15、告白
ちょっと短いです。
ラルフが対策をしていたと言うだけあって、何と3日で帰って来た。かなり早い帰還に驚いていたが、それ以上にラルフが私を見て驚いていた。
「なんでこんなに窶れてるんだよ!」
と、とても怒った様子で私を診察してくれている。
ラルフは医師免許や治癒魔法師の資格は持っていないが、世界最高の治癒魔法師が認めるほどの腕前だ。
ラルフは私の首筋や顔に手を当てて診察し始めた。私はされるがままだ。
ラルフは魔道具に必要だと思ったら別分野にも手を広げている。色んな分野に手を伸ばしすぎてると思うが、そのどれもがそれなりの成果を上げているのが凄いところだ。
今もそんじょそこらの治癒師では出来ないであろう高度な検査をしてる。ただの睡眠不足なのでそこまでしなくても良いのになと思うけど、それほどまでに心配してくれるのは嬉しかった。私を心配させた分、ラルフも心配すれば良いのだと変な考えが浮かんだ。
ラルフは時に医療分野でこの世界の最高治癒師でも治せない病気を寛解させてしまった。本来なら表彰されても良いとおもうのだ。
けれど功績が、沢山あるのにそのどれも表彰や認定を受け取ろうとしない。だからと言って魔道具以外の功績を秘匿とせずに、何人かを経由して大々的に発表する。
その論文は勿論偽名だ。そして、論文に書かれてある成果を対価を貰わず全て自由に使って良いとしている。ラルフは決して表舞台に立とうとしない。
ラルフの行いを偽善だ。と言う人もいるけれど、なかなか出来ない心意気だ。そう言うところもラルフの尊敬できるところだ。
なぜ知識を秘匿としないのか、独り占めすればかなりのお金を稼げるのにと思う人も沢山いた。勝手に調べて辿り着いてくるツワモノもいる。一緒に事業にしようとか、良心的な人から悪人まで、はたまた善人を装って、次の新しい発表をラルフから搾取しようと来るいけすかない奴もいる。
そんな時ラルフは全てを一蹴した。全く取り合わない。
こういう所は頑固者だ。
「俺は研究できるお金があれば充分だ。それは魔道具の仕事だけで十分補える。他の分野は趣味みたいなものなんだ。だから俺の論文を読んで、更にその人達がもっと発展させてくれたら嬉しいと思う。俺は魔道具以外は極める気は無いんだ。だから、興味のあるところしか研究しない。それじゃぁ勿体無いだろう? 続きを他の人に託したいだけだ」
ラルフは欲がない。たまに子供の頃に虐められた奴たちに魔道具を売らないとか子供っぽい事をするが、本当に困って必要な魔道具は蟠りがあってもちゃんと作るのだ。お人好しだ。懐が深い。
私だってラルフからすれば時々押しかけてくるめちゃくちゃ要求の高い困った客なはずなのに、出来ないと言いつつ、裏でこっそり研究してくれてたりするのだ。
ラルフは職人肌なだけあって必ず作れるものしか依頼を受けない。依頼を受けて作れなかった時、自分を許せないし、お客様に申し訳ない気持ちで一杯になり、何も手がつけられなくなるらしい。以前そう言う事があったとか。
けれど今回の魔力移行の魔道具は出来るかわからないけれど、依頼を受けてくれている。
改めて私には甘いなあと思いつつ、とてもそれが心地よい。
色々思い出して、やっぱりラルフが好きだと再確認する。
頑固な所も、お人好しなところも、筋が一本通っている所も、私に甘い所も、気安く言い合える所も全部大好き……。
「なんだ。ただの寝不足か? 何してたんだよ?」
そうこうしているうちにラルフの診断が終わった。
ラルフは安心した後、少し怒ったような顔をしている。
今から私が告白するのを聞いてラルフがどんな顔をするのか、ちょっと楽しみだ。
ラルフが私の首筋から手を離そうとするのを、私は手を重ねて遮る。ラルフの手がピクリとはねる。ラルフは少し困惑顔だ。ラルフの困った顔もなんだか愛おしい。ふふ。
「ラルフが試練から戻ってくるか心配だったの」
「対策はしてるから大丈夫だと言っただろう」
「頭ではわかってるんだけど、心がついてこなくて……ラルフが帰って来なくなるんじゃ無いかと……それに、もしかしたら夜中に帰ってくるかもと思ったら1番に会いたくて寝れなかった……」
「どうしたんだよ? なんかいつものアリシアじゃ無い。寝不足で頭が働いてないんじゃ無いか?」
「そうかもしれない。けどこの気持ちは本物だよ?
私ね。ラルフが好きなの」
寝不足もあって目力もなく、いつもより甘えるような仕草をするのは反則かもとか思いつつ、ラルフにちゃんと伝わってほしいと、ラルフを見上げたのだった。




