11、魔道具作り〜従魔契約〜
「その話詳しく聞かせろ」
ラルフに詰め寄られて私はピンチだ。
あれ? ラルフってこんなに大きかったっけ? 年も殆ど変わらないラルフは小さい頃は殆ど同じ背丈だった。寧ろ私の方が大きい時すらあったのに、いつの間にか抜かされて私が見上げるようになってしまった。肩幅も大きくて私は今すっぽり覆われてしまっている。何故か私の胸がドキリとした。ラルフも男性だったと思ったら、変に意識してしまう。
ラルフの怖い形相に慄きながら私は何とか話を始めた。
「えぇっと、ブルちゃんのおいたが過ぎて、討伐依頼が出たの。それで私がブルちゃんを討伐しにいったのよ。そしたら私の可憐さに驚いてか、ブルちゃんが何でもするから許して欲しいって言い出したの。上に指示を仰いだら、主従契約以上の契約を交わして、必ず言う事を聞く状態に出来るなら討伐しなくてもいいって言われたの。だから従魔契約をした訳です」
私はしどろもどろになりながらも、この状況を何とかすべく、わかりやすくちょっとこの場を和ませる様に言ったつもりだった。自分の事を可憐って言った後にちょっと恥ずかしくなったのは内緒だ。真剣に聞いていたラルフは少し考えた後にこう切り出した。
「つまり、アリシアに勝てないと思ったブルードラゴンが全面降伏したって事だろ? 主従契約以上なら、何で主従契約や奴隷契約にしなかったったんだ? それに従魔契約ってなんだ? 魔獣契約と違うのか?」
私がオブラートに言った事をラルフはストレートに言ってきた。ブルちゃんがここにいなくてよかった。ブルちゃんそれ聞くと落ち込むのよね。人間に勝てなかったなんて許せないらしい。プライド高いから……。
「主従契約や奴隷契約って魔法使いが作った魔法でしょう? ブルちゃんはそれがどうしても嫌だったらしくて、魔獣とのちゃんとした?契約にしてほしかったんだってさ。主従契約や奴隷契約と一緒で基本的には違反する前に罰が起きるみたいで違反できないらしいよ。万が一、違反したら命がないのも一緒みたい。まぁブルちゃんは良い子だから今まで違反した事ないから、実際に見た事ないけどね。
魔獣契約は魔獣と人間との間でお互いに合意した内容で契約が出来るけど、従魔契約は契約主に対して絶対服従は勿論の事、魔獣が何処で何をしているかいつでも分かるし、離れていても命令できるし、契約主が好きに契約内容を書き換える事ができるのがメリットかなぁ。
そういう意味では主従契約と変わらないのかも。いくつか例外があって、命令できないこともあるけどね。例えば、自死の命令は出来ないとかね」
プライドが高くて奴隷契約や主従契約しなかったことは言わないでおいてあげよう。従魔契約の方が魔獣にとって崇高な契約らしいしね。私なんて優しいのかしら?ふふふ。
「ふ〜ん。違いはそれだけじゃないだろう? 何故魔力が似るんだ?」
ラルフは契約内容には興味がないのかスルーされて、魔力について触れてきた。私もブルちゃんの言うまましたからよくわかんないんだけどなぁ。
「う〜ん。私もよくわからないんだよね? ブルちゃんに言われた通りにやったから。……ちゃんと主従契約並に私の言う事をきけるかの確認はしてるから大丈夫だと思うよ? そんな疑わなくても大丈夫だって!! 契約の仕方ね!! えぇっと、こう、ふわっとして、サーっと綺麗にして、ドバッと塗る感じで替えたの! 最後にギュッと締める感じで契約完了みたいな!」
私は身振り手振りも合わせて一生懸命説明した。けれど、ラルフが無言の目で「大丈夫なのかその契約」と訴えてきてる。
大丈夫だと思うよ?
ブルちゃんの名誉の為に言わなかったけど、誇り高いドラゴンが3回まわってワン!なんて普通しないと思うしね。涙目になりながらワン!と吠えたブルちゃんはちょっと可哀想だったもん。あの後のブルちゃん1ヶ月ほど穴から出てこなかったって言うし相当凹んでたんだと思うよ。
「あ〜全然わからん! ただ、今の言い方だと、一度魔力をリセットして塗り替えたって事か? もうちょっと詳しくならないか?」
ここで漸くラルフが少し離れてくれて私はほっとした。ラルフを意識するなんて私どうしちゃったのかしら。熱でも有るのかもと思いつつ、それからあれこれラルフに質問攻めにあい。あーだ、コーダしてたら、気づけば1時間は過ぎていた。私の説明にラルフのイライラがMAXになった。もう見てもらった方が早いと思って最後に従魔契約の魔法陣を出した。
「最初からこれを出してくれれば……」と何故かラルフに遠い目をされた。ラルフが質問してくるから答えていただけなのに理不尽だ。
それに従魔契約の魔法陣はかなり複雑なので、読み解くのも難しいと思う。かくいう私も一つの絵のように覚えて本来の意味はよくわかっていない。それなのにラルフは凄い勢いで魔法陣を書き写し始めている。意味を理解しながら書いているのか、部分毎に区分けしている。流石ラルフだなぁと思いながら、この複雑な魔法陣を維持するのは骨が折れるので近くにあった大きめの紙に転写した。
それを見てラルフは固まって真っ白になり崩れ去った。
少しして元に戻ったラルフは
「俺の努力は何なんだ。魔法陣の転写魔法なんて聞いた事ない。完全に理論を無視している。チート過ぎるだろう。理不尽だ」
などとぶつぶつ言いながらも漸く私から離れて、研究デスクに戻り、私の転写した魔法陣を読み解いていた。
そりゃ、聞いた事ないでしょう? 私が今思いついてやった事だから。魔力をインクに変えただけの変質魔法の応用だと思ってくれれば良いんだけどな? 魔法はイメージなんだからそのままやれば良いだけなので難しくない筈だ。
そう思ったら私の魔力をローザの魔力に変質出来ればと思ったが波長と、色と後何だっけ?を、全部合わせるのは流石の私も難しいなと思いつつここはラルフに任せようと思うのだった。イメージ出来ないものは流石の私も無理です。
一度灰になったとは思えない程、ラルフは目をルンルンさせながら魔法陣に向かっている。ラルフは新しいことに本当に目が無いんだからと思いつつ、魔法陣の転写具合から見るとまだまだ読み解くまでに時間がかかりそうだった。
私はティータイムを楽しむ事にした。
空間魔法からティーセットを取り出して、応接用のテーブルに並べる。自分で紅茶を入れて、ソファーに座った。
何故私はラルフを意識し始めたのだろう?
研究に向かうラルフを見ながら頬杖をついて考え始めた。
ラルフとはマブダチだが、恋愛対象ではなかった。
目の前にいるラルフを観察してみる。
ラルフ(家名は本人が捨てたと言うのでここには書かない)
175センチ68キロで、均整のとれた体型だと思う。
騎士の様な肉体ではないがある程度鍛えているみたいだ。
魔法レベル37(中位魔法使い)
出会った頃はレベル14でかなりのペースでレベル上げ中。
このペースは正直言って心配になる。違法薬物とか術とか使ってないよね?
見た目は魔法至上主義のアーレン王国以外ではモテただろうワンコ系イケメンだ。柔らかなライトブラウンの髪は思わずワサワサ撫でたくなるし、淡いグリーンの瞳は優しくて安心する目だ。実際は結構頑固者だけど。
それでも爽やか、何だかんだ優しくてお人好し、大切にしてくれそうなタイプだ。
魔道具オタクで、一度魔道具に集中すると今の様に完全に自分の世界に入ってしまう所はあるが、あれでもちゃんと周りの事も忘れてない。時々チラッと私を見て退屈してないかどうかちゃんと見てる。きっと私が限界になったら、作業をやめて私の相手をしてくれると思う。
幼馴染3人とはどうしても年齢が離れていたから、追いかける立場だったけれど、ラルフとなら横に立って同じように歩んでいけるんじゃないかと思ったりもする。
甘えるだけじゃなくてこんな私でも支える立場になれないかなぁと思う。って、そう思ったらラルフって超優良物件だよね。魔力レベルさえ問題なければ私たちお似合いなのかも。変な遠慮もないし、言いたい事も言い合える。
そう言う夫婦って実は理想的なんじゃないかな。




