14、魔道具作り〜検証〜
次に目が覚めるととても体が軽かった。やっぱり睡眠は大事よね。ここは安心して寝れるから良かった。
ラルフを見ると、解析は終わっているようで、ペンは止まっていて何やら魔法陣を見て思考してるようだった。
私が起きたのに気づいた様で、ラルフと目が合った。
「よく眠ってたな。スッキリしたか?」
「え? あ……うん。すごくスッキリしてるかも」
「そうか」
ラルフは私の返事を聞いて優しく笑みを浮かべる。さすがわんこ系イケメン、耐性のないご令嬢ならふらりと倒れるだろう。そう言う私も耐性はあるものの変な意識をしてしまってるからドキりとする。
普段はズカズカ土足で入ってくるような、なんでも言い合ある仲なのに時折見せる優しさは反則だと思う。調子が狂う。
顔が赤くなるのを感じた。
「本当に大丈夫か? 顔が少し赤いぞ?」
心配そうな顔で問いかけてくるラルフに更に調子が狂う。
「えっと? 大丈夫です」
何故か私はラルフに敬語になってしまった。ラルフがキョトンとした後、ニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべる。
「まぁ、馬鹿は風邪ひかないって言うしな。大丈夫だろ?」
「!? 失礼ね!! 馬鹿じゃありません!! それなりの点数はとって来ましたよ! 天才のラルフ様には足下にも及びませんけどね?」
嫌味を嫌味で返す。うむ。これが私達の本来の姿だ。とても落ち着く。
その後は、ラルフから魔法陣の解析結果を聞いた。
理論を聞いても私はさっぱりだったが、ラルフには糸口が見えたらしくとても嬉しそうだ。
それから私達はあーでも無い、こーでも無いと言いつつ魔道具作りに打ち込んだ。と言っても私に出来る事は殆どない。
ラルフがこの魔法陣を教えたドラゴンに、会いたいと言えば会いに行ったり、ここに魔力を流せと言われたら流したり。
流れに身を任せて数ヶ月、とうとう魔力差をうめる魔道具が完成した。
装飾品をあまりつけない私でも心踊るような魔道具が完成していた。目の前には薄らと青みがかった銀色ともう一つはゴールド調の腕輪が2つある。この魔道具は魔力レベルの高い人から低い人へ魔力が移行される。なので、万が一移行する側が魔力不足に陥っても安全だし、移行する量も渡す側が調節できる優れ物だ。
腕輪は5センチ程太さがあり、装着者に合わせて内径が変わる仕組みだ。2つは女性がつける事を想定している為、両方とも細やかな蔓の装飾がされていて光沢もある。ゴールド調の腕輪は色とりどりの細かな魔法石が散りばめまれていて、動かす角度によってキラキラと輝きとても綺麗だ。王子妃が普段つけていても問題ない装飾品だろう。もう一つは、最低限の魔法石が施されているシンプルなものだ。王子妃よりも華美になる事はよしとされていないのは勿論だが、それでもかなり絞った最低限の魔法石は私が華美な物を好まないからだろう。
ラルフは私の好みをよく知っている。蔓の装飾が好きなのもバレていたみたいだ。そう言った配慮に、とてもくすぐったくなった。
どちらも見た目は魔道具なんて思わないはずだ。魔道具の回路をただ引くだけでなく、装飾のように見せる技術はラルフならではだ。蔓のように見えるのは殆どが魔道具回路だと言うのだから技術の高さが伺える。装飾に向かない回路は裏か見えないところにびっしりと引いてあるのだろう。
アーレン王国では魔道具は魔法よりも下に見られがちだが、ラルフの作った魔道具は装飾の高さからアーレン王国でも人気だ。人気故にラルフは売る人を選ぶ。ラルフが小さい頃に嫌がらせを受けていた人たちにはどんなにお金を積まれても売らない。ラルフなりの意趣返しだ。いや、ただの頑固者かも……。話がそれた。
…………ラルフ曰く、理論上は問題ない魔道具が出来たらしい。けれどあくまで理論上だ。治験をしたわけでないので、実際やってみないと効果はわからない。王子妃にぶっつけ本番……はダメなので誰かが使ってみるしか無い。
さて……私はチラリとラルフを見る。
私の視線を感じたラルフは私と目が合うと、何かを悟ったように顔が歪む。とっても嫌そうだ。私が今から言う事がわかったらしい。
「ちゃんと魔道具がうまく作動するか検証が必要よね?」
「……そうだな」
「治験の第一段階って、基本は成人した健康男性が、するものだよね?」
「まぁな。そういう場合が多いな」
「私の方の魔道具は特別製でしょ? 私に合わせて作ってあるから、銀の方が多分私のよね? じゃぁラルフがゴールドの腕輪だよね」
「……」
私はさも当然のように、ラルフが治験に参加することを告げる。豪華な装飾のあるゴールドの腕輪をラルフがする……女性用だけどちょっと見てみたい。わんこキャラのラルフなら意外と似合うのでは無いかと私は思っている。私が好奇心からキラキラした羨望で見ているのかわかったのか、ラルフは更に嫌そうな顔をしてふいてしまった。
ちょっと意地悪だったかなと思って申し訳ない気持ちになったが、次にラルフの上げた顔は意外だった。
にっこりそれはそれは張り付けたような綺麗な笑みを浮かべて研究机に行き、引き出しを開けた。徐に取り出したのは蔓の柄はあるが魔法石の無いシンプルな銀の腕輪だった。女性物よりも更に太さがあり、大きい。ちょっと見えた内側に魔法石が必要な回路を埋め込んだみたいだ。
「あぁ勿論第一次の治験は俺とアリシアでするつもりだったよ」
とても良い笑みを向けながらシンプルな腕輪をこちらにみせつけている。
……どうやら私がそう言うのを見越していてちゃっかり自分用を作ったらしい。まぁ少し考えれば当たり前か……まだまだラルフを出し抜くのは難しい。ちょっと見てみたかったのに残念だ。結構、似合うと思うのになと、未練がましく豪華なゴールド調の腕輪を見てしまった。
「こっちでも良いんじゃ無い? これが適合するか確認が必要でしょ?」
「俺に女性用の物をつけろと? それは最終段階で調整するから最後でいいよ。王子妃様の好みもあるだろうしな」
「!? 最後はつけてくれるの??」
「なんでそんなに嬉しいんだよ? まぁ調整の為に少しの間だけな? これで満足か?」
ラルフがゲンナリしながらも最終的には、私の提案を受け入れてくれるのだった。やっぱりラルフは、優しい。
他の人には、こんな好奇心の塊の我儘を言わない。ラルフは甘えられる存在なんだなと心が躍った。
私とラルフでの治験が始まった。
一次の治験では、私から魔力を段階的に移行する量や間隔を決めていく。同時にラルフ側に副反応が出ないかどうかの確認も兼ねている。
初めての魔道具は特に慎重さを求められている。ラルフは万全を考えて本当に少量からの移行計画になった。
結果から言えば順調だった。
途中ラルフが高位魔法使いのレベル40に到達して試練の扉が開いた。魔力移行によって上がったレベルでも試練の扉が開くとわかったのは大きな収穫だ。
この世界ではランクに応じて試練の扉が開く。試練を受けて乗り越えなければ2度とこちらの世界に帰って来れない。
ラルフは少し思案した後、「元々受けるつもりだっし、対策はしてたから」と、試練の扉に入っていった。
多分試練の扉の中でもちゃんと魔力移行が継続して可能かどうか調査したかったのだろう。
ラルフが対策をしていたと言うから大丈夫だろうと思っていたけれど、試練の扉から帰ってくるまでの間とても不安だった。平均で1週間、人によっては数ヶ月、ずっと帰って来ない人も……いる。
好きだと自覚する前だったらすぐ帰ってくると楽観的に考えれたと思う。それなのに相手を好きだと自覚したらこんなに不安になるものかと、私自身すごく驚いた。
そしてとても寂しかったのだ。魔道具作りの数ヶ月、四六時中そばに居たのだから当たり前と言えばそうなのだが、もしこのまま会えなかったらと思うと居ても立っても居られなかった。こんなにも切ない気持ちになるなら、ちゃんと気持ちを伝えよう。この魔道具が完成しても、これからもずっとそばにいたいと思うのだった。




