男の子だからって誰でもいいわけではない
注意、読んでて気分が悪くなるかもです。
現代文の授業を聞き流しながら俺は状況を整理していた。
みんなが水泳の授業を行っている間に、一足先に戻って来た俺の机の引き出しの中に誰の物かわからない女子のパンツが入っていた。
このことが明るみになれば、被害者のはずの俺に何らかの悪評がついて回るようになるのは想像に難くない。まだ、高校一年のこの時期から下着泥棒と呼ばれるのは何としても避けたい。
仮に周囲に冤罪と認めて貰えたとしても、これをネタにずっといじられることになるだろう。
それらを回避するためにも、何としてもパンツのことは隠し通さなくてはいけない。
今の俺は不運に見舞われている……と言いたいところだが、実は最悪というほどではないのではないかと思い始めた。
時間が経って少し冷静になれた。
確かに、俺のポケットには知られれば俺の青春時代を破壊する特大の爆弾が押し込められているわけだが、これは放置しておけば勝手に爆発するような時限爆弾ではない。
誰にも知られなければそれまでの代物。
要は俺がミスを犯して衆目に晒すようなことをしなければいい。
物がパンツということもあり、隠すのが難しい大きさではない。ポケットが膨らんで見えてもハンカチが入っていると思われて済む。
つまり、下手なことをしなければ隠し通すのは難しいことではないのだ。
幸いにも着替える必要のある体育の授業は先ほど終わっている。このままずっとポケットに入れておけば誰にも知られることはない。
そしてさらに、俺はとんでもないことに気がついてしまった。
現状では日常を破壊し得る厄ネタでしかないこのパンツだが……乗り切ってしまえば女の子の下着というとんでもないお宝になるのだ!
こちとら性欲旺盛な男子高校生。女の子のパンツに興味があるかないかでいえば、もちろん興味津々である。
自分のポケットの中にクラスの女子の誰かのであろうパンツが入っている状況に興奮を覚えなくもない。
……いや、待てよ。
全員が移動する中で俺の机の中にパンツを入れることが可能なのは、おそらくクラスメイトだけだ。教室の扉は全員が退室したら日直が鍵を閉めるので、他のクラスの人間がこっそりと行うことはできないだろう。
水泳の授業の時は職員室に鍵は預けられるので、教室に出入りできるのは最初の授業が始まる僅かな時間だけ。短時間で行えるのはこのクラスの人間のみ。
さっとクラス中を一瞥し、そこで自分の考えが間違っていないことに確信を得てしまった。心の中で舌打ちする。
この水色縞々パンツがクラスメイトの誰かのものと思うと興奮する、というのは前言撤回させてもらいたい。
誰かによってはこのパンツ、お宝どころかただの汚物へと一変する。
フィクションではモブのクラスメイトでも可愛かったりするけれど、リアルではそうはいかない。
このクラスで例えると四十人中女子は二十人。一目見て可愛いな、と思えるのは三人。よく見るとまあ可愛い方、というのが五人。残りは微妙、ブス、論外である。
これは俺の中の評価なので人によっては若干変わるだろうけれど、『彼女にできたら嬉しい可愛い女子がクラスの女子の半分くらい』という点については同じだと思う。
可愛い子の下着なら嬉しいけど、ブスの下着などはっきりと申し上げでゴミである。
酷い言い草と言われるかもしれないけれど、純然たる事実。この世の真理だ。
イケメンの使ったタオルとブサメンの使ったタオル。
美女のグラビアとババアのグラビア。
細マッチョの割れた腹と中年オヤジの丸い腹。
人気アイドルとの握手とキモオタとの握手。
好きなあの子のリコーダーと嫌いなあいつのリコーダー。
世の中は平等ではない。
同じものであっても、その所有者が違えばその価値は変わる。
ただのボールもプロが使ったものなら何万円もの値がつくのと同じだ。
下着なんて実際のところ汚いものだ。
だがしかし、可愛い女子の、という付加価値によって思春期真っ盛りの男子垂涎のお宝になるのだ。
キモイとか言うことなかれ。
女子だってイケメンとか好きな相手のパンツなら喜び、オッサンのパンツとかならトングを使ってゴミ箱にぽいするはずである。
それと同じ。
男子だってこれがおばちゃんやブスのパンツなら悲鳴を上げて投げ捨てる。
誰のものでもいいわけではない。美人とか可愛いとか気になる相手とか、そういう付加価値のついたパンツだから嬉しいのだ。
さて、では俺が手にした縞々パンツ。
いったい誰のものだ?
ふと視界に映った彼女、三島小鳥のものだったら?
うん、萎える。
視界の端であろうとも強烈な存在感を発するその容姿。男子並みの伸長と細身の女子二人分の幅と体重。
友人の大地が「小鳥つーか関取だよな!」と言ってドスコイされたというお茶目なエピソード。
そして趣味は食べることと、好物は揚げ物とマヨネーズ。
冗談は通じるし、周囲への気配りもできるので人としては結構好きだ。
けど異性として見るのは無理です。
痩せれば大変身しそうだけど、今の三島のパンツに魅力は感じない。
まあ、でも三島のものではないだろう。
サイズが違い過ぎるからな。
見た目は大事だ。
けれど、可愛ければ良いという話でもない。
花巻静恵のものだった場合、俺はすぐにでもこれをトイレに流すなり焼却炉に投げ込むなりして処分する。
花巻はクラスで二番目くらいに可愛い女子だ。見た目が良いのは認めるけれど、だがしかし俺は彼女のことが嫌いだ。
右後方が彼女の席なので見えないけれど、どうせ隠れてスマホをいじっていることだろう。
自己中心的な性格や他人を見下したような言動が不愉快で、休み時間に友達と大声で騒いでいる姿は野生動物かなにかかと言いたくなる。派手な容姿と大きな声と攻撃的な言葉によってクラスのカーストにおいて上位にいるので、野生動物という表現は結構的を射ていると思う。
同じ中学だったのだが、その時に俺と彼女は一戦やらかしているためそれが尾を引いているというのもある。以降は互いに嫌い合って距離を置いているけれど、彼女に抱いた嫌悪感が薄まることはなかった。
相容れない、どうしても受け入れられない人間を一人挙げろと言われれば俺はまず花巻静恵の名を口にするだろう。
見た目は良くても生理的に受け付けない。
彼女のパンツなど汚物、有害物質である。一か月以上放置された牛乳拭いた雑巾以下だ。
まあ、嫌がらせでもあいつが自分のパンツを俺に寄越すようなことはないだろうから、花巻も除外していい。
これで女子二十人のうち十八名にまで絞り込めた。
……まだ全然多い。
この十八名の中で可愛いと思えるのは七人。このパンツが彼女たちのうちの誰かのものであれば間違いなくお宝である。
だが、残りの十一名。テメェらはダメだ。
お前らのパンツなら貰っても嬉しくも何ともない。
仮に君たちの物であった場合、しばし俺の哀哭が天を突くことだろう。
持ち主が判明するまでお宝か汚物かわからない。結果を見るまであらゆる可能性を内包した存在、それがパンツ。
なんと奥が深い。
「じゃあ次、草津」
「あ、はい?」
「続きから読んでくれ」
……続きってどこからだ!?
授業あるある。
別のことに意識を飛ばして授業を聞いていない時に限って当てられる。




