表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/44

1、私、旅に出ます

この物語は、別作品の半端者〜とは、テイストが違います。

「ぜ〜ったい、おかしい!!」 


 森の木々の間をぬけながら、私は目の前の魔獣を叩き切る。魔獣は断末魔の声をあげて絶命し、魔石を残して塵となった。


 私は半分八つ当たりで、近くにいる魔獣達をバサバサ切っていく。

 今朝、隣国の迷いの森でスタンピートが発生したと、この世界の創造神から信託があった。

 隣国との協定で私達はスタンピートを抑える為に少数精鋭で向かい今は討伐中だ。

 これは『神のお使い』という名の私達、高位魔法使いに課せられた使命だ。だから八つ当たりでそこらじゅうの魔物を倒した所で咎められる事はない。私は森の中を駆け抜けていた。


 私は苛立っていた。結婚適齢期の女性の中で魔力量が1番多いからと言う理由だけで、アーレン王国の王子と政略結婚されられる。この前お父様が勝手に婚約の書類にサインしてきた。


 今、アーレン王国の王子は1人しかいない。王族は今の国王と、少し歳の離れた王弟殿下、国王の1人息子の王子しかいないのだ。普通の国で有れば、少し遡って親族を養子にすることも可能だが、アーレン王国ではそうはいかない。

 アーレン王国での王族の絶対条件がある。それは王位魔法使いの魔力量を有する事だ。アーレン王国で今王位魔法使いの魔力量を持つものは先程の3人しかいない。

 つまり王族不足だと言える。


 王族が、少なくても良いのでは無いかと思うが、アーレン王国では死活問題なのだ。


 アーレン王国は、紆余曲折あって魔法使いしか通り抜けることのできない結界が張ってある。アーレン王国は魔法使いのための国だ。そして結界を維持管理出来るのは王族だけなのだ。だから、王族の人数を増やす必要がある。

 それなのに、この世界では魔法レベルが同じレベル同士ではないと子供が生まれにくい。

 何が言いたいかというと今のアーレン王国には女性で王族と同じ魔法レベルの女性がいないのだ。

 じゃぁ消去法で次にレベルの高い妙齢の女性で……と言う話になる。


 それが私だ。


(それだけで人生決められてしまうの?

 次にレベルの高い女性と1しかレベルが変わらないのに?

 そんなの私は絶対に嫌!!)


「ねぇ? ダグラス」


 私は今回の指揮官であり、幼馴染のダグラスに声をかける。ダグラスは侯爵令息であり、ルクセル侯爵家の後継だ。私よりも5つ上のダグラスはスラリとした高身長で、濃紺の髪に眼も吸い込まれそうな深い蒼色の知的イケメンだ。見た目は武の方はちょっと……と思われがちだが、こうやって話している間も私と同じ位の早さで害獣をサクサク倒していく。文武両道で指揮能力も高く正に上に立つに相応しい人材だ。


「何だ? アリシア。今日はやけに飛ばしてるな? 早く帰りたいのか? 愛おしい未来の旦那様の為に?」


 私の何処かがピキりと音をたてる。

 これは多分揶揄いなのだろう。理性的で、合理的、冷静沈着なダグラスは普段こんな事を絶対、言わない。こんな事言ったら私が怒る事は丸わかりなのに、それでも言いたくなると言うのは、今回の政略結婚をダグラスもよく思っていないのだろう。まぁ今の言葉で私が更に苛立ち、害獣を狩るスピードが早くなったので、今回の司令塔としては合理的なのかもしれないが。


 私もガードナー侯爵令嬢として、最低限のマナーや社交、知識、戦闘能力を磨いて来た。透き通るような青い海を思わせる輝くサラサラな髪も、黄金の瞳も、自分で言うのも何だが、顔立ちも整っているので、王妃には向いているだろう。成績も高位貴族として及第点を頂ける位には頑張ってきたし、貴族令嬢として政略結婚を受け入れなければならないことも理解している。

 理解しているが、今回の政略結婚は納得できないのだ!! ダグラスもそうであろう。


 なんせ私とレベルが1しか変わらない妙齢の女性とはダグラスの妹のローザだからだ。

 私よりも3つ年上のローザは、レベルが一つ低いだけで、それ以外の能力はどう転んだって私の方が下だ。3歳差の年齢もあるから……そう言われれば少しはある? いや、それを考慮してもローザの方が上だ。だって私のお手本はローザなのだから。

 私だって16歳。アーレン王国では16歳で成人なので、私も立派な大人だ!! もうこれ以上、急成長は見込めない。


 ローザは私からみて王族の魔法レベルが足りない事を除き完璧なのだ。思慮深く、清廉で、文武両道、魔法使いの力量も魔力量を除いて素晴らしいのだ。それでいて時に厳しい判断も出来る。

 ……そして覚悟がある。王族の子を産む覚悟が……。



 私は正直言って覚悟がない。

 魔力のレベル差のある妊娠は非常に危険だ。特に女性側が低い場合は命の危険もある。


 それに……。



 ダグラスと王子とローザと私の4人は幼馴染だ。ダグラスと王子は同じ歳で、ローザは2つ下、私は5つ下だ。

 私が1番年下と言うこともあり、最後に入ったメンバーで物心ついた時には優しい兄姉の様に慕っていた。実の兄弟よりも長くいて、文武共にこのメンバーで乗り越えて来た事も多い。いや、教わって来たと言うべきか? その人の人となり、考え方……想い……わかってるつもりだ。


 だからこそ、だからこそ、この政略結婚は納得できない!!


 そうだ!! 私がいなくなれば良い!!

 私がいなければ、自動的にローザが繰り上がるだろう。レベル以外考えない、馬鹿な人達も私がいなければ、ローザを押すはずだ。なんて良い考え!!


 こんなことを考えているうちに最後の害獣を叩き切る。

 ころりと魔石がこぼれ落ちた。


 ふぅ。と私は一息つく。


 ダグラスが転がっている魔石の回収をし始めた。回収は手でいちいち拾う訳ではなく、周辺一帯の魔石の位置を特定して自分の空間魔法内に掃除機で吸う様に入れている。繊細かつ広範囲な魔法の展開に、やはりダグラスは凄いなと感心する。

今はまだ正午にもなっていないだろう。かなりのハイペースだったなと思う。ダグラスにしてやられたと思いつつ私は今思いついた事をダグラスに言った。


「私、政略結婚なんてしない。こっちから婚約破棄してやるわ!! 

 私、アーレン王国に戻らないから後よろしく!!」


「はっ? どう言う事だよ?

 それで良いのか? だってアリシアは…………」


 ダグラスは驚いて、更に私の痛い所を突いて来そうだったので、ギロリと睨んで黙らせた。ダグラスもあぁ見えて思慮深い。私の気持ちもバレバレか。


「本当にいいのか?」


 今度は遠慮がちにダグラスが聞いてくる。

 そんなに怖がらなくて良いのに。私って怖いのかしら? 結構可愛いって言われるけど貴族の社交辞令?

 まぁ4人の中で1番年下、皆から甘やかされた自覚はある。

 我儘なのはわかってる。けれどどうしても納得できない。誰も本当の幸せを得られないから……。


「良いの」


 私はぶっきらぼうに答えた。以前から外国には興味があったし、成人して『神のお使い』を始めて半年程。いろんな国を訪れていたのだ。『神のお使い』の後は直ぐに帰還する様に言われているが、変装してちょこちょこそのメンバー皆で遊んでいたので少しは国外情勢等もわかっているつもり。私たちの指導をしてくれた怖い先生より、「いつも空間魔法には、1ヶ月は遭難しても困らない生活品と食料を入れておく様に!」って言われていたから、私は多めに2ヶ月分貯蓄している。

大丈夫なんとかなる。


 私は決めたのだ!!

 思い立ったが吉日。


 私はこのまま旅に出る!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ