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17、門出

「ごめん」


 ラルフが謝った。それは何に対して謝ったの?

 私の気持ちを疑った事? 疑われたのはショックだった。でもラルフには以前持っていたクリードの気持ちを見透かされていたのなら仕方ないのかもしれない。それとも私の告白を拒絶したの?

 どうして私を抱きしめてるの?

 分からない事ばかりだった。


 ラルフは私を抱きしめて包み込んでいるからラルフの顔は見えない。その腕は最初はギュッと抱きしめたのに今は少し所在なさげで不安定だ。ラルフはとても迷ってる様だった。いつも先を読んで答えを出すラルフにしてはとても珍しかった。

 私の中で母性のような、守ってあげたい、支えてあげたいと言う気持ちが生まれる。拒絶される不安を抱えながらも、私に出来ることなら、たとえ振られたとしても友達として支えようと思うのだった。


 少し思案した後、ラルフはゆっくりと話しはじめた。

 私の気持ちは嬉しい事。ラルフも同じ気持ちという事。

 ラルフ自身は私に相応しくないと思っている事。その理由……。


「私は、アーレン王国には住まないよ。ずっとここで暮らす。だから後ろ盾なんて必要ない」

「……魔道具が出来たらアーレン王国に戻るだろう?」

「それはそうだけど、役目を終えたら帰ってくる」

「帰してもらえないよ。アリシアは自分が思っているよりアーレン王国で必要とされてるんだよ」

「婚約破棄した私だよ? 誰も必要としてないよ。実家の事も知ってるでしょ? 婚約破棄したから私は実家から除籍されてるはずだし……。たとえ誰かが必要としてくれても、そんなの知らない。

 私はいつも我儘だから、絶対ラルフの所に帰ってくる。

 それに今までだってここにいるのにバレてない。つまり探してないってことでしょう? それにここは結界も凄いし大丈夫」

「……そうだな」


 はっきりしないラルフに苛立つ。

 私はラルフが気持ちに答えてくれるなら、ずっと離れるつもりはない。たとえアーレン王国の誰から言われたとしても蹴散らしてでも帰ってくる。私はもう成人している。誰にも指図なんてされない。実家なんて元々絶縁してるようなものだったし、ラルフの不安は何なのだろう?


 私には想像もつかない未来まで予測して何かを懸念してるのかもしれない。ラルフは先の未来まで見えてるんじゃ無いかと思う時がある。年齢以上の大人っぽさや諦観してる時もある。実は人生2、3週してるんじゃ無いかなんて馬鹿なことを思った事もある。


 ラルフの先読みは当たる事が多い。それでも今回の事に関しては譲るつもりはない。ラルフが私と同じ気持ちでいてくれるなら、どんな未来だって私たちを邪魔する奴は蹴散らすつもりだ。


「そんなに不安ならラルフがもっとすごい結界作ってよ」


 私はいつもみたいに我儘を言ってみる。この屋敷の周りを覆う結界は範囲が小さいとはいえアーレン王国にはられている結界以上の隠蔽も防御力もあるだ。それなのに更に凄いのを作れというのだ。まぁ、それをラルフが作れるのを私はわかって言っている。


 ははっと、ラルフが笑い声を上げる。

「作ってみるかな?」と、おどけた声だ。

 結界が、ネックになっている訳ではないみたい。

 不安定だったラルフの腕がギュッと私を包み込む。


「悲しい未来が待ってるかもしれないよ?」


 縋るようにラルフに抱きしめられた状態でこんな事言われて、「はいそうですか、じゃぁ諦めます」なんて言うはず無いのに……。今日のラルフはどこか変だ。私も変だからお互い様か。


「そんな未来は私が踏み潰すからいいよ」

 私はぶっきらぼうに言う。


「アリシアならしてくれそうだ」

 ラルフは少し嬉しそうだ。


「アリシアは薄々気がついているかもしれないけど俺はこの屋敷から離れる事は出来ないんだ」

「うん。何となくそうなんじゃ無いかなぁと思ってたよ。ここの結界アーレン王国の結界と似てるもんね。魔法使いによる柱が必要な結界なんでしょ? ラルフ1人で管理しているの?」


「……まぁ、そうなるかな」


 アーレン王国全体を覆う結界は王族しか管理できない。

 血筋と魔力レベル両方をクリアした人しか入れない場所で、結界の礎を使っての魔力構築を行うのだ。ある程度、魔力を注ぎ構築すればずっといる必要はないが、基本的には誰か1人は必ずその建物にいる。アーレン王国は3人の王族が分担して管理しているため、大丈夫みたいだが、ラルフの場合はほぼ1人で構築してるらしい。管理する者の条件にどう言った縛りがあるのかはわからないが、ラルフがこの屋敷以外に長い間留まるのは難しそうだ。


「なぁに? もしかして結婚したら、旅行にいけないから私が怒るとでも思った??」


「アリシアはずっと自由を夢見ただろう?こんな小さな屋敷の鳥籠になるのか?」


「ラルフは離れられなくても私は自由に出かけるから良いよ」


「ふっ、なんだよそれ。俺は置いてけぼりか? ちょっと酷く無いか?」


 ふふ。こんな掛け合いがあると安心する。

 きっと今の問いかけた私が旅に出る云々はラルフの不安とは関係ないのだろう。ラルフがこの場所から長く離れられない事で、私の身に起こる何かを心配してるのかもしれない。

 けれどそんな事は関係ない。私は今ラルフと一緒にいたい。

 ラルフはどんな未来を想像しているのか教えてくれないけれど、そんな起こるかもしれない未来に怯えているなんて勿体無い。


「ふふ。冗談だよ。ずっとそばに居る。だからちゃんとした返事が欲しい」


 私の言葉に、ラルフは覚悟を決めたようだ。


「俺もずっと好きだった。こんな俺だけど……そばに居てくれ」


 普段のラルフからは考えられない返事に心が熱くなる。

 想いが通じることがこんなに素晴らしい事なんだと私は初めて知ったのだった。


 …………


 両思いになった私たちは婚約をすっ飛ばして結婚する事にした。すぐに結婚しようと言ったのは勿論私だ。ラルフの不安を取り除きたかったし、家族という響きに憧れていたのもある。アーレン王国での結婚はラルフがアーレン国民でなくなっているため難しいので、ラルフの住むルルーシオ王国の法に則って行った。ラルフはルルーシオの国籍を取得しているので問題ないが、私はルルーシオの国籍も永住権もない。ただ、ルルーシオではどちらかに国籍か永住権があれば、ルルーシオ国籍の3人の証人がいれば結婚できる。ラルフは3人の証人を頼み、婚姻届なるものを提出して晴れて私達は夫婦になった。


 ルルーシオ王国は今の国王になってから大改革が行われていて治安が良くなってきていると評判だ。それに実はラルフが一役買っているらしい。詳しくは知らないがラルフの魔道具のお陰らしい。その功績もまた隠してるらしいので本当ラルフらしいと思う。なんと3人の証人の1人は国王陛下だと言うのだからラルフは凄い人なんだと思う。ラルフはアーレン王国から離れて正解だったとつくづく思った。


 結婚式はラルフが屋敷を離れられない事もあって屋敷の庭で行った。人数も少ないのでテーブルに料理を並べて立食形式にして花や紙で飾り付けした式というよりはお披露目会の様なものだ。こじんまりとした会だが、盛大なものよりもこちらの方が心温まるようで私は好き。

 参列してくれたのはハリオお爺さんとこの屋敷に住む半端者の子供達だ。子供達はいつもの服装の中で1番お気に入りの服に手作りのブローチやタイ、袖にレースをつけたりして、オシャレをしてくれている。かく言う私も、白のワンピースに子供達が作ってくれたヘッドドレスをつけている。手作り満載の装いだ。この世に一つしかない心温まる服に身を包んでいる。子供達はせっかくの服を汚さないように少し緊張しながらもソワソワ、ワクワクして目が輝いている。ラルフがこの屋敷から離れられない最大の理由はアーレン王国で対応出来なくなった子供達やその子供をこの屋敷で保護して、成人して独り立ちするまで預かり見守っているからだろう。これはハリオお爺さんが始めた事らしい。それを引き継いで今はラルフが殆どを管理している。


 ここにいる子供たちは、心に傷がある子が多い。私も最初は、存在すら知らなかった。私のような高位の魔法使いは畏怖の存在らしい。陰からこっそり見ていた様で子供達の方が私に詳しい。さっき、ヘッドドレスを子供達から貰った時は式が始まる前から泣きそうになった。歓迎してくれているかはわからないけれど嫌われていなくてよかった。貰った後すぐに距離を取られてしまったけれど、これからは私もここの仲間入りなので、なんとか信頼関係を築きたいなと思う。

 これが最初の一歩。子供達と一緒にお花のリースやテーブルクロス等の飾り付け、料理も作った。最初は遠巻きにされていたけれど、華やかになっていく会場に子供達もワクワクし始め、いつもより豪華な料理を囲んでいると自然と緊張は溶けてくるものだ。

 式が終わる頃には、子供達との距離はグッと近くなったように思う。

 私達の門出は素敵なものになった。

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