26、前世 前編 sideバネッサ
バネッサの前世の回想になります。
暗い話があります。
無理な方はブラウザバックをお願いします。
今の予定では「前世sideバネッサ」を読まなくても、それほど困らないように進めるつもりでいます。
無理な方は、バネッサの前世は大変だったんだな。だから不思議な赤ちゃんになったんだ。と思っていただければと思います。
これから何話か、重たい話が続く予定です。折角なので読んでいただけると嬉しいですが、無理はなさらずによろしくお願いします。
私とラルフは前世からの腐れ縁だ。前世では父では無く祖父と孫の関係だった。祖父と孫の関係だから甘やかされていたのかと言えばそうではない。前世では私の育ての親でもあるのだ。前世の祖父は今世とは違い、無口で、時折する会話は厳しいものだった。まぁ普段は会話らしい会話をしていなかったが、私を幼少期の頃でも大人のように常に接している人だった。まぁ忙しい人でもあったので基本は無関心で、そこまで実害は無かったけれど。
本来なら私の両親が子供を見るはずであるが、母は訳あって亡くなり、父親は転勤族で激務、営業職で取引先の要望によって時間外勤務も沢山ある仕事をしている。
とても子供を見れるような生活ではなかったので、私は母方の祖父母に引き取られた。祖父母と私を見比べると顔はあまり似ていない。祖父母は日本人特有の薄い顔で、パーツのバランスは良いのだが、背が低く、足も短めなので何故か太ってなくてもぽっちゃり見える残念体型だ。
私は顔は父親似なのだろう。二重のタレ目、目だけ見れば結構いけてると思う。ただパーツは父親似だが、輪郭、体型は祖父母にそっくりでずんぐりむっくりになった。愛嬌があると言われれば聞こえが良いが、30すぎても恋愛経験がなかった私……後は想像にお任せする。
母が亡くなった時、産まれて間もない正輝と言う弟がいたけれど、年老いた祖父母体力的にキツく流石に2人は見れないと弟は父方の祖父母にバラバラに引き取られる事になった。母が亡くなったのは私が3歳の頃、ギリギリ母の面影を覚えているようないないような微妙な年だ。
実際、断片的に覚えていることはあるけれど実際にあったかどうか定かじゃない。自分の願望や夢なんかじゃないかなと思う時もある。私が覚えている母は、小柄で色白、薄い顔なので美人ではないが笑顔がとても素敵な女性、私と一緒でぽっちゃりで周りを朗らかにしてくれる存在だったと思ってる。
小さい子は慣れるのも早い。というか祖父母の家の生活にも慣れるしか無かった。祖父母は持ち家で、定年退職を期に家を買ったので比較的新しかった。本来なら全て洋室の部屋はフローリングで掃除もしやすそうだが、とにかく物が多い。平均的な間取りのはずが思春期になっても私の部屋は無かった。
物が捨てられない祖母は、他にも色々問題があったし、私を思い通りしようとする人だった。祖父は前世では祖母第一主義だった為、家の中では祖母の独壇場。色んな困難があったけれど、社会人として一人前に育ててくれた事は感謝している。
ただ、私はどこかで母の愛情を欲していたのだと思う。祖父母も愛情が無かったわけではないだろうが、あまり表に出なかった。こう言う時、母ならどうだったのだろうと、ふとした瞬間に考えてしまうのだ。私は母の事が知りたかったが皆、母の話になると口を閉ざす。ただ、とても真面目で息抜きや手抜きをするのが苦手なタイプだったとは、断片的な話を繋ぎ合わせると予想できた。
皆んなが言葉を濁すと言う事は、私達が原因で、母は亡くなった可能性があるのではないかと考えた。けれど決定的な証拠も無くて……モヤモヤしていると恋愛にも前向きに慣れなくて……。成人後、仕事は順調だったし、こう言う人生も悪くないかと思った。ちょっと心配な祖父母もいたし、暇になる事は無く結構忙しい日々だった。
それは私が30を過ぎた頃、祖父母も天寿を全うしてお迎えが来た。立て続けに亡くなった祖父母達のいない家は、私が片付けたのもあってとても広く感じた。私が暮らし始めたときは比較的新しかったが、今では年季の入ったものが多くなり、色々修繕が必要になってくる頃だ。あの慌しかった日々は大変であったけれど充実した日々でもあったのだと改めて思う。
私は突然1人になってしまった……。まぁ祖母は元々体調が悪かったのもあり心の準備はしていた。祖母が亡くなった後、寂しかったのか祖父は羽目を外して、生活が荒れ始め、あっという間に入院することになった。突然だったので驚いたものだ。そのまま呆気なく亡くなったので心の準備もままならなかった。祖母を看取るまではと気丈に振る舞っていたみたいだけれど祖母が亡くなると本当にあっけなく……。祖母よりも、7つ上の祖父は平均寿命は超えてしたし、先生からも年齢を考慮すると延命は……と言われていたので仕方のない事なのだろう。
1人になったと言ったが、正確には父と弟がいる。父親は私達に合わせる顔がないのか連絡すらままならないし、弟は仲が特別悪い訳ではないが、別々に育ったのと性別の違いもあり普段は疎遠である。今回は祖父母が亡くなったので財産分与の話がある。相続人全員の話し合いの前に、姉弟間のすり合わせをしようと今夜、弟がこの家に来る予定だ。次の日にはもう1人の相続人である伯母もやってくる。正直気が重い……。弟はともかく、もう1人の相続人の母の姉がいるが中々強欲なのだ。きっとこの家も私は追い出されるのだろう。祖父母の介護にも参加もせず、祖父母の葬儀の準備も遺品の片付けも全て私に押し付けたのに、取れるものは想像以上にとってくる。
チラリと聞いた話だが、この家は何故か伯母名義になっているらしい。そう言うところは抜け目がない。
夜の7時ごろ自宅に弟が訪ねてきた。葬儀の時以来だが、今日は仕事帰りそのままなのか、スーツをきているためなんだか初めましてのような気がする。短めの髪を綺麗にセットし、イケメンではないが人好きするような爽やかな笑みをたたえた顔は、仕事でも社会でもうまく渡ってきたのだろう。ちらっと聞いた話、弟も幼少期は苦労したようだ。
弟は母似で日本人の薄い顔だがバランスが良く色白、輪郭、身長は父方に似たのか小顔ですらっと高身長だ。全体的に見ると私のタイプではないが、モテるのではないかと思う。
対して私は父に似てパーツは綺麗だが、丸顔で小柄で太ってはいないのにぽっちゃり見える残念体型……。両親の別々の部分を取ったのか、パッと見た感じ私達は似ているとは言えない。
ただ、親戚の人たちから見ると雰囲気と目をくしゃっとした笑顔がそっくりらしい? 本当か?
弟との話し合いは思った以上に簡単で、すぐに済んだ。
弟は特に争うつまりはなく、財産放棄すらしてもいいと思っているようだ。ただ、伯母の話を聞いて、それなら私に協力するよと頼もしい返事を貰った。酒類とツマミを嗜みながらの話し合いだったので、和やかな雰囲気だった。こんなに長く話したのは初めてだったけれど、中々悪くない。こんな事ならもっと前から交流しておけば良かったと思う。
弟は結構良い企業に勤めている。そしてなかなか高収入らしい。母方の祖父母の財産はこの家とわずかな現金なので揉めてまで欲しくはないのだろう。父方の祖父母は現在施設に入所していて、今は独身寮に住んでいるので維持管理の必要な家は必要ないらしい。高収入で、モテそうな弟が羨ましい……と何故か思わなかった。それ以上にどこか哀愁を漂わせる雰囲気が、話を進めていくと強くなり何かしら問題を抱えているのだろうと感じた。まぁ、友達よりも遠い姉には相談も出来ないだろうと思い、深くは聞かなかった。
「姉さんも、思い入れがそこまでないならこの家は手放した方がいいよ。この家は不思議な力を感じるから」
「えっ? 何それ? ちょっと怖いんだけど。幽霊? 宗教的な? 正輝そんなの好きだったっけ?」
ほろ酔い気分になり、気持ちもほぐれていた時に、弟は何でもないようにさらりとオカルトのような事を口にした。私も小説や漫画での異世界や魔法、超能力は好きだが、現実のものとは思ってない。そこは区別している。弟はマトモと言うか現実主義だと思っていたが、どうやら違うようだ。そういうのは現実ではないと思いつつ、なんの前振りもなく、身内に言われると心配になるのもヒトのサガで……。
「う〜ん。ちょっと違うけど……。
別に今まで住んで大丈夫なら問題ないのかな? 今のは忘れて」
部屋を見回した後、困ったように微笑みながら濁した弟の言動は、余計意味深に感じた。こう言う詐欺の商法があったなと思いつつ、何かしら変な壺でも買わされるのかと身構えたが、話はそれ以上膨らむ事はなかった。
やはり私達の家系は何かがおかしい。
そう言う私も融通がきかない少し変わり者だと言われている。私自身も少々捻くれ者である自覚はある。あの祖父母に育てられたのだから許して欲しい。こういう言い訳をするのが……と思いつつ、結構思考も偏ってるので私が普通かと言われれば普通じゃないかも知れない。家系的に独自の感性が強い者達の集まりなのだろう。




