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21、誕生会後

 ラルフは小さく笑った後、優しく頭を撫でてくれた。


「ふっ……随分積極的だな。バネッサも1歳になったし、2人目のお誘いかな?」

 戯けたようにラルフは言った。冗談のような言い方だけれど、私が『そうだよ』って言えばそのままなだれ込んでしまいそうな甘い雰囲気だ。ワザとそんな話し方にして、確信に迫らないようにどこか逃げているラルフがいる。少しでも先延ばしにしようとしているのかな。これから私が、言い出すことを予感しているのだろう。私も急に確信をつくのは嫌だったので、他愛無い話から始めた。


「ふふ、それはまた今度かな。今日は誕生日会をしてよかったね。バネッサも楽しそうだったし、他の子供達もみんな笑顔だったわ」


 私が話題を変えてもさほど気にせず、頭を撫でる手も変わらない。


「あぁ、そうだな。心に残る最高の思い出だよ」


 ラルフの諦観じみた声に、更に寂しさを覚える。ラルフにとってこれからの未来にこれ以上最高の日はないような話し方だ。ラルフは時々全てを諦めて受け入れる事に慣れすぎている気がする。今と未来を考えて最適解を出すのに長けているせいだと思うけれど、その最適解はいつも自分の為じゃない。自分は後回しなのだ。自分にとって辛い事でも相手の為になるなら、それがラルフにとっての最適解になる。


 今回もラルフの中ではもう何かが決まってしまっている気がしてムッとした。それはラルフにとって辛い選択になるのだろう。ラルフの優しさは美徳で好きだけれど、夫婦なのだから話し合って決めたい。2人で考えれば違う答えが見つかるかもしれないじゃない!!


「もっとこれからも、沢山思い出作ればいいじゃない。

 これ以降ももっと最高な日が更新されていくよ?」


 私が言うとラルフは困ったような顔で、こちらを見ている。撫でている手もそのままだ。

 そうなればいいなという感情とこれから話す事でそれが難しい事を示すような表情に焦ったい気持ちになる。

 やっぱり私は湾曲な言い回しは苦手なので直球でいくことにした。


「アーレン王国で何かあったの?」


 私の問いに、ラルフはピクリと反応して手の動きが止まった。顔が歪んで今にも泣きそうに見えたが、直ぐに私をギュッと抱きしめて今は顔色は伺えない。この抱きしめ方はラルフが初めて好きだと言ってくれたあの状況と似ていた。縋るような抱きしめ方に安心してほしくて私も抱きしめ返す。

 やはりアーレン王国で何かあったのだろうと確信した。そう思いつつ私はラルフが話し出すのを待った。


「……アリシアには伝えてなかったけれど、アリシアとグリード王太子殿下の婚約解消が整ったのは半年ほど前なんだ。本来なら失踪した婚約者なんてすぐに婚約破棄になるはずだったんだけど、思っていた以上に難航したようだ。……アリシアの父親もかなり粘ったらしい」


「そう……」


「ごめん。アーレン王国での婚約解消が、まだなのに俺たちは結婚した。俺は知っていたのに……。本来ならアリシア言うべきなのは判っていたけれど、隠していた」


 私が、思っていた以上に婚約破棄は難しかったようだ。こんな時だけ父親面してくるあの人には吐き気がする。いや、もしかしたらあの人らしいのかもしれない。私と言う邪魔者を政治の駒として最大限利用したかったのかもしれない。

 私が王妃になったとしてもあの人の言う事なんて何一つ聞くつもりはなかったけどね。

 あの人にどんな思惑があったにせよ、時間がかかっても婚約破棄してくれて良かった。ローザとグリードには迷惑をかけてしまったのは申し訳ないと思う……。


 私がラルフに告白した時、まだ婚約破棄されていなかったのか……。正直にいえば言って欲しかった。私に出来る事があるかと言われれば無かった。むしろ私が出ていくことで余計にややこしくなるのは明白だから。そうかもしれないけれど、聞いておきたかった。私は両手でラルフの胸を推しラルフと距離をとった。申し訳なさそうな顔をしたラルフのほっぺを両方摘みグリグリした。ラルフが痛そうな顔をしているが、我慢しているようだ。

 甘んじで罰を受けているようなのだ。本当に水臭い。


 ただこれもラルフの優しさだと判る。ただ私を守りたかっただけ……。私が今の話を聞いたとしてもラルフと添い遂げるつもりなのは変わらなかったと思う。あの時にはもう、クリードへの気持ちは吹っ切れていたし、聞いたとしても気持ちは変わらない。ただ、罪悪感は生まれるだろうと思う。婚約破棄していない後ろめたさも出てくるだろう。そんな負の部分を全てラルフ1人で背負っていたのだ。私の心の負担を軽くするために。何か結婚で不都合が起きた時には、自分1人のせいだと、ラルフは言い出すつもりだったのだ。どこまでも私の為だ。ラルフの大馬鹿野郎!! 嬉しいような悲しいような相反する二つの感情に何も言い返せずにいた。


 私の手が止まると優しく手を下ろされて再び抱きしめられた。これから言う事が本題なのだろう。ラルフの抱きしめる腕に力がこもった。


「……アリシア自身が思っている以上にアーレン王国では重要な存在なんだ。まぁ、半年前に漸く婚約解消されてクリード王太子殿下とローザ様との婚約が整った。

 そこまでは良かったんだけど……どうやら王族の魔力交換がうまくいってないらしい」

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