも両断する俺の剣が、触れることすら許されないとはな。

奴の周囲を覆う、あの不可視の力場……間違いなく『結界』だ。


本来なら、この世の理を超越した『魔獣』と呼ばれる特異な怪物だけが纏うことを許される、物理法則を拒絶する絶対的な盾。

道理で、先発の部隊が手も足も出ずに壊滅したわけだ。

一般の兵装や剣技では、奴に指一本触れることすら叶わなかっただろう。


だが、その理不尽を叩き斬るのが、俺の仕事だ。

通常の剣技が通用しないのなら、奥の手を使うまで。


俺は剣の柄に埋め込まれた魔石機関を起動させた。

剣身から噴き出した蒼白い電光は、獲物を前にして逆立つ黄金のたてがみそのものだ。

大気を震わす轟音はもはや放電の音ではない、それは、理不尽を噛み砕かんとする、猛き獣の唸り声だった。


「……ふふ、なんて熱い視線。そこまでして、この首が欲しいのですか?」

魔人は妖艶な笑みを浮かべると、白魚のような指先で、自身の無防備な白い首筋をツッとなぞってみせた。

「良いでしょう、その無謀な牙がどこまで届くか、試してご覧なさい」


魔人が嬉しそうに眉をひそめた瞬間、俺は再び地を蹴った。

狙うは魔人ではない。

子供たちを囲む、あの見えない壁!


「うおおおおっ!」

雷を纏った剣が、歪んだ空間に叩きつけられる!

見えない何かに刀身がぶつかった瞬間、ありったけの雷の力を一点に叩き込む!

巨大な亀裂が走り、ガラスが砕け散るような甲高い破壊音と共に、子供たちを囲む不可視の壁は木っ端みじんに砕け散った!


「な……ッ!?」

魔人の目が、驚愕に見開かれた。


彼女は今の今まで信じて疑わなかったのだ。

俺の狙いは自分の首だと。

そして、自らの結界が人間ごときに破られることなど、万に一つもあり得ないと。

だが、俺が砕いたのは子供たちを囚える「檻」であり、その行動は彼女の傲慢な予測を遥かに超えていた。


その美しい顔が驚きに歪み、動きが止まった一瞬を俺は見逃さない!

振り下ろした長剣を全身の筋肉を爆発させる勢いで打ち上げる!


「うおォォォォォッ!!」

雄叫びと共に剣の出力を臨界点まで引き上げる。

逆巻く雷撃を纏った斬り上げの一閃は、あたかも魔人の喉元を掻き切らんと飛び掛かる雷獅子のアギト!


バリバリバリィッ!!

雷獅子の牙が、魔人の身を包む絶対防御の障壁に食らいつき、その膨大な電圧で強引に食い破っていく。

視界を埋め尽くす派手な火花と轟音の中、俺は魔人の懐へと踏み込んだ。


その瞬間、世界が泥のように重く引き伸ばされた。

煌めく雷光の向こうで、見開かれた魔人の瞳と視線が噛み合う。

そこにあったのは捕食者の余裕ではなく、絶対的な優位が崩れ去ったことへの、純粋な驚愕だけだった。


ザシュッ!

絹を引き裂くような音と共に、魔人の肩口から鮮血が舞った。


Liner Notes

■Track 19:専用装備(Special Equipment)

【分類 / Category】

[11:変身・武装]


【名称 / Name】

専用装備『ライオット・ソード』(Riot Sword)


【詳細分類 / Sub-Category】

超獣素材武具


【概要 / Overview】

警備隊隊長ユリウスの愛剣 。

強力な超獣「ライオット(雷獅子)」の素材から鍛えられた逸品である 。


【特性 / Properties】

剣身から蒼白い電光を放ち、雷獅子の如き破壊力を発揮する 。

この剣は独自の意志を持つかのように使い手を選ぶ。

剣自体にその実力を認められない限り、いかに魔力を流し込んでも「雷」が発動することはないとされる 。


【特記事項 / Secret Note】

【所有権の格 / Ownership Status】:

そのあまりの美しさと威力から、本来は王侯貴族やそれに準ずる最高位の実力者(一流のハンターなど)にしか所有が許されない格の武具である 。


【出自の噂 / Origins & Rumors】:

公式記録では地方孤児院出身とされるユリウスが、なぜこれほど所有条件の厳しい名剣を帯びているのかは謎に包まれている 。

ユリウスファンクラブの間では「没落した貴族の残された家宝」という説が最も有力である 。


Tags: #絶望を啜る魔人 #ライオット・ソード #使い手を選ぶ名剣 #結界破壊 #魔人覚醒状態


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