第零地区 L
今作は拙作『神ゲーしようと思ったらクソピーキー性能のチート詰め合わせの初期特典に当選したので悪役に徹することにする』の外伝的作品であり、当作品を既に読んでいる事を一部前提にしている部分もありますが、読まなくても楽しめる様に出来るだけ話を進めていく所存です。
ブクマ・感想・レビュー・評価点をいただけると非常にうれしいです。
先に言っておきますが、主人公たちは結構ゲスです
※妖怪感想クレクレなのでリアタイじゃなくても感想は大歓迎!質問があればできるだけお答えします
ビルが空を飛んだ。
比喩ではなく、文字通りビルが空を飛ぶ。
体長30mに届かんとする巨大なゴリラが土台からビルを引き抜き投げたのだ。
一方、ゴリラがビルを投げた先に浮いていたのは第9地区辺りに封印してありそうな巨大空中戦艦。機体の下から突き出た巨大な砲身が素早くビルの方へ向き、極太のレーザービームを発射する。
レーザービームとビルが激突し、空中で花火のようにコンクリ片が舞い散る。そのコンクリ片の雨に巻き込まれて、ゴリラの足元でゴミのように蠢いていた奴らが死んでいく。
「きたきた!!オメェらの日頃の行いが悪すぎて逆に綺麗な死出への道が開けたぞ!!」
「「「「「「テメェがいうなバーカ!!」」」」」」
その中でもギリギリでコンクリ片の雨を掻い潜る一団があった。
人を簡単にぺちゃんこにできる巨大なコンクリ片がとあるビルの土台に綺麗に直撃し倒れていく。倒れて道路を挟んで反対側のビルにのしかかった。
「逝くぞーーーーー!掴まってろー!!」
その斜めになったビルをまるでジャンプ台のように見立てて、明らかにリアルのそれとは違う挙動をしながらキャタピラを轟かせ一台の戦車が登っていく。
異能で戦車の重量などを軽減してなお重い車体は通り過ぎるや否やビルの窓ガラスを勢いよく割ってビルを登る。
上からおまけ感覚で降り注ぐビームを蛇行しつつ躱しながらビルの上へ上へと登る。
「運転が荒いんだよぉ!私たちを轢き潰す気かっ!?」
「よけようとしてこっちがビルからおちちゃうよぉ!?」
「なんとかしてくれそれくらい!砲撃よーい!ブースト逝くぞ!」
その戦車の両サイド斜め前を先導するように走る大型二輪には、それぞれ顔の上半部だけを覆うスカルマスクをつけたスーツ姿のギャング共。
しかしその体はギャングというには華奢で小さく、一人は高く見積もっても女子中学生、もう一人に至っては小学生がどうかも怪しい小ささ。大型二輪を操作できている方がおかしい。
そんな二人を付き従えて戦車は爆走する。
ビルの中腹まで来たところでビルがメキメキと音を立てて本格的に壊れ始める。同時に非常に荒い運転で戦車を操っている少年がブーストと唱えると赤い光が戦車を多い、戦車とは思えないスピードで一気にビルを駆け上る。
高速で動く物体に向けてビームが更に降り注ぐ。それに対して戦車の上で待機していた命知らずどもが迎撃用のロケットランチャーを放ち事なきを得る。
「跳ぶぞ!」
そして遂に戦車が長いジャンプ台を走り抜け空へ羽ばたく。
手頃なビルを引っこ抜き上空から降り注ぐビームを凌ぐ巨大ゴリラはその時ようやく異常に気づく。
自分の背後から自分めがけて鉄塊がかっ飛んできていたのだ。
この巨大ゴリラのヘイト優先度は、1番高いのがビルなどの建築物。続いて自分に攻撃してきた同格のボス個体。そして最後に攻撃してきたGangだ。
反射的に裏拳で戦車を迎撃しようとする巨大ゴリラ。裏返せばそれは巨大ゴリラが戦車を脅威と見なしたという事。
「させないっ!」
「目つぶしだぁ!」
その裏拳目掛けて大型二輪から飛び降りハンマーで手をぶったたく推定JC。この世界は元からやたら近接系の武器の威力がやたら高いのだが、そこに武器の威力を引き上げる『オーバーチャージ』を組み合わせることで最大瞬間火力は物理学者を困惑させるレベルの威力と化す。
威力が最大まで込められた振りぬく前の腕と、ゴツイ巨大ハンマーが空中で激突し、ドゴンッ!という凡そ無機物と有機物の激突音とは思えない音が響く。
そのままハンマーを振るった少女は強烈な威力に吹き飛ばされビルに激突。床に叩きつけたトマトの様に破裂して死んだ。
だが、その犠牲は無駄ではなかった。止まった腕を掻い潜り、小さな悪魔がバイクから飛び降りて自分の身長ほどもある大太刀を振りぬく。攻撃範囲を拡張する『フレアエクスパンド』の効果で更に攻撃範囲が広がった大太刀は巨大ゴリラの両眼を同時に切り裂く。
思わずのけぞる巨大ゴリラ。そこへ小さな悪魔を巻き込みながら戦車が飛んでくる。
「いくぜぇ!!」
完全0距離まで巨大ゴリラの顔面に接近する戦車。戦車の上にしがみついていた連中が『バリア』の異能で戦車を空中に固定した次の瞬間、運転手を勤めていたギャングが砲身の引き金を引く。
この巨大ゴリラ、エンペラーコングは手足から胴までが鋼も鼻で嗤うほど硬く、戦車の砲撃ですら若干よろめくだけで致命傷を与えることはできない。頭部や関節部分だけが弱点なのでそこを集中して攻撃することが必要になる。
もはやゴリラの皮をかぶった巨大ロボットなのでは?とプレイヤー達からツッコミを入れられているが気にしてはいけない。
ただし、この巨大ゴリラは飛び道具に対してのみゴキブリもびっくりの超速反応で一番の弱点である頭部に飛んできた砲弾をキャッチして投げ返してくれるので、攻撃する時は確実に頭部を捉える必要がある。
その中でも最も確実でイカレた方法が戦車による0距離頭部砲撃である。
モロに顔面に砲撃をくらった巨大ゴリラの首が曲がってはいけない方向に折れ、グラリと傾く。
「よっしゃ獲っ」
「いえー」
好きなだけ暴れ回り多数の被害者を出したゴリラを遂に仕留める。戦車の中で運転手がガッツポーズし、上に乗っていた者たちも歓声を上げるが、脅威判定を更新した巨大空中戦艦から放たれた極太ビームに蒸発させられ、その歓声が響くことはなかった。
その無謀な突貫を見ていた他のギャングたちはゲラゲラと笑ってそれを見ると、巨大ゴリラの死体からドロップしたアイテムを取るべく、血で血を洗う殴り合いを開始した。
それもまた、この世界では当たり前の世界であった。
この世界では常識が息を引き取っていて、倫理が絶滅していて、どうしようもなく笑顔と狂気で溢れていた。
◆
Gang Bio Hazard War
21XX年、人類が夢見た、一般家庭でも利用可能な完全没入型VR機器、通称第4世代に向けて製作されたゲームの一つである。
ゲーム自体はたまに変な人気を醸すバカゲーに分類されるオープンワルド型クライムアクションゲーム。そこに強引にゾンビ要素と異能やモンスターなどのファンタジー要素を詰め込みミキサーにかけ、そこに大量の狂気とオンライン要素を詰め込んだのがGBHWというゲームであった。
それだけなら、この作品は開発陣が迷走しまくったか悪乗りの集合知のようなバカゲーという評価で終わったのだが、この作品がその評価にとどまらず、世界中でカルト的な人気を誇るに至る明確な理由があった。
ゲームと言う物は大概バグが付きまとう。
オープンワールドで、尚且つオンライン。それはバグ、バランス崩壊の宝庫であり、メンテナンスに次ぐメンテナンスの繰り返し。スレでは呪詛と煽りに支配される。
VRの場合は更にテクスチャの崩壊率が非常に高く、PCゲームの笑えるバグでは済まされないバグが頻発する。特にこのようなバカゲーに於いてはゲーム自体がクラッシュしてしまう事もあり、ゲーマー達はもはや諦めの感情を胸の底に抱えてゲームの世界に飛び込んでいた。
だが、GBHW(Gang Bio Hazard Warの略)は一切のバグを起こさなかった。それどころか、明らかにオーバーテクノロジーの様な技術が満載だったことがGBHWの人気と評価を確固たる物とした。
なぜこんなバカゲーにこんなすごい技術を(歓喜)。
これがGBHWプレイヤーの総意だった。
そんなGBHWには、ゾンビのみならずビルをぶん回すゴリラ、空を比喩自在に跳ぶ金色の鷲、武器を大量に落とすムキムキ忍者に赤白のパチモン臭い星の戦士に巨大鎧武者などが出没しPvPを最大限まで引っ掻き回し、よりカオスへとゲームを導いていく。
「凄いな。あのイカれ侍相手に数十秒タイマン張るなんて。えっと、ミヤコさん、でいいのかな?」
「えっ?なんであたしの名前知ってんの?てか誰?あ、あと、助けてくれてありがとうございます」
「ああ別にそれはどうでもいいよ。てか頭の上にプレイヤーネーム表示されてるでしょ。俺はノート、こっちの俺の後ろに隠れてるちっこいのがユリンな。人見知り激しいから許してやってくれ」
「よろしく。あ、ホントだ。名前書いてある」
「反応的にゲームはまだ慣れてない感じだし、その名前ってことは日本人?だよね?なんか凄い古風っていうか、一周回って日本かぶれの外国人かと思ったけど」
「古風で悪かったですね。でも親が考えてくれた名前なんで気に入ってるんです。失礼ですねあなた」
「え?親にプレイヤーネームを考えてもらって…………いや、ちょっと待って。まさかそれ本名?」
「そうですけど」
「ネットリテラシーってご存知?」
「何ですかそれ?」
そのゲームで、一人のイカレた少年と、その少年について回る可愛らしい幼子、その2人と、何をまかり間違ったかこのイカレた世界に紛れ込んだ筋金入りの箱入りお嬢様が出会ったことで、全ての歯車が狂い出す。
そして約10年後、世界を大きく変えた第七世代VR機器に合わせた2つ目のゲームとして売り出されたGBHWの新作『Gang Bio Hazard War・Neo』にて、彼等は凶悪な仲間を提げて狂気の世界に再び降り立った。
完全不定期更新です




