38、心に空いた穴
8/2より毎日投稿中。
本日は3話目です。
ご注意下さい。
目が覚めた時、私は自室にいた。
なんと言うかぽっかり空いた様な、寂しい気がした。半分何かを持っていかれた様な感覚。
その寂しさが何なのか、どうしても思い出せなかった。
周りを見たら、ローザが目を真っ赤にして私の手を握ってくれていた。
「もう!! 心配したのよ? なんで勝手な事したの??
あんな事して欲しくて話した訳じゃないわ!!」
「ごめん? 私って何かしたっけ?? えぇっと?
あれ? 私何してたんだっけ?」
ローザに詰られながら、よくよく考えたけれど何をしていたのか思い出せない。ローザはハッとして、視線をキョロキョロした後、気まずそうに話しかけてきた。
「えぇっと? 何が思い出せない?」
私はローザとこれまでの事を擦り合わせした。
私が倒れる原因になった事。
なぜ私がそんなことを考えたのかは今となってはわからない。
話をしていてここ数年の記憶がごっそり抜けている事がわかった。
ごっそり抜けたはずなのに、ここ数年で得た魔道具の知識は体が覚えていて問題なく使えた。
私は魔道具の知識なんて知らないはずなのに、なんだか誰かがスルスルと導いてくれる感覚だ。
変な違和感が所々ある。
なんか自分が大人になったと言うか、落ち着いている?
精神的に大人になった実感はある。
誰かに支えられているはずなのに、どこかポッカリと空いている何かに不安を覚えつつも、なんだか前向きに慣れる感覚。
無理矢理、前を向かされているのにどこか心地よい……すごくふわふわしていて変な気分だ。
この違和感がなんなのかわからない。
けれど、前を向け! 自分らしく生きろ! と誰かに言われている気がした。
ローザにそのことを話すと、目がウルウルとしてきて何も言わずに涙を流した。
「えっ? ごめん。何も覚えてなくて……。何か大事な事を忘れてるのだとは思うんだけれど、『振り返るな! 前を向け』と、なんだか言われてる様で? 変な気分なんだよね?」
私が慌てていると、ローザは泣きながらも私に笑いかけてきた。
「そうね? 大事な事かもしれない。けれど、アリシアは今のアリシアでいて欲しいって事なんじゃ無いかしら?
アリシアはアリシアらしく前を向いていて欲しいのよ。
それがきっとラルフの望みなのね」
「ラルフ?」
「ふふふ。アリシアが魔道具を教わった師匠よ。アリシアの師匠は、隣国にいて、その隣国から離れられない。
……アリシアも、アーレン王国を離れられないからもう会えることは無いけれど……。手紙を書いたら良いんじゃないかしら?」
ローザの申し訳なさそうな顔に心が痛む。
ローザは自分のせいで私が離れられなくなったことを気にしている。話は聞いたけれど、気にして欲しくない。
覚えてないけれど、今の私でも同じ事をする。
外の世界は好きだけれど、ローザの方が大事!!
手紙かぁ……ローザの懇願する様な言い方に、絶対に手紙を書かないといけない様な気分になる。
なぜ忘れてしまったの?
「そんなお世話になった人なのに何故思い出せないのかしら? それがぽっかり穴が空いた様な感覚の原因かな?
手紙……何を書けば良いのかな?」
何も思い出せない人に、手紙を書いて何か失礼があったらと不安になる。師匠ということは、とてもお世話になったはずなのに覚えていないなんて……。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「そうかもしれないわね。けれど、ラルフは思い出す事を望んでいない。だから、これからの事を書いたらいいし、魔道具で困った事があれば頼れば良いわ」
師匠は思い出す事を望んでいない?
なぜなのだろう。きっとそこに、このぽっかり空いた穴の理由がある。意識を向けようとすると、何かに阻まれてあっちへ行けと追い出される気分になる。
「忘れてしまっているのに……頼って良いの?」
「きっと……ううん。すっごく頼って欲しいと思う!!」
忘れてしまったのに頼って良いのだろうか?
迷惑じゃない?
何故かローザには凄い勢いで肯定されてしまった。
ローザもよく知っている人の様だし、大丈夫なのか?
私が困惑していると
「ふふ。アリシアの困った顔……よく考える様になったのね。でも大丈夫。心配なら私と一緒に書きましょう?」
「うん。失礼にならない様にしたいな。覚えていないなんて薄情すぎる」
「薄情なんかじゃないわ!! 寧ろ勝手に決めたあいつに怒っても……。じゃなくて……えぇ!勿論! とびっきりの手紙を書きましょう?
これからまた知っていけばいいのよ!」
そうして私はラルフ……師匠に手紙を書いた。どこか最初はぎこちない文面になったが、師匠からの返信はとても慈愛に満ちていた。
無理に思い出さなくて良い。寧ろ思い出すなとでも言う様に、昔の事は忘れて未来を考えなさいとの言われた。
なんだがお爺ちゃん見たいな文面だな。そういや師匠の年も知らないや。
私を弟子にできるくらいの人なのだから、きっとおおらかで度量の広い人なのだろう。
魔道具の相談はいつでものるから、遠慮なく言えとも書いてある。
至れり尽くせりの師匠の言葉に驚きつつも、手紙の中にある外の世界の話は、面白くてワクワクした。
私が喜ぶツボを知っている。
師匠ばかり私の事を知っている様で悔しいが、私もこれから師匠の事を知ればいいとも思った。
耳のピアスは、アーレン王国の結界に阻まれていて、使えません。ラルフがその様に設定しました。
アーレン王国の国内同士での通信、アーレン王国以外の外の世界同士は使えます。
次最終話です。
ラルフはアリシアが人柱になる最悪の事態を想定して動いていました。勿論アリシアを人柱になんかさせないラルフは、その対策をしています。
ラルフはもう会えなくなることも予想していました。会えないのに思い続けてアリシアが辛い想いをするくらいなら、自分のことを忘れて欲しいと思ったラルフは、結界の補強にアリシアのラルフへの想いを使います。
全てを勝手に決めてしまったラルフにアリシアは激怒しますが……その気持ちも一緒に結界の補強にされてしまいました。




