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蔵旅歯車 七話

ーシステム起動ー

ー制御システムー

ー正常ー

ーコアシステムー

ー再起動……成功ー

 無事に船を直すことができた。あの原生生物に、また止められないように今度は、太陽が沈んでから取りに来た。

 本当に不思議なものだ。まさか、この鉱石があんな現象を起こすなんて……時空を歪めて、過去に行けるとは、帰ったら報告しなくては。

 だが、もしかしたら、時間を巻き戻す技術より、このビスケットの方が称えられるかもしれない。

 このサクサク触感に、ほのかに香る甘味、我々の口にもあって素晴らしい。

 帰ってやりたいことが多いのはうれしい悩みだ。

 さて、見つからないうちに出発してしまおう……

 二人と別れて蔵に入った僕は、月明かりを頼りに、歯車を元の位置に戻した。

 すると、巨大時計は、息を吹き返した様にゆっくりと回り出していった。

 その後の記憶は、曖昧でよく覚えていない。ただ、目を覚ました時には、涼しい蔵の中で、蝉の声をテナガザルと聞いていたのを覚えている。

 僕が起き上がると、テナガザルも起きた。

 奴は、何か目的があったのか、それとも、ただ、驚いたのか、そそくさと外に出てどこかに行ってしまった。

 蔵の外には、大きく育った柿の木の葉が、風に揺らいでいた。

 帰って来れた……のだろうか?

 あまり実感がない。

 外に出て、辺りを見渡すとうちの車が止まっていた。そこでようやく、元の時間軸に戻って来られたのだと、胸に溜まっていた何かが溢れ出す。

「ただいま」

 僕は、何食わぬ顔で、お爺ちゃん家に上がった。もう、野菜を投げられる事はない。

 キッチンに向かうと誰もいなく。素麺の残りがラップで包まれていた。

 キッチンから広間の方を見るとお母さんが、大の字に寝ていた。

 うちは、マンションだからあんな風に寝られないけど、ここならいい夢を見れそうだ。

 なんて、思いながら、眠っているお母さんの横を通り過ぎる。

 ゆっくりと廊下を歩いて部屋の前に立つと襖を開いた。

 開けた瞬間、冷たい空気が溢れ出す。

 中には、安楽椅子に座ったお婆ちゃんがいた。

 お婆ちゃんは、僕に気づいて、こっちを向いている。

 僕は中に入っていくとお婆ちゃんが一言。

「計壱、久しぶり」

 僕は、そこまで驚かなかった。

 とっくに気づいていたのかもしれない。

 でも、確信はなかった。だって、そうだろ? 基本的に家族を名前で呼ぶ事なんてあまりないましてや、お祖父ちゃんやお祖母ちゃんに対しては、だから、分からなかった。

 僕は、微笑みながら歩み寄った。

「久しぶり、茜」

 過去であった茜がまさか、自分のお祖母ちゃんだったなんて、思いもしなかった。

 気がついたのは、蔵の中に入る前だった。もしかしたら、その前から感じていたのかもしれない。

 お祖母ちゃんになった茜は、グレーの髪に混じって真っ白な白髪が何本も生えていた。

 しわくちゃな顔は、お祖父ちゃんとたくさん笑った証拠だ。

 それにしても、僕は、お祖母ちゃん……茜とこれから接したら良いのだろうか?

 彼女の顔を見て僕は、先の事を考えてしまった。

 茜は、僕の方をしばらく見てから、クスリと笑った。

「計壱は、ちっとも、変わってないべ。宇宙人は、歳を取らないのか?」

 その言葉に僕は肩をすくめて答える。

「僕は、もともとこの時代の人間なんだよ」

「そうだったのか? それじゃあ、ちっとも、ウチらに顔を出さないわけだ」

 苦笑いを浮かべながら、目を逸らす。申し訳なさが僕の心に刺さた。

「計太郎が、いつも、計壱に会いたがっていたよ」

「計太郎が?」

 聞き返すと茜は、そうだよ、そうだよ、と頷く。

「計壱が、居なくなってから、計太郎は、時計の勉強を始めんだべ。作った時計がお偉いさん方に気に入られ、今じゃ、日本一の時計職人なんだよ」

「うん、知ってる。僕の誇りだ」

「そうだ、計壱。計壱が、帰って来たら渡そうと思ってた物があるの。ウチは、もう歳で届かないんだべ。代わりに取って来てくれ」

 茜は、お祖父ちゃんの仏壇がある部屋を指差した。

「向かいの部屋に、仏壇があるんだ。その上に箱が置いてあるんだべ。それを計壱に渡したいんだ」

 話し終えた茜に頷いてから、僕は向かった。

 部屋を出て、廊下を跨いで、また、部屋に入った。

 仏壇の上の方に確かに箱が置いてあった。今朝、ここに来た時気になったヤツだ。

 ほこりの積もった蓋をゆっくりと退ける。

 そこに入っていたのは、赤い金魚が描かれた腕時計だった。

 腕時計を見た瞬間、僕は、目を見開いてしまった。

 お祖父ちゃんからもらった、あの金魚が描かれた腕時計、そのままだった。

 いや、お祖父ちゃんの作品なのだから、そうなのだけれども、ただ、同じ作品を使っていたなんて、思いもしなかった。

 僕は、恐る恐る横のつまみを回す。

 十回くらい回すカチカチカチと秒針が動き始める。まるで、心臓が脈打つ様に時計が時を刻み始めた。

「……」

 時計を手に取って見ていると茜の声が聞こえてくる。

「これはね、計太郎が計壱の為に作った時計だよ。でもね、それは二つ目で、最初に用意したのは、孫のケイイチが欲しがってあげちゃったんだべ。だから、その後に計太郎はもう一度作り直したんだ。そう言えば……計太郎の事を名前で呼ぶのは、久しぶりだべ……嫁に入ってからは、ずっと貴方で、娘が産まれてからは、お父さん呼びに変えて、孫のケイイチが生まれてからは、お爺さん呼びに変わったんだ。だから、ほんとうに……」

 ふと、声が途切れて、僕は顔を上げる。

 心配になって、姿勢を倒しながら、茜の部屋を覗き込んだ。

 茜は、安楽椅子に寄り掛かりながらクークーと寝息を立てていた。

 今、一人になった家の中で、僕は、小さな不安を感じた。

 もし、茜が目覚めた時、自分はどちらとして接すれば良いのだろうか、宇宙人としての計壱で接する事になれば、孫としての自分は消えてしまうのだろうか?

 そんな風に考えているとカチカチカチと秒針を刻む音が聞こえて来た。

 見ると、手に持っていた腕時計はまだ、時を刻んでいる。

 僕は、そっと耳に当てて、秒針の刻む音に耳をすませてみた。

 早く鳴り響く音なのに、心地よく感じる時計の音に僕は次第に安心感を覚えて些細な不安を忘れてしまった。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

「蔵旅歯車」はこれで完結です。

読んでいただき本当にありがとうございます。

 この作品は、以前話した通り、友人に決めてもらったお題で書いたものです。

七個出たキーワードのうち、何個か使うだけでよかったみたいなんですけど、全部使っちゃいました。

物語としては、一日なんですけど、こっちは、ほぼ一か月の長旅でした。

なかなか、素敵な旅をしたと思ってます。

 同じことを言ってしまいますが、今作「蔵旅歯車」を読んでくださりありがとうございます。楽しんで読んでもらえていれば、すごく嬉しいです。

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