蔵旅歯車 六話
蔵に着いた僕は、茜からビスケットをもらってテナガザルを肩に乗せた。
正直、暴れ出さないか不安だった。
でも、案外、食べている時は、おとなし。
茜と計太郎は、並んで僕の前に立っていた。
「無事に治るといいな、手首、まだ痛むか?」
「大丈夫だよ。時計が壊れちゃったのは、残念だったけど……手首は大丈夫」
俯く僕の顔を見て、茜は、計太郎を睨んだ。
計太郎は、目を逸らしたが、やがて、ため息に似た、声を出して謝ってくれた。
「あー! 悪かった。あの時は、本当にお前が悪い奴だと思ったんだ……もし、」計太郎は、言葉を続ける。「もし、また、お前がこっちに来る時があったら、それまでに! お前が付けていた腕時計を作り直してやる!」
その言葉に、ハッとなった。
お爺ちゃんが時計を作り始めたきっかけってこれだったんだ……
僕は、俯きながら微笑む。
「うん、楽しみにしているよ」
僕は、一息、置いてから、二人に背を向けた。
後ろを軽く見ながら、またねと呟く。
二人も、またねと返してくれた。
僕はテナガザルを連れて、ゆっくりと暗い蔵の中へと入って行った。
それと同時に扉が閉まっていく音が聞こえる。
これはまるで、異界に連れて行かれる気分だな。と思ったが、不思議と怖くはなかった。
扉が閉まる。
蔵の前で立つ二人は、しばらく、そのままだった。
静かさに耐えかねた茜が計太郎の方を見て聞いた。
「計太郎、時計作った事あるの?」
「ない」
堂々と答える。
「これから学ぶんだよ!」
「そっか、手伝うべ」
そう言いながら、茜は、計太郎の肩に寄り添った。
茜にとって長い一日で、彼女は、立ったまま計太郎に寄りかかり目を閉じて休んでしまった。
子供ながらに鍛えられた計太郎の体は、とても、安心できて彼女は今にも眠ってしまいそうだった。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
今回は、前書きのテナガザルのシーンはなしです。ずっとビスケットを食べてました。
テナガザルを宇宙人にしたかというと、思い出補正です。
自分でも雑だなと思いました……いつもの事なんですけどね。
次回、蔵旅歯車、最終回です。読んでいただけると嬉しいです。