20、不思議な赤ちゃん
現実ではこんな赤ちゃんはいません。これは創作です。
バネッサは本当に育てやすいと言うか手がかからない子だった。赤ちゃんといえば泣いて意思表示をするものだが、バネッサは生まれて数日であーとあうーをマスターして意思表示をして来た。あーはオムツ、あうーはお腹空いただ。
それ以外にも何か意思表示を考えているのか足をバタつかせたり、手をにぎにぎしている。が、上手くいかないのか少しムクれている時もある。そこは子供っぽくて可愛らしいが、それでも赤ちゃんらしさはない。
流石に何かおかしいとラルフに聞いてみるが、
「まぁ、個性だろう……?」
と曖昧な返事をされた。
個性で済まされる範囲なのか? と思うが、ラルフには何やら通じるものがあるのか、特に慌てた様子もない。
ただ、バネッサはラルフに世話をされるのを極度に嫌がった。生まれる前までは、ラルフはお世話する気満々だったので、オムツ替えの仕方やミルクの作り方、抱っこの仕方等、多くの事を先輩ママパパに教授してもらってた。
それなのにお風呂やオムツ替えや着替えはラルフにされるのは絶対に嫌なのかその時ばかりは、屋敷中に響く声で大泣きするのだった。ラルフは一度、諭すようにバネッサに語りかけてからチャレンジしようとした。が、予想通り大泣きされると申し訳なさそうに私にお願いしてくる。
あんなに練習したのに、娘に嫌がられるなんて心中は傷ついているのではとラルフを心配していたが、仕方がないと諦めている様だ。ただ、私の負担が多くなる事には申し訳ないみたいでなるべくそれ以外の事を率先してやってくれている。
「俺が不甲斐ないばかりにごめんな」
と申し訳なさそうに言っていたけれど、ラルフは私の出産に合わせて仕事を調整して、なるべく側にいてくれている。授乳後の抱っこや遊び相手、私が疲れて寝てしまっている時はバネッサにミルクをあげてくれていた時もあった。ラルフは十分に手伝ってくれている。
1ヶ月を過ぎてバネッサの外出許可が出た時は率先して連れ出してくれてるし、抱っこ自体はラルフでも嫌がらないので殆ど任せきりだ。バネッサとラルフのコミュニケーションは中々のようでラルフを手足の様に使い、あちこち散歩を楽しんでいるようだ。
私も産後の肥立は良い方みたいで、床上げも順調だ。
本で読んでいた赤ちゃんとは少し違うけれど、バネッサが可愛いのは変わりない。毎日があっという間に過ぎていて、それは充実した日々になっていた。
…………
楽しい時間はあっという間にすぎるものだ。気がついたらもうすぐバネッサが生まれて一年が経とうとしていた。この世界では3歳までは死亡率が高く、3歳まではお祝い行事がない。けれど、ラルフはせっかくだから1歳のお祝いをしたいと言い出した。
いつもより少し強引な計画に何やら予感めいた何かを思ったが、私は何も聞かずに、同意してパーティの計画を始めた。
パーティーの計画を子供達に話すと大喜びだった。準備も率先してやってくれている。
普段も、屋敷の子供達には誕生日パーティはあるが、いつもよりちょっと豪華な料理にプレゼントが定番だ。
けれどバネッサのパーティーは日頃遊んでくれている子供達や周りのみんなに感謝する1日にしたいと言うことになった。まぁワイワイみんなで騒ごうということである。
バネッサは甘え上手で癇癪がほとんどないので、子供達にも大人気なのだ。最近では舌足らずではあるが言葉も喋れるようになって来た。少し上から目線なのが気になるが、それでもいつの間にか私よりも子供達と仲良しである。成長も早めで、少し危なっかしいが走り回って子供達と遊んでいる。
パーティーの食事も服装も内装も凝るつもりだけれど、まだバネッサは1歳だ。バネッサは離乳食は進んでいるが、食事が豪華なだけでは面白くないと思った。プレゼントは何かおもちゃだとすぐに飽きてしまうかもしれないので、危なっかしいバネッサの為にある部屋を作った。子供達やバネッサがどんな反応をするのか今から楽しみだ。
誕生日当日、朝早くからパーティーの部屋は子供達によって可愛らしい花やこの日の為に用意した工作が所狭しと飾られている。
テーブルに綺麗な刺繍の入ったクロスがひかれており華やかな印象が増す。クロスの刺繍も子供達だ。
料理も勿論子供達と私達皆んなで作った。皆んなで作り上げるパーティーはほっこりする。
「「「お誕生日おめでとう!!」」」
「あーとー!!」(ありがとう)
誕生日会は昼食の時間帯に行った。
1人豪華に飾り付けられた誕生日席に着席しているバネッサに向かって皆でお祝いした。バネッサも誕生日を自覚しているのか満更ではないような様子でとても嬉しそうだ。
普段制限している甘いものも沢山あるのでをキラキラさせている。
和やかで和気藹々と進むパーティーはとてと楽しかった。
さて次はプレゼントだ。念入りに準備していた子供達用の遊び場だ。テニスが出来そうな位大きな部屋には壁と床にクッションを張り巡らしてあり、魔法でランダムに弾力を増してある。クッションにぶつかると包み込まれるように沈む時もあれば、弾かれてジャンプする時もある。予想ができない楽しさがあるのだ。端には大きな滑り台があったり、小さなお馬の乗り物もある。
壁や床が〝ふにゃむに”触感に子供達は興味津々で最初は壁に態と激突したりコロコロ転がったり感触を楽しんでいた。
ハリオお爺さんにも手伝ってもらいながら私とラルフで作った魔道具だが、試作段階で大人の私達でもかなり楽しかった。子供みたいはしゃいだのは内緒だ。見ていたハリオお爺さんには呆れられてしまったが……。
子供達が喜んでくれて何よりだった。
勿論、これからは他の子供達も出入り自由な場所だ。ぜひみんなで活用してもらいたい!!
普段大人びているバネッサも今回ばかりは子供達とはしゃいでいる。きゃっきゃしている子供達を見ていて計画して良かったと心から思った。
…………
パーティーも終わり勿論みんなで片付けをして、解散し各々が自分の部屋に帰っていく。バネッサも今日は疲れたのかチャイルドベッドで早めに就寝してぐっすり眠りこけていた。私とラルフも交代で湯浴みを済ませて今はベットでゆったりくつろいでいる。
パーティーはとても楽しかったが、終わった後は何だか少し寂しさが出てくる。甘えたくてラルフにギュッと抱きついた。




