34、遠い存在
今回は少し短いです。
昨日も更新しています。
ご注意下さいませ。
足下からゆっくりと顔を上げ、ガードナー侯爵と目が合った時、もっと恐怖に駆られるかと思ったが、寧ろ落ち着いた。
ガードナー侯爵はとても私の様な娘がいるとは思えないほど若々しく、凛々しい正統派の男性だ。
身長も平均より高く、スラリとしてはいるが、程よく鍛えており引き締まった体躯をしている。
侯爵としての仕事も問題なくこなし、侯爵家に優劣はないとはいえ、陰で筆頭侯爵とも呼ばれているらしい。
仕事に対しては結果が全て……。
ダグラスは、結果と処理効率を天秤にかけて今ある1番合理的な手法をとるのに対して、ガードナー侯爵は、結果を1番に考えてそれに対して合理的な手段をとる。
ただ、将来的に効率が上がるなら、手間は厭わない。
金の卵を見つければ、手ずから育て上げる。
営利第一主義。彼の周りには有能な人しか残らないが、ある種のカリスマ性があり、信奉者も多いのだとか。
高位魔法使いで、全世代の女性達から圧倒的な支持がある。
同レベルの女性達から常に後妻の釣書が届いていると言う。
なんだが凄い人。
外での評価だけを見ればそう思う。
一見完璧な様に見えるが、それは外に対してだけで内には向かない。
私にとってガードナー侯爵は、遠い存在であり、それでいて恐怖を植え付けられていた人だった。
けれど、時が私を変えてくれたのだろう。こうやって目を合わせても特に何も感じない。
ガードナー侯爵は私にとって過去の人になったのだろう。
こんなに近くで顔を見たのは、あの時以来だ。
私が孤独と恐怖と寂しさと苛まれていた頃……けれど、それも昔の話。
「名乗るほどの者ではありませんが……シアと申します」
私はしっかりと侯爵の顔を見て答えた。
侯爵は、目を眇めて何やら見極めている。
少し笑みを浮かべた様に見える顔は、多くの女性なら見惚れるのだろうが生憎私にはない。
ほんの数秒だろうが、無言の見つめ合いがあった。
先に視線を落としたのは侯爵の方で、私の全身を素早く見回し声をかけてきた。
「素晴らしいローブですね。このアーレン王国でも見た事がない」
「これは特注でして、世界に一つしかない物です。
最新の保護魔法がかけられています。
素晴らしいでしょう?」
「えぇ。とても素晴らしいと思います。弱き者にとってはね」
「……」
「お時間をとらせました。それでは」
侯爵は、私の返事を待たず。ゆったりとだが、先程よりも早く歩きはじめた。
ほら、早く歩ける。やっぱりわざとじゃん。
「……」
多分私はお眼鏡に掛からなかったのだろう。
ローザの事は気に食わないだろうが、一々拘ったりしないらしい。
魔道具に頼らなければ、自分の身を護ることすら難しいと見下したみたいだ。侯爵は魔力至上主義の筆頭であったな……。と思いつつ、早めに通り過ぎてくれてほっとした。
侯爵が去っていき、私達も足早に自室へと急いだ。
とりあえず、一息したかった。
自室の扉を開けると、クリードが言ったように部屋はそのまま残されていた。手入れもされている様だ。
小さい頃から与えられた部屋は、婚約者候補だったのもあり、かなり広い。ただ、物はほとんど置かれていない。
最低限の家具やカーテンは特に凝ったものではなかったけれど、品のある見慣れた色は落ち着く。
私はソファーに腰掛けた。
「大丈夫か?」
どっと疲れている私を見てダグラスが、声をかけてきた。
その言葉にキッと睨みをきかせる。
「ダグラスのせいで余計な事になったでしょう?」
「そうか? いずれにしてもいつかは出会う事だ。
早めに挨拶しておいて損はない。
当分こちらにいるのだろう?
それなら、後ろ盾が誰なのか明確にしておいた方がいい」
ダグラスは、飄々としていた。
私が誰の紐付きなのか(本当は紐付きじゃなくてマブダチだけど)知らせておくことは大事な事らしい。
ダグラスがそれを説明する為にわざと、あの様な態度をとったのだとか?
そうでもない限り跪く事はないらしい。
なんだか毒気を抜かされる。
「そんなもの?」
「そんなもんだ。それにそのローブは……いや、何でもない」
他にも気になることがある様だが、言葉を濁してしまった。ダグラスには珍しい事なので深く追求するのはやめた。
今日はとりあえず疲れた。
私はダグラスを追い出し、一眠りするのだった。
完結まで毎日更新の予定です。
最後までお付き合いしていただければ幸いです。




