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DBQ 転生したら弟だった  作者: ああいう
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第5話 幕間 転生ハードオン

 朝だ、外はまだ暗い、当然だ。多分日本ならまだ5時もなってないだろう。




 この時間、自発的に目を覚ましてしまう自分に腹が立つ。


部屋の反対側にあるベッドにはまだ妹がぐーすか寝ている。




 くそう、修行がないからってゆっくり寝やがって。




 暗いままの部屋で用意してある服に着替えながら、あの時の事を思い返す。


これはきっと待ち受ける修行という名のいじめからの逃避行動だ。


あの時以前、彼がまだ石川遼太郎という名前だった頃はこんな早朝訓練など、やった事もやる必要も無かったのだから。




 あの日、階段から転げ落ちた俺が目を覚ますと見知らぬ場所にいた。


白くて広い空間としか言いようがない場所だった。四方も天井も、もやがかかったようで見渡せない。


だがその時はそんなことに気を回す余裕はなかった。


目の前に、巨大な竜が宙に浮かんでこっちを見ていたからだ。


深いブルーの瞳、テラテラと鈍く緑に光る体中の鱗が、否応もない現実感を彼に叩きつけていた。




 某マンガに出てくるシェンロンがそのまま目の前にいた。




 あれは さすがにびびった。体があったら粗相してしまったかもしれなかったほどである。


そう、その時は体がない意識だけの状態だったのだが、そんな自分の状態にすら気づけていなかったのだ。




 「さっきぶりじゃの。落ち着いたか?。」




 動転する頭も体もなかったが、動転していた頭の中にその声が響いた。


確実な死の恐怖で硬直していた意識が、聞き覚えのあるその声で現実に引き戻された。




 「あんた、誰だ。竜?…なのか。」




 目の前にいる竜に、竜なのか?と聞く間抜けな質問だった。


答える必要もないと思ったのか、俺の質問をスルーして竜の声が脳内に響いた。




 「お主に危害を加えるつもりはない。安心せよ。暫時待っておれ、今話しやすくしてやろう。」




 そう言った途端に巨大な竜の体は一瞬にしていなくなり、代わりにさっき店で別れたじいさんが立っていた。


巨大緑竜の脅威がなくなってほっとした俺の気持ちが伝わったのか、




 「聞きたいこともあろうが、まずはわしの話を聞くのじゃ。」




 そう言ったじいさんは事の経緯を話してくれた。


それによると、じいさんの正体は、日本一帯を霊的に保護する東海竜王で名前を敖廣ごうこうというらしい。


西遊記とかに出てた名前なので聞いたことはあった、確か孫悟空に無茶ぶりされていじめられるポンコツ竜王だったか。


で、東海竜王たる傲廣様は秋葉原にフィギュア購入にきて、自分の守護する領域である日本から異世界に転生する魂に気が付いたそうだ




 彼が階段から落ちて死んだと同時のタイミングで秋葉原と霊的につながってしまった異世界。


そこに自分と縁のある魂が飛び込んだことに気付いた。


その転生先の異世界はこの世界と縁が深く、死んだ魂が移動する事が稀に起こるらしい。


本来、そういう魂の移動は放置するそうだが、今回は同好の士である遼太郎にフィギュアを譲ってくれたお礼とお願いがあって呼び止めたという事らしい。




 そこまで聞いた俺は期待した。そりゃそうだ、異世界転生と来て竜神様のお礼と聞けばオタクなら誰だって期待する。


そして思うはずだ、チート転生ktkr!、と。




 「言っておくがチート転生などにはならんぞ、そもそも魂の輪廻に手出しなどせぬし、行く先がどんな世界かも教えられん。


言えるのは少なくとも人間の文明がある事ぐらいかの。人間の魂は基本的に人間に転生するものじゃからな


しかし何もできないわけではないのじゃ、というより我が願いを聞いてもらえれば、できることが生まれるという方が正しいの。」




 「お願いですか?、なんか怖いですが僕にできる事でしょうかね。」




 竜のお願いとか難易度高そうだ。お姫様助けろとか、大魔王倒せとか、玉を7個集めろとかだろうか、チート無しじゃ無理だと思う。


てか、絶対無理だろう。




 彼はオタクだ、そしてオタクという人種にとって、自分という存在はこの世で最も信用できない物と相場が決まっている。


戦闘力などありはしないのだ。


子供の頃連れていかれた剣道場からは、小手を撃ち込まれた激痛で道場から泣いて逃げ出した事がある。


知性などあるはずもない。


習字教室はすぐに飽きて行かなくなったし、そろばん教室では初日にそろばんに乗って滑り、壊して帰らされた。


良くもなく悪すぎもしない成績で、大学まで行ったが、学んだ事などほとんど忘れている自信がある


人に自慢できるものなど、ゲームで鍛えた手先の器用さくらいだろう。


手先の器用さだけが取り柄の人間がチートも無しに異世界転生、それどんな無理ゲーだ。




 「無理ゲーを最高難易度でクリアできるまでやりつくし極めるのが、わしらゲーマーというものじゃろうが。


が、まあよい。無理ゲーというほどの頼みではない、実はお主が今から行く世界に持って行って欲しい物があるのじゃ。」




 「持って行って欲しい物…?、ですか。まさか、フィギュア?」




 「ちがうわ、馬鹿者。なんで縁もゆかりもない異世界に自分の宝物をもっていかせるんじゃ。わしのコレクションは未来永劫誰にも渡さん。


持って行って欲しいものは、この竜の宝珠じゃ。」




 そう言ってじいさんが出現させたのは光り輝く巨大な宝玉だった。


直径1メートル位で虹色に輝いて宙に浮いている。


絵に描かれている竜が手に持っているやつだ。これをあっちの世界にいる竜に渡してほしいとの事だ。


じいさんが言うにはそもそも普通の物質は異世界には持っていけないが、龍の宝珠は霊的なエネルギーの塊で、俺の魂に同化させれば持ち込めるらしい。


その場合、宝珠に俺の今生の自我と記憶を付与することで、今の自分として生まれることができる。


また宝珠が転生する魂に好影響を与えるため何かしら微チート的な影響の可能性が微レ存らしい。


どんな影響かはわからないというのが不安だが。




 向こうの世界には、というかどんな世界にも竜というものは存在していて、生きて竜に会うことができれば魂に同化している宝珠を分離して引き取ってくれる。


もし会うことができなくても魂が輪廻して生まれ変わるので、何度か生まれ変わるうちに、ある程度近づけば竜のほうで気づいて受け取ってくれるはずだが、


その場合は時間がかかる上、偶然に頼ることになってしまうので、できれば今の記憶が残っている次の一生のうちに渡してほしいとの事だ。




 つまり遼太郎に与えられたのは、


全く知らない世界に赤ちゃんとして生まれ、大人になるまで健やかに成長し、竜が住む場所まで行って宝珠を魂から分離してもらう。


なお、チートはないが、何かはわからないが微チートはあるかもよ、無くても怒んないでね。


というミッションだ。


断れない訳ではないが、断っても損するだけで断る理由がないし、受けた時の利は一応ある。


実際にやる事と言えば、竜の居場所を探しながら長生きする位だろう。


チート能力はなくても 赤ちゃん時から大人の知識を持って努力できるってのはかなりのアドバンテージになるはずだ。


内政チートっぽい事もできるかもしれない。




 「ミッションを受けてくれる気になったのはありがたいが、赤ちゃんから努力というのは無理じゃな。


大人の知識を受け入れる事が出来るほど、転生先の頭脳が出来上がるのは数年かかるからのう。


転生前の記憶が定着するのは3歳くらいじゃ。良かったのう、大人の意識で授乳プレイなど羞恥の極みじゃぞ。」




 授乳プレイか、まあ興味はないな。


若くてきれいなお母さんにびっくりしつつ、おっぱいを飲ませられてちょっと照れながらも美味しいー!っていうテンプレのイベント。


まあなくても別に困らないイベントだろう。


それより意識が戻るのに数年かかるって言ったか、3歳ぐらいに記憶が戻るってのもよくあるテンプレ設定ではあるのか。


3歳か、3歳っておっぱい飲まなかったっけ、もう飲んでないよなあ多分。わからん。


でもまあ3歳ならお母さんとのスキンシップとか普通にあるはずだし、あきらめなくてもワンチャンあるはずだよなあ。


異世界だし、緑髪のちょっと気が強そうなお母さんとか、赤髪チャイナ服お母さんとかのおっぱい。


いや、赤ちゃんプレイとか興味なかったんだけど、無かったんだけど、残念な気がしてくるな。




 「おい、ドMでマザコン、戻ってくるのじゃ。」




 「やめろ、根も葉もないこと言うな、あらぬ誤解を招くだろ。」




 「寝も葉もあるじゃろ、誤解ではなく客観的事実じゃ。


まあ、お主の性癖はどうでもよいわ。


今までの話がお願いの部分じゃが、まだ礼の部分が残っておる。


人形を譲ってくれた件と宝珠を届けてもらう手間賃じゃな。


先にも言ったと思うが転生先の情報などは教えられん。


よくあるチート能力とか加護を与えるとかはそもそも無理じゃ。


我が力はこの世界でしか使えんからの。」




 遼太郎はオタクである。


そしてオタク文化の1ジャンルに転生物というものがある。


転生物とは、その名の通り異世界や同じ世界の過去や未来に転生する主人公の物語である。


転生物好きのオタク達の、統計によると当社比約90パーセント強は、そのテンプレの一つであるチート転生を、いつか来ると夢見てリアルを過ごしているのだ。


この夢にまで見たシチュエーションを前にして心を燃やさない者は、ことオタクという人種に限ってはいないであろう。




 彼らの大半は俗に言う。「俺はまだ本気出してない。」


さらにこう続けるのだ。「異世界行ったら本気出す。」と。


そして今、遼太郎の前に異世界転生のチャンスがやってきたのである。


遼太郎としては、もう本気で乗るしかないのだ、このビッグウェーブに。




 「良かろう。この交渉中、この石川遼太郎に油断や慢心は無いと思っていただこう。」




 「何じゃ、いきなり。訳が分からんぞ。」




 ポーズを取った俺を怪訝な表情でねめつける竜神に対して、いや何でもないです。とごまかして遼太郎は交渉を開始した。




 「つまり、よくある魔力チートとかは?」




 「無理じゃな、そもそも魔法が存在しない世界かもしれんぞ。」






 身体能力チート、




 「無理じゃ。」




 魔眼もしくは邪眼




 「無理じゃ。」




 超能力使えるように、「無理じゃ。」、スキル強奪、「無理じゃ。」、スキル創造、「無理じゃ。」、イケメン、「駄目じゃ。」






 無理じゃなくて駄目って言いやがった。チート転生させる気が無いと見たね、俺は。


だが、ここで裏をかいてチートを手に入れるってのも また王道の展開。


やってやる。やってやろうじゃねーか。オタクの底力みせてやる。






 「逆に何ができるのか聞かせて下さい。」




 「世界のバランスを崩すようなことを世界の守護者たる竜神にできる訳もなかろう。


そもそも世界を超えて影響を及ぼすことはできない様になっておる」




 記憶を残したり、宝珠を魂に同化させたりはできると、で、イケメンにする事はできるけど駄目だと?。




 「お主をイケメンにするのは、世界の理に反しておる。」




 このじじい、ふざけやがって。


だが、見出したぜ。チート転生に至る一筋の光を。




 しばし考え込んだ彼にじいさんが威厳たっぷりに語りかけた。




 「我が同好の士にして友、石川遼太郎よ。四海の王にして竜族の長たる東海竜王、傲廣が問う。


さあ願いを言え、どんな願いもひとつだけかなえてやろう。」




 「この世界の俺に知識を与えてください。世界の理ことわり、この世の真理、ありとあらゆる知識を。




 「ぐぅ…駄目じゃ。」




 「ほう、四海の王にして竜族の長たる東海竜王が、なんでもと言った自分の言葉を反故にすると?。」




 「…それはムリな願いだ。わたしは神によって生み出された。したがって神の力を超える願いはかなえられん。」




 「神龍っぽく言っても駄目だよ。そういえばさっきの「願いを言え…」もそうだよね、まねしたよね?、あれを。


駄目だとか、いやじゃ、とかほんとは出来るよね、できるのに断ってるよね?。


同好の士とか友とか言っておいて何なの?。


不幸にも夭逝した友が最後に残したお願いなんだから聞いてやれよ、ささやかな願いじゃん。」




 身体が存在していれば胸倉につかみかかっていたであろうテンションの遼太郎に対して、泣きが入る寸前の自称四海の王は言い訳を続ける。




 「じゃから、世界のバランスを崩すようなお願いは叶えられないんじゃって。


世界の理とかこの世の真理とか人の身に余るじゃろ、バランス崩れちゃうんじゃって世界の。


イケメンにしてとか女の子に生まれたらどうすんの、馬鹿なの死ぬの?、あっもう死んでるんじゃったわ。


お主がイケメンに生まれるとか冗談にしてもひどすぎじゃろ。


それに神龍っぽくって、神龍じゃから。まごう事なく神龍じゃから。


1回くらいやってみたかったんじゃ、神龍として生まれたからには。」




 「ふーん、…神によって生み出されたって?。」




 「…それは嘘です、じゃ。」




 「ほんとに神龍とか竜王とかなの?。」




 「それは本当じゃ、です。」




 「じゃあチートの一つや二つ大丈夫だよね。」




 「勘弁してください、ですじゃ。」




 「じゃあ 何ならできますか?。」




 「もうちょっとささやかなお願いでお願いします、ですじゃ。」




 ひとしきり、ごねにごねてなにがしかのチート能力を授かろうとした遼太郎であったが、どうやらチート関連はほんとに無理らしい、




 はあ、詰んだ。


チートなしで異世界転生かあ。


まあ、記憶が残るだけでも得したと思うしかないようだ。宝珠効果に期待するしかないな。


奴隷スタートとかじゃありませんように。


竜神様に祈っても無駄だから普通に神様にお祈りするかな。




 「わかった。じゃあ家族に、父と母に伝言をお願い。


夢でも手紙でも何でもいいんで、先に死んじゃってごめんなさい、とありがとう、とを伝えて貰っていいかな、あとミーコの世話よろしくって。」




 「お主にしては殊勝じゃな。てっきり2次元以外興味の無いくそ野郎かと思っておったわ。


良かろう、この東海竜王傲廣が両親にありのままをすべて伝えてやろう。」




 「いや、余計なことは伝えなくていいから、一言、二言、伝えればいいから。


あと、HDDの中身を消しといて。


伝言は忘れてもいいけど、こっちは絶対忘れないでお願いします、マジで。


それと 部屋にあるフィギュアとかのコレクションは全部引き取ってくれていいから。


どうせ残しておいても親に捨てられるだけだし。


正直、人にくれてやるのはすっげえ悔しいけど、まあじいさんなら大切にしてくれるってわかってるから。」




 「お主…わかった、その願い東海竜王傲廣が聞き届けた。そろそろ時間じゃ。安心して行くがよい。


名残惜しいがあっちに行っても達者でな。




 「それから世界の理に反する故、異世界については教えてはならぬ事になっておるのじゃが独り言を知らずに聞かれたのならしかたが無い。


さて独り言じゃが、先ほどわしの領域とつながった異世界は、まあ俗にいう剣と魔法の世界らしいわい。


魔法はこの世界にはない理じゃが、使用するにはイメージが大切じゃから、もしこの世界のオタク達が転生したら有利かもしれんなあ。


まあ剣も魔法も小さいうちから練習すれば上達するという事じゃな。


ああ、もしかしたら宝珠に記憶を付与したとき、間違って余計な物まで付与したかもしれんなあ。


神珍鉄が見当たらんからそれかもなあ、良い武器になるのじゃがなあ。


どこにいったかなあ。」




 「じいさん、誰をごまかそうとしてんの?。


茶番は良いから、神珍鉄って何?、それ大事な事でしょ、チート?チートっぽいよ。


なんで最初から渡さないの、いままでさんざん渋ってて今更?。


って、あれ?なんか気が遠くなってきた。あれーーーー。」




 って感じで俺はこの世界に来た。


記憶が戻って7年、チートは無かった。


宝珠効果による微チートにも期待したけどそれらしいものも無いっぽい


神珍鉄とやらも手に入ってない。


大体、魂に付与したって言われても、ミッションクリアするまで自分ではなんもできる事が無い。




 ああ神様、転生した先の異世界は地獄でした、大体は駄目神龍と姉ちゃんのせいで。


 そして今日も地獄の早朝訓練が始まる。



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