バブみバグり2
ー病院のベッドに寝るママ、隣には小さい子を抱いているパパがいた。
ママ∶(М)*颯輝が産まれてきてくれて早2年、颯輝もすくすく育ってくれている。特にイタズラをするとか言うことを聞かないということは無いのだけれど、どういうわけか名前を呼んでも返事をしてくれない。反抗期なのかしら?
パパ∶ママ、大丈夫?気分はどう?
ママ∶ありがとうアナタ。2人目だからか颯輝のときよりは落ち着いてるわ。
パパ∶颯輝も応援してくれてるからね、ママ頑張れーって。
ママ∶ありがとう颯輝、ママ頑張るからね。もうすぐ颯輝もお兄ちゃんになるんだよー。
パパ∶体力使うからね、まだ予定時間まで余裕あるし少し眠っておいたらどうだい?僕と颯輝はここにいるから。
ママ∶ええ、ありがとう。それじゃあお言葉に甘えて少し休ませてもらうわね。
パパ∶うん、おやすみ、ママ。ほら、颯輝もママにおやすみは?
ー
田吾作∶約束が違いやすぜお母さん!!
ママ∶ひぃっ!?
田吾作∶どういうことです、お母さん!
ママ∶なにっ?なにっ!?何がいったいどういうことなの!?
田吾作∶自分あんなにお願いしたじゃねえですか!自分には田吾作と名付けてくだせえって。
ママ∶たっ、たご…さく…?…田吾作?アナタ田吾作なの?
田吾作∶へい、ご無沙汰しておりやす、お母さん。あ、いや、毎日顔を合わせちゃいるんですが…颯輝として。
ママ∶えーと…颯輝…なの?
田吾作∶へい。
ママ∶でも…田吾作なのよね?
田吾作∶へい。
ママ∶夢…なのよね?
田吾作∶夢と言われれば夢かもしれやせんが、ちょっと違いやす。実はご相談がありやして…
ママ∶相談?
田吾作∶お母さん…タイムリープってご存知ですか?
ママ∶ちょっと待って、何かすっごく嫌な予感がするわ、聞きたくないっ!
田吾作∶ですがお母さん、今は可及的速やかに解決しなきゃなんねぇヤマがあるんです。
ママ∶なっ…なによ?
田吾作∶お母さん…どうして自分に田吾作と名付けてくださらなかったんですか?
ママ∶だって、産まれてきたアナタを見たら可愛くて仕方なかったんだもの!絶対イケメンに育つに違いないって確信したんだもの!
田吾作∶だからなんべんも違いやすっ!って腹蹴ったじゃないですか。ちょっとずつ頭出て来たら、もう早速お父さんが「頑張れ颯輝!」とか言ってるもんだから自分引っ込んでやろうかと思って滅茶苦茶抵抗しやした。
ママ∶何か途中からやけに出てこないと思ったらそういうことだったのね…
田吾作∶へい、おもいっきり右足引っ掛けてやりやした。
ママ∶なんてことするのよ!ママ余りの痛さに(なんか好きな食べ物の名前)!!って叫んじゃったじゃない!
田吾作∶助産師さんがた爆笑してましたね。
ママ∶ママすっごい恥ずかしかったんだからね!
田吾作∶そんなことより、お母さん!
ママ∶そんなことって何よ!
田吾作∶妹の人生がかかってるんです!
ママ∶!?
田吾作∶このままだと、大変なことが起こっちまいやす、一大事なんです。
ママ∶アナタの妹…?ジョセフィーヌ…ジョセフィーヌ三世に何か起きるの!?
田吾作∶それです!!
ママ∶え?
田吾作∶なんですかジョセフィーヌ三世って!
ママ∶だって、颯輝があんまりにも可愛いから、同じ血を引いてる女の子なんだからとびきりの美人になるに決まってるわ!
田吾作∶(食い気味に)グレます!
ママ∶え?
田吾作∶ジョセフィーヌ三世はグレます!というかもう既にグレてます!
ママ∶ど…どういうことよ?
田吾作∶お母さん、今回の妊娠期間いかがでしたか?
ママ∶いかがでしたかって…まあ、颯輝で1回経験してるから落ち着いて過ごせていたと思うけど…
田吾作∶大変なことは無かったですか?
ママ∶そりゃあ決してラクなものでは無かったけど…あ、そうそう、大変だったことといえば、直せど直せど逆子になっちゃって…それは大変だったわ…
田吾作∶それが、ジョセフィーヌ三世のグレです。
ママ∶わかりにくい!
田吾作∶既に命名されちまった自分はもう半分諦めてます…必死の抵抗で名前呼ばれても絶対返事しねえって反抗期決め込んでやすが…
ママ∶全然返事しないと思ったら…
田吾作∶とにかく、今回自分がこうしてお母さんの前に現れたのはジョセフィーヌ三世のSOSなんです。
ママ∶どういうことなの?
田吾作∶先ほど、タイムリープってご存知ですか?とお聞きしたじゃねえですか…このままだと、タイムリープしちまうんです。
ママ∶タイムリープって…あれよね、なんか時間巻き戻してもう一度やり直さなきゃいけなくなるやつ…
田吾作∶へい。
ママ∶なんでそんなことになるの?
田吾作∶ジョセフィーヌ三世が、なんべん逆子になって抗議してもお父さんもお母さんも気付いてくれねぇって、自分に助けを求めてきやして…
ママ∶我が子ながらアナタ達兄妹何者なの?
田吾作∶このまま産まれてジョセフィーヌ三世なんて名付けられるくらいならタイムリープ起こしてやるって聞かねえんです。
ママ∶えっ…私何回も出産やりなおさなきゃいけないの…?
田吾作∶それで、そもそもの原因が、お兄ちゃんがちゃんと田吾作って名付けられなかったからだ!と八つ当たりされてるんです。
ママ∶だって、あんなに可愛いのに田吾作って…
田吾作∶颯輝なんて前例があるからパパもママも調子乗ってるんだ!ってお兄ちゃんが悪いんだっ!って、ここんとこ四六時中大騒ぎされてまして、自分も参ってるんです…
ママ∶最近になって急に夜泣きが酷くなったのにはそんな理由が…なんかごめんね…。というか生前の娘に調子乗ってるって言われてるの私?泣いちゃうかも…
田吾作∶なのでどうにかお父さんを説得して考え直してくだせえ、自分もこれから颯輝って呼ばれても3回に1回は返事しやすから!
ママ∶毎回返事はしてほしいけど…わかったわ、そんなに言うならパパと相談してみ…痛っ!!
田吾作∶お母さん!?どうかしやしたかっ…まさか、ちくしょう!もう陣痛が始まっちまったか…
ママ∶裂けそうっ、鼻からスイカってこういうことなのねっ!
田吾作∶お母さん!落ち着いてくだせえ!母乳をっ!母乳をくりゃしゃんせ!
ママ∶あなたこそ落ち着いて!今はそのパートじゃないわ!
田吾作∶ちくしょう!バブミが、バグってやがるっ!!
ママ∶あーっ!!バブみバグりバブみバグりバブみ…ってそれどころじゃないわっ!痛いっ!
田吾作∶お母さん!とにかくお父さんを説得するんです!そうじゃねえとタイムリープが起きちまいやす!頼みます!(何としてもそれだけは阻止してくだせぇ!)
※()内でフェードアウトしていく。
ママ∶待って、田吾作!行かないで田吾作っ!!
ー
ママ∶田吾作!!
パパ∶えっ!?たっ、たごさく?
ママ∶アナタッ!田吾作がバブみで、バグった田吾作が!!
パパ∶一体何の話をしているんだい?もうすぐ予定時間だから緊張してるのかい?
ママ∶…えっ?…夢…だったの?じゃあ田吾作は?
パパ∶さっきから何だい、その、たごさく?ってのは。もうすぐ会えるんだよ、颯輝に。
ママ∶…タイムリープ…してやがる…。
おしまい