伝えられない想い
公園で話をしたあと、昼食をとる為に近くの料理店へ行った。そこでは、注文の際に何を頼むのか聞かれたのが僕だけであったので、改めて千代が周りの人から見えていない幽霊状態であるということを認識した。
料理屋を出た後は、もう一度公園へ戻り、話をし続けた。気づいた頃には夕方になっていたので、急いで家に帰るのだった。
家に着いたのは、夜7時前ギリギリだった。
「ただいまー」
家に帰ったことを親に知らせると、キッチンから母の声が聞こえた。
「おかえり。もう、夜ご飯できてるわよ。手洗いうがいしてから、父さんと一緒に食べなさい」
「はーい」
やるせない返事をすると、千代はくすっと笑った。
「怜翔のお母さん何も変わってないね」
「うん。でも、あの変わらない性格とその優しさのおかげで、僕はおまえがいなくなったとき、落ち着くことができたんだからな」
「……そ、そうなんだ。やっぱり私が死んだとき、ショックだったんだね」
悲しそうだけど嬉しそうでもある、複雑な表情で千代は呟いた。
「そりゃあ、す……」
危ない。もう少しで[好きな人がいなくなったら悲しいだろ]と告白じみたことを言ってしまうところだった。
死んでから三年経った今でも募らせ続ける彼女への想いはまだ伝えられずにいた。
「す……なに?」
千代は笑いながら痛いところをついてくる。
「そ、それよりおれ、ご飯食べてくるから、とりあえず僕の部屋行っといて」
誤魔化すように言葉を投げつけ、リビングへ向かおうとすると、
「むー。ま、わかったよ」
千代は少し膨れた後に納得し、僕の部屋へ向かった。