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010:一般少女は服を着たい

010:一般少女は服を着たい

SIDE リーナ


オイルと埃の匂いが混じる廃工場に、重たい沈黙が流れる。

必殺技の不発。

そして、怪人の逃亡。


初陣の結果としては、あまりにも締まらない。

その原因が、私のプロデューサー兼マスコットである、このひよこの凡ミスだったことは間違いない。


目の前で小さくワナワナ震える私の命の恩人(恩鳥?)へ、「失敗は誰にでもあるんだよ」と、その小さな背中を優しく慰めてあげようと、私が口を開きかけた、その時だった。


「不甲斐ないぞ! アルカナ・フレアッ!! 君が奴から目を離さなければ、取り逃がすことなど無かったんだ!」

あろうことか、目の前のひよこは、その責任を全て私になすりつけて来たのである。


カッと頭に血がのぼる。

なんで? 私、悪くないよね!?


私はわなわなと震える拳を握りしめ、反論の言葉を叩きつけた。

「私が悪いんですか!? 信じられない! そもそも、あなたが自力で変身した時に、あの怪人を倒してくれればよかったんじゃないですか! せっかくの一日一回の切り札だったのに!」


フェニックスは小さな翼をバッと広げ、胸を張って反論した。

「馬鹿者ッ! あれは君の記念すべき初変身バンクだったんだ! 神聖な儀式の邪魔をされて、僕がどれだけブチ切れていたか! それどころじゃなかったんだよ!」


「そんなことのために…」

このひよこ、魔法少女の変身を見ることが怪人の退治よりも優先すべきことだと本気で思っている!

手段と目的がまるで逆!!

私は言葉を失った。


「そんなこととはなんだ!!」

フェニックスは怒りのあまり、その場でぴょんっと飛び跳ねた。

「大体君も君だ!! せっかくの初変身シーンだというのに、14歳少女の持つ煌びやかな躍動感を表現しきれていなかった! もっとこう、太ももをぐっと強調したり!」

彼は短い足でセクシーなポーズの見本を見せようとして、コテン、と見事に転がった。

しかし、すぐに起き上がると、何事もなかったかのように続ける。


「腕を高く上げて視聴者に脇をチラ見せしたり! サービス精神というものが全く足りてない!」

「わけのわからないこと言わないでください! 視聴者って誰なんですか!? それに脇って!!」


ハッとして、私は思わず自分の両脇をぎゅっと押さえた。

花も恥じらう14歳乙女の神秘の谷は、準備も無しに世にさらされる事などあってはならないのだ。


そんな少女の羞恥心などつゆ知らず、その仕草を見て、フェニックスは何かを思い出したようにポンと翼を打つ。

「そうそう! 肉体を再構築するついでに、ムダ毛の処理は完璧にやっておいてあげたよ! 安心して! デリケートなIラインは流石に手を付けておかなかったからね! でも、もし必要なら言ってくれれば…」


次の瞬間、フェニックスの言葉は物理的に途切れた。

ハッと彼が顔を上げた先には、顔をトマトのように真っ赤にして、大きく腕を振りかぶった私の姿があったからだ。


「――ッ!!」

ゴッ!! という鈍い轟音。


とっさに身をよじって振り下ろされる拳を避けた不謹慎ひよこ。

今まで彼がいた場所が、蜘蛛の巣状に砕け散り、衝撃波で粉塵が舞い上がる。

変身した私の力は、普段の何十倍にも跳ね上がっていたのだ。


「な、何をするんだ!? アルカナ・フレア! 気でも狂ったのか!?」

フェニックスはクレーターの縁から、信じられないものを見る目で私を見上げていた。


「何をする? じゃありません!」

私は腰に手を当て、仁王立ちで彼を睨みつける。

「どうりでお肌がつるつるしてると思いました! 何勝手に私の体をいじってるんですか!」


「え? 反脱毛主義だったの? 福利厚生の一つのつもりだったんだけど、それはすまなかった…」

フェニックスは心底意外だという顔で首を傾げ、小さな翼で頭をポリポリと掻く。

「だけど、大丈夫! もう一回その体をぼわっと燃やして再生すれば、毛根も元通り! ボーボー娘にもどれるよ! 一本行っとく?」


「やめてください! なんか元の私がムダ毛だらけだったみたいじゃないですか!! それに、再生が軽すぎます! 私の復活がマッチ一本みたいな感じで、なんか嫌です!」


私はもう怒る気力もなくなって、がっくりと肩を落とした。

私の人生最大の「死からの生還」という劇的なドラマが、話せば話すほど、剛毛に悩む14歳少女が脱毛エステにクレームを入れてるみたいな雰囲気になってしまう。

乙女の情緒もへったくれもあったもんじゃない。


「あぁ、それと、バトルドレスの着心地はどうだった?特に胸とかきつくなかった?データと実際の使用感は違うからね、やっぱり14歳少女の平均値にサイズアップしておこうか?」


「なん……だと!?」

平均値に…サイズ……アップ??


「なにせ、君は今、成長期真っ只中だからね!たとえ今が平均値を下回っていたとしても、油断なんかできないんだ!その『将来性に期待』の胸のラインも、平均よりちょっとだけ重い体重も、僕に任せてくれればミリ秒単位で調整しつづけ……」


「…………ちょっと待ってや!」

私は、フェニックスの言葉に含まれた「聞き捨てならない情報」に思考を止めた。

怒りよりも先に、もっと根源的な、ゾッとするような疑問が背筋を駆け上がる。


「おい!……ひよこ、今なんて言いました? 体重? 胸のライン? 将来性……?」

私の声から、スッと温度が消えた。

廃工場の冷たい空気が、さらに10度ほど下がったような気がする。

私はジト目を通り越して、もはや「獲物を屠る暗殺者」のような冷徹な視線を肩の上の塊へと向けた。


「ん?やっぱり胸がキツかった?――」

フェニックスは私の殺気に気づく様子もなく、首をコテンと傾げた。

まるで高級ブティックの仕立て屋が、客のフィッティングを心配するかのような、あまりにも純粋で、それゆえに救いようのない無神経な瞳で私を見返してくる。


「――いつ、どこで、誰の許可を得て、私のサイズなんて測ったんですかぁぁぁッ!!このセクハラひよこぉぉぉ!」


「ぎゃああッ!? な、なんだ、藪から棒に! 大丈夫だ、これはこの世界の法律ではまだ禁止されていない、極めてホワイトで合法的な手段でのデータ取得だよ! それにプロの仕事にセクハラとかいう言葉を持ち込むんじゃない! 他人に聞かれたら僕が変態だと誤解を生むじゃないか!」


ピキッ、と私の脳内で何かが完全に断絶した。

気がつけば、私は肩の上のひよこを鷲掴みにしていた。


「この変態ひよこッ! やっぱりここ最近の変な視線はお前だったか!!今すぐ、警備隊につきだしてやる!!」


「暴力反対! 僕は管理者だぞ! 離したまえ! あっ、こら!!僕の誇り高き黄金の飾りクレストを引っ張るんじゃない! 抜ける! 禿げちゃびんになっちゃうぅぅ!」


私はフェニックスの頭のてっぺんに生えた、ピンと跳ねたアホ毛のような飾り羽を指先で思い切り引っ張り上げた。


「うるさい! ハゲしちゃえ! このデリカシーゼロひよこ! 焼き鳥にしてパンに挟んでやるわよ!」


「痛い痛い痛い! 暴力少女! それが命の恩神に対する態度なのか?! それならこっちだって……くらえ、魔王の反撃ヘア・プッシュだ!」


フェニックスも負けじと、短い翼をバタつかせながら私の前髪をグイグイと押し返し、サイドの髪を小さなクチバシで全力で引っ張り始めた。


「いたたたた! ちょっと、髪の毛はダメだって言ってるでしょ! 女子の髪は命なの!」


「僕の羽だって命だ! 君のはどうせ魔法の力ですぐ生えるだろう! ほら、右のサイドテールが少し歪んでいるぞ、僕が直してあげよう(グイッ!)」


「直してない! 引っこ抜こうとしてるでしょ! この、口だけプロデューサー!」


「なんだと! この、ジャガイモパン娘!」


廃工場の静寂はどこへやら。

私たちは、お互いの髪と羽を掴み合ったまま、地面をごろごろとのたうち回り、大人げない罵倒を投げつけ合った。


……どれだけの時間を無駄にしたのだろうか。

私たちはお互い息を切らしながら地面に転がり、廃工場のボロボロの天井を見上げた。


「はぁ、はぁ、はぁ……ひよこの、ひよこのくせに、やるじゃない!」

「ハァ、ハァ、ハァ……まさか、僕がバトルドレスの出力を緊急停止させても、自前の歯で噛みついて来るとは思わなかったよ……。それでこそ、僕が認めた魔法少女だ……!」


どちらからともなく、ふっと笑いがこぼれる。

それが合図になったみたいに、私とフェニックスは堰を切ったように笑い出した。

さっきまでの怒りが、嘘みたいに消えていく。


笑い疲れて静かになった後、フェニックスが私を見上げて、少し照れくさそうに言った。

「…その、なんだ。魔法少女になってくれて、ありがとう」

「こちらこそ。私の命を救ってくれて、ありがとうございます」

私たちが交わした握手は、死の淵で結んだ最初の契約よりも、ずっと温かくて、確かなものに感じられた。


「ふぅ…じゃあ、帰りましょうか」

外はすっかり暗くなっていた。

お母さんとお父さんが心配しているに違いない。

急いで帰って安心させてあげないと。


「そうだね、初めての変身で僕の方もバトルドレスの調整やアップデートでヤルことが山盛りだよ」

フェニックスはヤレヤレといった顔でつぶやいてるけど、その姿はどこか楽しそうだ。


「ああそうだ。肝心な事を伝え忘れてた。変身解除は、首の変身デバイスに触れて『システム・オフ』と呟けばいいよ」

ひよこも私の状況を理解してくれているのか、すんなり元の私に戻る方法を教えてくれた。


私はネックレスにそっと触れて解除コードを口にする。

「システム・オフ」


その瞬間、アルカナ・フレアの衣装が光の粒子へと変換され空気に溶けるように消えていった。

肌にひんやりとした工場の空気が触れる。

これでいつものワンピース姿に…戻ってるはずだった。


「…………え?」

光が完全に消えた後、私は自分の体を見下ろして固まった。


服がない。

一枚も。


そこにあるのは、無数の傷跡が刻まれたコンクリートの床と、生まれたままの姿の私だけ。


「なっ、ななな、なんで!? 服は!?」

悲鳴と共に、私は慌てて物陰に駆け込んで首だけ出して問いただす!


「なるほど。どうやら変身した時、君は蘇生直後で裸だったからね。戦闘礼装を構成する第零元素が、君の衣服の情報を読み込めなかったらしい。まあ、初陣ではよくあるトラブルだ。ふむふむ、良いデータが取れた」


「よくあるトラブルで済まさないでください! このままだと、私、裸で家に帰ることになるんですけど!?」

パニックになる私をよそに、フェニックスは「安心しろ」と胸を張り、どこからか取り出したとっておきのガジェットを天に突き出すように掲げた。

「光学迷彩ネックレス! これぞ僕が開発したフェニックス印のガジェットの一つ! 半径1メートル以内を周囲の景色に同化させ、光学的に観測不能にする優れものだよ!」


透明マントみたいな物かな?

凄い! 王様くらいしか持ってない魔道具じゃん!!


でも、そうじゃないよ!

私は慌てて確認する。

「え? もしかして透明になって裸で家まで帰れってことですか? ここから1キロ以上あるんですけど…」


「アルカナ・フレアに変身してから戻っても良いけど、君の復活で僕の力をほとんど使ってしまったからね。次に変身できるのは、早くても明日の朝くらいになるよ」

私の蘇生のため、と言われると反論しづらい。

でも、私、花も恥じらう14歳の女の子なんです。

いくら見えないからって、実質裸で外を歩くなんて絶対嫌!!


でも、このままココにいても…。


明日の朝。

その言葉が、私の覚悟を決めさせた。

お父さんとお母さんを心配させるわけにはいかない。

やってやろうじゃない、女は度胸!

私はネックレスを受け取るために、力強く一歩を踏み出した。


「いっ…たぁっ!?」

足の裏を刺す鋭い痛み。小石でも踏んだらしい。

慌てて足裏を確認すると赤くなっている。

ガラスじゃなくて本当に良かった。


「だ、ダメです! 裸足じゃ痛くて歩けません!」

「我慢だ、リーナ! これも偉大な魔法少女になる為の試練の一つだ!」

「これが試練なら、魔法少女やめます!」


涙目で抗議する私を見て、フェニックスは「やれやれ」と芝居がかったため息をついた。

「…仕方ないな。待ってて、サンダルを作ってあげる」

彼はそう言うと、工場の床に転がっていた木片をクチバシにくわえ、おもむろに何もない空間から取り出した糸鋸を器用にぴよぴよした小さな翼に固定して、私の足のサイズに合わせて切り始めた。


ギッコギッコと、木材を裁断する乾いた音が響く。

「え、どうやって糸鋸をつかんでるの…?」

「防御用の結界の応用だよ。いずれ君も、結界を変質させてマジックハンドのように使えるようになるよ」

ひよこは私の質問に答えながらも、妙に慣れた手つき(羽つき?)で、今度は落ちていた紐で鼻緒を作っていく。

数分後、そこには一足の、不格好だけど丈夫そうなサンダルが出来上がっていた。


「ほら、出来た。あと、これで体を隠してくれ。今の君は過剰サービスが過ぎる」

差し出されたサンダルとお盆に、私は何とも言えないやるせなさを感じる。


本当に?

本当に私は、このお盆とサンダルで、あの街を抜けて家に帰るの?

光学迷彩が途中で切れたら、私の人生終わっちゃうよ。

それは、怪人と戦うよりも困難な戦いの始まりだった。



Liner Notes

■Track 010

【分類 / Category】

 [[1]:アイテム紹介] > [[15]:一般器具・生活用品]


【日本語名称 / English Name】

 フェニックスお手製サンダル / Phoenix Craft Sandals

 (ブランド銘:Phoenix Craft)


【概要 / Overview】

 意外と器用なフェニックスが、その場の材料(廃材)でリーナの為に作ったサンダル。

 実は目立たないところに、『Phoenix Craft』のPとCが組み合わさったモノグラムが、フェニックスの魔力で焼きつけられている。

 こう見えてフェニックスは工作が得意で、魔界では城に籠って色々なガジェットを作ったり、日曜大工で棚とか作ったりしている。

 部下には意外と好評で、隙あらばフェニックスの寝首を掻くのが趣味の武闘派な大悪魔たちですら、彼から棚などをもらうとニコニコ顔で帰っていくらしい。


【特記事項 / Secret Note】

・ゼロからのスタート

 裸一貫で来たフェニックスは、現地の大工道具を少しずつ集めている最中である。現在フェニックスの異空間収納(亜空間ポケット)には一般家庭のDIY道具くらいの道具が収められている。


・収納の現状

 なお、現在のフェニックスの収納能力は弱体化の影響により、地球のみかん段ボール約3箱分程度にまで縮小されている 。



Tags: #DIY魔王 #光学迷彩帰宅 #福利厚生(脱毛) #Phoenix Craft #今はまだ合法な計測方法


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