2、無理難題をふっかける
「あー。わかった。旅に出るのはわかったからちょっと待って……違うって、時間稼ぎをするつもりはないから」
ダグラスは諦観していたが、すぐに気を取り直して、私に待つ様に言う。私がムッとすると、今度は呆れた様に、ため息を吐いて落ち着かせようとする。
いつものパターンだ。こうやって宥めて私の意見を変えようとするのだ。今日は問屋が卸しませんから!!
私が更に睨むと引き止めるつもりはないらしい。
このパターンは私が一度決めたことを覆さないことを知ってるからだ。
流石ダグラス私の事をよくわかっているわ!
何やら空間魔法の中から、取り出してこちらに近づいてきた。
私が首を傾げて待っていると、優しく手を取られた。そして、手首にシンプルなブレスレットをつけられた。
「これは何?」
「あー。うーん。お守りみたいなものかな?
一級の防御魔法がかけてあるみたいだよ。他にも色々あるみたいだけど、俺が作ってないから、知らない」
シンプルで軽くて、邪魔にはならないが光沢もあり高級そう……センスのいい人が作ったに違いない。しかも一級の防御……作り手は限られる。
私はブレスレットを取ろうとするが何故か抜けない。ブレスレット自体は余裕があるのに何故か手から抜けないのだ! 何故!?
私は開いた口が塞がらなかった。ダグラスもちょっと困った顔をしている。
「クリードが、もしアリシアがまた突拍子もないことを考え出したら、これをつけてくれって言われてたから。俺はそれを言われた通りにしただけ」
「へ? もしかしてこれって、クリードに居場所丸わかりとか?」
「さぁ? 鑑定してみれば? 俺の鑑定レベルでは良くわからなかった」
ダグラスは両手を上げて、降参ポーズをした。
ええっとつまり、クリードは私が失踪することを予見していた? 私の行動パターン分かりすぎる?
さすが長年の幼馴染と言える。そして未来の国王だ。現国王の一人息子だからと奢る事なく、聡明で革新的な判断も出来る。そしてとっても優しいのだ。
そう、つい先日、私の婚約者になったクリードだ。
そんな私を良く知っている王子との結婚に何が不満なのかって?
そう言う問題じゃないのよ。とにかく婚約破棄しないといけないの。
と言うことで首輪をつけられてしまった様な気がしたが、旅に出る事の許可は出たのだ。
あれ? 私って成人してるのに許可いる?
その後いくつか旅に出る注意点をしつこく言われ(子供の遠足じゃないのに!!)、ようやく出発だ。
はて? ちょっと納得いかないが、長居していると更に色々言われそうだったのですぐに出発した。
「はぁ、困った子だな……まぁ思う様にすればいいさ。そこがアリシアの良いとこだ」
と何処か諦めと、そして呆れつつも少し笑った様な言い方に何故か背中を押された様な気がした。なんだかんだダグラスも優しいのだ。時々口が悪いけどね!!
私がただ逃げるだけでは、王族問題は解決するわけでは無い。ローザだけに負担を強いる訳にもいかない。
何とかできないか、ローザには及ばないが私も考えるのだ。いや、私の考えじゃ難しいので、あやつを頼ろう!!
まずは外国にいる友人? 腐れ縁? の所に行って頼み事をしよう!
あやつは、なんだかんだ言って無茶を可能にする奴だからね。私の無茶は、時間がかかるだろうし、旅行前に頼んでいかなければ!
私はあやつの顔を浮かべて転移した。
…………
「いや……。あのさ。物凄く俺を買ってくれてるのは、わかるけどね。それはちょっと嬉しいんだけど、俺は、まだ見習いだから。そんな前代未聞の魔道具なんか作れません。そんなのあったらアーレン王国は今、苦労してないだろ?」
目の前にいるのは困った顔の青年だ。青年は幼い子を諭す様に、優しく……だがきっぱりと否定の言葉を口にする。
「へ? 何で? ラルフなら作れるでしょ?
魔力差があっても安全に妊娠出産を出来る魔道具!!」
私は、何故否定の言葉が出たのかわからない。彼は凄い人なので出来るはずだ。彼のライトブラウンの髪は少しウェーブが掛かっており柔らかで、目は淡いグリーンの様な色で優しげな印象なのだ。
うん! その優しさで、私の願いを叶えてくれそうだよね?
「その自信満々の根拠をこっちが、教えてくれ!」
何故か怒られてしまった。
今私がいるのは、アーレン王国に隣接したルルーシオ王国のジェブと呼ばれる小さな港町だ。
港町の小高い丘を登った先にある大きな屋敷に来たのはつい先ほどだった。
目の前にいる彼……ラルフは魔道具師になる為にここの主人に弟子入りした。まだ見習いらしいが、今まで私の無理難題を結構な確率で成し遂げて来た彼なら、きっと今回のお願いも聞き届けてくれるはずだった。
なのに、ラルフの返事は、ノーだった。
はて? ラルフなら出来るでしょう?
「ラルフが、魔力のレベル上げの研究をしていたの知ってるよ?
今のレベルを見ると、研究に成功したんでしょ??
魔道具じゃなくてもいいから、薬草なり、ポーションなりで作って欲しいな!」
ラルフは私の言葉を聞いて、目を見開いで驚いていた。
「お前、俺の魔法レベル鑑定できたのか? 何重にもプロテクトかけていたのに!?」
「そうなの? よくわかんないけど、鑑定できてるよ? レベル38なんて、中位魔法使いなったんだね!!
おめでとう!!」
私はよくわからないので首を傾げた。
普通に鑑定しただけなのに、驚かれても困る。
「…………。勝手に人のレベル鑑定するな!
はぁ……俺がかけてた見せかけのレベルまで看破して、本当のレベルを言い当てるなんて……。
やっぱりアリシアの魔法は天才的だな。
技術的な事は一切わかっていない様だが……」
ラルフは何処か、諦観する様に遠くを見ていた。よくわからないが誉められている。
誉められると気分がいいのでラルフを褒めて持ち上げてみる。そうすればきっとやってくれるはずだ。そして何とかYESを言わせるのだ!!
「半端者から中位魔法使いになれたラルフなら、王位魔法使いになるのも簡単でしょ? 流石ラルフ! 何でもできる!!」
煽てたはずなのに、物凄く白い目で見られた。
子供の頃はこれで結構やってくれたんだけどな。
大人になってしまったラルフ……残念だ。
なので、方向転換して、必死にお願い&提案してみる。私だって少しは考えてるんだよ?
「……う〜ん。別に魔道具だけで、なんとかしろとはいってないわよ? 色んなことを掛け合わせてさ? それに妊娠中だけでも良いの!
例えば、私の魔力をローザに与えて、妊娠中は王位魔法使いのレベルになれば良いのよ!!
中位魔法使いなれたラルフなら王位魔法使いもなれるんじゃ? 簡単だって!」
「中位と王位の差はありすぎるだろ!!
やっぱりその魔道具は、ローザの為か……アリシア自身の為じゃ無いんだな……。 はぁ、まぁアリシアらしいな」
ラルフからの鋭いツッコミを受けた。中々うまくいかない。作ってもらわなければ困るのだ。
何故かラルフは可哀想な子を見る様な顔をした後、次は天使の様な笑みを見せて来た。
ラルフの天使の笑みを見てるとなんでも許しちゃう気になる……。
そして私はラルフに頭を撫でられたのだった。
癒される〜。
はっ! これはもしかして宥めて諦めさせる作戦!?
そうは問屋が卸しませんよ!!