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蔵旅歯車 四話

 暑さが和らぐと思って、日が沈むのを待ったのだが意味がなかった。

 未だに暑い。どうなっているのだ? この星は!

 歯車についた鉱石を取るには、やはり、道具が必要なのだが、それは船にしかない。

 どうしたものか……何か聞こえるぞ?

 


 これは? 原生生物が、何かしているぞ。

 あれは儀式をしているのだろうか? 故郷に先祖をたたえるものがある。もしかしたら、それに似ているもかもしれない。

 他にもあるな。

 あれは、なんだ? 物を受け取って、それを食べている。

 あれはこの星の食べ物か?

 ……いかん、見入ってしまった。

 あまり、ここにいては、誰かに見つかる。早いところ隠れよう。

 日が傾き、カラスの声が聞こえ始めた時、蝉の声が昼に比べて静かだと思っていた僕は、何もない右手首を覆う様に握っていた。

 そこにカラン、コロン、カラン、コロンとゲタの音が聞こえてくる。

 僕は茜からもらった帽子を深く被って過ぎ去ってくれる事を願った。しかし、ゲタの音は、だんだん近づき、僕の前で音が止んだ。

 恐る恐る顔を上げるとそこにいたのは、茜だった。

「お待たせ、抑える物、持ってきたべ」

 僕は、目を見開く。

 茜は、先ほどのワンピース姿ではなく。涼しい水色と金魚の刺繍が入った着物を着ていた。

 口をぽっかりと開けて眺めていると、茜が恥ずかしそうに顔を赤くして、髪を耳にかける。

「着替えてて、遅くなっちゃった」

「でも、何で?」

「耳を澄ましてごらん。聞こえるだろ?」

 僕は、言われてすぐに耳を澄ます。

 微かだが、笛の音が聞こえてくる。耳を傾けていると他の音も聞こえてくた。

「笛に太鼓、それに何だっけ? あのカラカラと皿を鳴らす楽器?」

「スリ鉦の事か?」

「そう! 多分そう!」

 僕は、名前にピンときてないが、指を刺して頷いた。

 その時、誤って右手を使ってしまい。痛みが手首に走った。

「ッツ!」

「あーダメだべ。そんな、振り回したら。今、固定するから、手出して」

 茜は、かがみ込んだ。

 襟の隙間から包帯を取り出して、手に巻いてくれた。

 彼女は慣れた手つきで、あっという間に巻き終えてしまった。

「早いね……」

 巻かれた手首を見ながら言う。

「慣れてるんだ。こう言うの、計太郎は強いけど、まだ、子供だべ。先生に挑んでしょっちゅう怪我すんだ。逆に先生が手をぬいてたら、竹刀投げて怒り出すし、道場のみんな呆れてるんだべ」

 茜は、頬をかきながら笑う。

「じゃ、怪我も手当したし、行くべ」

「え、どこに?」

 お尻を払いながら、立ち上がる彼女に首を傾げる。

「どこにって、祭りを見にだべ。行くでしょ?」

 僕は……どうしたらいいか分からず、頷いてしまった。

 狭い道を歩いて、鳥居をくぐると急な階段が続いている。僕らはゆっくりとその階段を登っていった。

「宇宙人は、やっぱりお金、持ってないのか? なくても、大丈夫だべ。うちが何か買ってあげるべ。欲しいのが合ったら言って」

 そう言いながら、茜はズンズン登っていく。

 頷く僕は、上の空だった。

 先ほど、茜が言っていた、計太郎、つまり、お爺ちゃんの事が、どうにも信じられない。

 面をつけて、稽古をしたのは、数える程しかなかったが、お爺ちゃんが、ストイックと言うか、乱暴というか、そう言うのを、感じた記憶がなかった。

 強いて言えば、面をポコポコと叩いては、竹刀をどかして、打ってこいと言われたぐらいだった。

 僕は、正直、あれがそこまで好きじゃない。舐められている気がするから。

 にしても、こんな所で、遊んでいていいのだろうか?

 僕は、漠然とした不安を感じていた。

 もしかしたら、このまま、帰れないのかも知れない……そうなったら、どうしよう?

 そんな風に思い詰めていると、目の前の階段が薄く明るくなっている事に気づく。

 茜の声が聞こえた。

「着いたべ!」

 前を見ると参道を挟んで並ぶ屋台と長い棒から棒の間を淡い提灯がぶら下がっていた。

 お囃子の音色と賑わう人たちの声が聞こえてくる。

 また、あいつに襲われるんじゃないかと、僕は心配で、手首を押さえながら、茜から借りた帽子を深々と被り直した。

「不安?」と茜は聞く。

 僕は、こくりと頷く。

 じゃあ、と言いながら茜は、僕の手を繋いだ。

「何かあったら、うちが守ってあげるべ」

 僕は、帽子の下から茜を見る。

 正直言って、信用できない。だけど、暖かくて、明るい笑顔を彼女はしていた。

 そんな、彼女の笑顔に僕は、どうしてだろう? 安心を覚える。

「うん……」

 帽子で目を隠しながら小さく俯く様に頷く。

 僕らは、手を繋いで鳥居を潜る。焼きそばやお好み焼き、わたあめなど、美味しそうな料理に目移りしてしまう。

 僕は、隠す様に口をへの字に曲げて、唾を飲み込んだ。

「今年も、いろいろあって、ありすぎて、目移りしちゃうな」

 茜は演歌を鼻歌で歌いながら言う。

 いろいろか……僕は顔を上げて、辺りを見渡してみる。

 屋台の数は、両手で数えられるぐらいしかない。

 正直言って、僕には、物足りないぐらいだ。だけど、彼女は、違うらしい。

 少ない屋台を指差して、真剣に選んでいた。

「どれにしようかな、神様の言うとおり、鉄砲打って、バン、バン、バン。計壱、あそこによろ!」

 茜は、僕の腕を引っ張る。

 初めによった屋台は、青い布に白と赤の紅白で書かれた金魚すくいのお店だった。

 大きな桶に赤い金魚と少しの黒い金魚が、泳いでいた。

 木製の桶の上を泳ぐ金魚は、優雅で風情あふれる気眺めだった。一人眺めていると、茜が金魚すくいを始める所だった。

 彼女はしゃがみ込んで、ゆっくりと泳ぐ金魚の群れの中をじっと睨みつける。強く握るポイを構えた。

 見切りを付けたのか、さっと、ポイを水に付けて、切る様に掬い上げる。

 しかし、茜の手には、穴の空いたポイだけしかなかった。

 桶の方も茜がポイを入れた所を避ける様に金魚はゆっくりと泳いでいる。

「あれ? 今のですくえると思ったんだけどな?」

「そんな、乱暴に沈めたら、ポイが破けちゃうだろ?」

 僕は、頭を抱えながら言う。

「ポイってなんだべ?」

 茜は、頭を傾げながらこちらを見上げる。

「ポイは、その網のことだよ」

「じゃ、うちの代わりに金魚掬って、おじちゃん、もう一回!」

 道具の説明をしようとした矢先に、彼女は屋台のおじさんからポイをもう一つ受け取った。

 茜はポイを僕にやってみろ、と言わんばかりに押しつけてきた。

 僕は、ついていけないと、呆れて嘆息をこぼす。ポイを受け取ってしゃがみ込む。

「茜、器を近づけてくれないか」

「うん、こう?」

 片腕が塞がっている僕は、茜に頼んで器を近づけてもらった。

 僕は、肩の力を抜いてゆっくりとポイと一緒に手を沈める。

「あぁ、そんな事したら、すぐに破れるべ! 何やってるの!」

 茜は、驚いてこっちを見る。が、気にしないで僕は、金魚の下にポイを滑り込ませる。そして、ゆっくりと、破れないように手早く掬い上げた。

 ひょいっと茜が持つ器に一匹、赤い金魚が入る。

 金魚が自分から入っていく様に、ポイにのっては、器に入っていく。

 横から見ていた茜や屋台の店主は、目を丸くして驚いていた。

 最初の一回でコツを掴めた僕は、ただ、ひたすら無心で金魚を救い続けた。しかし、大きな黒い金魚を掬おうとした。その時、音もなくポイは破れてしまった。

 僕は呆気に取られて声を漏らす。

 あと、五匹はいけたかもな……と、悔いる僕だったが、横から手を叩く音が聞こえる。

 見るとぽっかりと口を開けて驚いた顔で、茜が拍手をしていた。

「すごいべ、お前さん、金魚すくいの名人か?」

 気恥ずかしくなり、僕は頬をかく。

 間違って右手を使い、痛い事を思い出してしまった。

 掬った金魚のうち、半分を返して僕らは、別の屋台を見に行く事になった。

 茜は、ご満悦に鼻歌を歌いながら、前を歩く。

「ねえ、次は、どこに行く? あっ、射的屋があるべ。行こう!」

 話を振ってきたと思ったら、彼女は次の場所へ、僕を引っ張っていた。

 ぱこん、ぱこんと音を鳴らしながら、弾を飛ばして、景品を取ろうとする子供たちの行列があった。

 僕らは、顔を見合わせる。

「混んでるね」

「そうだべな、諦めてつぎ見に行くか?」

 茜が首を傾げながら聞く。

 僕は、少し黙ってから、首を振った。

「うんん、待ってみようよ。後で来ても、取れない景品だけになってるかもしれないし」

 景品が取れない射的より、取れる射的の方がきっと楽しいと思って言ったのだが、茜には、いまいちピンと来てない様だった。だけど、納得はしたらしく、こくりと頷いて、そうするべ、と笑った。

 しばらく、並んでいる間、茜が、僕について何か聞こうとしたが、寸前の所で止めるのを何度か、繰り返していた。

 僕も、正直、今、ここで答えられないから助かる。

 だけど、なんとも、居心地が悪い気がして、金魚の話題を振ってみた。

「その金魚、どうするの? 食べる?」

「食べるわけないべ! ちゃんと世話するよ。もしかして、宇宙人は金魚食べるのか?」

 冗談に聞いたら、彼女は、いい反応を見せてくれた。

 目を丸くして、腕を縮めてこっちを見てくる。そして、手で口を隠しながら囁き声で聞いてくる。

 僕は、イタズラにニヤニヤしながら、こう言った。

「食べないよ。食べるわけないじゃん」

 茜は、眉を顰める。

「びっくりさせないでよ! 寿命が縮んじゃったべ!」

 彼女は、怒りに任せて僕の肩を叩くが、口は、楽しそうに笑っていた。

 そんな風に待ち時間を過ごしていると、ようやく、僕らの番が来た。

 僕ら、一人ずつ順番に遊ぶ事にして、先程の金魚すくいと同じ順番に、先に茜が遊ぶ事にした。

 重たいコルク銃のレバーを彼女は、必死に引こうとするが、なかなか出来ない。

 見かねた僕は、貸して、と手を差し伸べる。

 茜は頷いて素直に貸してくれた。

「茜、これはね。台と体の体重を使ってやるんだよ」

 そう言いながら、実際に見せてあげた。

 台の上にコルク銃の銃口を上に、肩当てを下に向けて立てかる。レバーを強く握りながら、体重を使って下に引いた。すると、カチッと音が鳴って簡単に戻らなくなった。

 僕は、そのまま、弾をこめて、茜に手渡す。

「これで打てるよ。持ち方は大丈夫?」

「うん、大丈夫だべ」

 ニカっと笑ってからコルク銃を構えた。

 真剣に狙いをすます、茜の顔は、狩人のそれと言っても過言でわないのかもしれない。

 そう思いながら、無事に当たるのを願っていた。

 ふと、視界の端で動く影に気づく。

 茜の奥、神社の横辺りに目をやると、探し求めていた奴がいた。

 黒い体に背中だけ白い毛並み、長い手を持つ、テナガザルが、人混みに紛れて立っていた。

 まさか、再会出来るとは、思っておらず、一瞬目を疑った。

 間違いない、蔵にいたあいつだ。

 僕に気がついたのか、ぼさっとしていたテナガザルは、ふと、顔を上げて、こちらを見る。すぐにスタスタと走って森へ、逃げてしまった。

「茜、ごめん、ここで待ってて」

 今すぐに後を追いたい僕は、茜の顔を見ずに、離れる事を伝えた。

「え? 計壱、どうしたの?」

 今、と思って、引き金を引こうとしていた茜は、動揺して、構えを解きながら聞いてくる。だけど、僕は、悠長に答える余裕はなかった。

 何も言わず、射的屋の横を抜けて、テナガザルの後を追って行った。

 茜は、すぐに後を追おうと思ったが、先に射的の弾を使い切らないと勿体ないと思い、コルク銃を構え直した。

 その時、茜の視界の端で、森の中に駆け込む者の姿が見えた。しかし、今の彼女は、目の前の的に当てる事だけを考えていて、気にも止めなかった。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。どうも、あやかしの濫です。

茜が着物を着てきましたね。可愛らしい。

スリ鉦の計壱が、名前にピントあってないけど、それだ、と曖昧な状態で答えるシーン。

「あのキャラの名前、覚えてないけど確かそんな名前」みたいな、こういうのって、リアルでよくありますよね。あるよね? 


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