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マジ天使、という口に出したい定型文

 「なんか、面白い動画ないかなぁ……」

 

 そう言いながらパソコンのモニタを凝視する俺は、天星三花。あまほしみか、男だ。

 

 ありふれた男の名とは言い難いこの名前について両親に聞いたことは当然あるが、「三男だしな」とのことだった。よくわからん。

 

 と言いつつ実は呼びやすく聞き取りやすいこの名前を俺も気に入っている。

 

 それよりも今の問題は暇な事だ。

 

 そう暇だ。だからさっきからネットでおもしろ動画を探し続けている。

 

 だが何を隠そう就職浪人でありながら職探しに熱心ではない俺は連日同じことをしている。

 

 つまり好みに合うような動画はだいたいが視聴済みで、モニタに向かっている時間の大半は動画ではなく検索画面とにらめっこだ。

 

 動画の前に職探せよって? 俺もそう思うよ、思うだけな。

 

 「んお? この子かわいいなぁ……、しかも新人? まだ視聴数一って、じゃあ俺が視聴者第一号じゃねぇか!」

 

 なんの意味も価値もない優越感に浸りながら、画面の中で一所懸命何かを話している少女を眺める。

 

 「――なので、すごく、すごくおっきな危機、なんです! 大変で! だから大きな力を――」

 

 流ちょうな日本語を話しているけれど、白い肌に金色の長髪、そして翠色の瞳はどれも作り物には見えない。

 

 「地毛かな? 染めてるだけ? いやいや、きっと地毛だな、この子はきっとそうだよ」

 

 だから何だ、と自分でも思うことを呟きながらも画面をじっと見続ける。

 

 着ている服はリクルートスーツで、映っているのは腰から上だからパンツスーツかスカートスーツかは不明だ。

 

 「しかし、これは……」

 

 しかし俺にとって下はどうでもよかった。なぜならスーツでもなおはっきりと判るほどにその胸部が豊かだったからだ。そう、俺はいわゆるひとつの、おっぱいフェチだ。

 

 ……最低だな、俺。

 

 「いやしかし、かわいい。これで俺しか見てないとかマジかよ。平日の昼間だからってみんな見る目なさすぎだろ。若者のネット動画離れが深刻か?」

 「――本当に、本当にもう時間が! 全ての生命のために――」

 

 相変わらず何かを訴え続けているが、腕を上下させる仕草が大変に可愛らしい。そしてそれに合わせて当然のことながら、双丘も上下運動。素晴らしい。

 

 「何かのアニメとかの宣伝かなぁ、それともこういう一人芝居?」

 

 絵に描いたような美少女を動画として眺める、まさに至福。

 

 こういう時はあれだ、使い古された言い回しだが、しかしこれしか思いつかない。単に考えるのが面倒くさいだけかもしれんが。

 

 「……この子、マジ天使」

 「――だから、救いの…………え?」

 

 突然金髪の少女が動きを止めて、カメラを、つまりはこちらを凝視する。

 

 「ん? 展開変わった?」

 

 訝しむが、どうなのだろうか、これは。ずっとアニメのプロローグストーリーみたいな話をしてるだけでやや飽きてきていたのは事実だが……、しかし急に止まってカメラ目線て。動けよ。

 

 「……ぅして? どうして、わかったの?」

 

 まったくもって一ミリも分からんし展開にもついて行けてないが、疑似的にでも美少女と見つめあうというのは良いものだ。

 

 その整った顔を堪能してすっかり機嫌がよくなってきた俺は、画面の中の少女が発した質問に答えるように呟く。

 

 「どうしてって、そりゃあ、天使でしかありえないだろう。俺にはわかるんだよ、俺は……、マイスターだからな」

 「――っ!」

 

 我ながら寒い。なんだマイスターて。美少女マイスターか、ネット動画マイスターか、あるいはおっぱいマイスターなのか。多分全部だな。

 

 画面の中の少女も驚いて、……驚いて、……?

 

 今、俺の言葉に反応した? え?

 

 「失礼しました、星神さま。まさか直接お声がけいただけるとは、思っておらず……。しばしお待ちを」

 

 んん? また展開変わった? なんだこれ本当に、何のアニメの宣伝だ? 放送しても急展開多すぎて炎上しそう……っ!

 

 その瞬間、モニタが熱のない光を発し、薄暗い部屋中が白一色に塗りつぶされる。

 

 「んがぁっ! 目ぇいてぇ!」

 

 目が眩む一瞬前に、ちらと見えた動画タイトルは「シレーネからのお願い」。そうかこの子シレーネちゃんていうのか。

 

 そして思わず叫んだ声も白くかき消され、この瞬間をもって、天星三花は地球上から消滅した。

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