20数年後 後半
これはフィクションです。
現実世界では、暴力はいけません。
私の記憶のゴタゴタが全て解決した後、今、私の前にいるのはラルフだった。
ラルフはトライア地区を離れられないので、私がラルフの邸宅を訪れた。
大きなテーブルを挟み、私はソファーに優雅に座り、ラルフは椅子に浅く腰掛けていた。
このテーブルの距離が今の私とラルフの距離だと如実に語っている。
もちろん2人きりではない。私には、信頼できる侍女が後ろに控えているし、隣の部屋でダグラスが待っていてくれている。ラルフはダグラスも一緒で良いと言ったが、それをダグラスが断った。最初で最後だと念を押していたけれど。
目の前のラルフを観察する。
20年の月日が経っているから、私の記憶にあるラルフよりも大人っぽくなってシワも増えていた。ゴタゴタの対処もあってか少し窶れているようにも思う。
それに今は、悲痛な顔で私を見ている。
ラルフも私の記憶が戻った事はオリバーから聞いているようだった。
「どうして私の記憶を消したの?」
私の問いに、ラルフは、カバリと立ち上がりテーブルに頭を打ちつけそうな勢いで頭を下げた。
「申し訳なかった。あの時は、あれが最良の選択だと思っていた」
「全部、ラルフだけで決めちゃったのよね」
「すまない」
「話して欲しかった」
例え、どうしようもない、変えれない未来だったとしても教えて欲しかった。それに、勝手に私の大事な記憶を消すなんて。
「私からバネッサの記憶まで消すなんて……」
「本当に悪い事をした」
「はぁ。いいから顔を上げて座って?
……いいから座りなさい」
頭を上げようとしないラルフを一蹴し、無理矢理座らせた。
「バネッサのことに関して、怒りは最もだと思うし、言い訳はしない。
今からでも俺に出来る償いはなんでもするつもりだ」
決意の籠る眼差しで真っ直ぐに私を見るラルフは、あの頃と変わっていないなと思いつつ、私たちの心の距離は遠い。
ふぅ……どうしてもこれだけはしておきたかった。
私は、立ち上がりラルフの前まで来た。ラルフも私が立ち上がっているので自然と立ち上がる。
私は、ニコリと笑う。
それに困惑するラルフの顔を思いっきり平手打ちした。
魔力で強化はしていないが、私の渾身の一撃だ。
ラルフは、気を抜いていたのか椅子に崩れ落ちた。
私はスッキリしたと思い、元のソファーへと踵を返す。
ゆったりとソファーに座り、ラルフが立ち直るのを待つ。
ラルフも治癒魔法には長けているが、治すつもりは無いようだ。ラルフは少し頭を振った後、椅子に座り直し、こちらを見た。その顔は少し困ったような様子で、私の性格を理解しているようだった。
今の私を理解しているその顔は、なんだが癪だわ。
20年前も、その理解があれば、こんな事にはならなかったのに。この20年の間に一体誰に教えてもらったのかしら?
なんとも言えない苛立ちに、もう一発お見舞いしようかしら? と思うが、私も大人になった。
今ので私はラルフとの過去を清算する。と、ここに来る前に決めていたのだ。
今更増やすのは、私の矜持が許さない。
ふっと息を吐き、心を落ち着かせてから、ラルフを見た。
「今のは私とラルフの過去を精算しただけよ。
私からバネッサの記憶を消すのは許されない事だわ」
先ほどの平手打ちはラルフと私の関係を精算しただけだ。
ラルフは私の事を思ってしただけ、やり方はどうであれ、20年もの時が経っている。20年前に話し合いをしたかったが、もう今更だ。全ての記憶が戻って混乱はしたけれど、勝手に全てを決めてしまったラルフと今更よりを戻す事はないし、これで関係を精算したと思っている。
でも、バネッサの事は違う。愛するバネッサの記憶を私から消すなんて……ラルフを許すつもりもない。
「一生、許されない事をしたと思っている」
そう言って今度は座ったまま頭を下げている。
立つ事すらできない状況なのでは?と心配しそうになるが、それは私の役目じゃない。
許すつもりはない。けれどそれじゃ先に進めないのでその事は置いておく。
それより……。
「バネッサは……」
声が震えて、次の言葉を出せないでいた。
バネッサは私を恨んでいるのではないだろうか?
絶対に恨んでいるだろう。自分を捨てて、新しい家族を手に入れ、幸せに過ごしていた私を許してはいないだろう。
「バネッサは全部知っていて、理解しているよ。
アリシアを恨んでいないし、もし……アリシアがいいなら会いたいとも言っている」
顔を上げたラルフは、とても愛おしそうに娘の話をする。
それを見て、あぁ。ラルフを変えたのはバネッサなのだろうと理解した。
「会えるの?」
「勿論。バネッサは頭のいい子だ。
アリシアの立場も理解しているし、その……ダグラスの事もある。ダグラスの許可を取ってからだとバネッサは言っていたが……」
「ダグラスの許可なんていらないわ。
ここに来る前に話し合いはしたもの」
ダグラスとの結婚生活はもう20年になる。
最初はぎこちなかった私達だった。あれが変化したのは、いつからだろう? 初めは子供達の事の情報共有からだったけれど、フィリアが生まれ、私が悩んでいるのをダグラスはずっと支えてくれていた。
それからは子供の事だけじゃなく、自分の悩み……そして他愛のない話や、ちょっとした事まで相談できる、信頼できる夫になっていった。
よく話し合いをするようになったし、合わない意見はとことんぶつかった。
ダグラスが折れる事が多かったけれど、それでも話し合いは欠かさなかった。
今回も、ラルフに会う前に、様々な話し合いをした。
バネッサの事もそう。ダグラスは会う事を、勧めてくれた。
寧ろ今まで悪かったと謝られた。
ダグラスもバネッサの存在は知っていた。その事を隠していたのはちょっとムッとしたけれど、私自身が記憶もない、会うことも出来ないのに話した所でどうしようも無かった。それくらい結界の作用は強固だったから、話したところで思い出せはしなかっただろう。
私とダグラスで話が済んでいることに、ラルフは眩しいものを見るように目を細めた。
「そうか……。アリシアは今、幸せなんだな」
「ふふふ。勿論! 私が不幸のままでいると思う?
嫌な事があれば、ぶち壊す迄よ?」
「ははは。そこは変わっていないんだな」
ここに来て初めてラルフが笑う。どこか吹っ切れたような清々しい笑顔になっていた。
「良かったら今から会ってくれないか?」
「えぇ。勿論」
少し声が震えたような気がするが、気のせいだ。
その後直ぐバネッサに会った。
最初は何も言わずに、ただただ抱きしめあった。
私は、バネッサに謝罪したかったけれど、なんだかんだとはぐらかされてしまった。謝罪はいらないし必要ないとバネッサは思ってくれているようだ。
それからは久々に会った旧友ように話が弾んだ。
今までの距離を縮めるように沢山話した。
何というか私とバネッサは性格が似ている。
目の色はラルフだけれど他は私だ。考え方も似てる。
似ている部分が多くて嬉しくもあり、成長を見守れなかった事が辛くもある。
いろんな感情がごちゃ混ぜだったけれど、これからもバネッサは会ってくれるという。
バネッサも最初は不安そうにしていたけれど、話すにつれて笑顔見え、最後はざっくばらんに話し出した。
何というか、最後は話の合う親友に出会えた感じだ。
バネッサもそう思ってくれたのか、母親というよりかは友達のように接してくれている。
今、バネッサと私はこの距離感。寂しくもあるけれど、これから時間はいっぱいある。
いつか母として必要になった時に頼りになれるようもっと信頼関係を築いていこうと思う。
これからどんな未来が待っていても、もう2度とバネッサとの繋がりを切りたくない。絶対に切らせない。
邪魔をする奴は蹴散らしてやる!!
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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