第1話 プロローグ 秋葉原から愛をこめて
みなさん 初めまして ああいうと申します。
筆が遅くて更新がおそいかもしれませんがゆっくり投稿していきたいと思います。
俺は連休を利用して秋葉原に来ていた。
黄色い電車を降りて、いつ来てもうす暗い駅内を抜けて出て来た駅前のビルの谷間の空は快晴。
休日の秋葉原はいつもどうりに人込みと商品でにぎやかだ。それは上京したその足で訪れた時から変わらない。
俺の名前は石川遼太郎、44歳、彼女いない歴=年齢の俗に言うオタクである。
そんな俺でも温かく迎えてくれる街、それがこの秋葉原だ。
その日、魂のホームタウンである秋葉原を探索中に見つけたそのフィギュアは神懸かっていた。
「すげえ、なんだこの造形美!! 魂 実装済みかよ!」
ショップの最奥、ガラス張りのショーウィンドウに陳列された1体のフィギュア。
遼太郎は某シューティングゲームのボス 通称「おぜう」と呼ばれるキャラクターを前に立ちつくし、見惚れていた。
ロリ属性では断じてない彼にとって一押しキャラはおぜうではなく花の妖怪様なのだが、それでもベストテンに入るキャラクター。
この世には天才と呼ばれる人がいる。
神に愛された才能の持ち主、あるいは自分を磨き続けて高みに登った者。
このフィギュアを作ったやつは、きっとそういう人間だろう。
俺にはわかる。
おそらく年齢30代半ばくらいだろう。
10代前半にはフィギュアやプラモなどにはまり、人生の半分以上を趣味に捧げ、まともな社会生活をおくれていない。
この作品の出来栄えからして、おぜうのような幼女に愛を感じてしまう特殊性癖の持ち主。
結婚もできず、恋人は2次元。
運動不足で無駄な脂肪を蓄え、身だしなみも不潔そのもののはずだ。
かわいそうに!
だが、「彼は1流だ」。
普通の社会人生活を送り、たまの休みは秋葉原探索かゲームや読書の、いわゆるオタク趣味を楽しんでいるだけの俺には逆立ちしても作れない作品。
造形、表情、躍動感 どれをとってもパーフェクト。
この「おぜう」を生み出した、この1点だけで この作者は尊敬に値する。
見た事も会った事もない「おぜう」の作者。いや作者殿!
この作品を生み出してくれて、ありがとう!
貴方が魂を込めて生み出した作品は、俺が謹んで購入させてもらいます。
願わくば、今度は俺の1押しキャラの作品も生み出してください。
心の中で製作者に感謝の思いを伝え、遼太郎は店員にする購入旨を伝えて近くの銀行に現金をおろしにいったのだった。
それにしても、お値段199800円? 高っけえな、おい!!。
十数分後、銀行から帰った俺がショップの奥に入っていくと、見知らぬおじさんと店員が揉めていた。
白髪白髯、身長は140Cm位のおじさん、いやおじいさんだろうか。
多分70歳はとっくに過ぎているであろう白髪のおじいさんが店員にむかって叫んでいる。
「頼む! このフィギュアをわしに売ってくれ!!」
どうやら、おぜうフィギュアをほしがっているようだ。
店員の説明によると、俺が銀行に行ってからすぐに来店し、購入を申し出たらしい。
購入者がいる、といってもあきらめない。
店としては、先に購入を決めたのは遼太郎なので権利は遼太郎にあると思っているらしいが、できれば購入者同士で話し合って決めてほしいそうだ。
作品のファン層を考えると、だいぶはみ出している。
高齢のファンまで獲得していた事を思えば、古参ファンを自認する俺からすれば感慨深いものがある。
とはいえ、他の物ならともかくこのフィギュアは渡す訳にはいかないだろう。
俺はNOと言える日本人だ。
敬老精神あふれる英国紳士などではない、きっぱり断ってあきらめてもらうしかなかった。
「あの、おじいさん このフィギュアは僕が先に買っていた物なんです。」意訳(ジジイ、これは俺のもんだ。あきらめろ)
老人は俺の決意のこもったセリフを聞いてギロリと開いた目をこちらに向けた。
なんか、すげー迫力のあるじーさまだ。ただものじゃない気がする。
だって、なんかオーラがある。どこかの世紀末覇者みたいなやつだ。
こりゃ、店員さんも断れないわ。だってなんか… こわいわ。
老人はすごい必死な形相で俺を睨みつけ、詰め寄りながら言った。
「お主か、わしの人形を先に買おうとした奴は? じゃがこの人形は譲れんのじゃ。
「この人形はな、正に1000年に一度出るか出ないかの芸術品。
さらにいえば、製作者は俘虜の事故ですでに亡くなっておる。
製作者は人形制作の天才じゃった。その最後の集大成ともいえる作品がこれじゃ。
その天才がわしの一押しキャラであるおぜうを最後に残した。
わかるじゃろう、この人形だけはあきらめる訳にはいかんのじゃ。
頼む、譲ってくれ、この通りじゃ。」
その勢いと迫力に、思わず後ずさりそうになるのを俺は必死で堪えた。
そんな貴重なフィギュアなら俺もあきらめられないというものだ。
それにわしの人形とか言ってるが、先に買おうとしたのは俺なのだ、優先権は俺の方にあるだろう。
やはり、NOと言える日本人を目指す俺としてはきちんと断って見せなくてはいけない。
ここは断固たる決意を示さなくてはなるまい。
「あの、おじいさん やっぱり僕も欲しいし、好きなキャラだから」意訳(ジジイ、これは俺の物だ。あきらめな。)
一般的にオタクという種族は気弱な人間が多い。
自分の趣味の世界にのめりこんでしまうのは内向的な性質を持つからであろう。
そしてそういう人間は押しの強い人間が苦手なのである。
真正のオタクではない、休日にライトなオタク的文化を楽しんでいるだけの遼太郎であっても、やはりそういう一面がある。
そして、このじいさんは遼太郎達が苦手な部類の人間の様だ。なんか無意味に迫力があるタイプだ。
それにしても、このじいさん年を取ってるのはわかるんだが何歳なんだ。
60くらいにも見えるし、100過ぎてても不思議じゃないような、仙人がもしいたらこんな感じじゃなかろうか。
そもそもなんでこんなじじいがおぜうのファンなんだ。
しかも一押しキャラとかいってたな。おかしいだろ。
まさかの幼女趣味?。ロリか、ロリコンなのか。じじいでロリコン。なんて業の深い。
いや、逆に考えればじいさんとなってもおのれを貫く勇者と称えるべきか。
「お主、何かおかしなことを考えておるな。」
そう言うと、老人の目がピカッと光った。なんかビームみたいなのが出てた気がするのは多分気のせいだろう。
(俺、なんか口に出していたかな?)
遼太郎はふと思ったが、彼の態度を気にせず、じいさんは続けて喋り続けた。
「言うておくがわしはおかしな趣味なぞ持ってはおらんぞ。
幼い少女を見て萌えたりはせん。ただただほほえましく思うのみじゃ。
だいたいおぜうファンを見てロリと決め付ける事がまちがっておる。おぜうはロリではないし、おぜうファンはロリコンではない。
お主はおぜうを好きなキャラだといったな。ならばお主はロリコンか?、ちがうであろう。
彼女の魅力は幼く美しい容姿だけではない。長い年月を生き抜いて得た知性、威厳、精神、そして全キャラでもトップクラスの戦闘力、
そう、彼女こそパーフェクトであり、至高の存在。
だからこそ、わしは一人の紳士として彼女を愛し、応援しておるのだ。」
「いや、あの子結構ポンコツじゃ…」
そう、おぜうはその作品シリーズのなかでも屈指の強キャラであり、絶大な人気を誇っている。
高い戦闘力、チートとも呼べる能力、魅力的な容姿など色々と兼ね備えているが、その他の部分で割と抜けている所があるのだ。
「そこがまた良いのじゃろうが。
デレが無いツンはつらいばかりじゃろう、、突っ込みのないボケでは面白くもあるまい、
この世のすべては陰と陽が調和してバランスが保たれるものなのじゃ。」
老人は激高してわめきちらした。顔色が真っ赤だ。
ああこれ絶対仙人無理だわ、精神乱れまくりだわ、この世の調和より、自分の心の調和を保つべきだよこのじいさん。
「おぜうが好きといったが、何番目じゃ、一押しのキャラなのか?」
下から遼太郎を指さしながら爺さんが言う。
ここで一押しじゃないと言ってしまうと押し込まれる気がした俺は、じいさんに対して答えようとした。
「当然ですよ。僕だって彼女を一番に愛し……、」
「嘘じゃな。彼女を愛する者が、同胞をロリ呼ばわりするはずがないわ。」
「いや、ロリコンとか言ってな…。」
「お主、恥ずかしくないのか、おのれの心に嘘をついて。いやお主が本当に愛しているキャラに対してもじゃ。おぜうにとっても失礼じゃぞ。」
「ぐぬぬ!」
くそう、だが俺には返す言葉も無かった。
俺にとっての不動の一位、唯一無二は花の妖怪様ただ御一人、緑髪のお姉様タイプなのだ。さっきの一言は彼女を裏切る事と同義であろう。
遼太郎には彼女を裏切れない。いや裏切りたくないのだ。
確かにこのフィギュアは素晴らしい。
遼太郎達、ファンにとっては神器とも呼べる一品だろう。
だが、おのれの心を偽って手に入れたおぜうを部屋に飾って良いだろうか?
おぜうの隣に飾られている一押しキャラの視線に、俺は後ろめたさを感じないだろうか?
その時、遼太郎は思い浮かべてしまっていた、彼にとって最愛の存在の視線を。
良くない!
耐えられるはずがないではないか!
「じいさん、さっきの言葉を訂正させてくれ。俺の心は花の妖怪様に捧げているんだ。」
ありがとうな、じいさん。俺に大事なことを思い出させてくれて。
さすがにお年寄りは大事なことをわかっているな、これが人生経験の違いか!
「お主、ドМ…、」
「ドМちゃうわ、じじい おま、ふざけんなよ。彼女のファンが全部ドМだとか思ってんな。このロリコンじじいが!殺すぞ!」
「なんじゃ、今度ははっきり口にしおったな、それを口にしたらもう、後は戦争じゃぞ。口調まで変わりおって、このドМめ!」
このじじいは今、言ってはいけないことを言った。これを認めてしまっては彼女がドSということになってしまう。
花の妖怪様はドSではないし、我々はドМでは断じてないのだ。
よかろう!ならば戦争だ!
それからの2時間は、俺と老人にとっての戦争であった。
それは、お互いにとって絶対に譲れない聖戦。
俺は自らの愛する者の魅力を、どれほど自分が彼女を愛しているかを叫び、老人もまた叫んだ。
その話題は作品についてのみならず、自らの性癖にまで及んだ。
約2時間後、俺たちは世代も性癖の違いも乗り越えて分かり合い、そして友となっていた。
話してみると、おじいさんは良い人で、しかも凄い人だった。
ゲームのやり込みは最高レベル、キャラに対する造詣も深く、そして何より作品に対する愛情が素晴らしかった。
遼太郎は自分に匹敵するか、超えるかもしれないファンを、おじいさん以外に見た事が無い。
そして思ったのだ。
この神器は、この人が持つべきかもしれないと。
少なくとも、おぜうに対する愛は自分を遥かに超えているのだ。
おぜうも花の妖怪のファンである俺よりも、自分を一番に愛してくれているおじいさんに持ってほしいと思うはずだ。
カエサルの物はカエサルに、と言うではないか、ロリータはロリコンにこそふさわしいだろう。
「おじいさん、このフィギュアは貴方が持つべき物の様です。大事にしてあげて下さい。」
落ち着いて居ずまいを正しながらそう言った遼太郎に、多分お礼だろうか?、なにかを言おうとしたおじいさんを手のひらで遮って、俺は真っ直ぐ店を出たのだった。
オタクでドМはクールに去るぜ!
心の中でお店の人に謝りながら。(本当、お店で騒いでごめんなさい。)
店から出るとそこは夕暮れの秋葉原だった。
立ち並ぶビル街は夕日色に輝いて、まばらになった人込みは昼間の喧騒を忘れたように落ち着きを取り戻していた。
用意したお金は使わなかったし、何のアイテムも手に入れてはいなかったけれども、俺はもっと大切な何かを手に入れたような気がしていた
今日はいい日だった。俺はそう感じていた。
その日、一人のオタクが秋葉原駅の階段から転げ落ちて死んだ。
コンクリート造りの長い階段、その頂上から足を滑らせて最下層まで一気に滑り落ちたのだ。
その様子は多数のオタク達に目撃された。
その内の一人がたまたまスマホで録画しており某有名SNSに投稿され話題となった。
目撃者のコメントは 「あれは本当に見事な階段落ちだった。あれほど見事な階段落ちはどんな映画でも見た事が無い。」だったそうだ。
前に投稿したものを書き直しつつ 投稿しなおしております
DBQはドラゴンボールクエストの略です。
ドラゴンボール+ドラゴンクエスト=すげえ面白い
みたいな夢を見つつ書いてます。
文章力が足りない、構成力が足りない など色々力不足はありますが
なにとぞよろしくお願いします