20話
やっつけになってしまった…(´д`;)
高校2年が始まって数ヶ月。
そろそろ夏に差しかかろうとしていた。
ここ1ヶ月、昨日の訓練なども含め色々あったせいか、
時が過ぎるのも早く感じていた。
本当に色々あったな…。
魔法の存在。
襲撃者。
友人が色々な経歴をもっていたこと。
銃というものを始めて持ったこと。
挙げればまだまだありそうだが何より、
自分の性別が逆転したこと。
これは大きいよな…。
最初はショックだったが、もう慣れ始めてる自分にも驚きだ…。
そんな非日常から落ち着きを取り戻し始めたこの頃。
今日も起床時間までぐっすり寝ていた。
そして、
―――ピピピピピッ―――
けたたましい音が鳴り響く。
「っ……。」
毎回この音を聞くだけで憂鬱になるな…。
「うぅ……。ったく…!」
愚痴をこぼすような低い声で手を伸ばし、目覚まし時計を止める。
外からは朝陽が射しこみ、小鳥の鳴き声が聞こえる。
マンガなどであるよくある光景だ。
俺にとっても例外はなく、普段通りの朝の風景といえる。
「んー…。よく寝たなー。ふぁー……。」
背を伸ばしつつ、つい欠伸が出てしまう。
どこを見ているでもない、しばしの放心状態。
「…………。」
そして仕度を始めるため立ち上がろうとするが、
今日は何かが違っていた。
具体的に挙げると腹部に感じる異変だ。
「えっ?あれ…?何だ……お腹がキリキリする……」
妙な脱力感もする。
「んー…昨日の疲れかな?まぁ、遅刻しないように仕度するか」
そう言いつつ1階へと降りていく。
俺は、毎日朝食も取るように心がけている。
しかし今日はなぜかいつもあるはずの食欲もない。
いつものパターンとして、
顔洗う⇒朝食⇒トイレ⇒歯磨き⇒学校へ
ってのが、習慣になってる。
「たまには朝食抜きってのもありかな…」
珍しくそう言いつつ、順番をスキップしてトイレへ。
「訓練も頑張りつつ学校にも行く。相当ハードなことになりそうだが、
夏休みまであとちょっと…。がんばr……って!!…痛っ…!!」
先ほどの腹痛が次第に増加していることに気付く。
「何だ…これ…っ…。どう…なってんだ…。」
普通の腹痛とは違った痛みに違和感を覚える。
そして…、
「なんじゃこりゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!??」
―――キンコーンカンコン―――
チャイムの音が鳴り午前の授業が終わり、
昼休みとなった。
午前中の俺はというと…、言うまでもないか…。
「千尋!どーしたの!?」
近くの席の美羽が近寄ってきた早々、そう尋ねてきた。
「っ……?何が……?」
こいつはいつも元気だな…。
それに比べて俺は…。
「何か顔がすごいことになってるよ!?具体的に言えばブサ…」
「おいいい!?そんなにブサイクじゃないと思うけどな!?」
「え、詠人…!?」
チョンチョンと手を交えつつ、美羽が声を潜める。
「ま、周り見て…。。」
どうやら男っぽい口調で大きな声を上げていたようで、
クラス中の視線がこちらへ向いている。
「あっ…あははっ……。」
つい体調不良のイライラで声を荒げてしまった。
「と、とりあえず……、もうーっ!千尋ってばー!そのモノマネ似てないよっ!?」
「いやー、オニイチャンッテコンナモンデシタヨー?」
とわざとらしく周りに聞こえるように二人で誤魔化しに入った。
なんだこのショートコントみたいなノリは…。
「な、何で棒読みなの!?」
「ごもっともです…」
これじゃ誤魔化せなかっただろうな。
うん、絶対と言っても過言ではない。
すると、
「なんだ兄貴のマネしてたのかー…」や、
「美羽ちゃんなら仕方ないよねー」など聞こえるのと同時に、
またいつもの喧騒へと戻っていった。
「………。」
誤魔化せました。
「ふぅー…あぶねー……」
「ほ、ほんとに危ないよっ…!詠人!気をつけてよーっ!」
「お前のせいだよっ!」
こ、こいつって奴は。
「で、どーしたの?」
「………。」
「顔、真っ青だよ…?」
どうやら心配してくれてるようだ。
「俺…、もう駄目かもしれない…」
真面目なトーンでそう呟く。
「えっ!?」
驚く美羽だが、俺は言葉を続ける。
「だって、あんなに血が…。いや…そんなことより、美羽…。頼みがある…。」
「え、あっ、うん?な、なに?」
「海外の両親に…生んでくれてありがとう!!…って伝えてくれ…。」
「っ!?なに!?その遺言みたいなの!?」
「ふっ…、みなまで言うな…。伝えてくれればそれでいいんだ…。ふふっ…」
いつにもなく自虐的な俺。
「あぁ、あと、楓と凛にも伝えておいてくれ…。
ついでに美羽も世話になったな。ありがふ…っ!?」
頭に衝撃が走る。
「このばかたれっ!」
その罵声とともに握りこぶしが見えた。
あぁ…どうやらグーで殴られたようです。
「っー…。グーで殴るかよ普通…」
「だって、詠人が変なこと言ってるからでしょ!」
「変なこととはな…」
「ど・う・し・た・の・か・な・?」
「ごめんなさい…」
鬼のような形相の美羽に従順になる俺…。
ありのままのことを話すか。
「実はな…。今朝方、け、ケツから血が出てな…。」
この目の前の相手が女子といえ、俺は上品な言葉は使わない。
というか、こいつ限定というのが正しいか。
生まれたときから隣同士の家の俺達は、もう切っても切れないような腐れ縁だ。
「それは痔…」
「断じて違うっ!はず!」
「でもお尻からって…」
「違う!」
いやいやいやいやいや、違うと信じたい。
高校2年で痔って…。
それは嫌だな。
「そんなに否定しなくてもっ!じゃあ…何だろ…?」
「うーん…何かな…。血とは関係ないが今もちょっと体調が悪いな……」
あー…
何かフラフラしてきた…
頭がボーとする…
「ちょ、ちょっと、詠…千尋!?」
美羽の声が自然と大きくなる。
「あ…、ちょっと…保健室行くわ…」
「フラフラしてるよー!?肩貸すからっ!ほらっ、こっち!」
トコトコと近寄ってきて肩を貸してくれる。
「た、助かる…」
何かいい匂いがする。
あー…シャンプーの香りか。
いい匂いだなーなんて、
考えてる間に保健室へと着いた。
そして、その症状を聞いた養護教諭が
一発で原因を言い当てた。
結局は、いわゆるアレとアノ日とかそう呼ばれる類のものだった。
「美羽が焦らすなよーこのばかー」とか言っていたが、
男の俺がそんなの分かるはずが無い…。
でも、着々と女性化しているようだな。
いつになったら男に戻れるか不安もある。
だけど、こんな幼馴染が傍にいる限り大丈夫だろう。
そう思えた一日だった。
お読みいただいてありがとうございました。
次回も気長にお待ちして頂ければ幸いです。




