表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

人間の俺、だが双子の弟は竜!? 前日譚

作者: 明夜明琉

 雨がずっと降り続けている。


「兄さん……」


 洞窟の向こうに煙る雨を見ながら、アーシャルは呟いた。


 空は黒い雲に包まれて、いつまでたってもこの冷たい雨がやむ気配はない。洞窟の入り口に立って眺めてみたが、広がるのは一面の薄い靄に包まれた世界ばかりだ。生い茂っているはずの緑でさえもが、空間を覆う白い水滴のせいで、どこか灰色の世界に沈んでしまったように見える。


 いつやむともしれない雨を眺めながら、アーシャルはぽつりと呟いた。


「どこにいるの……?」


 あの日、兄さんの魔力が降らせた雨を感じた嵐の夜から、兄さんは二度と帰ってはこなかった。


 何年もたって――――。もう生きているのか、死んでいるのかすらわからない。


 見えなかった目がつぶれるかと思うぐらい泣き続けた。


 治療をして見えるようになっても、また見えなくなるのじゃないかと思うほど。毎日瞼を腫らし続けて、あの日から目はいつも真っ赤だ。


「生きているの……?」


 目が治り、一人で飛べるようになってからは、母さんが止めるのも聞かずに探し続けた。


 竜の翼で、それこそこの世界の果てまでも! 翼がすり切れそうなほど!


 兄さんとよく行った山。水遊びが楽しいんだと話していた湖。


 必死になって毎日飛び続けたのに、どこにもその姿を見つけられない!


「兄さん!」


 両親以外のだれもが、もうきっと死んでしまったんだよと言う。だから諦めろと。


 ――そんなはずはない!


 絶対にどこかで生きている!


 信じて、幾度この世界をめぐっても。泣きそうな気持ちで、竜なら通じるはずの本名で繰り返し呼びかけても返事がない。


「兄さん……返事をしてよ……」


 ぽつりと、言葉が暗い洞窟に響く。


 だけど、耳に届くのは岩に響く雨の音だけだ。


 ただ静かに、冷たい岩の洞窟を叩き続けて、生まれた時から側にいた温かい兄の存在がないことを否応なく思い知らされる。


 いつもは、自分の隣で体が冷えるぞと心配をしてくれた! 雨なら水竜の兄さんは本当は遊びに行きたいのに、目が見えない火竜のアーシャルを気遣って、いつも長い首で濡れないように、洞窟の奥へと案内してくれていたのに。


 今は、それがどこを探しても見つからない! 死という、嫌な言葉が脳裏に瞬く。


 ――嘘だ、信じたくない!


  兄のあの少し意地悪な声が、この世のどこにももうないだなんて!


  だから、こみ上げてくる不安が恐怖に変わって、必死に叫んだ。


「頼むから、兄さん! 返事をしてよ――――――っ!」


 慟哭のように。咆哮のように。


 その本当の名前を!


 しかし、耳に返って来るのは無情な雨の音だけだ。


 それに、アーシャルは持ち上げていた長い竜の首を静かにうなだれた。


(だれ――――?)


「えっ……!?」


 驚いて、赤い首を跳ね上げる。


 今、確かに聞こえた。


 囁くように微かな――――微かすぎる返答。


 けれども、がばっと赤い足で立ち上がる。


 ――生きている。


 兄さんはどこかで生きている!


 竜の首をあげて空を仰ぐと、降りしきっていた雨はいつの間にか小止みになっていた。


 静かに降り続ける水の祝福の合間からは、知らない間に太陽が暖かな光をこぼしているではないか。


「待っていてね、絶対に迎えに行くから」


 もし兄さんになにかわけがあって帰れないのなら――――自分が迎えに行くまでだ。


 今ならば、兄さんが尻尾を掴ませてくれないと飛べなかった雛の頃とは違う。だからそう決めると、アーシャルは世界で最強と言われる火竜の赤い翼を広げた。


こちらは、以前ツイッターで載せていました前日SSです。

このあとは、「人間の俺、だが双子の弟は竜!?」に続きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ