蔵旅歯車 三話
危なかった、原生生物に危うく使わるところだった。だが、問題ない。
ぶじ、コアシステムの替えを手に入れた。まさか、同じ鉱石を手に入れることができるとは。
他の生物に見つからないうちに船を直してしまおう。
……船はどこだ? 確かにここにあったはずだ!
もしや、あの時、鉱石が光った時に次元を歪めてしまったのか?
いったいどうしたものか……ともかく、どこか日を遮れる場所を探そう。この星は暑い……このままでは、干からびてしまいそうだ。
走り出した僕らは、家に戻る事はなく。用水路を辿って神社の裏山までやってきた。
そこは、静かで、建物も畑からも姿を隠せる場所だった。
岩肌から湧き水が溢れている。マイナスイオンに覆われて、まだ、日が沈んでないのに、ここは、とても涼しかった。
茜は、僕の腕を何も言わずに湧き水が溜まったくぼみに突っ込んだ。
一瞬、あまりの冷たさに手を引こうとした。しかし、茜にしっかりと掴まれて動かせない。
すぐに水に慣れて落ち着いてきた頃に茜が申し訳ないと謝ってきた。
「ごめんなさい。計太郎はいつもは、あんな奴じゃないんだ。乱暴な所はあるけど、根は優しいんだべ」
「根が優しいか……それは身内に対してだろ? あいつは容赦なく僕に切り掛かってきた。そのせいで……」
僕は、壊れてしまった腕時計を見つめる。すでに壊れてしまった腕時計からは、なにも聞こえず、金魚の絵も原型が分からない。
幸いにも、僕の腕に時計の部品が刺さっていなかった。だけど、大事な物は、もう……
じんわりと目元が熱くなる。堪えようとすれば、胸が焼ける様に熱くなる。
情けない、大事な物を無くした自分が、たまらなく許せなかった。
あの時、怒りをぶつけ切れなかったのが、僕には、とてつもなく悔しかった。
「ちくしょ!」
あまりの悔しさに、僕は怒りに任せて、拳を水面に叩きつける。
飛沫を大きくあげ、水が顔にかかる。だけど、気にする気もなかった。
ただ、水面に映る自分の顔を睨みつけていた。
この顔がまるで、見下してきた、あいつの顔にそっくりで悔しくて、悔しくて胸が張り裂けそうだった。
僕はまた、水面を殴り、また、水面を殴り、殴り、繰り返し殴り続けた。
「くそ! くそ! ちくしょ!」
あれがお祖父ちゃんなんだと分かっていても、認めたくない。違うと思いたかった。
叫びながら強く殴ろうとした。その時、茜に止められた。
「辞めて……」
我に帰り茜を見る。すると、驚く事に彼女は、とっても悲しそうに眉を顰めていた。唇を噛み締めて大粒の涙を流していた。
どうして、と彼女に聞こうとしたが、うまく発音できなかった。
「私、二人が……計壱と計太郎が喧嘩するのが見たくない。計壱がそんな風に悔しがるのも見たくないの」
鼻を啜ってから彼女は、自分の今の気持ちを教えてくれた。
「なんでなのかな? 私には、二人がぶつかるのがただの喧嘩に見えないの。兄弟喧嘩の様な、それとは違う様な、そんな気がするの。計壱が、悔しいのも分かる。でも……ごめんなさい……私には、二人の喧嘩がどうしても見れないべ……」
溢れる涙を何度も拭き取る彼女を見て、僕は、何とも言えない気持ちになった。
「ごめんなさい……」
気づけば、謝っていた。
茜は、首を振ってくれた。
腕の感覚がなくなって、僕はゆっくりと打たれた右手をあげる。
手首は真っ赤に腫れていた。
「ウチ、怪我とか、しないから、分かんないけど、一様、固定しとくべ?」
僕の後ろから覗き込みながら、茜が聞いてきた。
「うん、そうしてくれると助かる。まだ、動かすと、少し痛いんだ」
「分かった、取ってくる……」
頷いて、中腰から立ち上がった茜は、ふと、耳を澄まして少し上を見つめる。
しばらく黙ってから小さく呟いた。
「あっ、そっか、今日だったべ」
一体、何の事か、僕には皆目見当が付かなかった。
茜は、こっちを見て嬉しそうにしながら話す。
「じゃあ、うちから取ってくるから待ってるべ」
「え? 一緒に行くよ」と言いながら立とうとした僕を茜は、押さえてつける。
「いいべ、そこでじっとしていて。うちが包帯を持ってくるから。あっ、そうだ! これ、貸してあげる」
そう言いながら茜はそっと、僕の頭にツバの広い帽子を被せてきた。
「これなら、顔を見られなくて平気だべ。おとなしく待ってて。すぐ戻る!」
茜は、そう言いながら駆け足で離れていった。
立ち去る彼女の背中を見て、僕は、寂しくなったのか、帽子のツバを強く摘んでいた。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
前書きの内容は、テナガザルの視点です。
本書きの際、書ききれなかったのでついでという感じに入れてみたんです。
でも、SF風のシステムコードなどが書いてある作品を読んだことなくてちょっとこれでいいのか?
感が抜けません。