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魔法少女物語 魔王フェニックスとパン屋の娘  作者: カニスキー
第一章 刹那の黒真珠 編
16/19

016:魔王は新居の歴史に耐えられない

016:魔王は新居の歴史に耐えられない

SIDE フェニックス


歓迎会がお開きになって、僕は食器を片づけるのを手伝ったりして一息付いていた。

そして、これから歓迎会の楽し気な空気と満腹になって気が緩んでいるであろうリーナに、さりげなく今夜からの寝床はクローゼットで良いよね?と提案しようとタイミングを窺っている。


ふふ、今こそ交渉の好機!

この僕の提案に、彼女はきっと首を縦に振るだろう!

そう確信した僕は、自信満々に彼女の元へと駆け寄った。


だが、ユーリと一緒にお風呂に入りに行く途中のニコニコ顔のリーナは、僕がクローゼットという単語を出しただけで即座に冷たい視線を返してきた。


だめだ、このまま交渉を進めてもリーナは意固地になって、さらにこじれてしまう。

そう感じた僕は、戦略的撤退を余儀なくされた。


やるじゃないかリーナ、それでこそ僕のパートナーだ!

でも、僕は諦めない!

必ず!クローゼットに僕の玉座を築いて見せる!!


だが、現実的に今日の夜、寝る場所が決まっていない。

仕方がないのでゲオルグに相談したところ、「そうかそうか、ぴよもリーナに追い出されたか!」と、妙に嬉しそうに僕の肩をポンポンする。

「いいか、ぴよ。娘というのはな、ある日突然『お父さんと洗濯物を一緒にしないで!』と言い出す生き物なんだ」

ゲオルグは遠い目をしながら、しみじみと語りだした。

その目には、歴戦のハンターであったという益荒男の輝きは微塵もない、年頃の娘を持つ父親の悲哀の輝きだけがあった。


「俺はな、ショックだった。ついこの間まで『パパのお嫁さんになるー!』って言っていたのに……。昨日なんて『お父さんの枕カバーが私の洗濯物と一緒だった!もう一度洗いなおすの大変だから、今度から気を付けてね』だぞ?枕カバーだぞ!下着とかじゃないんだぞ!それをあいつは産業廃棄物を見るような目で……うっ、うぅっ!」

大男が涙目で鼻をすすり出した。


奥でマリアが「あらあら」とニコニコ笑っているが、助け舟を出す気配はない。

どうやらこの家において、ゲオルグの地位というのは僕が想像している以上に低いらしい。


「わかるぞ、ぴよ。お前もリーナに『ケダモノの匂いが移るから近寄らないで』とか言われたんだろう? 安心しろ、俺たちは仲間だ。男というのはな、こうやって女たちの尻に敷かれながら、逞しく生きていくもんなんだ」

僕は否定しようとしたが、ゲオルグは聞く耳を持たず、分厚い手で僕の背中をバンバンと叩いた。


やめてくれ、その「お前もこっち側(最下層)の住人だな」という共感の眼差しを向けるのは!

僕は魔王だぞ!?

泣く子も黙る地獄の侯爵だぞ!?

洗濯物の分別ごときで心を折られる人間と一緒にしないでくれたまえ!


だが、宿無しの身である今、家主の機嫌を損ねるわけにはいかない。 僕は屈辱に震えながらも、曖昧に愛想笑いを浮かべるしかなかった。

「ゲオルグ。しょうがないよ、人間の雌は年頃になると、自分と近い遺伝子を避けるために匂いで判断するんだ。リーナがしっかり成長している証なんだよ、喜ばしい事なんだ。」


「うぅ…ぴよぉ!」

ゲオルグは感極まって、その丸太のような腕で僕をガバッと抱きしめた。 「ぐえっ!」 苦しい! パン生地をこねる怪力で抱擁されたら、ひよこのボディなんてひとたまりもない。

さらにあろうことか、彼は僕の自慢のフワフワの羽毛に顔をうずめ、グズグズと顔を擦り付けてきた。

「お前……本当にお前ってやつはぁ……!」


やめろ! その目から鼻から出るむさ苦しい液体を、高貴な僕のボディで拭うんじゃない!

僕はハンカチじゃないぞ!

熱い抱擁と共に、僕の羽毛がみるみる湿っていく。最悪だ。

筋肉質の人間の雄が涙目でイジイジしている姿は、まさに情けないという言葉にふさわしい景色だ。

なんて恐ろしい光景だ、僕はどんなことがあっても気高くいようと心に誓った。


「よし、そんなぴよにちょうど良い物があるぞ!」

そんな言葉を残して物置から引っ張ってきたのは、古びた犬小屋だった。

「これは、数年前までうちにいた犬が使っていた由緒正しき犬小屋だ!」


ゲオルグが誇らしげにドンと置いたその物体を、僕は恐る恐る凝視した。

色褪せた赤い屋根に、所々ささくれ立った木の壁。

入り口の上には、うっすらと『ポチ』と書かれた表札の跡が残っている。

恐る恐る中を覗き込めば、床には先代の住人が残したと思われる無数の爪痕と、どことなく野生を感じさせる獣の芳醇な香りが漂っていた。


……あれ? 僕ってさっき、自分の事を魔王だって説明したよね?

おっかしいな?

僕が魔界で住んでいたのは、魔界一大きい世界樹の一番日当たりが良い超一等地だ。

クリスタルガラスの窓からは魔界全土を一望でき、室内は全自動空調完備で一年中快適。

床には最高級の魔獣の毛皮が敷き詰められ、壁一面の巨大スクリーンで深夜アニメをリアタイ視聴するという、贅の限りを尽くした光り輝く宮殿だったはずなんだけど???


それが、目の前にあるのは……どう見ても築年数不明の中古物件!

しかも、木造の犬小屋(大型犬用)!!

魔界の宮殿(最上階)と目の前の犬小屋(地面)のあまりの高低差に、僕の魂がキーンと耳鳴りを上げて悲鳴を上げる。

目の前が暗くなり、あまりの情けなさにこぼれる涙を我慢してプルプルしている僕を、ゲオルグは感涙だと勘違いしたみたいだ。


「よしよし、ぴよも気に入ってくれたみたいだから、すぐに設置してやるぞ」と、有ろうことか犬小屋を庭に持っていこうとした。


屋外だと!?そう来たか!屋内ですらないのか!!

まさか、僕の予想のさらに下があるとは、さすがリーナの父親だ!


「せめて!せめて家の中に!!」

なりふり構ってられない、屋外で犬小屋なんて、今まで橋の下でヤマさんと一緒に住んでいたのと何も変わらないじゃないか!

むしろ几帳面に改良を加えたヤマさんハウスの方が居住性は上!


僕の慌てた声を聞き、ピタッと止まって振り返るゲオルグ。

「そうか?家の中が良いのか?でも、トイレの横の物置スペースくらいしか空いてないぞ?」


僕は足から崩れ落ちた。

僕!魔王なのに!

場所によっては神として崇められているというのに!!


でも、これも魔法少女のカタルシスの為の試練!

そうだ、コレはリーナのクローゼットへの止まり木に過ぎない!

僕は不屈の精神で、苦い現実を飲み込むことにした!


「トイレの横でお願いします。」

絞り出す僕の声にゲオルグは「おっ?そうか?ちょっと待ってろよ!」と、あっという間に本当にトイレの横のスペースに犬小屋を設置してしまった。


あつらえたようにぴったりハマる犬小屋、いや、僕の仮初の宿。

そこに入り、僕は必ずクローゼットへたどり着く決心を心に刻み付けるのであった。


「……何やってるの?」

背後から聞こえた声に振り返ると、そこにはお風呂上がりでタオルを頭に乗せたリーナが立っていた。

その隣では、ユーリが目をキラキラさせて僕の「新居」を覗き込んでいる。


「うわぁ! すごい! ぴよちゃん、 秘密基地みたいでかっこいい!!」

ユーリの純粋な称賛の声!

狭くて暗い犬小屋が、彼の子供フィルターを通すことで「男の子の夢が詰まった基地」に変換されたようだ。


その言葉に、ボロボロだった僕の魔王としての自尊心が少しだけ疼いた。

そうだ、物は言いようだ!

「ふ、ふふん。ユーリ、君は見る目があるね! その通りだ! ここは魔王軍の『暫定前線司令本部』なのだ!」

僕は胸を張り、あえて偉そうに翼を広げて見せた。


「すっげー!! かっこいいーー!!」

ユーリは尊敬の眼差しで拍手喝采だ。


悪い気はしない。

いや、むしろ気分が良い!

そうだ、僕は忘れていた!

男の子は秘密基地が大好きだ!

これはただの中古物件じゃない!最近はやりの古民家カフェならぬ、古民家秘密基地だ!

新築には出せない趣がココにはある!


「うわぁ! 懐かしい~! これ、ポチの小屋じゃん!」

リーナは目を丸くし、慈しむような目で犬小屋を見つめた。


え?

懐かしい?


「ポチっていうのはね、私が生まれる前からうちにいたお爺ちゃん犬だったんだよ。すっごく長生きでね、この前、老衰で死んじゃったんだけど……」


「えっ?」


リーナはしゃがみ込み、犬小屋の屋根を愛おしそうに撫でた。

「そっかぁ、お父さん捨ててなかったんだ。へぇ~、中も当時のままだ。このにおい、ポチのにおいだぁ……懐かしいなぁ」

リーナはうっとりと「獣の獣臭(残り香)」を嗅いでいる。


待って。

ここ、ついこの間まで老犬が住んでた「終の棲家」なの?

事故物件どころか、お看取り物件なの!?

僕が戦慄していると、リーナはニッコリと満面の笑みを僕に向けた。


「良かったね、フェニックス! そこならポチも喜ぶよ。今日からフェニックスが『二代目ポチ』だね!」

「に、二代目……ポチ……?」

「うん! 頑張れ、二代目!」

リーナは満足そうに手を振ると、スタスタと自室へ戻っていった。

「あ、待ってよリーナお姉ちゃん! バイバイ、二代目!」

ユーリも慌ててその後を追いかけていく。

あとに残されたのは、トイレの横でポツンと佇む「老犬の遺産(犬小屋)」と、翼を広げたまま固まったひよこが一匹。


くっ……!

先代の「ポチ(老衰)」という重すぎる歴史と、勝手に襲名させられた「二代目」という屈辱的な肩書。

魔王としてのプライドは、跡形もなく粉砕された。

だが、僕は諦めない!! 諦めてたまるか!

たとえ二代目ポチと呼ばれようとも!

この犬小屋を足掛かりに、必ずやクローゼットへと這い上がってみせる!!



Liner Notes

■Track 16:登場人物紹介(Character Profile)

【分類 / Category】

[22:一般市民・家族]


【名称 / Name】

ゲオルグ・サトウ(Georg Sato)


【職業 / Occupation】

陽だまりベーカリー店主 / 元凄腕ハンター


【家族構成 / Family】

妻(頭が上がらない)

娘(最近冷たい)

ぴよ(心の友)


【特技 / Skills】

パン生地のこねる事(岩をも砕く握力)


【趣味 / Hobbies】


【特記事項 / Secret Note】

【過去 / Past History】

かつてレッドライセンスのハンターでそこそこ稼いでいた。

うまくすればブルーライセンスに昇格できる可能性まであったが、膝に矢を受けてしまいチームを脱退しハンターも引退した。

その後、妻のマリアの夢であった、パン屋に転職する事になる。

旧姓はゲオルグ・ヴォルデガルド。

マリアと結婚するにあたってサトウ家に婿養子として入った。

マリアと義母が喧嘩別れ状態なのを何とかしたいと思っている。



Tags: #膝に矢を受けてしまって #元レッドライセンス #家庭内最下層同盟 #二代目襲名



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