10、魔道具作り〜拒絶反応〜
「そうよ! 魔道具!! 出来た?」
私は、期待するような目でラルフをみる。
ラルフは困ったように優しく微笑んだ。
「切り替え早いな。まぁそこがアリシアのいい所だけどな。そんなすぐに出来ないって言っただろう? 検討するだけだって!」
「えぇ〜なんで!? あっ! 素材が必要だったからだよね!? 今素材もあるしすぐに作ろう!! 私も手伝うから!!」
「うわぁ〜やめろ!! 絶対触るな!! アリシアが触ったら何が起こるか想像出来ない!!
良い時もあるが大抵おかしな方に進むんだ!
やめてくれ!!
アリシアは最後の最後!! どうしようも無くなった時な!」
私が近くにあった魔道具を触ろうとすると、つかさずラルフが魔道具と私の間に滑り込み、立ちはだかった。
だいぶ焦っているようで、目力がすごい。私の両肩を掴み少しずつ後ろに下げていく。
いや……そんな目でみなくてもさ。確かに魔道具が粉々になったり、なんか別の物質に変質したりしたような事はあったかな?
魔道具って物凄く繊細なのよね? 魔力量の調節は得意な筈なのに、何故か魔道具との相性はすこぶる悪い。
理論の象徴である魔道具と、直感的な私は相対するんだろう。多分。
通信魔道具である私のピアスは、他の人とは違う特別製だし……。ラルフはこの魔道具作る時も苦労してたなぁ。
けど結果的には、ラルフの研究に貢献してたと思うんだけどなぁ?? それにしてもラルフの慌て具合何だかちょっとおかしい……。
私が怪しんで、ジィーっと見ていると、観念したかのようにラルフは話し始めた。
「あ〜、うん。まぁ試作品というか、まだ色々問題あるんだけど、作ってみたものはあるんだ。
ただ、アリシアの魔力には耐えられないから、今は近づかないでくれ!」
なんと!! さすがラルフ!!
天才だわ! 試作品とは呼ばなくても原案が出来てるなんて!! 私は目をキラキラさせて見ていると、
「あ〜言ってもわかんないかもしれないけど、まだ欠陥がありすぎなんだ。
さっきも言ったように、高位の魔力に長時間耐えられる仕様じゃない。後、人から人への魔力移行の魔道具回路は出来たけれど、魔力はそのままなんだ」
ラルフは困った様に微笑みながら言った。はて? 何がダメなのかわからない。
「魔力がそのままだと何か問題があるの?」
「実際やってないから、わからないが多分拒絶反応が起こると思う」
「拒絶反応? ビリビリってくるあれ?」
時々、魔力の合わない人と手が触れただけでビリビリってくる事があるらしい。私はまだそういう相手と有った事がないからわかんないけど。合わない人じゃなければ問題ないんじゃ?
「私とローザはビリビリって来た事ないから大丈夫だ思うよ?」
「少量でお互いが魔力干渉してる時はよっぽどじゃなければ大丈夫な場合は多い。けれど妊娠出産中ずっと大量の魔力を注ぎこまれるんだ。注ぎ込まれる方は抗体が上がって拒絶反応が出る可能性が高いんだ」
「えっ? じゃぁずっと使ってるとローザとビリビリして抱きつけなくなっちゃうの?」
「論点はそこじゃないけどな。抱きつけないどころか、ローザの体の中でずっとビリビリしてるんだぞ? 拒絶反応が起これば、体が持たないだろ」
ラルフは困ったように優しくわかりやすく話してくれる。私は一度、ビリビリ経験してみたい気もするが、ずっとは困る。ローザには安全に出産して欲しいので、そんなリスクは負わせたくない。それに私にとってはローザに抱きつけないのも嫌だ!
「どうすれば、拒絶反応が起こらなくなるの?」
「まだ、よくわからない。拒絶反応が起こる原因は、魔力の色と型、波長によるとされているからな。その一つ一つをクリアしていくとなると、まだまだ時間がかかる。……ごめんな? 期待させといてまだまだなんだ」
ラルフは申し訳なさそうに謝ってくる。私が勝手に出来たと思い込んで、希望を持っただけなのにラルフは優しすぎる。
……私でもわかる。まだまだ難しそうなんだ。時間がかかるのは理解できた。焦る気持ちもあるのに自分が何も出来なくて歯痒い気持ちになった。私も役に立ちたいが、今魔道具に触るのは御法度だ。
「まぁ、そんなに落ち込むな。アリシアが持って来てくれた素材で、魔力耐性の強化は出来そうだから先ずはそちらをしよう!」
「うん!! まずは魔道具の強化だね!! 素材は言われた物は揃ってる筈だよ!!」
「おう! これで十分だ。通信ピアスを作った時の強化をベースにして、更に強化出来ないか試してみるよ」
そう言って魔道具や素材に向かうラルフの目はキラキラ生き生きしている。全身で魔道具好きだオーラが出ているのでわかりやすい。尻尾を全開でふりふりしている犬みたいだ。
そんな面白いものかなぁ?
邪魔をしないように私の手が絶対に触れない距離を保ちつつラルフの様子を伺っていた。後ろから覗いてもラルフはセンサーがあるのか、近づきすぎるとすぐに指摘されるので注意しなければいけない。
ラルフが取り出したのはブルちゃんの鱗と爪と角だった。
まずは鑑定を行っているようだ。一つ一つ丁寧に見定めている。ラルフの鑑定は項目が多いのかすごく時間がかかる。私にはどれも同じ鱗にしか見えないが、ラルフは鱗の中でも今回の魔道具に最適な素材を見極めているのだ。私にはできない外套だ。先程ラルフが言ったように私とは正反対の凸凹コンビだ。
「なぁ? もしかしてこのブルードラゴンの素材はピアスを作った時と同じ個体か?」
ラルフは振り返りもせずに、私に聞いて来た。
「前回と同じブルードラゴンだよ。わかるの?」
「やっぱりそうだよな。前回と魔力の波長が一緒な気がしたからさ。以前倒したドラゴンの残りなのか?」
「ううん。倒してないよ。ちょうだいって言って貰って来ただけだよ」
「……は?」
ラルフは鑑定を中断してこちらに振り返った。その顔は驚きに満ちている。そんな驚く事かな? 私はブルちゃんとの経緯をラルフに話した。話していくうちにラルフの目が遠くを見て何処か現実逃避しているみたいだ。何故?
「あ〜つまりアリシアはブルードラゴンを使役してるって事だな。ドラゴンを使役してる魔法使いって今まで聞いた事ないぞ?」
「え〜? ちゃんと主従契約? 従魔契約? してるよ」
「アリシアならあり得るのか……? 人智を越えてると思うんだけど。はぁ〜アリシアには驚かされるばかりだな。だからなのか、アリシアの魔力と馴染みが良いし、何となく波長が似てると思った」
ラルフは鱗を器用に指で回しながら鑑定に戻った様だ。何処か呆れているようであまり鑑定に身が入ってない気がする。そこはおざなりにならないでちゃんと鑑定してよ!!
「そりゃそうでしょ。私の魔力を元に構成されているらしいから」
「は?」
私の返答を聞いてラルフは今度は鱗を落としそうになっている。
「ちょっと貴重品何だから丁寧に扱ってよね! ブルちゃんは今凹んでるんだから、次は当分貰えないよ?」
なんか今日のラルフは「は?」が、多すぎない? そんな驚く事かな? ちゃんと従魔契約するときに上層部に相談して許可は得ていますから! 規律違反はしておりません。だから悪いことではない筈ですよ。怒られるような事はしてません。まぁ何故か使役してる事は秘密にと言われてたけど、ラルフはマブダチだし、言いふらす様な人じゃないから大丈夫でしょう。
そんなことを考えていたら、ラルフは鱗をテーブルに置いて、私の方に歩み寄ってきた。その顔が物凄い形相なので思わず後退りする。ラルフの魔道具の研究室はそんなに広くないし、両サイドの上から下まで1面に本棚がある。私は数歩後ろに下がっただけで、本棚とラルフに挟まれてしまった。
うぇ。何だかめちゃくちゃラルフが怖いです。私が怯えていると
「その話詳しく聞かせろ」
物凄い至近距離で真顔のラルフに詰め寄られた。私ってもしかしてピンチなの?




