表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/44

29、誓い sideラルフ

金曜日、土曜日も更新しています。お読みでない方は前話、前前話からどうぞよろしくお願いします。


ドロドロ、イライラ、理不尽な話があります。地文でさらりと流しているつもりですが、想像すると辛いかも。ご注意を。

これはフィクションです。

苦手な方は回避しましょう。

このエピソードはラルフって前世も今世も大変だったんだな。という回です。

前世の回想はここまで!次話ようやく本編に戻ります!よろしくお願いします!!

「こんせでも、わたしからかあさんをうばうの?」


 バネッサからの言葉を聞いて衝撃を受けた。

 バネッサの前世の母は、病死として処理されているしそれは間違いない。ただ、救えた命だったのではないかと思う事は何度もあった。孫に対して申し訳ない気持ちと後ろめたさ、教育費として稼がないとと言い訳をして仕事に復帰して、孫から逃げた。妻に全ての養育を任せてしまったが為に、前世のバネッサには辛い思いをさせてしまった。



 それを忘れていた訳では無かったのに……。今世で初めて好きな人と結ばれた時……好きな人との子供なら今度こそ自分は子供と向き合えるだろうと思った。それで、アリシアがいなくなるのは分かっていたのに、それでも子供が欲しいと願ってしまったのは罪なのだろう。

 そんなつもりはなかったと言っても言い訳にもならない。


 この世界が前世の妹が書いた小説の世界だと気づいたのはローザが前世の妹だと気づいた時だ。原作の内容とはかなり違ってきているが、原作の最大のイベントは覆せないだろう。それならばアリシアがもうここには帰って来ないのは予想できる。バネッサから母を奪う事はわかっていたのに……。

 それでも想いが通じ合えたのが嬉しくて……2人の愛が本物だったと忘れたくなくて……形に残る宝物が欲しくなった。アリシアには未来の事は何も告げずに子供を作ったのは全て自分の責任だ。


 …………


 俺の前世の結婚は、曰く付きの結婚だった。

 戦後、間も無くして貧乏子沢山の7人兄弟の6番目としで生まれた。俺は次男でスペアとして育てられたが、歳の離れた兄が結婚して子供が出来ると俺への両親の興味は薄れ、中卒で働きに行くように言われた。

 上京して働き始めたが学歴のない俺はがむしゃらに働いてもそれ程多くのお金を貰えなかった。俺は身長もそこまで高くない。昔は3高が女性の求める理想の結婚相手だった。所謂高収入、高学歴、高身長だ。

 俺はどれ一つ当てはまらない。勿論女性は寄ってこなかったし、俺からいっても門前払いばかりだった。


 そんな自分を打破しようと、向上心だけはあったから仕事は何でも覚えたし、人の嫌がることも積極的に受けた。仕事の内容は重くなるばかりなのに、給与は学歴がものを言う年功序列形式の会社だったので結局給与は増えなかった。


 全てが嫌になりかけた時に、得意先の社長からある提案を受ける。


「娘をもらってくれないか?」


 俺の時代まだお見合いでの結婚も多数あった。こんな提案を受けたら、かなり喜ぶ人が殆どだ。社長令嬢を娶るとなるとその会社の役員や重役になれる可能性が高い。棚からぼたもちと言われるくらいのすごい事だ。けれどそれは曰く付きの結婚だった。


 その令嬢は既に妊娠しており、その子供を自分の実子として育てるなら結婚を認め、会社の役員に抜擢すると言う内容だった。今の時代なら授かり婚として認められているだろうが、その時代は子供の順番が前後するなんあり得ない。非難される道しか無い状態の結婚だ。


 それでも役員に抜擢されれば将来は安泰。令嬢は1人娘なので将来は社長になるかも知れない。どうせ今のままじゃ結婚なんて出来ない。それなら、この結婚を受けるのが最良だとこのときは思っていた。


 俺が返事をすると、妊娠の時期を誤魔化すように相手方主導ですぐに結納と結婚式を執り行った。お腹大きくなる前に全てを終わらせようという魂胆だ。初めて会った令嬢は、気が強そうで俺の顔と身長に文句を言ってはいたが、世間体を考えてこの結婚は了承しているらしい。


 俺は会社の役員になり、出世はしたがそんな結婚はうまく行くはずもなく、仮面夫婦のようになっていた。長女が生まれても、自分の子ではない為かどこか実感がわかなかった。その時代は男は外で仕事、女は家庭をが主流だったので仕事ばかりに打ち込む俺に、あまり違和感を覚えられずに済んだのは僥倖だった。ただ、社長……義父からは2人目をせっつかれていて、妻も仕方なく……という感じで子作りをした。


 2人目が産まれた。2人目も女の子。自分の子だと思う……。妻は放浪癖があった……。正直に言えば怪しいところもあったがそこは信じるしかなかった。結局はお互い歩み寄る事もなく、仮面夫婦のまま義父の手前、妻には強くも出られず、ずるずる結婚生活は続いた。


 義父が亡くなり俺が社長になっても株式は妻が握っており、手綱を握られながらの生活だった。後継には長女の夫にと普段経営に口を出さない妻が言い放つ。どんな人物だったとしても受け入れるしか出来なかった。ただ長女の夫は、出来た人間だったのでこれからも会社は安泰だと安堵したのだ。


 定年後は退職金で家を建てた。勿論妻の意見が採用される。家の内装には妻が拘ったが、建物の強度や構造には興味がないみたいなのでそこは自分が拘った。俺は限られた範囲で限られた裁量を最大限頑張る。それがもう身についてしまっていた。それでも終の住処は、個人の部屋を作ったので各々が快適に暮らせたと思う。


 これで悠々自適にと思っていたら、次女が病気で亡くなった。青天の霹靂だった。次女は、環境から周りに頼る事が出来なかったのだろう。無理がたたったのではないかと事だった。次女には幼い子供が2人いた。次女の夫は激務で子育てには不向き。


 妻は世間体を気にして引き取ることを決めたみたいだが、正輝は嫌だと言い出した。その理由はなんとなくわかった……。下の子、正輝は顔が俺にそっくりだったからだろうと予想はついた。そう、この時初めて次女は自分の子だと思ったのだ。なんと薄情な親だと自分でも思う。最低な自分だ。

 上の子は女の子で妻家系だったので引き取る事にしたようだが、何かの鬱憤を晴らすかのように妻は自分の思い通りに育てようとする。いや自分達の娘も同じように育てていたのだと後から気づく。それ程自分は家庭を省みなかったのだ。そんな妻に何か言えれば良かったが、言えるはずもなく、俺は別の仕事を探し、仕事に逃げて、ただただ大きな問題が起きない事を祈るばかりだった。


 結局、俺は妻が亡くなるまで言い返す事は出来ず、自分の意見を押し殺して生活していた。だから妻が亡くなった後は羽目を外したのは、必然だろう。こんな人達に育てられた孫なのに、良い子に育ちこんな俺にも愛のある説教してくれる。

 今なら愛とわかるが当時は鬱陶しくて更に羽目を外した。

 いきなりそんな事をすれば、歳も歳だし、ガタが来ていたのもあって俺はあっという間に亡くなった。


 …………


 生まれ変わっても俺は、何も持たない半端者だった。生まれた国では魔力が全て、生まれた時から、階級が決められ、努力したとしても覆す事は難しい世の中だ。今世でも俺は底辺だった。

 俺の人生はなんなんだ。

 自分が嫌になり、腐っていったのは言うまでもない。

 そこでアリシアに出会い本当の愛を知った。

 アリシアとはかなりの魔力差がある。それでも報われない愛だとしても、アリシアの為になる事が少しでもあるならと必死で努力した。

 報われないと思っていた愛が、両思いになり、バネッサが生まれた時、これが無償の愛なのだと気づく。

 それに……姿形が全く違うのに、前世の孫だとすぐにわかった。

 もう一度、孫がチャンスをくれたのだと思った。今度こそどんなに嫌われてもバネッサを愛そう。そう心に誓った。




 今更事情を言っても、こんな俺だから同情を引こうとか、許して欲しいとかは言わない。ただ懺悔したかったのだ。前世の孫の愛を踏み躙った事、今世でも母親を奪ってしまった事。全てはもう遅かった。


 俺はバネッサを抱きしめ、ただ謝る事しか出来なかった。

 どれくらい謝り続けたのだろう。不意にバネッサが息を吐く。


おじいちゃん(・・・・・・)のそんなはなし、しらなかった。まぁでもそれはいいわけ……いいわけだけれどなっとくもした。はぁ、わたしもいっしょだよ。

……これからわたし、いろいろしたいことあるの。

まさきのこともしんぱいだし、てつだってくれる?」


 呆れたように言うバネッサはやはり孫で……とても優しい子だった。


「勿論、何でもする」


 俺はバネッサのためなら犯罪でも何でもする様な雰囲気を感じ取ったのかバネッサはこう返してきた。


「はいはい、ごうほうなことだけにしようね」


 やはり、優しいバネッサだった。アリシアが1番なのはこれからも変わらない……けれどこれからはバネッサのために生きる。バネッサが俺の生きる希望だ。

次は水曜日の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 25話でバネッサは「こんせでも、わたしから、ははをうばうの?」 と言っていましたがこの話では「こんせでも、わたしから、かあさんをうばうの?」 になってます。……ははとかあさんどちらでし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ