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魔族を蝕む聖剣の光  作者: うさぎボーイ
第六章 「赤髪の将軍と魔王との邂逅」
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「到着」

 


 やっとの思いで森林地帯を抜けた俺達を待っていたのは、黄緑色が一面に広がる大草原だった。そして草原の遥か向こうには、まるで絵画のように青く美しい大海原がどこまでも続いている。ここと海辺の間にはかなりの高低差があり、極めて緩やかな坂が二つの地を繋げている。海の方から見れば、この辺りは丘と呼んでもきっと差し支えないだろう。


 森林と違って見晴らしが良く、潮風もほのかに感じるのことができる。魔物もいない。まばらに咲いている花には蝶々がひらひらと可愛らしく舞っている。ああ、なんとのどかな草原だろうか。こういう所で、是非ピクニックなどを楽しみたいところである。ここは本当に魔物の発生源と言われた所なのだろうか。


 草原を進む俺達の眼下に、徐々にザザンガルドの街並みが現れ始める。まだかなり遠いが、あの巨大な城の姿だけは遠目でも確認できた。恐らくあれこそが、現ザザンガルド国王――アルハート・ザザンガルド――の根城だ。


 そして、モルドの発言が真実であれば、それは事実上……≪魔王の城≫、ということになる。


「とうとうここまで来たな。アイザック」


「ああ」


 イクシスと言葉をかわし、改めてこの到達の味を噛みしめる。エリス様の死を引き金に始まりを告げた贖罪の旅、その最終目標は、今、俺達の目の前に……。そう考えると、胸の内が形容しがたい熱を帯びてくる。


「街に着いたら、私達は“とある団体”と合流する」


「“とある団体”?」


「私達と同じく、アルハート王を王座から引きずり降ろそうと考えている賢き民の一団だ」


 モルドの話を聞き、俺は彼の意図を察してゴクリと息を飲む。彼の言葉から推測するに、俺達はザザンガルドに到着後、打倒アルハート王を志す彼らと一時的に徒党を組んで、ザザンガルド城に乗り込むのだろう。


 心強い味方と考えれば頼もしいが……見ず知らずの他人達が唐突に仲間になると考えると、逆に統率がとれるかどうかが心配になってくる。それに、悪しき王であるアルハート王を憎んでいるからといって、彼ら自体は善であるとも限らない。一抹の不安はどうしても感じてしまう。


「その者達は本当に信用に足る人物なのか?」


 するとイクシスが、俺が不安に思っていたことを代弁してモルドに尋ねてくれた。彼女は例え捉えどころの無いモルドが相手でも全く臆する様子を見せない。流石だ。


「安心して欲しい。皆、ザザンガルド国の未来を第一に考えている愛国者ばかりで、仲間に対する情も厚い」


「きっと君達の力になるハズさ」


 対してモルドは、その一団が信頼のおける人物達の集まりであることを説明する。何はともあれ実際に会ってみなければ分からないだろうが……モルドの言った通りの人物であることを願うばかりだ。


 ※


 ――雄大なる草原を抜け、俺達がやって来たのは海辺のリゾート地。いかにも裕福そうな感じのゴキゲンな服を着こなす観光客と思しき人々があちこちで行き交う、煉瓦造りの可愛らしい街並み。すれ違う観光客は皆陽気で、かつ、笑顔で溢れかえっている。日々の労働から開放されることを願う者達が集うそこは、まさに人生のオアシスと呼ぶに相応しい。


 しかしそのオアシスは同時に、魔物の出現源という怪しい噂も抱えている。その噂を辿って旅を重ねてきた俺達は、一つの目的を持ってこの地に降り立った。


 それは“魔王討伐”。赤髪の将軍・モルドに導かれ、ザザンガルド国王・アルハート王に挑むべく、俺達はとうとうこのザザンガルドに到着したのだった。


 時は既に夜。月光が灯す街並みと海原の景色はすごく幻想的で、思わず目を奪われそうになる。


「とうとう来ましたね……アイザック様」


「気を引き締めろよアイザック。ここはもう敵地だ」


「安心しろ兄さん。アンタの後ろは俺が引き受ける」


「アイザック。改めて礼を言うよ……ここまで共に来てくれたことをね」


 俺の横に並ぶ、俺の仲間達は皆、俺に声をかけていた。


 ――光と氷の呪文の使い手で、俺の補佐を務める女性神官・イリア。


 ――星の魔玉を操るサンメラ王国の若き将軍・イクシス。


 ――俺を兄と呼ぶスラム街出身の鎖鎌使い・マルク君。


 ――魔王アルハート討伐を志すザザンガルド国将軍・モルド。


 ……俺がふと見渡した、彼らが整然と並ぶ姿はまさに壮観であった。それぞれが光る個性を持っており、頼りになる。そしてそう思うと同時に俺は、自らの存在意義について自問自答を始めた。


 ――エリス様の仇を討つ為に、エリス様の形見である聖剣アポロで戦い続けるバレア王国将軍・アイザック。その男は、魔族なのに聖剣を使っているから、戦いの際、常に腕が聖剣の業火によって黒く焦げ落ちそうになる程燃やされている。そのせいで、仲間の足を引っ張ってしまうことが頻繁にある。


 アイザックという男は……俺は、なんて情けなく、愚かなのだろうか。何故そこまで聖剣で戦うことに拘るのか。


 ――当然だ。それが俺が唯一エリス様にできる手向けであり、弔いなのだから。


 では何故、時として紫紺の魔玉に頼る?それがお前の信念ならばそれを貫け。


 ――仲間を死なせたくもない。今、俺と共に生きている仲間を守る為なら、信念だって曲げられる。


 ……考えれば考える程、俺という人間は矛盾ばかりだ。自分でも思う。俺は彼らに釣り合うような立派な人間ではない、と。なのに彼らは、こんな俺について来てくれている。


 自分でも思う……俺は、幸せなヤツだな……と。


 ……そんなことを考えながら歩くこと数分。俺達は一番目の目的地に辿り着いた。そこは一見すると、何の変哲もない平凡な小屋である。が、モルドが言うに此処こそがまさに、デモを企てている団体と待ち合わせしている場所らしい。


「いよいよ彼らとご対面だ。当然ながら彼らは君達が来ることなど知る由もない。最初はどの道警戒されるだろうが、君達の方からは何も突っかからないで欲しい」


「分かった」


 モルドの忠告を受け、俺は頷く。「開けるぞ」というモルドの言葉を引き金にして、ついに小屋の扉が開かれた。

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