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22、魔力交換

「魔力交換?」


 私は聞いたことが無かったので思わず聞き返してしまった。

 クリードの婚約者候補として10年以上、妃教育は受けていたがそんな話は一度もなかった。


「……アリシアはやっぱり知らなかったんだな。まぁ婚約者になってから知らされることらしい。アリシアは婚約式前に逃げ出したから知らないのも当然だ。……多分妃教育に出て来なかったんだと思う。それにローザ様だから問題があったと言うか……」


 ラルフの説明は歯切れが悪かった。多分、私が更に罪悪感を抱く内容なのだろう。それでも私は知る必要がある。ラルフに無理矢理聞き出した。


 どうやら、アーレン王国の結界に関する事なのだ。アーレン王国の全体を覆う結界は王族しか入れない秘密の場所があり、厳重に管理されている。

 そこに入れる王族の定義がかなり狭いのだ。

 結界を維持管理している王族と6大侯爵家の間に生まれた子のみ、結界の維持管理ができるとされているからだ。

 建国当時、王国は混乱が続いていて、信頼できる者しかし入れないようにする為の致し方ない処置だったらしい。

 ん? そこで疑問が浮かぶ。ローザだって侯爵令嬢だ。なんの問題もないのでは無いか?と思った。


「ローザだって侯爵令嬢じゃない。条件を満たしているはずだわ!」

「アリシアは知らなかったんだな。ローザ嬢は養子なんだ。生家は伯爵家だ」

「えっ……?」


 ローザはルクセル侯爵家の傍系にあたる伯爵家の生まれらしい。ルクセル侯爵家の傍系なので血筋的には問題ないとされていたが、婚約の儀式の一つである魔力交換でローザは拒絶されたらしく婚約が進んでないらしい。

 魔力交換の儀式とは、非公式に行われるため、ラルフも正確な情報はわからないが、6大侯爵家と王族で行われる儀式のため誰かが、意図的に妨害した可能性があると言う事だ。侯爵家直系の子供なら多少妨害されても、問題ないそうだが、ローザは血が薄かったために妨害に勝てず、そのせいでローザは体調を崩しているらしい。


「えっ? ローザは今体調悪いの? なんで教えてくれなかったの??」



「ローザ様から絶対にアリシアには言うなと念を押されていた。自分達でなんとかするから大丈夫だと……。アリシアが幸せならそれを壊したくないとも言われたよ」


「そんな……」


「……本当はアリシアを思うならアリシアに言うべきだと思ってた……俺自信がローザ様の言葉を理由に言うのを先送りしていただけだ。……ごめん」


 ラルフの言葉一つ一つ弱々しい……。何故言ってくれなかったのかと責める気持ちが無いわけではないが、ラルフもずっと心苦しかったのがありありとわかるので、抱え込ませてしまっていた申し訳なさと想いはグチャグチャだ。

 それにこんな事になった最初のきっかけを作ったのは私だ。

 私が逃げ出さなければ……。婚約破棄しなければ……こんな事にはなってなかった。私は逃げ出して幸せになって、ローザに負担を押し付けてしまっている。あの時はあれが最善だと自分では思っていた。妊娠出産さえなんとかなればあとはローザの方が適任だと……。ローザにこんなに負担のかかる事だとは知らなかった。けれど聞いてしまったら、私がすべき事は一つしかない。その前にどうして今になって話をしてくれたのか聞いておきたかった。


「どうして話してくれたの?」


「……バネッサに言われたんだ。ローザ様の事を話すべきだと」


「バネッサが?」


「そうだ。バネッサは……全てを理解した上で……話せばアリシアはここを離れるとわかっていて、それでもバネッサは行かせてあげるべきだと」


「…………」


 私は思わず、チャイルドベッドの方を見た。相変わらず、バネッサはぐっすり寝ているようで起きる気配はない。何やら、美味しい夢でも見ているのか、少し口元が空いていて涎を垂らしている。いつもは赤ちゃんらしからぬ姿なのに、今は何故か普通の赤ちゃん? 幼児らし過ぎで、不思議な気分だった。


「行くんだろ?」


 ラルフが少し震えた声で私に問いかける。

 言葉とは裏腹に抱きしめる力は強くなっていて、行かないで欲しいと行動が物語っている。

 ここに住むようになってラルフの愛情は日に日に増していた。ただ隠さなくなっただけだと照れながら言ってくれた時は恥ずかしさもあったけれど心が満たされた。私もそれに応えれるようにラルフに想いを伝えていた。

 たった数年……今はドキドキする様な関係ではないけれど、いや今でも時々ドキドキさせられる。それでも何というか日々過ごすうちにこれが家族なんだと安心できる場所なんだと思える。


 今の幸せな私があるのはラルフのお陰。……けれど、あの3人が地獄から救い出してくれなければそもそも今ここに私はいない。私にとってラルフもローザも大切な存在だ。天秤なんてかけれない。

 ラルフは行くなとは言わない……。全身で行くなと訴えてきてるけれど、言葉にはしないだろう。ラルフはこんな時にでも何か制約があるのだろうか? 結局私はラルフに与えられるばかりで、ラルフの抱えている問題を理解できてなかったのかもしれない……。私はラルフに寄り添えていたのだろうか? こんな時もラルフよりもローザを優先しようとする私はラルフに相応しくないのかなと自己嫌悪になる。

 でも……。


「私が逃げ出したせいでローザが苦しんでいる。行かない選択肢はないわ。ごめんね。ラルフはいつも私を優先してくれてたのに、私はラルフを優先出来なかった……」


「俺はわかっていて、アリシアの言葉を受け入れたんだ。アーレン王国に行くのは決まっていただろう? それが少し早まっただけだ」


 当初の予定では私がアーレン王国に行くのは、魔力差を埋める魔道具が完成して必要になるクリードとローザの結婚式前後位に帰れば良いと思っていた。けれどローザが苦しんでいるのなら一刻も早く行く必要がある。

 妨害しているのはガードナー侯爵家だろう……。なら私にも何か出来るはずだ。

 魔道具自体はほぼ完成している。あとは個別に調整するだけだ。ラルフがここを離れられない以上私が調整できるように、魔道具の耐久性も上げてもらっている。


「うん。私ちゃんと役割を果たしてくるよ。予定よりは早く行くから少し長くアーレン王国にいるけど、必ず帰ってくるから待っていてね」


「そうだね。……うん。ずっといつまでも待ってる」


 ラルフはとても辛そうに顔を歪めながらもなんとか笑顔を見せようとしていてそれがとても痛々しかった。今生の別れでは無いはずなのに、何故かラルフを見ているともう2度と会えないんじゃないかと思ってしまう。

 少なくともラルフはそう思っているような気がしてならなかった。




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