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蔵旅歯車 一話

ーエラー発生ー


ー外装パーツに強い衝撃を受けましたー


ー姿勢制御に不備が発生しましたー


ーエネルギー出力低下しましたー


ーコアシステムに致命的不備が発生しましたー


ー危険ですーー危険ですー


ー不時着の用意をしてくださいー


 けたたましく鳴り響くエラー音と赤いランプ。

中央のコアシステムの中で輝く宝石にヒビが入っているのが見えた。

 こんなことなら、もう少し離れた所から流星群を見ればよかったと後悔している。

 だが、どこに落ちたとしても救援を呼ぶ事ができない。

なにせ、宇宙は広いのだから。

 コックピットで一人諦めているとレーダーが何かを見つける。それは、我が星で手に入る。鉱石と同じ物だった。

 姿勢制御に不備があったが、まだ動かせた。

 レーダーに映った反応を頼りに一部の希望をかけて、我は青い星「地球」を目指す事にした。

(スコシデモズレタラ、「海」ニ落チテシマナ)

 我は、過去のデータベースからさらに細かい鉱石の位置を特定する。

 結果はすぐに出た。

 場所は「日本」という島国の真ん中にある事がわかった。

 目を覚まして気がついたが、夕暮れに紛れて、蝉の声がまだ聞こえていた。

 冷えた室内に作ってもらった安楽椅子に寄り掛かりながら、天井のシミを数えていた。

 一体いつから、こんな風に眺めているのか、自分では分からない。

 ぼんやりと考えていると襖が開く微かな音が聞こえた。

 首を捻って見れば、そこに居たのは、何十年も経っているのに変わらない、亡き旦那と瓜二つな容姿をした少年だった。




 お祖父ちゃんが死んでから二年目の二千二十四年の夏、車のエンジン音すらかき消すような蝉の声。

 僕は頭がどうにかなりそうな、車の振動を感じながら外を眺めていた。

 一面緑色の中、グレーの道を走る車、遠くには神社の鳥居と階段が視線を合わせる様に視界に入り続けている。

 ぼんやりと夏の日差しの暑さにやられて、外を見ていると、運転しながら母さんが僕にそろそろ着くよと教えてくれた。

 上の空に僕は頷く。

 お祖父ちゃんがいないあそこに何があるの?

 小さい頃から良くしてくれたお祖父ちゃんの顔を今でも思い出す。

 僕は自分の手を触る。手のひらには豆ができていて、ゴツゴツしている。

 手首を触ると硬い腕時計があった。

 腕を上げて、時計を見る。まだ、十時半でカチカチと秒針を刻んでいた。

 腕時計の中心には、真っ赤な金魚が跳ねていた。

 目的に着いた車は、車体を前後に揺らしてゆっくりと止まる。

 僕は起き上がって、車から降りた。ドアを開けると蝉の声がけたたましく騒いでうるさかった。

 手で日の光を遮りながら通ってきた道を見る。と言っても、ほとんど緑色で、違いは、山か、田んぼか、それだけだった。

 振り返れば、木造の横に広い家が立っている。その横には光をそのまま跳ね返して白い蔵が立っていた。

「計壱! 荷物運ぶの手伝って!」

「うーん」

 車のトランクから荷物を取り出す母さんに呼ばれて、二つある大きい荷物のうち、一つを運んだ。

「ごめんくださーい!」

 僕らは荷物を抱えながら玄関に入る。外の眩しさに比べてとても暗い玄関、少し入っただけで涼しく感じられた。

「……」

 返事が聞こえず、入って良いものかと悩んでいる僕を横目に、母さんはズカズカと靴を脱いで入っていった。

 僕も同じように中に入った。

 入って直ぐに横に曲がると長い廊下が続いている。廊下の隣には、畳が敷かれた広い部屋があった。

「母さん? 帰ったよ、家にいる?」

 母さんは自分の母を呼びながら、お祖母ちゃんの寝室へむって行った。

 僕はあまり、邪魔にならない場所に荷物を置いた。

 外を見ると先ほどと変わらない風景にうちの車が見えた。

 あまりの暑さにため息が出る。なぜこの家にはエアコンがないのだろうか? いや、一昨年の秋、母さんが父さんを連れて、お祖母ちゃんの部屋にだけ取り付けていたっけ?

 そんな事を考えながらひたいについた汗を拭きとる。

「計壱、お祖母ちゃんとお祖父ちゃんに挨拶しておいで」

 母さんが戻ってきた。

 僕は頷いて奥の部屋に向かう。

 廊下を通ってすぐ行ったとこに閉められた襖がある。ここがお婆ちゃんの寝室だ。

「お祖母ちゃん、入るよ」

 僕はそう言いながらゆっくりと襖を開ける。開けた側から冷気が溢れ出る。

 中に入るとつけっぱなしのテレビを椅子から眺めるお祖母ちゃんがいた。

「お祖母ちゃん、来たよ」

「あーよくきたね……」

 お婆ちゃんは目を泳がせながら言葉を探している。

「ケイイチだよ。孫のケイイチだよ。遊びに来たんだよ」

 僕は微笑みながら優しく教えてあげた。

 お祖母ちゃんは、お祖父ちゃんが死んでから認知症になった。今は生活にほとんど使用はないけど、新しい事や僕の事は忘れてしまったらしい。

 前にゴールデンウィークに遊びに来たのだが、その時も名前を覚えてもらえなかった。

「昨夜は、ペルセウス座流星群が良く見えましたね。たくさんの流れ広星がありました」

「中には隕石が降ってきたという話もあるそうです」

 ニュースの内容だけが、聞こえてくる。

 居心地の悪いここから僕はゆっくりと逃げ出した。

「計壱……」

 ふと、名前を呼ばれて振り返る。しかし、お婆ちゃんはじっとテレビを見てそれ以上何も言わなかった。

 次にお祖父ちゃんの部屋に向かった。場所としてはお祖母ちゃんの部屋の向かいに、大部屋の隣ですぐそこだ。

 中に入るとカチカチと幾つもの時計の秒針が刻む音が聞こえた。

 仏壇が部屋に入ってすぐ横にある。壁には幾つもの剣道の賞状と時計の作品が飾られていた。

 線香の煙と匂いが僕の鼻に入ってくる。

 蝋燭はまだ着いていた。母さんが着けっぱなしにしたのだろう。

 僕も線香に火を灯して、お爺ちゃんにあげた。

 目を閉じて合掌をする。ここに来た事を伝えるためだ。

 僕はそっと目を開き、横を見る。奥の棚に沢山のトロフィーが飾られていた。その中には道着姿の小さい僕とお爺ちゃんの写真が飾られている。

 懐かしさのあまり写真を手に取っていた。

 頭を撫でながらこっちにピースサインを見せるお爺ちゃんの顔を見て、心の中に隙間風が吹くような、寂しさのような、どちらとも言いがたい、もどかしさを感じた。

 お祖父ちゃんは僕に色々くれたのを覚えている。

 誕生日にオモチャを買ってくれた。

 内緒でお菓子を買ってくれた。

 剣道で技術を教えてくれた。それに……

 僕は右腕に巻き付く腕時計を見る。

 お爺ちゃんが作った時計を語ってくれた。これは僕の大事な宝物だ……

 お祖父ちゃんの部屋で立ち尽くしている僕だったが、やがて、やるせない気持ちに目を逸らす様に部屋を出た。

 部屋から片足を出した時に蝋燭を消してない事を思い出す。

 息で消さず、手で仰いで火を消した。

 前に息で吹き消した時に母さんに怒られたのを良く覚えている。

 手っ取り早いのに、なぜダメなのだろうか?

 上を向きながらため息を吐く。

「あれ?」

 仏壇の上に見覚えのない箱がある事に気づいた。

 手に取って中身を見ようとしたが、これ以上、お祖父ちゃんの作品を見ても寂しくなると思い、やめとく事にした。

 僕は廊下を使わず大部屋を突っ切って母さんがいる台所に向かった。

 台所では、母さんがお昼の支度をしていた。

「母さん、線香、上げてきたよ」

「うん、母さん今、素麺を用意してるから、計壱は、駄菓子屋でジュースでも買っておいで」

「うん、あっ母さん。お金は母さんの財布から取ってくよ」

「あっ計壱」

 母さんの財布から千円札を抜き出していると、呼ばれた。

「なに?」

「お祖母ちゃんにもなに飲むか聞いてきてくれない?」

「えーどうせ、お茶でしょ? 夏でも良く飲んでるじゃん」

「いいから、一回聞いてきてちょうだい」

 素麺のつけ合わせを作る母さんは、背中を向けながら、いいから聞いてきてと指を指す。

 僕はなにも言わず、お祖母ちゃんの部屋に戻った。

「お祖母ちゃん、駄菓子屋行ってくるけど、何かいる?」

 襖を少し開けて覗き込む。

「……」

 お祖母ちゃんはぼんやりとした様子でなにも答えてくれない。

 僕は諦めて出かける事にした。

 外に出れば、灼熱の太陽に照らされて、目が眩む。

 田んぼに挟まれた道路を歩いている。

 道の先は蜃気楼で揺らいでいた。

 帽子も被らずに出たせいか、身体中から汗が溢れ出す。

 ようやく辿り着いた駄菓子屋は、風鈴が扇風機に揺られけたたましく鳴っていた。

 僕はそこで、ラムネを一本買う。

 家に帰って、飲んで横になろうと思ったのだが、あまりの暑さに買ったそばから飲み干してしまった。

 この駄菓子屋には、古いラジオがある。ガラガラと雑音が鳴るラジオからは地元の放送が聞こえた。

 ラムネを飲みながら、耳を傾ける。

「今年は例年に比べて、暑いですね。皆さまも、こまめな水分補給をして、熱中症には気をつけて下さい。先日、トキの山神社付近に隕石が落下した件ですが、現在、地元の大学の調査が行われています。落下地点は、森の不法投棄付近で、以前見つかった隕石の他はなにも見つかってないそうです。ただ、大きな円盤の様なものが引きずった跡があると言う話です」司会は続けて言う。

「なぉ、今年の夏祭りは、例年通りやるそうです」

 ラジオの司会は、こないだ落ちた隕石の話をゲストのオカルト研究家に話を振った。

「いやーこれは、もしかすると宇宙人が乗ってきた宇宙船があったのかもしれません!」

 ゲストの研究家は、いかにも大げさに話しだした。

「三年前に落下した、赤い隕石に関係あるかもしれませんね」

 ラジオの中で話が盛り上がる中、僕は呆れて立ち上がる。

「ばかばかしい……宇宙人なんて、いるわけないだろ」

 そう言いながら背伸びをして、空になったラムネの瓶を置いて帰る事にした。

 帰り道、夏の暑さか、あの場所の居心地の悪さか、僕の足取りがすごく遅く感じる。

 お祖父ちゃんとは、気が合ってよく時計作りの作業を横から見させてもらってた。だけど、お祖母ちゃんとは、ご飯を食べさせてもらったり、お菓子を貰ったりとそれぐらいだ。だから、今、あの人と何を話したらいいのか僕には分からない……

 名前も覚えてもらえないのだ。そんなに考え込んでも仕方ない。

 僕は俯きながら、家の前の小さな坂を登る。

 玄関の方を見ると、一瞬、何かが車の中に潜り込むのが見えた。

 思わず足を止める。目を凝らして車の下を覗き込むと。

 きっと、犬や猫、野生のウリ坊とかだろう。いや、ウリ坊は流石にないか……

 心の中で喋る僕は、次の瞬間、そこにいる生物に驚いた。

 薄暗い車の下で、白い毛並みがはっきりと見える。短い足に比べ、腕は全体の二倍ほどあった。

 見つけた瞬間、僕はあれをテナガザルだと思った。しかし、テナガザルなんて、この辺りに動物園など、あるはずもなく。いるわけもない。

 じゃあ、あれは一体なんなのだろうか?

 テナガザルはカンカンと音を鳴らしながら車の下を覗き込んでいた。

 何かを探しているのだろうか? 長い腕で車の隙間を触っては頭をかいて首を傾げている。

 ジッと眺めていると、テナガザルが振り向く。目があった。

 奴はまん丸に白く光る目は、夜猫の目に似ている。しかし、今は真夏の昼間であんな風に光るわけがない。

 テナガザルはクイっと首を曲げて目線を外す。奴が見た方に僕も目をやると、蔵があった。

 テナガザルはスタスタと四つ足で走り出す。そして、蔵の前に生えている柿の木に登り、そこから蔵窓のわずかな隙間を通って入っていった。

 一連の様子を見ていた僕は呆気に取られていたが、我に帰って急いで後をおう。

 蔵の扉は、すぐに開けられる物で、南京錠などは付けられていなかった。

 重い扉を引っ張り開ける。

 蔵の中に光が差し込む。

 僅かな風で埃が舞い上がる。

 光によって舞い上がる様子が見えた。

 中は暗く静かでほとんどの物に被せがかけられていた。

 辺りを見渡せば、扉から入って左右の壁には、さまざまな物が置かれている。

 中央は不自然に広く何もない。

 僕は振り返り先程、テナガザルが通った窓を見上げた。

 窓の隙間から微かに夏の濃い青空が見えた。

 そう言えば、蔵に入ったことないな……

 僕はそんなふうに考えながら踵を返す。

 不意に目の前に積み上げられている荷物の山が気になった。

 僕はゆっくりと近づく。

 窓から差し込む光が、ここに何かあると囁く様にくぼんだ場所を照らしている。僕にはどうしても、見てみたくなった。

 近づいて被せを取る。すると、僕の予想を遥かに超す物が現れた。

 被せは、勢いよく後ろに舞って、目の前に大きな時計が現れたのだった。

 赤いひし形の宝石が嵌め込まれた歯車を中心に、無数の部品が組み合わされていた。

 大きな時計はカチカチと長い秒針を揺らし、今も時間を刻んでいる。

 僕はあまりの大きさに息を呑んだ。お爺ちゃんの時計は、ほとんど見た事があった。だけど、ここまで大きな時計を見た事はない。

 目の前の歯車をもう一度見る。

 歯車は、大きな木材で作られている。ひし形の宝石が真ん中に埋め込まれていた。

 宝石は、赤く輝いていた。あまりの綺麗さに僕はしばらく見惚れていた。

 そんな風に眺めていると、不意に頭の上に何かが飛び乗ってきた。

 僕は、危うく転びそうになる。すぐに頭の何かは離れて僕を蹴飛ばした。

 前を見ると、どこに潜んでいたのか、先ほどのテナガザルが歯車に張り付いていた。

 奴はカリカリと爪を立てて、歯車を引っ掻いている。

 それを見た瞬間、許せないと怒りが溢れ出す。

 お祖父ちゃんの作品が壊される。

 そう思った僕は、急いでテナガザルを掴んで時計から引き剥がそうとした。

「お祖父ちゃんの時計を壊すな!」

 テナガザルを無理矢理引き剥がそうと引っ張ったり、捻ったりした。その時、歯車が回り、カチリと音が響く。

 突然、大きな地震が起こる。倒れない様にと踏ん張るが、あまりの揺れに一歩前に出てしまった。これが不幸の始まりだ。

 前に出てしまった僕は、テナガザルを伝って歯車を前に押し込んでしまう。

 時計の歯車は突然、赤く光り始める。

 僕らは、目が眩みたじろぐ。

 たじろぐ瞬間、揺れ続ける地面に立っていられなかった僕は、尻餅をついてしまう。

 時計は、けたたましい音を鳴らしながら、逆回転を始めていた。

 長針が十二時を刺すたびにゴーン、ゴーン、ゴーンと鐘の音が鳴り響く。

 このままでは、蔵が潰れてしまう。

 僕は慌てて外に出ようと立ち上がる。しかし、上手くいかず、今度はうつ伏せに倒れてしまった。

 その時、僕の頭に強い衝撃が走る。

 蔵から見える、柿の木を最後に僕は、意識を失ってしまった。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

久々の投稿ですが、「キャリー・ピジュンの冒険」の投稿じゃないんです。

これは高校時代の友人にお題を決めてもらって作った作品です。

キャリーの方は、現在作成中なのでこの作品を読んで気長に待っていただけると嬉しいです。

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