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本気、というマジの全力

 「っらぁ!」

 ごっ

 

 踏み込んで右を一閃、突きこむ。

 

 しかしこれは、アクイに左の手甲で受け止められる。こいつは鈍重そうな見た目に反して器用で素早く、さっきから単純な攻撃は受けるか流すかされてしまっている。それなら……。

 

 「よっ」

 

 受けられた右を引きながら、左を大きく振りかぶる。

 

 「ってな!」

 がつっ!

 

 アクイが反応した瞬間に振りかぶっていた左を引いて、右拳をアクイの左頬へと叩き込んだ。

 

 見事にフェイントが成功した、やっぱりこいつ器用な割に単純で……。

 

 「ブミィィ?」

 

 拳を突きこまれたままのアクイが目尻を下げて、ねとりとしたものを感じさせる嫌な、しかし余裕のある目線をこちらへ向けてくる。

 

 「ブフ。そんな小賢しい攻撃は、効くわけないんだぞ。バカな人間なんだぞ」

 がぃん! ぎぃん!

 

 すぐにグラディウスを振り回して反撃をされる。こちらも防ぐことは十分にできているけど、直撃した攻撃がまるで効いていないのはショックだった。

 

 「いや……、違う、これじゃあだめだ。お前の言う通りだよ、アクイ」

 

 そう、違う。単純な攻撃は当たらないから、フェイントを交えてとにかく当てる? それじゃあ、だめだ。

 

 俺の方こそ、器用ではあっても単純な性分だ。とにかく当てるための拳には、力は込められても魂は込められていない。

 

 論理的に正しいかどうかなんて関係ない。俺がそう信じて拳を打ち出せるかどうか、それだけが重要なはずだ。

 

 「ブフィ?」

 

 手を止めて距離をとった俺を、アクイが不思議そうな表情で見ている。

 

 ぎしぃぃ

 

 握りしめた両拳が、踏みしめた両脚が、唸って軋みをあげている。

 

 頭部の黒鋼を装飾する赤いラインの一部分、ちょうど目に該当するあたりをぎらりと輝かせて、大きく息を吸い込んだ。

 

 「歯ぁ、喰いしばっとけよ! イノシシ野郎ぉ!」

 「ブ! 何を!?」

 

 これまで以上に強く力を込めた右腕を、全身の捻りをも込めてただ全力でまっすぐ打ち込む。

 

 っだぁぁん!

 「グブゥ! ブ、ブハ、いくら強くてもこんなまっすぐ単純なの、いくらでも受け止めてやるぞ」

 

 やはり手甲で受け止めたアクイが、何か言ってくる。

 

 けど何を言ってこようと、してこようとも関係ない。

 

 「っだ、まだぁ!」

 がぃん! ごぉん! だがぁん!

 

 アクイの目の前に陣取り、目まぐるしく腰を回転、反転させながら、左右の拳を次々に打つ。

 

 どう当てるか、どころか当たるかどうかも気にせず、ただ全力を込めることだけに注力してひたすらに打ち続けていく。

 

 「ブ、ブィ、ギブィィィイィ!」

 

 次第に、アクイの呻き声も切羽詰まっていき、いつの間にか両手をクロスさせて俺の打撃を防いでいる。

 

 そしてその上からさらに叩き続ける。

 

 ががががっぎぃああん! ごぉぉごごごばぁ! どぉぉぉぉぉん!

 

 響く激突音が徐々にハイテンポになってひと繋ぎへと変化していき、アクイはもはや声も上げずに丸まって防御に徹している。

 

 「全撃全力っ! メテオォスウォームゥッ!」

 ――――――っ!

 

 音をも超える激突音を響かせて、何十何百という拳のすべてを全力で叩き込む。

 

 ずっぅぅぅん

 

 アクイにとって永遠にも感じられるだろう一瞬の連衝撃は、その場にアクイの巨体を叩きつけ、集約された破壊力は粉塵もたてずにアクイ一人分のクレーターを地面に刻んだ。

 

 「っすぅ、はぁぁぁ、はぁ、はぁ、ふぅぅ」

 

 あとはただ、俺の乱れた呼吸音だけが聞こえていた。

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