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捨てる勇気

 良いことを思いついた。

 振り回されるくらいなら捨ててしまえばいいのだ。

 授業が終わり昼休みに入るとトイレの個室へと直行。しかし、そこで立ち止まってしまっていた。


 捨てる、という選択肢が出て来たところで、次に問題となったのはどこに捨てるかであった。


 ゴミ箱は論外。もし誰かに発見された場合、結構な騒ぎになるからだ。

 今のところパンツがどうこうという話は聞こえてこないけれど、このパンツが悪戯のために購入したものではなく、誰かから盗んで俺の机に入れた代物である可能性もゼロではない。

 表ざたになっていないだけで、被害者の女子が相談しており学校側が密かに調査に乗り出しているということもあるかもしれない。

 考えすぎかもしれないけれど、一歩間違えば社会的に死ぬのだ。慎重になりすぎるくらいで丁度いいと思う。


 誰にも知られないままに処分するとなると、ゴミ箱に捨てるというのは誰かに発見される可能性が高いために取ることは出来ない。

 どこか適当なところに捨てる、いうのもダメだ。


 次に考えついたのは焼却炉だったが、そういえば使われている形跡がないことを思いだした。掃除の時に集めたゴミは集積所に持っていき、業者がそれを持っていくところは見たことがある。きっと今は使われていないのだろう。

 学校で焚火をするわけにもいかないので、焼却処分という案は却下になった。


 学校というのは人が多く、つまりはどこに人の目があるかもわからない。

 下手な場所には捨てられないし、どこかに埋めるにしても道具もなしにやるのは難しく、借りようとすれば怪しまれる。

 見られて困るものを隠すというのは、考えれば考えるほど難しい。

 エロ本の隠し場所も何時間も考えたものだが、一週間くらいで親に見つかった経験がある。隠しものはどれだけ本気になって隠そうとしても、見つかる時はあっさりと見つかってしまうものなのだ。


 なので誰にも見られないまま処分してしまうことが望ましい。

 授業中に色々と考えた末に、これしかないという結論に達した。


 ズバリ、トイレに流す、だ。


 トイレの個室に入れば処分する瞬間を誰かに見られることもない。

 パンツは水に流されてさよならばいばい。

 穴のない、完璧な計画。


 数分前まで本気でそう信じていた。


「流したら詰まるな、これ」


 なぜそんな簡単なことに気づかなかったのだろうか。

 トイレットペーパーは水に溶けやすいから流れるのであって、普通の紙などでは上手く流れずに途中で詰まってしまう。布のパンツなら確実に詰まるだろう。

 男子トイレの詰まった洋式トイレから女子のパンツが出てきたら間違いなく問題になる。

 結論、トイレはダメだった。


「……学校で安全に処分できる場所がない」


 人が多いとそれに伴って不確定要素も多くなる。どこで誰が見ているのかもわからないので下手な真似はできない。

 学校でのパンツの処分は諦めるしかないだろう。


「はあ……」


 いや、違うな。

 何やかんやと理由をつけているけれど、俺はただこのパンツを手放したくないと思っているのだ。


 可愛くない女子のパンツかもしれない。

 嫌いな女子のパンツかもしれない。

 悪戯の為だけに男子が購入したパンツかもしれない。


 けれど、ひょっとすると、もしかすると、ほとんどありえないかもしれないけれど。

 可愛い女子のパンツかもしれない。

 そんな淡い期待がこのパンツを手放すことを許さないのだ。


 万が一にも可愛い子のパンツだったらこれ、本当にお宝だろ?

 そんなお宝をトイレに流すとかありえない。

 持ち帰って、大切に保管する。


 でもそうじゃない可能性もあるから扱いに困っているという現実。

 くそっ、美少女のパンツ確定なら処分なんて考えずにお持ち帰り一択なのに!


「でも、処分するにしても学校で何とかするよりは家に持ち帰ってからのほうが安全だよなぁ」


 帰宅部なので授業が終わればすぐに帰ることができる。日直の仕事があるといっても歌見とやればすぐに片付く。

 体調が本当に少し悪くなってきたような気もしないでもないけれど、保健室に行くほどでもない。具合が悪い時ほど保健室に行くのはなんか負けた気がしてくるのはなんなのか。

 まあ、これ以上歌見に迷惑を掛けられないというのも本音だ。


 焦って学校で処分しようとして下手を打てばそこで俺の人生は終了だ。

 家に持って帰られれば見つかったとしても最悪家族会議が開かれるだけで済む……いや、それも嫌だな。まあ、内々で処理して終わる、はず。

 学校よりも選択肢も時間もできるわけだし、なんとかなるのではないだろうか。


 問題を先延ばしにしているだけのような気もするけれど、無理して失敗するよりもマシだろう。政治家の気持ちが少しだけわかった気がした。


 これからの方針を、パンツを見つからないように家に持ち帰るため学校ではおとなしくする、というものに決めてトイレの個室から出る。

 随分と考え込んでいたようで、気がつくとかなり時間が経っていて昼休みももう終わりかけだった。


 弁当を食べる時間ももうない。昼食を抜くことになるけど、食欲もあまりないから気にしないでいいか。


「秋葉、長いことトイレに籠ってたけど……やっぱり、具合が悪いんじゃないのか?」


「先生に言って早退させてもらったらどうだ?」


 教室に戻ると、口々に友人たちに心配された。昼飯に誘われた時に、トイレに行って来ると言い残していたため、腹を壊して昼休みのほとんどをトイレで過ごしたと思われているようだ。

 昼休みをトイレに籠ってたのは間違いじゃないんだけど……間違いじゃないんだけどっ。


 パンツを処分するか考えていて、結局持ち帰ることにした、なんて言えるわけもなく。


 優しい言葉をかけてくれる彼らに俺は曖昧に笑って、もう大丈夫だから、と言葉を濁すしかなかった。

 良心が痛い。




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