19、出産
出産の話があります。さらっと流してるつもりですが、気になる方は注意ください。
妊娠はとても喜ばしい事だったけれど、中々思い通りにはいかない。
魔力自体は安定していて順調だった。妊娠中、ラルフに移行していた魔力をどうするか話し合ったが、戻した魔力が子供に影響を与えるかもしれないので、そのままの状態にした。何かあれば調節しようということになった。
心配した魔力は問題ない。けれど、一般的な妊娠でも物凄く困る事ではないが、体調不良はある。ラルフはそれをマイナートラブルと言った。
妊娠が確定した頃から、少しずつ胸焼けのような食欲が無くなってきた。悪阻というものらしい。今まで美味しかったものが体が受けつけない。辛かった。
この家の料理は本来とても美味しい。結婚してから知ったけれど子供達が輪番で作ってくれている。結婚してからは私もそこに加わって料理を習い始めた。この家は、毎日いろんな料理が並ぶ。ルルーシオ王国の料理もアーレン王国の料理も、何とトレドの街の料理も出てくる。素晴らしい!!
ここに永住するつもりなので私も本格的に料理を習い始めいた。毎日輪番制の子供達の後についてお手伝いをしていた。
最初はみんな戸惑っていたけれど、下処理は得意だったので邪険にはされなかった。ミサトさんのお陰だ。ありがとう!! 漸く一通り学んでこれから細かい部分をと思っていたのに、妊娠を機に味覚がおかしくなってしまった。更に料理を作ると気持ち悪さが更に増すので、悪阻が落ち着くまでは料理禁止令が出てしまった。
残念だ……。もっと子供達と仲良くなるチャンスなのに……。
悪阻……最初は匂いだけだったのに味覚もおかしくなり、食べれなくなってしまった。常に気持ち悪くてふらふらしてしまう。悪化してしまいベッドで横になる事が増えた。
「ここまでくると病気だ」とラルフに言われ、私は治療棟に運ばれた。マイナートラブルでは無くなったみたいだ。
治癒魔法で治せたらいいのに悪阻には効果がなかった。
何とか水分を摂取しながらやり過ごすしかなった。ラルフがいろんな飲み物を用意してくれた。私にあったのは薄いレモン水だった。それでも日によって受け付けない事もある。毎日試行錯誤して必要な水分量は何とかとって、日々過ごしていた。何かきっかけはなかったけれど、お腹の膨らみが出て来たころに少しずつ悪阻はおさまってきた。これが妊娠中ずっと続く人もいると言うのだから大変なこだ。
つわりが酷い時にラルフに「迷惑かけてごめん」と、謝ったら逆に怒られた。
「妊娠は病気じゃないけれど、全て順調な人ばかりじゃない。これはその人が悪いわけじゃないから謝まらなくていい。
俺たちの子だろう? 俺にも手伝える事があって良いんだ。もっと頼ってほしい」
ラルフの言葉に泣きそうになった。もうあの時の小さな私ではないけれど、自分1人で何とかしなくちゃいけないと思う事は習慣化されてる。幼馴染3人は甘やかしてくれたけれど、3人はとても忙しい人だからなるべく迷惑をかけたくなかった。それなのにラルフには昔から無理難題を、吹っかけていたなと思う。そういう意味ではラルフにずっと甘えていたんだな。無意識だったけれど、唯一ありのままの私でいれるのかもしれない。ラルフと結婚できて改めて幸せだと感じる。ふふふ。今もラルフも忙しいはずなのに、私のいる治療部屋で、仕事をしつつ、打ち合わせ等もなるべく通信機器で部屋からしていてずっとそばにいてくれる。
そばに居て見守ってくれるのはこんなにも心強い事なんだと嬉しく思う。初めての妊娠で不安もあるけれど、ラルフがいてくれたらこれから先も乗り越えていける。
妊娠中他にも、肌の痒みや、便秘……臨月にはお腹が苦しくて寝れない日が続いたりした。その度にラルフは魔法や薬を考えてくれた。なるべく薬は使いたく無かったけれど、睡眠がとれないのはお腹の子にも悪いので副作用のリスクと効果を天秤にかけて最小限使っている。
マイナートラブルは色々あったけれど、ラルフのお陰か精神的には落ち着いて過ごすことができた。
そうしてるうちに陣痛がきた。お母さんが子を命懸けで産む……。実際そうだった。今までこんな激痛を感じたことなんてない!!
早く出てきてー!!と心に思いながら産婆さんの言う事を必死に聞いて早く出産を終えるように頑張る。いつも落ち着いているラルフがお産にはついていけず途中から外に出されてしまった。
そうやって生まれた子は女の子だった。
目以外は私にそっくりだ。目は勿論ラルフの優しい目だった。
陣痛から半日ほどで生まれたので、産婆さん曰くかなりの安産だったとか? あっアレで安産?? 安産なのに痛すぎですよ? 私としては信じられない思いだったが、赤ちゃんの顔を見ると辛かった事、全てが忘れ去られてしまった。
それくらい天使だった!! ただ、生まれたばかりの赤ちゃんなのに何故かあまり泣かずにいた。外にいたラルフを呼んでみても、今度は赤ちゃんはラルフをじっと見つめている。
ラルフは赤ちゃんを見た時、一瞬驚いた顔をしたが、その後クシャリと顔を歪めて泣きそうな顔をしていた。
「ありがとう。よく頑張ったな。とにかく今はゆっくり休んで」
ラルフは私の頭を撫でた後、恐る恐る赤ちゃんを抱っこする。
何故か見つめ合っていた赤ちゃんとラルフは、目で会話している様だった。ちょっと妬ける。私が踏み込めない領域のような物を感じてむすっとした。
それに気づいたラルフは、クスッと笑い赤ちゃんを私の腕の中に渡したくれた。赤ちゃんは今度は私の方を向いて声にならない赤ちゃん語で喋ってくれている。ニコッと笑った時はズキュンと、何かを持っていかれるような感覚に陥った。
この子の為なら何でもしてあげたいと素直に思う。
子供の名前はバネッサと名付けて、ラルフにも子供達にもハリオお爺さんも可愛がられた。
こんな幸せがずっと続くと思っていた。
現実の世界では生まれてすぐの赤ちゃんは殆ど目が見えません。
最初は泣くかミルクか寝てるかが殆どで、目で会話する、アウアウ言ってくれたりもしません。
これは創作物の為、現実とは異なります。




