3、心に響く声
本日4話目です。
ちょっとアリシアがバカっぽくなりますが、それだけ、どうにかラルフに魔道具を作って欲しいとあの手この手を使っていると思って欲しいな。
頭を撫でられつつ、どうすれば良いのか考える。
宥められても諦めるわけにはいかない。
さっきのも良い考えだと思ったのに突っ込まれてしまった。
魔道具の事はさっぱりなので、ラルフがダメというならダメなのかな……ちょっと自信がなくなって来た。
この世界には魔法が存在する。
そして、魔力レベルに応じてランクわけされているのだ。
レベル0から9月は一般市民でオーディナリー
レベル10台は半端者
レベル20台は下位魔法使い
レベル30台は中位魔法使い
レベル40台は高位魔法使い
レベル50台は王位魔法使い
と呼ばれている。ランクを、分けるのはランク毎に扱える魔力が桁違いに変わっていくからだ。ランクが一つ上がれば桁が一つ上がる。それくらい違いがあるのだ。
半端者から中位はランクが2つ違うのでおよそ、100倍魔力量が違う。それを出来たラルフだ! すごい!
今回の依頼は高位魔法使いから王位魔法使いだ。つまり10倍の魔力量ですむ。ほら大丈夫だ!!
「はぁ……アリシアの頭の中で考えている事はわかった。
ちゃんと魔力に関してアカデミーで習ったんだろう? 俺は入ってないから知らないが……。
魔力で難しいならお金に換算すれば良い。
半端者だった俺は月に千メル稼いでいたけど、中位魔法使いになって十万メル稼げる様になった。確かに量としては100倍だ。
高位魔法使いなら月100万メル、王位魔法使いなら月に一千万メル稼がないといけないわけ! 確かに高位魔法使いから王位魔法使いは10倍だ。
100倍と10倍だけを見ると10倍の方が簡単だとアリシアの様に思うのか? 思うのはアリシアだけだと思うが、値段をよく考えてみて? わかる? 凄い差だろ!?」
ラルフは呆れた顔ならがらも懇切丁寧に説明してくれた。何故か私の頭の中で考えていた事を完全に理解して会話できるラルフはやはり凄いと思う。流石マブダチだ。
幼馴染とは違うけど、ひょんな事があってこんな気安い関係に至る。
年が近いこともあり、喧嘩? ツッコミながらも仲良くしてくれたありがたい存在なのだ。
だって算数? 数学は苦手なんだもん! 適当にやって、最後にうまく行けばよくない?? と思っている私にかりやすく説明してくれる。
魔法は大体こんなもんかな? で今の所、上手くいってるし。そういや数学の教師が匙を投げたっけ? 途中の数式はわからないけど最後の答えはあってるんだから良いじゃん!! 答えがあってるから何とか卒業させてもらったもんね!
「冗談だって!! 私だって分かってますよ?
……分かってますって!
え? ラルフって月十万メルなの?
見習いって大変ね」
「ものの例えだ!! 師匠に失礼だろ!!」
絶対理解してないと言う様な顔で見るのはやめてほしい。一応、アカデミーでは及第点はもらったのだから大丈夫な筈だ。だよね? 相変わらずツッコミが早いわ。流石ラルフ。じゃなくてちゃんと話を戻さないと。
「そかそか。でもさ? ラルフ様ならきっと思いつくと私は考察します!」
様づけにして煽ててみたが、物凄い形相で睨まれた。これは失敗だ。煽ててもダメみたいだ。どうしたものかな? 私の全てをローザあげてもいいから、安全に妊娠出産して欲しい。
「たとえ、私の魔力を全部あげても良いから、ローザに王位魔法使いになってもらいたいの。
確か昔、そう言った論文を……」
「やめろ!!」
「ごっ、ごめんなさい」
私の体がビクリと跳ねる。私が昔の論文の話を仕出したら、尽かさずラルフの怒声が止めた。これは冗談ではなく、物凄く怖い顔で怒ってる。私も今のは悪かったなと思って素直に謝った。
昔の論文とは、魔法使いが奴隷として扱われていた時に出た論文だ。ほんの100年ちょっと前までは魔法使い達は奴隷だった。その論文は非人道的な方法で魔法使い達を実験しており中には亡くなった人もいる。今のは例えに出していいものではなかった。反省して肩を落とす。
けれど、どうしてもローザに安全に妊娠出産して欲しいのだ。自分が逃げた後ろめたさもある。何かしたかった。
私がシュンとしていたら、
「鼻からダメだと言うのではなく、少しは検討してあげたらどうだ?」
私達の声が思いの外、大きくなってしまった事で心配して来てくれただろう。この家の主人であるハリオお爺さんが、声をかけてくれた。ハリオお爺さんと言うくらいなのでもちろんお爺さんだ!
白髪を短く刈り上げていて、目は燃える様な赤い目をしている。頑固親父と巷では有名で人を寄せ付けない雰囲気はあるが、話してみると自分にも他人にも厳しいだけで、とっても人情味があるのだ。
私は誤解されているのが悲しいが本人は気にして無い。最近は少し背の曲がってきた頑固お爺さんだ。私はとっても好きですよ!ハリオお爺さん!
「師匠、アリシアは、一度請け負ったら最後、出来るまで地を這うように付き纏って来るんだ。他の事を何もさせず終わるまでズルズルしがみつかれる。出来るかわからない物を請け負ったら俺の人生は終わる」
ラルフはどこか遠い過去を見ている様だった。はて? そんな事あったかな? あった様な気もするが思い出せない?
「今はもうそんな事しないよ。小さい頃の話でしょう? 今回は頼んだら少し旅に出る予定なの。邪魔しないよ。何か素材が必要ならついでに取ってくるし、その相談をしたかっただけ、ずっと付き纏う様な事しないよ? あっ! この前ドラゴンの爪と鱗がいるって言ってたよね? とってくるからお願い!!」
ハリオお爺さんの援護は有難いので、全力でのっかる。
更に素材も追加だ!! これでどうだ!!
「ドラゴンはS級の魔獣だぞ? 1人で大丈夫なのか?」
私のお願いと報酬に少し天秤が傾いて来た様だ。鬼の形相だったラルフが心配そうにしてくれてる。が、素材を聞いて目がキラキラしてるのも分かる。
「大丈夫!! 当てはあるから!! 心配しないで! と言うか私の討伐能力は知ってるでしょ? 世界で10本の指に入ると思うわ!」
「まぁ、そうだけど……あー!! わかった。
検討だけな? 了承するとは言ってない。いいな?」
ラルフはせっかくの柔らかい髪を手でぐちゃぐちゃにかき混ぜながらも、了承してくれた! ありがとう! 友よ!!
「じゃぁよろしくね! 何か追加で欲しい素材あったら連絡して!」
私はそう言って耳を触る。右耳にある水色のピアスは通信魔道具で、この大陸中を網羅している優れ物だ。
アーレン王国内とは結界に阻まれて使えないけど。
勿論、ラルフのお手製だ!!
あっ! そう言えばこの魔道具を作る時に無理言ったような? ……まっいっか?
「もう行くのか? 今日は泊まって行ったらどうじゃ?」
ハリオお爺さんの提案は魅力的だったけど、隣のラルフは私が付き纏わないか疑っている様だ。ここは早めに退散した方が良いだろう。ここのご飯とっても美味しいのに残念だけれど致し方ない。
「ありがとうございます! とっても魅力的なお誘いですけど、まだ行くところがあるので! じゃぁ、旅が終わったらすぐ帰ってくるからね! 魔道具よろしく!!」
「あ〜はいはい。期待するなよ!」
ラルフのさっさと行けとでも言う様に手を振って追い出そうとする姿とハリオお爺さんの優しく手を振っている姿を見て私は転移した。
…………
すぐにもっと遠い国へ転移した方が良いと思ったけれど、そう言えばジェブの街から見える夕日はとても綺麗だった事を思い出した。
屋敷の裏にある丘を更に上ると、ジェブの街が一望出来た。
仕事を終えて帰る人達が大勢いるのがわかる。
のどかな街並みに、心が癒される。
風が優しく髪を撫でた。
海の地平線に沈む夕日をぼんやり眺めていると、日々の雑音が洗われていくようだった。
ずーとみてたいな……なんだか穏やかな気分になり心が落ち着いてくる。
何も考えずにぼーっとしたのはいつ振りかな?
「アリシア」
後ろから、優しく撫でる風にのって声が聞こえてくる。
聞こえて来た声に、私は一気に現実に引き戻された。
どうして今来てしまうのだろう。
心を落ち着ける為に旅に出るはずだったのに。
心の整理が必要なのに。
振り返らなくてもわかる。
少し低めで穏やかな声は、いつも私を優しく包んでくれる。
とても心地良く響く声は、あの人しかいない。
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