一小節目 本拠地の崩壊
ここは、とある古びたレコード店。
今は音楽紹介ラジオ〈ヴィヴァーチェ〉の雪国支部として知られている。
――だが、その実態は世界的ヴィラン狂奏衆偽の氷雪国支部。
本部から放送される暗号を受け取り、地区の管理と他団体への攻撃を担う拠点である。
その放送を待っていたのは氷雪国の管轄支部長――モノク・アマネ。
雪に溶け込むような白髪を床まで垂らし、左耳の下で小さなお団子に結い、氷を宿したような青い瞳を持つ。
中性的な顔立ちの彼女は、無言で紅茶を口にしながら、定刻通りにラジオをつけた。
だが__
「ジ……ジジジ……」
響いたのはノイズだけだった。
(……放送が途絶えた?)
考え込むより早く、廊下を駆ける足音が近づき、ドアが叩かれる。
[コンコン]
「失礼します。クレイ=シュバリエです。急ぎの件なのですが」
「入って」
[ガチャ]
現れたのは、赤黒い髪を低く結び、灰がかった水色の瞳を持つ女性。
忠実な番犬のような気配を漂わせるクレイ=シュバリエは、一通の手紙を差し出した。
「差出人は西洋支部みたいだね」
封を開き、目を走らせるモノク
丁寧に過ぎる社交辞令が並び、文面の奥からは刺のような不快さが滲む。
(……やはり、あの連中らしい)
〈現本社が崩壊した。次の本社を決めるため、第三日曜日に会合を開く〉
「会合があと……三日後らしい」
「なっ……!?」
クレイの表情が固まる。
しかも、この手紙がここへ届くまでにかかったのは__七日だ
「急がくちゃ……クレイ、残りの二人を呼んできて」
「……承知しました」
クレイが去り、静寂が戻る。
アマネはもう一度手紙を見下ろし、冷えた瞳を細めた。
(これは厳しいことになりそうだ)
[コンコン]
「失礼します」
「どうぞ」
扉が開き、二人が姿を見せる。
短いクリーム色のツインテールを揺らす幼げな少女__社城ひらり。
そして、赤い目に橙の外ハネボブをした、口に飴をくわえたフィナ・グレイス・オリヴィエ。
「状況は伝わっていると思うけど」
「はい。三日後の会合に、私たちも同行すればよいのですね」
「フッ……当然だろ」
ひらりは無垢な笑みを浮かべ、フィナは挑むように口角を上げた。
雪国支部の四人が揃い、静かな空気が張り詰める。
――氷雪の旋律が、いま動き出す。