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魔法少女物語 魔王フェニックスとパン屋の娘  作者: カニスキー
第一章 刹那の黒真珠 編
15/18

015:一般少女はひよこのペースにのせられない

015:一般少女はひよこのペースにのせられない

SIDE リーナ


この食卓の料理、私の誕生日の時よりもはるかに豪華なんですけど……

なんだろう、この敗北感は?


「ぴよちゃんが家族になるんだもん、このくらいは当たり前よ!」

お母さんが満面の笑みで言い、フェニックスの小さな頭を優しく撫でた。

フェニックスは気持ちよさそうに目を細めている。


「そうだ、ぴよは良い奴だからな!この前も、うちの傷んだ屋根を直してくれたり、建付けが悪くなったドアを直してくれたりしたんだぞ」

あまり人を褒めないお父さんが、珍しく雄弁に語る。

そのごつい手で、フェニックスの小さな頭を優しく撫でた。


フェニックスは、まるで猫のように彼の手を擦り付けている。


嘘でしょ……。

仕事の邪魔だ!って仔猫すら部屋から蹴りだすあのお堅いお父さんが、初対面のひよこに速攻で懐柔されてる。

っていうか、いつの間に屋根なんて直したのよ。

どこから?どこから突っ込めば良いの?


そんな父さんとひよこを見て、 お母さんは感心したように頷いている。

なんだろう、ほほえましい光景のはずなのに、心がざわつく。


「ユーリもぴよちゃんが見ててくれるから、安心して仕事ができるわ」

ミーシャさんが柔らかな笑顔を向ける。

彼女の猫耳がぴくりと動き、尻尾が楽しそうに揺れた。

あっ、駄目だ。

ミーシャさんのこの尻尾の動きは、完全に家族に向ける親愛のリズムだ。

ミーシャさんって、身内以外にはあまり笑顔を見せないクールビューティーって感じなのに、もはやフェニックスに対しては親愛の最終段階に至っている。


「ぴよちゃんと一緒に住める!やったー!」

ユーリも口の周りをソースでベタベタにしながら、満面の笑みで喜んでいる。

初対面の人に対して人見知り気味なユーリも、どうやら心全開のようだ。

常連客で子供好きなのに、ユーリ君になじんでもらえないユリウスさん涙目案件だ。


家族全員に完璧に馴染んでいるフェニックスの姿に、私は魔王の恐ろしさに戦慄を覚えた。

私の心に、新たな疑念が湧き上がる。

このひよこ、洗脳ガジェットとか使ったんじゃないんだろうか?

私は、眉間に皺を寄せ、好物の『月光茸のクリームパスタ』をズズッとすすりながら、フェニックスがお父さんのグラスに短い翼で器用にワインを注ぎ足している姿を疑惑の視線で見つめ続けるのだった。



食事が一段落すると、お父さんが力こぶを作って声を張り上げた。

彼の顔は歓迎会の熱気と、酒でほんのり赤らんでいる。

どうやら、話の流れで自己紹介をすることになったらしい、お父さんのテンションはアゲアゲ状態だ。

私の家でお酒飲むの自分だけだったのに、今はフェニックスも専用のジョッキで飲んでいるみたい、同志が出来て、よっぽどうれしかったのだろう。


「それでは、改めて、自己紹介をするとしよう!俺の名はゲオルグ!ゲオルグ・サトウだ!この『陽だまりベーカリー』の店主だ!元はハンターをやっていた!好きな物は酒だ!よろしくな、ぴよ!」

お父さんはジョッキを掲げ、豪快に飲み干した。中身はあっという間に空になった。


「じゃあ、次は私ね。私はマリアよ。ゲオルグの妻で、リーナの母よ。趣味は料理かしら。よろしくね、ぴよちゃん」

お母さんは上品に微笑みながら、フェニックスに向かって軽く会釈した。


続いて、お母さんがにこやかに隣のミーシャさんへ促す。

「私はミーシャ・リンクスよ、見ての通り猫獣人よ。元ハンターだったけど、旦那が死んじゃってユーリを身ごもってたのをきっかけにハンターを止めてここで住み込みで働かせてもらってるわ、本当に皆さんには感謝しています。趣味はユーリと遊ぶことかな。」


ミーシャさんはそう言って、ユーリのほっぺをぷにぷにとつついた。

ユーリがくすぐったそうに身をよじる。

ミーシャさんの尻尾が大きく左右に揺れ、楽しそうな猫の鳴き声が漏れた。


「僕の名前はユーリ・リンクスです! 五歳です!! 好きな物は……えーと?」


空気を読んだ賢い五歳児は、流れるように自己紹介を始めた。けれど、あまりに急だったので途中で言葉が詰まってしまったらしい。


ユーリは困ったようにミーシャさんを見つめる。

お母さんのミーシャさんと違って、彼にはピコピコ動く猫耳も、ゆらゆら揺れる尻尾もない。どこからどう見ても、丸い耳が愛らしい「純度100%のヒトミミ男の子」なのだ。


そんな無垢な五歳児から、潤んだ瞳で助けを求めるように見つめられ……。

お母さんであるミーシャさんは、優しく微笑んで助け船を出した。

彼女が胸の前で両手をグッと握り、格好良く「ファイティングポーズ」を決めてみせると、ユーリはパッと顔を輝かせて叫んだ。


「僕が好きなのは『じゃんけんマン』です!!」


ユーリは「言ってやった!」とばかりに、キラキラした瞳で私を見つめる。

『お姉ちゃん! 僕、言えたよ!!』って、その瞳が雄弁に語りかけてくる。


くっ……!

こんな状況じゃなきゃ、今すぐ抱きしめて褒め倒してあげたい!

フェニックスについて思うところが無いわけじゃないけれど、この「純真無垢の暴力」に抗えるほど、私の心は強くできていなかった。


私は完敗を認め、表情を緩めて自己紹介を始めた。


「リーナ・サトウです!王都立中央学校の五年生です。趣味は劇場鑑賞です」

そう言って、私はフェニックスの方を見た。


「では、僭越ながら僕からも自己紹介させてもらうよ。僕の名前はフェニックス。ソロモン72柱の悪魔の一柱、地獄の大いなる侯爵にして、20の悪魔の軍団を率いる魔王なんだ。今は、この世界のルールに則り、一時的にひよこの姿で活動している。魔王だからと言って気負わないで良いよ、気さくに家族と思って普通に接してくれると嬉しいな。趣味は魔法少女のプロデュース。そう、僕はリーナのプロデューサーなのだ。今日からこの『陽だまりベーカリー』のお世話になるね。みんなよろしくね。」


私は、呆然とフェニックスを見つめた。

私の脳は、その言葉を処理しきれず、完全にフリーズしかけてしまう。

私が隠そうとしていたひよこの秘密を全部この場で吐き出しやがったのだ!



「…魔王とか言っていいの?これって、冗談…だよね?」

恐る恐る尋ねるような私の視線に、フェニックスは自信満々にどうだとばかりに胸をはっている。

その小さな体で魔王とか言われても、到底信じることが出来ない愛らしさだ。


しかし、私の隣で、お母さんはニコニコと笑っていた。

「あら、ぴよちゃんってそんなに偉いのね!!よろしくね、ぴよちゃん!」

お母さんはフェニックスの頭をポンポンと叩き、まるで子猫を可愛がるかのように優しく抱きしめた。

彼女の笑顔は、魔王とか魔法少女とかの意味をきっとわかっていない、この笑顔はユーリ君が語るじゃんけんマンの活躍を聞く時の笑顔だ。


お父さんは腕を組み、ふむ、と顎に手を当てた。

「魔王だと?…ガハハ!どうりでひよこのくせによくしゃべるし、やたらと人間臭いと思ったぜ。だが、あの屋根の修理ぶりを見りゃ、腕は確かだ。さすが魔王さまだ!ガハハハ」

そう言うと、お父さんは納得したように大きく頷き、再びジョッキを傾けた。

彼にとっても「魔王」という言葉は、ぴよちゃんの日頃の行いやパンを美味しく食べる姿と結びつかず、単なる「個性的な肩書」として処理されたようだった。


ミーシャさんは少しだけ猫耳をぴくりと動かし、フェニックスの小さな猫くらいの大きさの体をじっと見つめた。

元ハンターとしての本能が、何かに反応したのかもしれない。


しかし、すぐに柔らかな表情に戻る。

「ユーリをあんなに笑顔にしてくれるんだから、どんな肩書だろうと、私にとっては大切なぴよちゃんだわ。」

彼女の目は、ただひたすらに、息子を笑顔にしてくれる存在への感謝に満ちていた。

ユーリは、口の周りをソースだらけにしながら、ただ純粋な瞳でフェニックスを見上げていた。


「ぴよちゃん、すごいね!」

そして、まるで何でもないことのように、再び肉に齧り付いた。


私は、そんな家族のあまりに自然な反応に、別の意味で恐怖を覚えるのだった。

たしかに、目の前でデザートボウルに上半身を突っ込んで、溺れるように我が家特製フルーツポンチをむしゃぶり尽くす黄色い塊に魔王とか悪魔の威厳なんてかけらも感じることは出来ない。

この世界、しゃべる動物なんて掃いて捨てるほど存在するのだ。


騙されないぞ、私!

目の前の黄色い塊は、見た目以上に危険な魔王ひよこだ。

絶対に、コイツのペースには乗せられないんだから…!



そんなにぎやかな歓迎会の音の中、不意にでたお父さんとお母さんの何気ない会話が、私の耳に、そしてフェニックスの小さな耳にも届いた。

「そういえばね、最近街の様子がおかしいって噂よ。なんだか、みんな急に元気なくなっちゃうんだって。うちのお得意さんの雑貨屋さんも、この前まであんなに明るかったのに、なんだかぼんやりしちゃって…」

お父さんが腕を組み、唸るように言う。お父さんの表情は、一転して真剣なものに変わっていた。

「ああ、俺も聞いた。病気ってわけでもないらしい。厄介なことにならなきゃいいんだがな…」


私とフェニックスは、ピクリと体をこわばらせ、その言葉に小さく耳をそばだてた。

温かい歓迎会のこの席に、不意に冷たい風が吹き込んだような気がした。


賑やかだったはずのパーティーの音が、まるで遠くで鳴っているかのように感じられた。

私の内側に、何かが警鐘を鳴らしている。

その警鐘は、これから始まる厄介な事態を予感させる、不穏な音色だった。




Liner Notes

■Track 15:登場人物紹介(Character Profile)

【分類 / Category】

[22:一般市民・家族]


【名称 / Name】

ユーリ・リンクス(Yuri Lynx)


【個人データ / Personal Data】

【年齢 / Age】:

5歳


【誕生日 / Birthday】:

3月17日(魚座)


【血液型 / Blood Type】:

B型


【身長 / Height】:

伸び盛り


【体重 / Weight】:

軽い(ミーシャ談)


【種族 / Race】

人間


【家族構成 / Family】

ミーシャ、父(死別)


【趣味 / Hobbies】

ごっこ遊び(ヒーローごっこ)

ぴよちゃん(フェニックス)とお昼寝


【嗜好調査 / Likes & Dislikes】

【好きな食べ物 / Favorite Foods】:

『モノケラトプスのお肉』(特に骨付き肉)

『甘いお菓子』


【嫌いな食べ物 / Disliked Foods】:

『苦い野菜全般』(ピーマン的なもの)


【得意なこと / Skills】:

ジグソーパズル


【苦手なこと / Weaknesses】:

知らない人、パン屋のお客さんのユリウス隊長


【好きなタイプ / Preferred Type】:

猫獣人(お母さん)

じゃんけんマン


【特記事項 / Secret Note】

【将来の夢 / Future Dream】:

じゃんけんマンみたいに強くなって、お母さんを守るハンターになること。


【悩み / Current Worries】:

時々パンを買いに来るユリウスお兄さん(ユリウス)がメチャクチャ怖い。


Tags: #ユーリ・リンクス #じゃんけんマン #魔王の根回し #ユリウス隊長不憫 #不穏な予兆



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