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28、前世 後編 sideバネッサ

昨日も更新しています。お読みでない方はそちらからよろしくお願いします。


育児ノイローゼ思わせる話が出てきます。

苦手な方はブラウザバックをお願いします。

読まなくても本編には殆ど影響はない筈です。

無理せず、本編まで読み飛ばしましょう。

次話はルルーシオ王国にいるバネッサとラルフの話に戻ります。


 

 煙がどんどん濃くなっていく。なるべく低く姿勢を保っているが、酸素が薄くなってきたのか意識が朦朧としてきた。


 あぁ……私の人生もここまでかなと思っているとクローゼットから光が漏れていることに気がついた。それは弟も同じようで弟は姿勢を低く保ったままクローゼットに近づき、扉を開けた。すると眩い光が広がりあっという間に全てを飲み込んだ。




 真っ白な空間の中に私と弟……弟の手に握られた一冊の本があった。その本はキラキラと光ると弟の手から離れ、パラパラとページがめくれる。中盤で捲るのが止まりそこから光り輝く女神の様な人が姿を現した。

 色素の薄い黄金に輝く姿は女神としか言いようがなかった。全てが透き通っていて、光り輝いている。顔の造形も見たこともないように整っていて、目もかなり大きい。優しくにこりと微笑むと想像した以上に清らかな優しい声音が私の耳に入ってきた。


「あぁ、私の愛し子達、助けるのが遅くなってごめんなさいね。もうここは安全だから大丈夫」


 何かテーマパークのイベントに来てたっけ? と逃避しつつ呆然と眺めていると、弟は気を遣って私の側まで来てから言葉を発した。弟はかなり落ち着いているように見えた。


「貴方は誰で、ここはどこですか?」


「私は時空を司る女神、ラウムエスパレス。ここは時も空間も何もない『無』の世界です。強いて言うなら私の住んでる場所?かしら? ふふふ。」


 ふわりと首を傾げるとそれに合わせてキラキラ粒子が舞う。それが幻想的で神々しくここが異次元の世界なのだと改めて感じさせた。私は単純に綺麗な人に見入ってしまっていたのだが、弟は冷静だった。だってさ、現実逃避するしかないよね?


「これから俺たちはどうなるのですか?」


「どうにでも、貴方達が望む世界へ導きますよ。なんなら1から貴方達のためだけの世界を作ってあげることも可能よ」


 抑揚のない弟の問いに気分を害することも無く、優しく慈しむように女神様は答えてくれる。

 望む世界……そう言われてもピンと来ない。元々人生いつも諦めていた私に何かを望むなんて……。1から作るなんて尚更何も思い浮かばない。私は弟をチラリと見た。

 弟は私の視線に気がついたようで、今度は小さな声で私に語りかけた。


「この世界が現実かはさておいて、今の話が本当なら姉さんはどうしたい?」


「どうしたいって……正直よくわからない。望む世界ってなんなんだろ? これ……現実なの? 何も思いつかない。

 正輝は? 何かないの?」


「俺は……」


 珍しく弟は、目を彷徨わせ言い淀んでいる。何か希望がありそうなのに口にしない。あまり付き合いが長い訳ではないがかなり遠慮しているようだ。どうやら私にも関わる事らしい。私には正直希望はないと言うか思考が停止しているので、弟の思っている事を聞きたかった。じっと私が見つめていると、一度小さくため息を吐いてから、語り出した。


「姉さんは気になった事ない? 母さんがなんで死んだのか?」


「えっ? うん。それは……でも誰も教えてくれなくて……」


「多分だけれど母さん、過労と育児ノイローゼだったんじゃないかなって思うんだ」


「えっ?」


「きっと俺が生まれたせいで母さんが死んだんじゃないかって……」


 弟は顔を歪め今にも泣きそうだった。確かに母親の話を聞くと真面目で手抜きが苦手そうだった。幼い子供2人、父親は仕事が忙しくとても子育てに協力していたとは思えない。母の性格から全てを完璧にしようとして、頑張りすぎた可能性は高い。それに母が亡くなったと時はちょうど大規模感染症が流行っていた時だ。知らない土地で誰にも迷惑をかけたくなくて全てを1人で抱え込んで……喘息持ちだった小柄な母は病弱とまでは言われてなかったが、その可能性は充分にある。私自身そう考えた時もある。

 ただ、例えそうだとしても、弟の責任ではない。どうしても弟の責任と言うなら私の責任でもある。それならこれは2人で背負うものだ。


「実際はどうかわからない。けれど、もしそれが本当だったとしても正輝の責任じゃない。産むのを決めたのも両親の判断だよ。

 もし、何か状況が変わって母さんが大変だったのなら、周りに助けを求めるべきだった。何か理由があって、助けを求められなかったのかもしれないけれど……。

 それでも、もう一度言うけれど、正輝の責任じゃない。

 どうしても、責任を感じるなら、私も同じ責任があるでしょう? 姉弟なんだから! それなら私も一緒に背負う」


 弟はずっとこんな事を考えていたのだろうか?

 爽やかな笑みの下には、こんな苦痛を抱えていたのだと思うともっと姉弟で話し合っていれば良かったと思う。

 思わず私は弟を抱きしめた。


「うん。責任はないとそう思おうとするんだけれど……どうしても割り切れなくて……。

 俺……知りたいんだ。怖いけれど……母さんがどう思っていたか知りたい。

 だから母さんが俺たちを産んだ時代に行きたいんだ。ダメかな?」


「それは出来ません。同じ魂が同じ時代に2人いることは女神であっても出来ないのです。それは諦めてください」


 弟の問いに私が応える前に、女神様が口を挟んだ。

 弟の決死の覚悟で言った言葉を秒で捻り潰した……。ちょっと私はムッとする。弟はそれを聞いてあきらめムードだ。

 今度は私がしっかりしないと。


「じゃぁどういう状況なら可能なの?」


「そうですね。今貴方達のお母様の魂は、次代へ転生する為の休眠期間にいます。まだ、前世の記憶も削除されていない状態。魂だけをこちらに呼んでお話しするのは可能ですよ?」


 特に私の不機嫌さには目もくれず、女神は綺麗な顔を少し傾げ思案すると、対話の場を持たせてくれるという。魂は小さな光る玉のようなもらしいので表情等はわからない。自分の子に面と向かって本音を言えるだろうか? 難しいと思う。弟を見る限り上部だけの答えなど必要としていないのは明白だ。


「それじゃぁ、本音を聞けるとは限らないじゃない」


「では記憶を持ったまま転生していただいて、友人になり折を見てお話ししてみれば如何かしら? 

 無理にでも聞き出したいのなら、魔法のある世界に転生して記憶を覗く事も、自白させる事も可能ですわよ?」


 なんと恐ろしい事をさらりと言う。人の記憶を勝手に除くなんてまして、自白? それはちょっと……。私が言いあぐねていると今度は弟が話し出した。


「無理に記憶を覗きたくはないけれど……。転生して小さいうちは、小さな体に引っ張られる形で思考も軽くなると言われている。本音は聞きやすいのかと思うけれどどうだろう?」


「そうですね。その傾向はあると思います」


「なら……記憶を持ったまま俺と母さんを、同じ世界の同じ時代に転生させてくれないか? 出来れば俺が先に兄か近しい人物として転生しておきたい」


「えぇ、勿論可能ですよ。最終手段として魔法を扱える世界に転生しましょう。あっ、ちょうどいい本がここにありますわ。貴方達の大叔母様が書かれた御本ですわ。

今回もこの本が有ったから貴方達を助ける事が出来たのですよ? 私の魔力の栞をはさんでおいて良かったわ。

ふふふ。大叔母様はとても面白い方でしたのよ? 私はファンだったのです」


 大叔母様とは、交流はあまりなかったが、そんな売れている作家さんだったのだろうか? よく知らないが、きちんと製本されているし、女神様がファンだと言うのだから良い話なのだろう。それに私達はメインのキャラクターではなくて、小説世界観を借りるだけで少し時代を後にするらしい。それなら小説になるような波瀾万丈にならないだろう……と思う。

 母より前に転生するのは、自分達の思考も幼い自分に引っ張られると思い通りに行かないためだ。


「姉さんはそれで良いの? 俺の意見ばっかりだけれど、姉さんは別の世界で楽しくやっても良いんだよ?

 俺は……母さんの本音を知りたいだけのただの自己満足なんだ。もし母さんの思いを知って何かできる事があるならしたいと思っているし、償いたいと言うか……。だから姉さんまで巻き込みたくないよ」


「ううん。母さんがどう思っていたのか知りたいのは私も同じ。それに私はどんな結果であっても、妹になる母さんを甘やかしたいかな? それに正輝とも仲良くしたいな!

 ねぇ、私がまた姉をしても良い? 今世では姉らしい事全然出来なかったし、今度は仲良く姉弟としてやっていきたいんだけど」


 弟が負い目を感じないように明るく言ってみた。今言ったことは全て本心だ。それに、万一弟が母の本心を聞いてショックを受けた時に気持ちを分かち合える人物は必要だと思う。それは私も同じだ。


 弟は私の言葉に驚いた後、くしゃりと顔を歪めて泣きそうに笑った。


「俺も……また姉さんが姉さんでいてくれると心強いよ」

 

弟にそう言われて私は初めて弟としっかり向き合えた気がした。


「ふふふ。家族愛……とても素敵ですわ。さすが私が見つけた愛し子の子孫たち。他の人たちにも、もう一度今世の事を向き合ってもらいましょうね?」


私は弟との今後の話に夢中で、最後の女神様の言葉は、聞いていなかった。



この話はフィクションです。

母親の死は決して子供のせいではありません。


女神様も少し変わっている方なのです。

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