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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

学校での日常~中学生の記憶~

学校での日常【正解とは】

作者: 翠川

 


 ある秋の日。

 この日は掃除当番で私は雑巾がけをする係だった。

 雑巾がけをする係は、私ともう一人の友人、田辺さんだった。

 田辺さんは笑顔を絶やさない明るい性格で、才色兼備という言葉がぴったりの人だった。



 雑巾がけ係の仕事は、教師の机の上・後ろの棚の上・全員の机の上を拭くことだった。

 私は戸惑った。

 数日前、メルさん達がリエさんの机に唾を吐きかけたり靴のまま机の上に登って踏みつけたりする衝撃的な姿を見たばかり。

 全員の机の上を拭くということは、当然リエさんの机も拭かなければならない。



 リエさんの机を雑巾がけすることを躊躇していた私に、田辺さんは『こっちは私が拭いておくね』とばかりに、サッとリエさんの机を雑巾で拭こうとした。

 リエさんの机が唾液まみれだと知っている私は、つい、田辺さんの腕を掴んだまま固まってしまった。

 教室の奥には掃き掃除係のメルさんがいて、箒を手に私と田辺さんのやり取りを薄笑いを浮かべながら見ていた。


「何?どうしたの?拭かないの?」


 怪訝な顔をした田辺さんにそう言われ、掴んでいた腕を離すしかなかった。

 メルさんの視線が気になってしまい何も言えなかった。

 田辺さんはちょっと不機嫌そうな顔に変わって、


「リエさんの机だから拭きたくないってこと?」


 と私に問いかけてきた。

 ある意味、確かにそうだ。

 でも違う。

 もっと別の理由がある。

 誤解を解きたかったが、メルさんが見張っている以上何も言えなかった。



 誤解を解きたくて、メルさんが見ていない隙に何度か話しかけようとした。

 でも結局、私は最後まで田辺さんに話しかけることが出来なかった。

 メルさんが田辺さんと私のやり取りを気にして目を離すことをしなかったのも理由の1つだが、何よりも田辺さんを巻き込みたくないと思った。



 田辺さんは、何も言わない私に対して怒っていたように思う。

 リエさんの机を拭き終えた田辺さんは、怒った様子のまま無言でバケツの水で雑巾を洗い、そのまま干しに行ってしまった。

 残された私はバケツの水を使う気になれず、どうしたらいいか分からないまま一人でバケツの水を捨てに行き、軽くバケツをすすいだあとに蛇口から流れる水を使って自分の雑巾を洗って干した。

 重いバケツを一人で運び蛇口から流れる冷たい水で雑巾を洗いながら、胸がざわざわして鼻の奥がツーンとした。

 気を抜くと零れ落ちそうな涙を堪えた。


『学校では泣きたくない』


 と強く思った。

 その後しばらくの間、田辺さんは私に対してよそよそしかった。



 私はこの時、一体どうするのが正解だったのだろう。

 田辺さんにあの日の放課後に起こった出来事を伝えるのは、自分が悪者になりたくないだけの言い訳にしか過ぎないと感じた。

 当時も今も、考えても答えが出ない。





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