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魔法少女物語 魔王フェニックスとパン屋の娘  作者: カニスキー
第一章 刹那の黒真珠 編
14/18

014:一般少女は歓迎会に納得いかない

014:一般少女は歓迎会に納得いかない

SIDE リーナ


「それじゃあ、ぴよちゃんの歓迎会をしなくちゃね!」

お母さんが弾んだ声でキッチンへ駆けていく。


その背中を見送った後、私は目の前の、ふわふわとした黄色い塊……フェニックスに詰め寄った。

フェニックスはお母さんのキッチンへ向かう後姿に、またあとでねと小さな羽をひらひらと振っている。

お母さんと目の前のひよこのあまりにも自然なやり取りが、私の胸をざわつかせた。


「一か月前からうちに来てたんですか?」

私の問いに、フェニックスは涼しい顔で、もふもふの羽をちょん、と持ち上げて見せた。


「リーナ、僕たちはもうパートナーなんだ、敬語なんていらないよ」

フェニックスは私の心の焦りを知ってか知らずか、私を嗜めるようにその小さな羽をピピピっと横にふる。


「ちがう、そうじゃない!私、全然気づかなかったんですけど!?」

私の心臓が、焦りの音を立ててドクンと鳴った。


「リーナ、君はまだ子供だから知らないかもしれないが、社会に出ると根回しが大事なんだ」

フェニックスは得意げに胸を張り、小さな体をゆさゆさ揺らした。

根回しって、ひよこが言う言葉じゃないでしょ!?

それに、私、全然知らなかったんですけど!?


私、この一か月くらいずーっとこのひよこの魔法少女の勧誘断ってたよね?それなのに、私の意思を無視して家族にまで根回しを進めていたって事?

怖い!なんか言葉にするのが難しいけど、このひよこ、怖い!!

だが、そんな私の内心を無視して、フェニックスはさらにとんでもないことを言い放った。


「現に、ゲオルグもマリアも、ミーシャやユーリ君まで面通しは終わっている!明日からすんなり魔法少女の活動が出来るよ」

私は言葉を失った!

うちで住み込みで働いてくれている、ミーシャさんやその息子の五歳のユーリ君まで、このひよこの影響下にあるというの?


私は頭を抱えたくなった。

思わず両手で顔を覆う。

そんな私を他所に、フェニックスは真剣な眼差しで、もふもふの体を私に押し付けた。


「そんな事よりクローゼットだ!お願いだ!リーナ!!クローゼットに住むのはマスコットとしての格にかかわるんだ!金なら払う!!金なら払うから!!」

フェニックスは小さな翼をパタパタさせながら、私の足元をチョロチョロと回り、必死にアピールする。

その瞳には、クローゼットに住むためなら犯罪も厭わないかのような、妙な光が宿っている。


ダメだ!ダメだ!!

気をしっかり持たないと!


目の前の魔王ひよこは、一度許しちゃうとこっちが思っている以上にズカズカ侵入してくるタイプのひよこだ!

クローゼットは私の最終防衛ラインな気がする!

絶対死守しなければ!


「とにかく、絶対駄目!クローゼットに住むなら、私、魔法少女やめるから!」

「くっ!」

魔法少女を止めるというセリフはかなり有効らしい、ひよこの目に動揺の色が宿る。

フェニックスがたじろいで何か言おうとした、その時。

キッチンからお母さんの明るい声が響いた。


「リーナ!お料理するの手伝ってぇ!」

私はこれを好機とばかりに、パッとその場を離れる。


「はーい!今行くー」

まるで救われたかのようにキッチンへと向かう。

私は念を押すために、部屋を出たところでもう一度振り返る。


「絶対に駄目だからね!」

私の言葉に、黄色い毛玉のひよこは全身を打ち抜かれたようにプルプルっと小刻みに震えその場に崩れた。

少しだけ罪悪感が湧いたけど、私は後ろ髪をひかれる気持ちを断ち切ってキッチンへ向かうのであった。


「リーナ、そこの『モノケラトプスの骨付きもも肉』を運んでくれる?」

キッチンに入るなり、お母さんの指示が飛んできた。

私は言われるがまま、テーブルに置かれた岩のような肉塊を持ち上げた。

ずしりと重い。これだけで5キロはあるだろうか。


「うっ……おもっ! これ、明日の総菜パン用の仕込み肉だよね? これ使って良いの?」

「ええ、お父さんもノリノリでOK出してくれたわ。それにそのお肉、ぴよちゃんがお肉屋さんの過剰在庫をいち早く教えてくれたおかげで、底値でいっぱい買えたのよ。お店のお財布も大助かりだわ」

お母さんは嬉しそうに、巨大な飛竜の手羽先(というか翼)にナイフを入れている。


「あの子、本当に物知りよねぇ。私の肩コリを治してくれた時も、『マリア、君の頭痛と肩コリは筋膜の癒着が原因みたいだよ! 長時間同じ姿勢でいるのが良くないんだね。あとで効果的な筋膜リリースのストレッチを教えてあげるよ』って言いながら肩を揉んでくれたの。おかげで、最近感じていた偏頭痛がすっかりなくなったわ」

お母さんは肩揉みがよっぽど気持ちよかったのだろう、手元の野菜をザクザク切りながら、その時を思い出してうっとりとした顔で語る。


お買い得品情報の提供に、医学に基づいた健康管理。

主婦のハートを鷲掴みにするスキル構成に、私は戦慄した。


外堀が埋まっているどころじゃない。

埋められた外堀に、舗装済ひよこ専用道路が敷かれた後ではないか!


平和な日常という強固な城壁をすり抜け、内側から家族の常識を甘い蜜で書き換えていく黄色い侵略者。

暴力ではなく、「便利」と「癒し」でいつの間にか家族の不可欠なピースに収まってしまう、そんな静かで完璧な侵略の恐怖。


私は背筋に走る悪寒に身震いしながら、コンロの上でグツグツと音を立てる寸胴鍋を、木べらで力任せに掻き回すしかなかった。


あれこれと手伝っているうちに、あっという間に時間は過ぎ、我が家の食卓は普段には無い熱気に包まれていった。

テーブルには豪華絢爛な料理の数々が並んでいる。

いつもの我が家の素朴なテーブルは、まるで祝祭の広間と化したようだ。


普段はこんなに豪華な料理が食卓に並ぶことはない。

フェニックスの歓迎会だと伝わると、私以外の我が家の一同はみんなニコニコしながら歓迎会の準備を手伝い始めた。

私は困惑しながらも、あとからあとから運ばれてくるテーブルいっぱいの料理を見つめる。


「かんぱーい!」

お父さんの豪快な声と共に、それぞれが持ったジョッキが打ち鳴らされ、一同が声を上げる。

その声は陽気な笑い声に満ちていた。


テーブルの中央には大小さまざまな料理がならんでいる。

中央には巨大な草食モンスターの大腿肉を骨付きのまま豪快に切り出し、特製の巨大な串に刺して焼かれた『巨大骨付き肉のワイルドBBQ串』が鎮座している。

熱気を帯びた肉からは香ばしい煙が立ち上り、ジュウジュウと食欲をそそる音を立てていた。


その脇には、強靭な飛竜の翼腕を何種類もの香草で煮込み、骨からゼラチン質の旨味を最大限に引き出した『飛竜の翼煮込み、秘伝ソース添え』が、深みのある香りを漂わせる。


その隣には、今日の売れ残りの物ではあるが、ふっくらとした様々な種類のパンがうずたかく盛られている。

そして、テーブルの一角でぼんやりと幻想的な青白い光を放っているのは、『月光茸のクリームパスタ』だ!

地下洞窟の奥深くにしか生えないこのキノコは、濃厚な旨味と香りが特徴で、 実はこれ、私の大好物なんだよね。

月光茸は高くて滅多に手に入らないから、年に一回あるかないかの御馳走なのだ!

だれかの誕生日くらいしか食卓に並ばない超レアメニューなのに、まさか今日食べられるなんて!

フェニックスの歓迎会だけど、こっそり心の中でガッツポーズをしてしまった。

まだまだ終わらない、エビに似たプリプリとした食感の光翅虫をサクサクの衣で揚げた「光翅虫のフリット」と、それに合わせた黄金芋のフライも別の山を築き、また別の場所には薄くスライスされた芋を揚げて粉々に砕き、甘酸っぱいドレッシングと共に振りかけた色とりどりの野菜サラダも並ぶ。


そして、厨房の冷蔵庫の中にはデザートとして「業炎蜜桃フルーツポンチ」が食後に出される時を今か今かと待っている。


みんなニコニコしながら料理を頬張っている。

お父さんが肉にかぶりつく豪快な音、お母さんが楽しそうに笑う声、ミーシャさんがユーリの口元を拭ってやる優しい仕草。


そして、異様なほどのなじみ具合でみんなと談笑しながら、ひよこにあるまじき上品さでテーブルの料理を食べているフェニックス。

私だけが、豪華すぎる食卓とフェニックスのわが家への浸透率に圧倒され、困惑気味に顔を引き攣らせていた。


この食卓の料理、私の誕生日の時よりもはるかに豪華なんですけど……

なんだろう、この敗北感は?





Liner Notes

■Track 14:世界観設定(World Setting)

【分類 / Category】

[31:文化・生活習慣]


【名称 / Name】

モンスター食文化と調理器具(Monster Cuisine & Tools)


【関連アイテム / Related Item】

巨大回転式炙り台(Rotisserie)


【詳細分類 / Sub-Category】

一般調理器具 / 鉄製


【世界の恵みとしてのモンスター / Monsters as a Blessing of the World】

この世界では、多様な巨大モンスターが「恵み」として存在し、その肉は安価で豊富な食材として日々の食卓を支えている。

家畜の飼育コストが不要で、一度の狩猟で大量の肉が得られるため、現実世界の牛肉よりも鶏むね肉や豚こま肉のように気軽に消費される。


【経済的価値の分散 / Dispersion of Economic Value】

皮、骨、特殊な器官など、肉以外の部位にも高い価値があるため、狩猟コストが分散され、食肉の価格が抑えられている。

まるで地球の捕鯨産業のように、この世界の文明はモンスターの資源に深く依存している。


【調理器具の役割 / Role of Cooking Utensils】

大量の肉塊を効率的に焼き上げ、余分な脂を落としつつ旨味を引き出すために、この「巨大回転式炙り台」が発達した。


Tags: #異世界グルメ #モノケラトプス #飛竜の煮込み #モンスター食文化 #筋膜リリースストレッチ




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