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2ヶ月でお相撲さんになり、半年かけて元の体型に戻した。
ミサトさんにはこれでも早く減量しすぎらしく、数年はリバウンドしない様に特に注意しなさいとの事だった。
太り過ぎも痩せすぎも健康には悪いのは勿論だけれど、体重の急激な増減も体に負荷を与えてしまう。すみません。気をつけます。
ミサトさんも食べさせ過ぎたとバツが悪い感じなので、お説教はここまで! 体も動く様になったし、心も軽くなって来たので素材集めにいく事にした。
まずは今までお世話になったミサトさんの為の素材集めだ。
森にある薬草と魔獣をいくつか取りに行くことにする。
最近、森で野党が出たらしいのでそれも成敗する事にした。
森に入って、1時間ほど、全ての工程を終えてミサトさんの家に戻って来た。見た目は手ぶらだが、ちゃんと魔法空間に収納してある。
野党は一纏めに縛ってこの地域の自衛団に引き渡した。
この地域の自衛団とは顔馴染みなので引き渡しも簡単だった。後はこの地域の人達によって裁かれるので、私は関知しない。
「ミサトさん!! 言われた物とって来たよ!」
「はいは〜い! って! ちょっと取りすぎよ!
森の薬草が枯渇したらどうするの!?」
私が魔法空間から薬草なりを取り出していくと、ミサトさんの、顔色がどんどん変わっていった。
ミサトさんの為と思って薬草を沢山とって来たが、どうやら取りすぎてしまったらしい。根こそぎ取ると、次に薬草が生えて来なくなる場合もあるので、生えている薬草の2割から7割は残さないといけないのだとか。ごめんなさい。
またやってしまいました。私はシュンとなり反省する。
「はぁ……まぁ、私の為に張り切ってしまったのは分かったわ。貴方の魔法を借りるのは気が引けるけど、自分のやった事は自分で尻拭いをしなさいね」
そう言ってミサトさんは私を連れて森に入る。
薬草は長持ちする様に根からとっている物が多かったので、元の場所にそのまま植えて、ちゃんと根付く様に魔法で少し手助けをする。根のついていない葉っぱや花、茎を取ったものは、元の生態系に戻るくらいの強さで成長魔法をかけた。
魔法のかけすぎはミサトさんによく怒られたのでしない。必要最低限だ。
ミサトさんは私に極力魔法を使わせない様にしている。
以前薬草を一緒に取りに行った時もそうだった。
もっとたくさん取れる方がいいと思って成長させたら怒られたのだ。私の為にやってくれるのは嬉しいけれど、魔力に頼ってばかりだと、生態系が壊れたり、植物自体が自分の力で育たなくなるかもしれないからダメだと。
それに私の事は友達だと思っているから、対等でいたい、と言われたのだ。魔法で色々してもらうとそのバランスが崩れて関係が壊れてしまうから嫌らしい?
私はその時はよくわからなかったけど、今なら分かる。
私が失恋して落ち込んでた時、ミサトさんは、何も言わずにせっせと私の世話をしてくれた。とっても嬉しかったし、ありがたかったけれど、時が経つにつれてお世話になりっぱなしだと気が引けてしまう様になった。確かにこれではダメだ。
良き友達でいるなら、親しき仲にも礼儀ありだ。ミサトさんに教わった言葉だ。お互い辛い時や困った時は助け合うけど、ずっともたれかかるとダメという事だ。
今回はもたれかかったのを取り返そうとしたが失敗した。
中々難しい……。
ミサトさんと森を周り何とか生態系を壊さずにすんだ。良かった。けれど結局ミサトさんの手を煩わせてしまった。
そういえば、私はクリード達に頼ってばかりだったと思う。全然対等じゃなかったなぁと思い、更に落ち込む。シュンとなっていると。
「はいはいはい! そんなに落ち込まない!
次同じことをしなければいいわ! 森もちゃんと元に戻ったし、さぁ、今日も美味しいご飯を作って食べましょう!」
あんなに怒っていたミサトさんだったけれど、全ての作業が終わると、にっこり笑い、許してくれた。
…………
ミサトさんの息子さん達にも会った。2人ともミサトさんそっくりの優しい人達だ。
長男のマサトさんは結婚している。次男のウサトさんも自立していて、今はもっぱら家の内装を頑張っているらしい。
トレドの街では、成人する少し前から男性は自分で家を建て始める。それは何故か、伴侶をえる為だ。
女性は男性の家を重視する傾向にある。それは家がその人の稼ぎの象徴とも言えるからだ。稼ぎが良い人は良い素材を集めて来て家を建てることができる。家の修繕は基本的に男性の仕事なので、その技量も試されているのだ。
更に大きい家を建てれる人は、稼ぎの他に人望もある事になる。大きい家は1人では作れない。お金で人を雇うか、人望によって人を集めて家を作るしかないからだ。
いい家が出来ると女性の親からお見合いの話が来る。
沢山のお見合いから男性が選ぶことも有れば、お見合いの話が一個も来ない家もある。
基本はお見合いで結婚が決まるが、小さい頃からの幼馴染で結婚と言うのもある。男性からの求婚も認められている。
ミサトさんの長男であるマサトさんは幼馴染の結婚だ。小さい頃から想い人であったカエデさんに求婚していた一途さんだ。そして実を結んだ新婚さんである。
この前、カエデさんと一緒のマサトさんにあった。マサトさんはいつもカエデさんに熱ぽい視線を送っている。
私はクリードからのあの視線が怖かった。幼馴染から何かが変わってしまうんじゃないかと不安があったのだ。
カエデさんに聞いてみたのだ。カエデさんはマサトさんの視線が怖くなかったかと。
そしたらカエデさんは
「確かに、ちょっと不安はあったわ。けれど、それ以上に私は彼が好きだった。もう一歩先に進みたいと思ったの。アリシアが怖いと思っているのならまだ、その先に進みたいのではなかったのだと思うわ。焦らなくてもいいの。貴方が次に進みたいと思う時まで待ってくれる男性を見つけたら良いわ」
そう言われて心が軽くなった。
クリードの事は好きだった。けれどそれは憧れの方が強くて……。お兄さんの様な存在だった。
現実的に私は結婚を意識してなかったんだと思う。その先も……。だから怖かったのだ。その先に進むことも……。まだまだ私はお子様だったと言う事だ。
…………
ここに来て、半年以上がたった。ここには四季というものがあり時期によって気温や植物、景色も変わる。もうすぐ冬になり、雪が降り始めるとみんな家に篭り家で手仕事をする。
冬籠りの為の食材や薬草の備蓄ももうすぐ終わりだ。
そうすると私の出来る事がガクンと減るので、もうそろそろ、別の事をしようと思う。あんなに落ち込んでいたのにミサトさんの、温かさと半年という時の流れで少しは薄らいできている。
細々した素材はここを拠点にしてある程度は集めていた。
ラルフから届いた素材リストの中身を見てもここを拠点に素材集め出来ないわけでないけれど、このままお世話になりっぱなしはダメだと思う。私は本格的に素材集めの旅に出る事にする。ローザの為に少しでも私に出来る事をしないと。
ミサトさんに最後の挨拶をする。
「ミサトさん、長い間お世話になりました。落ち着いたので、魔道具の素材集めに行きたいと思います」
「そう? もう直ぐ冬になるし、する事も無くなるものね。行ってらっしゃい。またいつでもおいで!」
「ありがとう!! 行って来ます!」
いつでも戻って来れる場所があるのは、自分を強くしてくれる。私は前を向き、次へ進んだ。