001:魔王はムキムキがお気に召さない。
001:魔王はムキムキがお気に召さない。
SIDE フェニックス
僕の名前はフェニックス。
ソロモン72柱の悪魔の一柱にして、序列37位の地獄の大いなる侯爵。
20の悪魔の軍団を率いる、とても偉大な魔王なんだ。
かつては楽園と呼ばれる世界でブイブイ言わせていたんだけど、色々やらかして1200年の締め出しをくらっちゃった。
暇だから追放先の魔界でまたブイブイ言わしてたら、いつの間にか周りから「魔王」として崇められちゃったわけ。
え?
君が知っているフェニックスと違うって?
君が知っているフェニックスは、僕みたいな人間の子供の姿じゃなくって、火の鳥の姿をしてるって?
あぁ、あっちの姿の方が有名だもんね。
もちろんあっちの姿にもなれるよ、機会があったら見せてあげよう。
不死鳥のフェニックスと同一個体かって?
うーん、違うようなそうじゃないようなー。
そこらへんは、想像にお任せするよ。
まぁ、そんな些細な事は置いといて。
最近の僕のマイブームを聞いてくれ。
それは、アニメ!
特に魔法少女系の物が好みなんだ!
地球というところに派遣している僕の分霊の一つが、定期的に送ってくるデータの中にある作品なんだけど……
魔法少女は良いよね。
か弱き少女が勇気を振り絞り、愛するもののために戦う!
それだけじゃない!
あの緻密に計算された様式美こそが至高なんだ!
まず、変身バンク!
あれはただの着替えじゃない。決意の表明であり、視聴者へのサービスであり、そして何より神聖な儀式だ!
BGMの入り方、アイテムの輝き、決め台詞!
尺は90秒が黄金比だ!
そしてコスチューム!
これもまた芸術だ!
決してエロい目で見ているわけじゃないぞ、断じて違う!
だが、少女の持つ神秘的な魅力を最大限に引き出すためには、デザインのギリギリを攻める必要がある!
大きいお友達と小さいお友達、その両方を満足させる、この絶妙で際どいライン!
決してエロ目的じゃないが、戦闘で躍動するしなやかな太もも!
変身ポーズで強調される美しい二の腕! 素晴らしいじゃないか!
決して! エロ目的じゃないけどな!
そして、仲間との関係性!
最初は反発しあっていた二人が、互いの弱さを知り、背中を預けるようになる!
友情パワーで放つ合体技のなんと美しいことか!
忘れてはならないのが、敵幹部の存在だ。
ただの悪役じゃない。
彼らにもまた、悲しい過去や、歪んだ正義がある。
倒すべき敵でありながら、どこか同情を誘う……この深みが物語を重層的にする!
そしてクライマックス!
絶望の淵に立たされた主人公が、仲間や守りたい人々の想いを力に変え、最終形態へと覚醒する!
コスチュームはより神々しく、翼なんか生えちゃったりして!
そこで流れるBGM!
彼女たちが目の前の強大な敵に立ち向かう時、それまで毎回聞いていたアニメのオープニングソングが流れてきて魂が震える……あの感覚を味わったことがあるかい!?
主人公たちだけが戦ってきたんじゃなかったんだ!
これまでアニメを見ていた僕たちも実は彼女たちと共に戦っていたんだと感じさせてくれるあの演出!!
鳥肌ものだ!
ああ、語り始めたら止まらない!
とにかく、完璧なんだ!
んで、見ていたら自分でも魔法少女をプロデュースしたくなってきちゃった。
こう見えて僕は偉大な魔王!
僕の権力を使えば、魔法少女なんてダース単位で量産できる!
ガハハ、魔法少女パラダイスやぁぁぁ!!
――と、思っていた時期が僕にもありました。
そう、計画は第一段階でつまずいてしまったんだ。
僕が支配するこの魔界は、全体的にケモケモしすぎて僕が求める魔法少女とは方向性が違ったんだ。
魔法少女と言えば、可憐さと、しなやかな脚線美!
特に太ももだ!
これは譲れない!
しかし、周りを見渡しても、どこもかしこもモフモフやムキムキした獣ばっかり。
人型が見当たらない。
『可憐な少女? あぁ、美味しかったであります!!』ってやつらばっかりだ『畜生』!!
でも僕は諦めなかった!
一度試しに、僕の軍団にいる虎型の女悪魔に頼み込み、人型になってもらって、特注のフリフリ衣装を着てもらったことがある。
だが、結果は惨憺たるものだった。
彼女の鍛え上げられた筋肉は岩のように隆起し、せっかくの繊細なレースやリボンが筋肉の溝に埋もれてしまっていたんだ。
見てるこっちがいたたまれなくなり、涙で視界がぼやけて見えた。
おかしい!
普通、虎耳の美少女がフリフリ衣装を着ると「萌え萌えキュン」になるはずなのに、内側からあふれる筋肉圧で、どう頑張っても「ムキムキギュム」にしかならない。
僕が求めていたのは、触れれば指が沈み込むようなマシュマロのような二の腕なんだ!
なのに目の前にあるのはミミズが這ったような青黒い血管がバキバキに浮き出た力こぶ!
まさに今噴火しようとしているデビルマウンテンの迫力だ!
太ももに至っては、なんというか筋肉のキレが凄すぎて、ご神木みたいな威圧感を放っている、しめ縄を巻いて拝みたくなるありがたさだ!
絶対領域の神秘性をそっちで表現してくるとは思わなかった、そうかぁそう来たかぁ。
試しに、マジカルステッキを握ってもらったけど、その可憐なハートの意匠が施された杖は、彼女の剛腕の中では爪楊枝のように見えた。
そして、お約束の呪文を唱えてもらったところ、杖の先端から放たれたのはキラキラした星屑ではなく、物理的な質量を持ったごんぶとの破壊光線だった。
おかげで僕の城の壁に大きな風穴が空いた。
違う、そうじゃない! そうじゃないんだ!!
基本、僕の支配する魔界は「力こそ正義」で、住人の悪魔達はみんなゴリゴリのパワータイプなんだよね。
たしかに、軍団を指揮する大悪魔と呼ばれている連中の中には、ムキムキじゃない奴もいるにはいる。
だけど、そういう奴らは大抵、隙あらば僕の寝首をかこうとする焼き鳥マニア(僕を焼いて食おうとする奴ら)ばっかりだからね。
むしろ、そいつらこそ魔法少女が倒すべき敵のボスみたいなやつらだ。
この前なんて、部下の大悪魔の一人が「日頃の疲れを癒やしてください」って珍しく特製の露天風呂を用意してくれたことがあったんだよ。
お湯加減も最高だし、浮かんでいるハーブの香りもいい。
「なんて忠誠心だ! この前まで出会い頭にプラズマ破壊光線を吐いてきていた空気読めない系悪魔だったのに、ようやく僕の偉大さをわかってくれたんだ!!」と感動していたら、実はそのハーブ、ネギと生姜だったんだ。
いやいやいや、気のせいに違いない!
僕の分霊が住んでる異世界では、柚子という柑橘類をお風呂に入れる風習があるって言ってた!
これは薬湯って奴なんだ、きっとそうに違いない。
ネギのアリシンは疲労回復に効くし、生姜は発汗作用があるからね。
背中にゴロゴロ当たる丸い物体も、最初はマッサージボールかと思ったんだ。
手にとって見たら、丁寧に面取りされたジャガイモだったけど。
でも待て、ジャガイモのビタミンCは美肌にいいはずだ。
これは最新のオーガニック・スキンケアだ。
そう、彼らは僕の美貌を気遣ってくれているんだ!
そう自分に言い聞かせて、僕は漂ってくる「美味しそうな匂い」を必死に無視して肩まで浸かったよ。
決定的だったのは、足の裏に何か触れたから拾い上げてみたら、湯船の底から『コンソメの塊』が出てきたことだ!
「……出汁とられてるゥゥゥッ!!」
即、飛び出したね!
危うく「魔王のポトフ」になるところだった!
僕の周りはこんな奴らばっかりなんだ!
『ド畜生ども』め!!
そんなわけで、僕の魔法少女プロデュース欲は、行き場を失ったまま日に日に募っていったんだ。
そんな僕にある日、転機が訪れた。
僕の玉座の前に、音もなく一枚の黒曜石の板が現れたんだ。
寸分の狂いもなく磨き上げられたその表面に、静かに銀色の魔術文字が浮かび上がる。
『君の退屈を持て余しているなら、我が城で一献どうだろうか。面白い余興もある』
……ザガンだ。
彼も僕と同じ、ソロモン72柱の悪魔の一柱。
序列61位の地獄の大いなる王であり偉大な総裁。
36の悪魔の軍団を率いてる、僕の魔界とは別の魔界の魔王。
……いや、まあ、腐れ縁の古い友達なんだけどね。
僕とは正反対の男なんだ。
静かで、理知的で、何よりも美と完璧さを愛するコレクター。
いつも集めた珍品奇品を前にしてそれを肴に酒を嗜むような魔王。
アニメとか絶対見ないタイプなんだけど、なぜだか腐れ縁が続くんだよね。
だが、面白い。
彼が「余興」などという言葉を使うのは本当に珍しい。
数世紀に一度あるかないかのレアイベントの発生だ。
もちろん僕は招待に応じることにした。
■Track 01:
【分類】
[[2]:登場人物紹介] > [[21]:魔法少女・関係者]
【日本語名称 / English Name】
フェニックス / Phenex
【概要 / Overview】
ソロモン72柱・序列37位に名を連ねる地獄の大いなる侯爵。
現在は魔法少女の導き手として現世に顕現しているが、その本性は強大な権能を持つ高位の魔神である。
【特性・スペック / Properties & Data】
・三形態の変身能力:
本来の姿である「火の鳥」、地上活動用の「人間の子供」、そして現在は魔力を節約するための「マスコット(ひよこ型)」の姿を使い分ける。
・不滅の再生炎(Rebirth from Ashes):
いかなる物理・魔法的ダメージを受けても、炎と共に蘇る絶対的な不死性。
・万象の科学と詩(Science & Poetry):
あらゆる科学知識と芸術的才能を司る権能。人間に英知を授ける本来の能力であり、魔法デバイスの調整などにも応用されている。
・魅了の歌声(Siren Voice):
聞く者を陶酔させ、意志を挫くほどに美しい歌声。
【特記事項 / Secret Note】
元は「楽園」の住人であったが、不敬の罪により1200年間の追放処分を受け未開の魔界へと放逐された。
本人は「暇つぶしに暴れていたら勝手に魔王として崇められるようになった」と語っており、その尊大かつマイペースな性格は、長すぎる隠居生活(?)の賜物と言える。




